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『アラジン』成功の理由を分析 キャスティングと監督の選定に見る、ディズニーのプロデュース力

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リアルサウンド

 誰もが知るディズニーの名作アニメーション『アラジン』(1992年)を、その公開から27年の時を経て実写化した、同名の新作『アラジン』が、予想以上のヒットを成し遂げている。ここでは、そんな本作の成功の理由を、様々な角度から考察していきたい。

参考:『アラジン』はウィル・スミスの新たな代表作に ハイテンション演技と悲しげな目つきの説得力

 イスラムの説話集『アラビアンナイト』のなかで、3つの望みを叶えてくれるランプの精が登場する、最も有名な物語を、ミュージカル・エンターテインメントとしてアニメーション映画化した1992年版の『アラジン』は、舞台こそアラブからインドにかけた文化圏だが、ディズニー映画定番のプリンス&プリンセスによる、文字通り“王道”のラブストーリーといえよう。このようなロマンティックな題材は、「ディズニー・ルネッサンス」、もしくは「第二黄金期」と呼ばれているように、ウォルト・ディズニーの死後、一度低迷したディズニー映画を、90年代に再び大ヒットの連続で甦らせたことで知られている。

 そして今回の実写版は、『シンデレラ』や『美女と野獣』の実写化作品同様に、内容を比較的忠実になぞっていく系統の作品である。しかも主人公のアラジンは、女子にモテモテの美形キャラクターという設定。これらの条件が重なる『アラジン』は、当初からかなりヒットが期待できる要素がつまった企画だったといえよう。

 とはいえ、2017年に大ヒットを遂げた『美女と野獣』と異なるのは、エマ・ワトソンやダン・スティーヴンスのような、すでに名を知られているスターが、ヒーロー、ヒロイン役としては出演していないということだ。

 ジャスミン王女を演じるのは、『パワーレンジャー』映画版にてピンクレンジャーに変身するキンバリーを演じていた、まだ映画スターの地位は確立できているとはいえないナオミ・スコット。アラジンを演じるメナ・マスードに至っては、映画界においては、ほぼ無名といってよいキャリアである。

 なぜ、ここにヒットを見込めるスター俳優を配置できなかったのかというと、それは近年ハリウッドで取りざたされる、本来の人種を差し置いて白人の俳優に役を交代させる「ホワイトウォッシュ」という問題が存在するからだ。アメリカには多くの人種が生活しているにも関わらず、白人ばかりが良い役を得て、異なる人種までをも白人が奪ってしまうというのは、人種差別にあたるという考え方である。

 しかし、この考え方はハリウッドにやっと浸透しだしたということで、まだあまり体制が整っていないところがある。大部分の白人俳優と、それに次ぐ黒人俳優で占められるハリウッドの大スターたちに対して、アジア圏の俳優の層が薄いのだ。それは、裏を返せばアジア系俳優にスポットがあたるケースがいままで少なかったことを意味している。

 アラジン役として候補に挙がっていたのは、アラブ系、インド系などの俳優だ。しかし、『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテールは、アラジンを演じるにはケレンが足りてないように感じるし、『ヴェノム』のリズ・アーメッドは、イメージがぴったりではあるものの、年齢が上過ぎるように感じられる。『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックは、最近スターダムを駆け上ったエジプト系俳優だが、彼も年齢の面で厳しいかもしれない。このような状況であれば、色のついていない俳優を選ぼうというのは自然であるだろう。

 そんなスター不在の穴を埋めるのが、言わずと知れた超大スターのウィル・スミスである。彼が演じるのは、ランプの魔神ジーニー。人種の面では疑問符がつくキャスティングだが、人間でなく魔神なので、ここだけは許してほしいというところだろう。アニメ版ではロビン・ウィリアムズが演じ、登場時からラストまで、ほとんどのシーンでしゃべりまくる役だけに、口から生まれた口番長のようなウィル・スミスは、まさに適役だといえ、スター性の補強という意味でも、ここはハリウッドのなかでもトップクラスといわれる、並外れた高額ギャラを払う価値のある選択だったといえよう。

 主演俳優にスターを使えなければ、超大スターを投入することで全体を支える。このようなキャスティング術が、本作を娯楽大作として成立させているのだ。

 そして名前だけではなく、ウィル・スミスのミュージカルシーンにおける、ミュージシャンとしての実力はもちろん、底抜けに明るい性格のなかに、自由を奪われた下僕としての悲しみが隠されているジーニーという役を、見事に表現しきっているのも好材料である。

 予想外に素晴らしかったのは、ジャスミン役のナオミ・スコットだ。演技力の高さも申し分ないが、幼い頃から音楽活動を続けてきたという、その歌唱力は圧倒的で、メナ・マスードとのデュエットでは、彼女の歌唱部分だけ、モノラルからステレオに変わるように感じるくらい素晴らしい。その意味では、ミュージカルシーンが少々アンバランスなものになってしまっているところもある。

 だが、ジャスミンが悪役ジャファーのたくらみによって幽閉されそうになったときにソロで歌う「スピーチレス~心の声」は、彼女の歌唱力がはっきりと活かされ、名シーンとなっている。この曲は、アニメ版の曲を手がけ、本作の曲をも全て手がけたというアラン・メンケンが作曲し、作詞を、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』に楽曲を提供したパセク&ポールが担当した、本作だけの新曲である。

 国王の座を奪い取り、「女は黙っていろ」とばかりに自由を奪おうとする権力者に対し、スコット演じるジャスミンは、心のなかにある声を、言葉に変える。「女の意見は不要なんて時代は終わる」「声をあげよう」「力の限り叫べ!」……。

 ジャスミンは、アニメ版よりもさらに活動的になり、女性の権利を主張するプリンセスとして、存在感を増している。これも人種への配慮と同様に、新しい時代の要請を汲んだ結果である。王族というキャラクターには、まだディズニーの持つ従来の保守性が残存しているが、そこにフェミニズムの要素を入れることで、現在の観客に寄り添った表現となっている。

 くわえて、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『シャーロック・ホームズ』などのガイ・リッチーが監督しているのもポイントだ。もともとガイ・リッチー監督のファンである観客は、アニメ版に忠実に作られている本作には不満を感じるかもしれない。だが、彼の持ち味は深みのあるドラマを作り上げることよりも、映像のケレンやスタイルにある。TVのスパイシリーズの映画化作『コードネーム U.N.C.L.E.』が、内容の面で素晴らしいものになったのも、スパイという表面を取り繕う存在が、ガイ・リッチーの資質にピッタリとマッチングしたからである。

 その意味で、すでにしっかりとしたドラマができあがっている『アラジン』という題材を再映画化する際に、ドラマ部分よりも必要とされるだろうケレン味やパワフルな演出というのは、ガイ・リッチー監督が持ち合わせている能力に適合する。ウィル・スミスのキャスティング同様、今回のディズニーのプロデュース力は非常にうまくいっているといえよう。

 既存の人気アニメ作品を忠実に実写化する……。一見すると安易な仕事にも思えるが、適切なピースを適切な場所に配置する手腕や、現在の感覚や要素をとり入れていくことなど、それを成功させるには、様々な工夫が必要になる。それをしっかりと成し遂げ、大ヒットにつなげたという部分に関して、今回の『アラジン』は高く評価できる作品である。(小野寺系)