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ダンスミュージック産業の現況や課題は? イビサで発表された最新レポートから読み解く

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リアルサウンド

 IMS(International Music Summit)が毎年イビサでのサミットで発表するIMS Business Reportの2019年版が、先月のIMS Ibizaの開催後にインターネット上で閲覧可能になった(https://www.internationalmusicsummit.com/wp-content/uploads/2019/05/IMS-Business-Report-2019-vFinal.pdf)。これはエレクトロニックミュージック、とりわけダンスミュージックの現状を、統計的なデータをピックアップして概観するレポートだ。扱われるトピックは広範だが、主に「録音物」「DJ&ライブアクト」「クラブ&フェス」「企業&ブランド」という4つの大分類にわけられたうえ、さまざまなアンケート調査や企業の決算発表などを引用しながら2018年のダンスミュージック産業が振り返られている。

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 もっとも耳目を集めそうなのは、IFPIが発表した「Music Consumer Insight Report」からの引用で、「ダンスミュージックが世界で三番目に人気の音楽ジャンルに;15億人がこのジャンルをよく聴いていると概算される」という項目(p.5)だろう。もっとも多かったのは「ポップ」で64%、ついで「ロック」が57%、三番手に32%で「ダンス/エレクトロニック」がつけている。近年成長がめざましいヒップホップは5番目、26%だ。

 2017年、アメリカの音楽市場においてヒップホップがロックの売上を抜き、いよいよロックからヒップホップへと音楽の主役が移ったと話題を呼んだ。しかし、18カ国に及ぶ16歳から64歳までの19,000人を対象とした本調査では、いまだロックが重要な位置を占めていることがわかる。そんななか、ダンスミュージックはやや引き離されつつも3位に位置しているというわけだ。ただし、各ジャンルの定義は明示されておらず、あくまで回答者の自己申告による。また、そもそも音楽ジャンルの「人気」や「重要度」を計る指標をどこに求めるか、すなわち市場規模なのかリスナー数なのか……という問題もあることは念頭に置いておこう。

 上記の結果に加え、Beatportを始めとしたデジタル配信、またストリーミングプラットフォームの成長といった明るい話題もある一方、ナイトクラブの減少に拍車がかかっている現状も提示されている(p.18)。2010年代、大型フェスを中心としたEDMの隆盛の反動だろう。DJの出演料が高騰することで、中小規模のパーティを手がけるようなプロモーターが苦境に立っている様子は、一昨年のResident Advisorのレポート(https://jp.residentadvisor.net/features/2952)にも顕著だ。

 ほか、興味深いのは、音楽フェスにおけるDJの出演本数ランキングで、上位5組のうち3組が女性DJだったことだ(p.10)。具体的には、1位がNina Kravizの35本、2位がAmelie Lensの27本、4位がCharlotte de Witteの24本となっている。音楽業界におけるジェンダーギャップは未だ大きく、ダンスミュージックにおいてもそれは例外ではない。その点で、このデータは変化の兆しを感じさせるものだ。とりわけ、Amelie Lensは2017年のフェス出演は4本。一年でおよそ7倍にまで増えていることになる。

 とはいえ、一部のスターDJの活躍を一側面だけ切り取って楽観視するのも問題だろう。オンラインのファンベースについてまとめたデータでは、SNSなどのフォロワー数の増加率をもってKravitz、Lens、de Witteの躍進を伝えている(p.11)。しかし、最もInstagramのフォロワー増加率が高いde Witteのフォロワー数が66万人であるのに対して、売れっ子覆面DJであるMarshmelloのフォロワー数は2300万人。文字通り、桁が違う。「成長」という観点から見れば、たしかに女性DJの存在感はうなぎのぼりなのかもしれないが、あくまでもこの変化は始まったばかりにすぎない。

 本レポートでは女性DJの活躍に焦点をあててはいるものの、いささかチェリーピッキング気味の感も否めない。こうした機運が生まれていることをスプリングボードに、継続的で意識的な取り組みにも目を向ける必要がある。その点、このレポートでも紹介されているKeychange、#bookmorewomen、shesaid.soなどの取り組みは注目に値する。とりわけ、「2022年までにフェスラインナップのジェンダー平等を実現」という目標を掲げたKeychangeには150以上のフェスが賛同し、動き出している。

 やや参照するデータが恣意的に思えるところもあるが、以上のように知るきっかけ、考えるきっかけを提供してくれる貴重なレポートだ。(imdkm)