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オール男性キャストで女流劇作家の草分けを描く、温泉ドラゴン『渡りきらぬ橋』

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反骨のジャーナリスト、黒岩涙香の半生を描く『嗚呼 萬朝報!』、新聞記事に端を発する暴力団追放運動に材を得た『The Dark City』など、実在の事件、人物を通し、現代社会の断面を写し取る作品を立て続けに発表し注目を集める劇団温泉ドラゴン。

前回公演『The Dark City』(2018年10月)より

その最新作は女流劇作家の草分け的存在で、女性運動にも尽力した長谷川時雨の半生を描く『渡りきらぬ橋』だ。「意図したわけではなかったんですが、『嗚呼、萬朝報!』の劇評の中に、“明治時代の女性の虐げられていた様子が描かれていて興味深い”というのがあって。それなら今度は『萬朝報』と同じ時代の女性解放運動を描いてみようかなと思ったのがきっかけです。それで長谷川時雨について調べ始めたら、文章も人生も面白くて」。一昨年から新たに座付作家として参加し、本作が劇団での3作目となる原田ゆうは、そう執筆の動機を振り返る。丹念に下調べし、書かれた脚本は、しかし、劇団作品としては挑戦的なものとなった。

「どうすんだよ原田、とは思いましたね」と同じく座付作家であり、今回の演出を担うシライケイタは笑う。温泉ドラゴンは、作家2名を含む男性5名の「男所帯」。対して原田が準備した戯曲の登場人物は14名のうち9名が女性だったのだ。「9人の女優さんをゲストで呼んだらきっと、その対応だけで稽古が終わっちゃう。それでいろいろと話し合った結果、いっそのこと、全員男でやった方が健全で対等な芝居づくりができるんじゃないかということになりました。女性の地位向上に尽くした人たちの話を、現代劇の男性俳優たちが格闘しながら演じている姿に、何か透けて見えるものがあるといいなとも思ったし」。とはいえ、その時点で勝算があったわけではないという。稽古が始まった今も、女性役にどう取り組むかは模索中。「着物や鬘をつけることで、自然に身体や動きが女性性を帯びて見えることだってあると思います。でも、初めから“女っぽく”と考えてしまうと、僕らがやろうとしていることから遠ざかってしまう。そういうところに性差別は潜んでいるわけだから。そうじゃなくて、できるだけ人間の本質的なところでやってみたいと思っています」(シライ)。

劇中では、作家として自立しながらも家族の事情に縛られ、父権社会の壁にぶつかる長谷川の活動と日々の暮らし、周囲の女性たちの個性豊かな生きざまが、時代ごとに会話を重ね、丁寧に綴られる。「案外淡々としてあっさりした印象もあるので、できるだけ枝葉を減らし、太い幹にあたる人間ドラマを浮き立たせようと思います。原田の戯曲の繊細さは、絶対すくい上げていきたい。でも、その繊細さに演出も俳優も寄りすぎちゃうと、なんかつまんない。それよりは違うものをぶつけて化学反応を起こしたい」(シライ)。

同じ劇団に二人の作家、それも一方は演出家として戯曲へのダメだしさえすると聞けば、その関係も気になるところ。だが、そこにはゆるぎない信頼があるようだ。「知り合ったばかりの頃に“原田の戯曲を蹂躙したい”って言われたんですよね。面白いこという人だなぁと(笑)。でも、いいなと思う場面は同じだし、ドラマはしっかりおさえてくれますから。僕自身思わぬところで心を動かされたりもする」と原田がいえば、シライも「最初こそ遠慮はあったけど、今は容赦なく意見しています。でもそれは全部自分に返ってきますから。そうやって俺は密かに勉強させてもらい、いいとこ取りをしているのかもしれない」と本音を語る。将来は「演出家も増やして、もっといろんな組み合わせで芝居をつくりたい」(シライ)ともいう。今回も、異なるもの、溶け合わないもの同士がぶつかり合いながら一つのビジョンをつくりあげる、そのうねりを体感できる芝居を目指し、日々模索と実践を重ねている。

原田ゆうが脚本を手がけた『嗚呼!萬朝報』(2018年4月)より

温泉ドラゴン『渡りきらぬ橋』は、座・高円寺1にて6月21日(金)から30日(日)まで上演。

取材・文:鈴木理映子

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