黒島結菜が、また走るーー『アシガール』から『いだてん』で見せた颯爽と駆け抜ける姿
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黒島結菜が、また走っている――その凛々しく爽やかな姿に、ワクワクし、一瞬にして引き込まれてしまった視聴者は多数いただろう。
視聴率では苦戦を強いられている『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)。しかし、ここにきて力強くも爽やかな風をもたらすように、救世主のごとく現れたのは、可憐で気丈な女学生・村田富江(黒島)である。
【写真】『アシガール』時の黒島結菜
名門女学校の東京府立第二高等女学校(竹早)の教師になった金栗四三(中村勘九郎)は、女子スポーツの普及を目指す。そんな中、頭角を現した女学生の一人が、黒島演じる「医者の娘でお嬢様」の富江だった。
槍投げでは「何か叫んで投げてみると良い」と言われ、「くそったれ!」と叫びながら、華奢な姿態で清々しいほど遠くまで槍を放ってみせる。また、「くそったれ!」と言いながらテニスをし、メキメキと腕をあげていくが、桁違いの強さを見せる人見絹枝(菅原小春)の前に完敗。悔し涙に歯を食いしばったかと思うと、次は陸上に挑戦する。そして、女子陸上大会に参加し、靴下を脱いで素足でハードル走を行い、全種目優勝。
しかし、富江が足をあらわにして走る写真が露天商で売られているのを見た父(板尾創路)が激怒し、学校に怒鳴り込む。そこで、四三は「男が目隠しすれば良い」「なんで日本一になったことを褒めてあげないのか」と反論するのだった。
男性の決めたルールや常識、世間体を押し付けられる女性たちの不条理さは、現代の女性にも通じるものがある。そして、宮藤官九郎(以下、クドカン)はそうした女性が背負わされている不条理さや苦悩、喜びや楽しみ、選択や決断を描くのが、実に巧い。決して説教臭くなく、笑いをまじえて軽やかに描いていくのが、クドカンならではだが、その世界観を黒島結菜の存在が見事に支えている。
手作りのユニフォームに身を包み、テニスを楽しむ可憐さ。陸上に挑戦した理由も、西欧の選手たちの美脚に憧れ、「シャン(美人)の足になるため」だった。
全てを捨ててひたむきにスポーツに打ち込むのではなく、小難しい理屈や高尚な理由でもなく、「美しさ」を求める気持ちがスポーツに勤しむきっかけとなる軽やかさ・自由さが、富江の強さだろう。
そして、そのしなやかな強さを表現するうえで、黒島の持つ少年のような凛々しさと、少女のような愛らしさは大いにハマる。どこか懐かしさを感じさせるような素朴さと眩しさ、真っすぐさ、透明感や品の良さが作品全体を魅力的に輝かせているのだ。
黒島といえば、同じくクドカン脚本の『ごめんね青春!』(TBS系)では、生徒会長であり、論理的で成績優秀、インターハイ出場歴もある「駅伝の第一走者」を凛々しく演じていた。最初はバカにしていた担任教師・平助(錦戸亮)に恋をし、告白するが、転校することを言い出せずにいる姿は、普段が凛々しい性格だけに余計にいじらしく思えた。
また、彼女の代表作の一つ『アシガール』(NHK総合)では、ひょんなことから戦国時代にタイムスリップ。若君(伊藤健太郎)に一目惚れしてしまい、身分を偽って「唯之助」として足軽になり、若君を守ろうと奮闘する女子高生・唯をイキイキと魅力的に演じていた。『アシガール』では伊藤が演じる若君のかっこよさが女性たちを夢中にさせたが、大前提として「同性が誰でも好きにならずにいられない」唯之助の可愛さこそが作品を大きく牽引していたといって良いだろう。
『いだてん』でも『ごめんね青春!』でも『アシガール』でも、少年のような華奢な身体で、強い思いを胸に秘め、懸命に生きる姿は、どれも女性たちの胸を熱くする。また、ドラマ『時をかける少女』(日本テレビ系)でもやっぱり軽やかに走りまくり、時間軸を飛び越え、ワクワクさせてくれた。
ご本人の身軽さ、身体能力の高さも大いに武器となって、様々な作品で走ってきた黒島。彼女が黒目がちな目でまっすぐ前を見て、華奢な手足で軽やかに駆け抜ける姿を見るだけで、私たち視聴者はまるで条件反射のように勇気づけられたり、ドキドキしたり、応援したりしたくなってしまう。それだけの力が黒島にはある。
ところで、『いだてん』の第22回は、富江の父の激怒をきっかけに、四三が女学校を解雇されることになり、それを知った富江を中心とした女学生たちは立ち上がり、教室に立てこもるという展開で終了した。大人たちに反旗を翻した彼女らはどうなるのか。凛々しく可憐な富江たち女学生の戦いの行方は、間違いなくこの物語のクライマックスの一つになるだろう。
(田幸和歌子)