日本ドラマ、アジア展開に勝機をつかめるか 白濱亜嵐主演『小説王』の画期的な取り組み
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アメリカや韓国のドラマが日本でリメイクされたり、あるいは日本制作のドラマが海外でリメイクされることが、昨今増加してきている。また、NetflixやAmazon Prime、HuluなどのVODプラットフォームが定着したことによって、1つのコンテンツが国をまたいで共有されるようになった。それらの変化は、日本のTVドラマ界にも大きな影響を与えている。
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2013年に放送され、最終回視聴率42・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という驚異的な数字を誇った『半沢直樹』(TBS系)は、東南アジアや東アジアでも広く支持され、台湾での放送当時、日本のドラマとしては過去最高の視聴率を記録した。他にも、『孤独のグルメ』(テレビ東京系)が昨年、韓国の『第13回ソウルドラマアワーズ』で、もっとも人気のある海外ドラマに贈られる招待作品賞を受賞。ドラマ・映画と連続展開した『兄に愛されすぎて困ってます』に主演した片寄涼太も、中国でファンミーティングを行い、人気ファッション誌の表紙を飾ったりと、高い人気を得ている。
日本のドラマがアジアで注目を浴びるようになる中、意欲的に海外展開を目指しているのが、現在フジテレビ系で放送、FODで配信されている『小説王』だ。
早見和真の同名小説を原作にした本作は、過去に大きな賞を受賞したものの、その後は鳴かず飛ばずで「一発屋」のようになっていた作家・吉田豊隆(白濱亜嵐)が、筆を折ろうとしていたときに疎遠になっていた幼馴染の編集者・小柳俊太郎(小柳友)、吉田のファン・佐倉晴子(桜庭ななみ)と出会い、本の力で出版不況を変えていこうとするストーリー。
本作が、企画当初から海外、特にアジア展開を見据え、同日配信まで行うという今までにない試みを行った背景には、どんな実情があるのか。フジテレビコンテンツ事業室所属の久保田哲史エグゼクティブプロデューサーは、アジアと日本ドラマの現状について、次のように説明する。
「アジア、特に中国はこの数年で経済的にかなり発展し、エンターテインメントや映像コンテンツが非常に充実してきています。その中で、YOUKU(ヨウク)、Tencent(テンセント)、iQUYI(アイチーイー)という3社が、Netflixに対抗できるような巨大OTTサービスとして企業価値を高めています。80年代から90年代にかけて、日本のドラマがアジアでヒットしましたが、2000年前後には韓国ドラマがそれを超える大ブームを巻き起こし、しかも制作費においても日本をはるかに上回っている作品を制作するようになりました。日本のドラマが流行っていた頃は、“日本しか高品質のドラマを作っていない”時代でしたが、今はそれが変わってきているんです。
2012年から海外ビジネスに携わってきて近年、私の中に「日本のドラマを再びアジア、そして世界へ」という想いが芽生えました。そしてこの想いを実現するためには、こうしたアジアの現状を踏まえて、国土的にも人口的にも大きな中国でヒットしないと、アジアで人気が出たとは言えませんので、戦略的に中国で展開していこうと約2年前に決めました。ただ、中国展開はすごく大変で、センサーシップというドラマの内容の検閲があったり、輸入商量(購入できるドラマの総量)の規制もある。日本のドラマを中国に販売しようとしても、そのセンサーシップにほとんど通らないんです。今フジテレビでやっている連ドラで通るものはほぼないでしょうね。恋愛ドラマやお仕事ドラマ以外はなかなか通らないし、弁護士や医療、警察ものも厳しい。近年その傾向はさらに強まっています。他局も同じ状況ではないでしょうか」
フジテレビの海外事業におけるドラマ部門の責任者として、リメイクや共同制作なども手がけてきた久保田氏。中国市場で人気のある作品の傾向については、こう分析する。
「たとえば『花より男子』のようなわかりやすい恋愛ドラマや、『重版出来!』のように新入社員ががんばるお仕事ドラマ、また、中国では女性の社会進出が盛んで、地方から都会に出てきた女性を主人公にしたAmazonで配信されている『東京女子図鑑』などの人気が高いです。日本でヒットするドラマの傾向とはまったく異なると言っていいかもしれません。中国は今発展の最中にあり、日本のバブル期のようにみんな、なんとなく高揚している。暗くシビアなトーンのドラマや、TVの前に腰をすえてじっくりいい作品を見るというよりは、スマートフォンでの鑑賞や“ながら見”ができる、明るく見やすい作品が好まれる傾向にあると思います。フジテレビ制作のドラマでは、石原さとみさんと山下智久さんの『5→9~私に恋したお坊さん~』がヒットしました。お2人は中国でも人気があり、出演作は注目度が高いです」
久保田氏は、中国のセンサーシップが近年ますます厳しくなっている中で、ドラマ作りも変わってきていると明かす。そんな中でプロジェクトがスタートしたのが『小説王』だ。
「フジテレビとYOUKU(ヨウク)は今、非常によい関係性を築いており、『こういう企画ならセンサーシップが通るんじゃないか』と、原作を決める段階から打ち合わせを重ね、共同で制作を進めていく取り組みを行っており、その第1弾が『小説王』です。制作の流れとしては、全話完パケしてから作品を提出し、2カ月ほどかけてセンサーシップの結果を待ちます。中国では違法動画が蔓延していますが、日本と中国での放送・配信が同時であれば違法動画での視聴を阻止できるので、日中での同時放送配信に重きが置かれているんです。
今回の『小説王』は、その点において画期的な作品です。ストーリーとしては、まずは恋愛ものかお仕事ものであること。中国でのメインターゲットは若い世代になるため、『若い人たちが苦労しながらも社会の荒波を乗り越え成功していく』という成り上がりのストーリーにすることに決めました。そして主演として候補にあがったのがEXILE/GENERATIONSの白濱亜嵐さんでした。LDHグループは世界各国に支社を持っており、海外展開にもかなり積極的。キャスティングは、演者としての魅力はもちろんですが、センサーシップも見越して前倒しで撮影したり、中国での宣伝のために動画を撮ったりと、中国で配信するためにやらなければいけない仕事も多くなるので、それを理解してくれる方々に出演をお願いさせていただきたいと思っていました。GENERATIONSは中国でツアーを行っていたり、『兄に愛されすぎて困ってます』に出演したことがきっかけで片寄涼太さんの人気もかなり高まっていて、中国での知名度も高かったので、今回はGENERATIONSのリーダーでもある白濱さんに主演をお願いしました」
また、今後のアジア市場における日本ドラマの展望と、その可能性については、こう指摘する。
「日本はすごくいいマーケットだと思いますが、難しいのは、日本でヒットする作品と、海外で評価される日本の作品にはズレがあるという点です。そのズレがある中で、何をしていけばいいのか僕らも模索している最中です。日本の地上波のゴールデンタイムのドラマは、視聴率という1つの指標を基準に、地上波放送のあとに映画化やパッケージ販売などで展開していく、というやり方が主流です。そうした従来通りの作り方は維持しつつ、アジアのトレンドを反映した『小説王』のようなやり方も必要で、しばらくは2本立てでやっていければと個人的には考えています。今はトライ&エラーの時期で、日本のTV局全体がどんどんアジアや海外を意識した作品を作っていけば、どこかに金脈が見つかるのではないでしょうか。日本の映像コンテンツのマーケティングも大きく変わってきていますから、日本国内で放送・配信されるドラマであっても海外も視野に入れながら、そのズレを埋めていくのが、僕の仕事だと思っています」
あらかじめアジア展開を見越して制作を始めた『小説王』。これまでは、日本で制作したドラマを世界に輸出するかたちをとっていたが、今後は、それ以外の方法も増えていくのかもしれない。
(取材・文=若田悠希)