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浪川大輔の歌声はなぜ癖になる? 『HIYAKE!ダンシング』に感じる多彩な“エンタメ性”

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 声優の浪川大輔が、5月29日に6枚目となるシングル『HIYAKE!ダンシング』をリリースした。

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 子役時代から声優としても活躍し、アニメから洋画の吹替えまで様々な役を演じてきた実力派声優の浪川。『君に届け』や『ヘタリア』『ハイキュー!!』といった人気アニメを担当し、持ち前の多彩な声質を駆使して幅広い役を演じてきた。2010年に歌手デビューした後は着々とリリースを重ね、アーティストとしてのイメージも定着しつつある。声のバリエーションが豊富なため、アーティストとしても曲調に合わせて時にかっこよく、時に愛らしく歌い上げることができるのが彼の強みだ。軸にあるのはやや高く柔らかい歌声。それによってどんな曲でも浪川らしさを常に感じ取ることができる。そんな中で本作は、夏を意識した一曲。リスナーを楽しませる仕掛けが凝らされていて、これまでの彼のイメージをさらに更新する内容だ。

 「HIYAKE!ダンシング」というタイトルのアゲアゲ感から想像できるとおり、本曲はテンションMAXのパーティーロック調。随所に小気味良い合いの手が組み込まれたサマーソングだ。作詞は大森祥子、作編曲は園田健太郎が担当している。それぞれアニソン~J-POPシーンで確固たる地位を築いているクリエイターである。

 大森祥子と言えばアニメ『けいおん』シリーズや近年の『プリキュア』シリーズでの活躍がめざましい。園田健太郎に至っては『テニスの王子様』シリーズや近年では『A3!』シリーズを始めとする多くのキャラソン、そして遊助などJ-POPアーティストへの楽曲提供で注目を集める存在だ。本作の「パーティー感」+「男性ボーカル」の組み合わせに相応しい布陣と言えるだろう。

 楽曲を見ていくと非常に面白い。かなり多展開のポップス形式である。〈Hey You!〉から始まるブロックをAメロ、〈失敗して〉からをBメロ、〈夢映す〉からをCメロとしたとき、その後にDメロとしての〈バディを歓待〉のブロックまで歌い終えて、ワンコーラスとなる。CメロとDメロを合わせてサビと考えてよいだろう。

 このようにサビを2段階持っていることで、全体として多展開な印象になるとともに、サウンドのアゲ感とも相まって楽曲に“騒がしさ”や“ワチャワチャ感”が生まれる。このDメロは歌い出し〈バックでAll Right〉としていきなり初っ端から登場するため、1番は「D→A→B→C→D」と進行するが、サビとしてのCメロとDメロの両ブロックのうち、Dメロだけを先に見せておくことで1番サビでの“高揚感”は削がれない。なぜならCメロはサビで初登場となるからだ。

 また、「D→A→B→C→D」進行は始まりと終わりの共通した“回帰型”。2度目のDメロには“着地感”や“安心感”がもたらされる構造だ。一般的な回帰型の「C→A→B→C」進行と違って、展開の多さからグイグイと前へ踏み込んでいくイメージも付加される。それでいて2度目のDメロには小結尾のような着地感をしっかりと感じ取れるため、展開の多さと着地の締まりを同時に持った、いわば“起承転転結”のような楽曲展開だ。

 2番では、Dメロをカットしてコール&レスポンスのブロックであるEメロ〈エーオ エーオ HI・YA・KE ! Dancin’〉へ一度迂回。間奏を挟んでラストは「B→C→C→D→D」と締める。最後のDメロ2連続は終結部としての意味合いが非常に強い。ライブでの盛り上がりも重視しつつ、楽曲の展開も不自然さがない。安心感と高揚感が適度にミックスされた現代J-POPの王道のような作りだ。

 ところで、浪川大輔といえば映画の吹き替えやアニメなどで誠実な青年の声をあてている声優というイメージが強い。『スター・ウォーズ』シリーズのアナキン・スカイウォーカー役などがよい例だろう。しかし、実はこれまでのディスコグラフィーにおいて、正統派男性ボーカルの楽曲に混じり、今作のようなパーティー感のある楽曲を一貫してリリースしてきた“幅の広さ”を持ったアーティストでもある。

 たとえば、『UTAO』(2012年)収録の「ファンキー☆トゥナイト」、『Ring』(2013年)収録の「ファンキー☆フィッシング」、『ELEVATION』(2016年)収録の「激アツ超絶Saturday Night!!」、『My Treasure』(2017年)収録の「俺にはおっさんが見えている」、『Picture』(2018年)収録の「イエローマン」……といったように、必ずリリースに1曲ほど彼の“もうひとつの一面”を感じ取れるような楽曲を忍ばせてきた。

 今作は、まさにその浪川のもうひとつの顔を全面に押し出したような楽曲だ。ある意味、そうした路線の曲を満を持して表題曲としてリリースしたとも言えるだろう。同じく声優の吉野裕行とのユニットUncle Bombでもバラエティ豊かな楽曲を歌っているが、昨今盛り上がりを見せる声優アーティストのシーンでは、こうした“幅の広さ”が鍵となるのかもしれない。ひとつの路線に縛られず、多様な引き出しを見せられる器用さが、これからの歌い手には求められるように思う。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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