清 竜人が語る『REIWA』を経た次の表現への意欲「モチベーションもエネルギーもある」
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ニューアルバム『REIWA』は過去になかったほど歌に重きを置いた作品である。往年の歌謡曲に通じるその世界とメロディを躍動させるのは、ミッキー吉野、瀬尾一三、井上鑑、原田真二、星勝といった実績あるアレンジャー陣。そしてそこで清 竜人が活写する人情劇は、じつに人間くささにあふれているとともに、清 竜人というアーティストが表現しようとする人間そのものへの視線が反映されている気がする。ここでは主にそうした楽曲群からうかがえる指向性と、彼自身の人間的な側面について聞いた。
なお、インタビューは5月下旬、清の誕生日の27日の前の週に行った。この席で彼は昨年来のトレードマークである口ヒゲを剃っていた。そしてそのことが次の活動の布石でもあったことは、この時は知る由もなかった。(青木優)
いくつもの時代をつないでいく
ーーこれは聴き応えのある作品ですね。
清 竜人(以下、清):ほんとですか? 良かったです。
ーー今回のアルバムの着想はいつぐらいからあったんですか?
清:いつ頃かなぁ……たぶん(清 竜人)25があって、そのあとに(清 竜人)TOWNというパンクバンドのプロジェクトをやっていたぐらいですね。25は2014年に始まって、そこから約3年間続けたんですけど、3年間同じ企画で活動するのも初めてだったので、そういった意味で「次はどっかのタイミングでソロのアルバムを作りたいな」と思い始めていて。それから少しずつ考えはじめた感じですかね。
ーーということは2年前からですか。そこからソロに至るには、どんなアイデアがあったんですか?
清:音楽シーンを見渡して「今このタイミングでやるからこそ面白いこと」とか「出す意義のある作品」を考えた時に、ハンドマイクでシンガーが歌に専念するような、往年の歌謡曲スタイルのものを思いついたんです。そういう音楽は最近少ないし、普遍的なJ-POPみたいなものも減ってきてるイメージがあったので、次はしっかりとした歌もので、メロディと歌詞にもこだわって、日本人の心や耳になじみやすい楽曲を作れたらいいなと思いました。
ーーつまりこれは、ちょっと客観的な視点から始まったテーマなんですか? 僕は、竜人くん自身が「こういう歌を歌いたい」とか「こういうメロディでステージをやりたい」というイメージがあったのかな? と思ったんですけど。
清:もちろんそれもありますけど、あんまり……まあヘンな言い方をすると、今までもべつに自分の好きな音楽を自分がやってきたわけでもない、というところはあって。
ーー(笑)。そこまで言いますか。
清:いや、もちろん好きですけど、自分の好み、自分の趣味に合わせてスタイルを作ってきたわけじゃなくて。そこはプロとして割り切ってますね。あとは「アーティストとして何をやるのが面白いのか」「このアプローチだったら、こういう音楽性やパフォーマンスがいいんじゃないか」と、対外的なイメージとか俯瞰的なプロデュースによって活動スタイルや音楽性を決めてきた側面もあるので。「自分が今これを歌いたいからこういうのをやる」という発想で音楽をやってきた自負は、あまりないですね。だから「何かに憧憬して」とか「憧れて」みたいな姿勢はないです。
ーーわかりました。じゃあ平成から変わる新しい元号をアルバムのタイトルに盛り込むのは、そのあとの話なんですか?
清:そうですね。作品のなんとなくのコンセプトが浮かんでる中で、元号が変わるというアナウンスが社会的にあったことに少し縁を感じて。ただ、あまり無理くり結びつけたつもりはなくて……そもそも僕が今回やろうと思っていた作品性のコンセプトと社会的な時代の移り変わりがちょうど合致した感覚があって。じゃあその世の中の流れもうまく落とし込んだら、時代性を置いているものにできるし。「いくつもの時代をつないでいく」という普遍的なメッセージを込めた作品にもしたい気持ちはありましたね。
ーーアルバムの中では、どの楽曲からできてきました?
清:「平成の男」はほんとに1曲目か、もしくは2曲目ぐらいに作った楽曲ですね。アルバムの1曲目になってますけど、キングレコードに移籍して第1弾の楽曲でもあるんです。これは次の自分がやろうと思っている活動スタイルを示すにはすごくわかりやすい楽曲だから第1弾にしたのもあるし、そういうものを作ろうと思って制作に取りかかった楽曲ではあるので。アルバムには何曲か、過去に「そういえばこんなメロディ思い浮かんでたな」というやつをリアレンジして作った楽曲もあるんですけど。
ーーそれはどれですか?
清:んーと、「青春は美しい」と「涙雨サヨ・ナラ」かな。ちょっと断片的なものが脳内にあったりして。
ーーで、そうした中で普遍性だとか、かつての歌謡曲のような音楽性が明確になっていったということですか。
清:そうですね。もともと思い描いてた音楽性は、サウンドのジャンルはともかく、メロディとしてJ-POPに、歌謡曲になっているものを目指したいというところから始まっていて。そういった意味で、日本の歌謡曲が全盛期を迎えていた時代……昭和の後期から平成の前期ぐらいの時代から活躍をされている、そして今なお第一線でも活動されてるような大御所、ベテランの方々とコラボレーションをしようと。平成元年に生まれて、平成とともに育ってきた現在進行形のアーティストである僕との間に何か新しい化学反応が起きて、それが次の時代でも普遍的な音楽になっていたら、それはとても意味のあることなんじゃないかな……というところが今回の狙いですね。
ーー竜人くん自身は、昭和の音楽や文化は後追いで触れたわけですよね。
清:そうですね。ただ、後追いではあるけれども、それこそインターネットを通じて知るような昔の楽曲には、古くさいなと思うものもあるけど、20年前……ヘタしたら60年代、70年代の楽曲であっても、今どの世代が聴いても素晴らしいなと思えるものが確実にあって。僕は昭和の時代の歌謡曲みたいなものに、日本の歌謡曲の普遍性のヒントが隠されてると、すごく確信してます。戦後から平成のアタマにかけての音楽のいいところを踏襲して、今、2019年現在、アーティストとして活動してる僕の今の感性の歌詞とメロディと、うまく融合させることによって、また新しい普遍的なJ-POPみたいなものが作れたら理想だな……と思いました。
ーーでは質問の角度を変えますね。その昔の歌謡曲や昭和時代の文化にはあったけど、現在はなくなってしまったもの、「今もっとこういうものがあったらいいのにな」と思うようなものって、何かありますか?
清:……音楽番組かな。音楽番組が少なくなりましたよね。昔は、とくに戦後は、大衆文化の中心に音楽があった時代もあって。もちろんリアルタイムで経験してるわけではないですが、美空ひばりさんだったり、日本の歌手だったりミュージシャンがエンターテインメントの中心にいた時代がたしかにあったように思うんです。それが今は全然、勢力図が変わっていて、娯楽の中心に音楽がないというか、どちらかというと、お笑いとか、違うエンターテインメントのほうが国民に浸透してるイメージがあって。それは時代の変化とともに起こるべくして起こってる事態だとは思うんですけどね。で、過去を振り返ると、とくにシンガーとかミュージシャンが、たとえばタレントとか、ほかの肩書きも持って、総合的にエンターテイナーとして活躍しているような人間が減ったようなイメージがありますね。
ーーそうですね。それこそ美空ひばりや石原裕次郎は、映画スターでもあったわけですからね。もっとも当時はそれだけ映画が娯楽の王道だったこともありますけど。
清:そうですよね。それが今のJ-POPは専門化しちゃった。で、それは、昔は音楽はある種の手段で、それ以外の目的を達成するための何かということがありえたということだと思います。でも今はもう音楽をやることだけがゴールになってるミュージシャンが増えたな、というイメージはありますね。
ーー竜人くん自身は、そこはどうなんですか?
清:僕はどちらかというと、デビュー初期の頃は、マインドとしてはそういう感じで。露出もあまりしたくなかったし……テレビもそうだし、プロモーションもそうだし。自分が好きな音楽をやって、自分を好いてくれてるファンに向けてものづくりをして。それだけでご飯を食べていけたら充分、みたいな発想だったんですけど。
ーーですよね。そういうスタンスだったと思います。
清:でも10年間続けてきて、視野も広がったり、発想も変わったりして……大げさな言い方をすると、使命感みたいなところも出てきたのかもしれないです。デビュー初期のような姿勢の活動スタイルは、ものすごく大げさに言うと、音楽シーンの縮小につながってたかなと思っていて。もちろん僕はすごく小さな石ころですけど、そういう人がある時期増えた。みんな、たくさんの人に支持してもらいたいはずなのに、内に向いてるというか。それが束となって、ちょっとずつ音楽シーンの縮小につながってしまっていたんじゃないかなという感覚が、少しあって。まあ僕ひとりで何ができるんだって話でもあるんですけど、せっかくこの業界で、大衆音楽の分野で活動してるんであれば、そのままじゃダメだよね、と思うようになりましたね。だから少しずつ自分の円を広げていく、ファンの数を増やしていくという、どちらかといえばポジティブな思考でいるべきだな、と。そのへんがこの10年のうちの、とくに後期は少しずつ出てきていると思います。
ーーじゃあ今、音楽家以外の活動をするつもりもあるんですか?
清:いい機会があれば、もちろん思いますね。
ーーたとえば役者とか?
清:役者とかね。まあ自分から「やりたい!」とか、今べつにあるわけじゃないけど。ただ、アーティストでもあるけれども、タレントでもあるという自覚はうまいバランスで持たないといけないなとは、最近はすごく思うので。もちろん何でもかんでもやるのは違いますけど、トータルバランスで、ふだん音楽に興味のない一般層が興味を持つような活動スタイルとかアーティスト性はどこかしら必要だな、と。だから何か違う分野のエンターテインメントと関わることで自分がいい意味で広がっていくのであれば、僕はそこまで門戸を狭める必要はないかなと思ってます。
続ければ続けるほど、すごくやり甲斐を感じる
ーーわかりました。アルバムの話に戻しますが、ここで主に描かれているのは男と女の心の交流であったり、そこでの心模様だったりするわけですが、これは作っていく上で煮詰めていったんですか?
清:そうですね。アルバム通して「こういう歌詞の世界観にしよう」という明確な枠組みはなくて……先ほどの話とつながる部分もありますが、いわゆる大衆音楽にしたくて、ふだん音楽を聴かないような人でも口ずさんだり、スッと入ってくる歌詞の内容だったり、ありふれた情景を色づけして描いたり。それこそ青春という、誰もが通るようなエピソードをキーにして楽曲を作ったり、というような描き方は意識しました。
ーーそうなんですか。ここで描かれている人間たちの姿って、ちょっと懐かしさがある気がするんですよ。
清:ああ、なるほど。
ーーそして基本的には、愛とか恋に関しての歌が多いですよね。
清:多いですね。まあJ-POP、そして日本の歌謡曲のひとつの大きな要素を定義した時に、やっぱり哀愁とか郷愁とか、日本人独特のセンチメンタルな感情というものがひとつのキーになっている気はしていて。だからそういうものを感じる楽曲をこの作品には収録したいなというのはあって。その中で男女の気持ちの交感だったり、心情の機微みたいなものを描くものが増えたかなと思いますね。
ーーただ、このアルバムに限らずですけど、竜人くんの歌には、愛や恋に対して一途な気持ちがありますよね?
清:そうですね。一途というか……まあロマンチックなんですね。ええ。
ーーですよね。あと、歌に出てくる人たちが、ことごとく不器用ですよね。生きることに対して、あまり上手じゃないというか。「馬鹿真面目」なんて、そういう人のことを歌った曲だと思うし。
清:ああ……そうですね。それもさっき言った哀愁というものを呼び起こすひとつの要素という気がします。ある種、悲しみがないと哀愁は成り立たないと思うので、どこかしら苦労というか、過去にキズがあるというか、そういうもののほうが感情移入して聴けたりすると思います。そこに自分を重ね合わせて聴く人もいるかもしれないですし。最近のラブソングは、たとえば〈LINEが返ってこない〉とか……もっと生々しいのでは〈あいつが違う男を連れている〉とか、バンドマンが書きそうですよね。
ーーそんな歌、実際にあったっけ?(笑)
清:わかんないけど(笑)、そういう直接的な情景描写が受け入れられる時代なんでしょうね。ただ、歌の中でもう少し行間を持たせるのは、日本の歌謡曲の美しさのひとつかなと感じてます。
ーー「TIME OVER」の歌詞では〈駆け引き出来ない 馬鹿な俺を振って〉とか、「抱きしめたって、近過ぎて」では〈貴女の顔は覗けない〉とか、まっすぐさや奥ゆかしさがありますよね。
清:まあ煎じつめると「恋してツラい」とか「会いたいのに会えない」という気持ちは、根源のところでは昔も今も変わってないと思うんです。それを時代によってどういう表現で描くのが流行っているか、みたいな話なんですよね。まあ(生活の)環境が変わってるので、情景が変わるのはありますけど、心情の根源は同じだし。なので、設定は現代なんだけど、それをどの時代の人が聴いてもすんなり心に届く塩梅のストーリーを綴ることを意識しましたね。
ーー「Love Letter」は男、「私は私と浮気をするのよ」では女がそれぞれ主人公で、でもどちらも自分に陶酔してるような歌ですね。
清:「Love Letter」はある種、自分へのラブレター、みたいなことですよね。なので時代性もまといつつ、ハードボイルドな雰囲気も出しながら、ちょっとキザな感じで仕上げられると面白いかな、という感じで作りました。「私は私と~」は、昭和の時代もそうですけど、男性が女口調で歌うのは歌謡曲のひとつの手法であって。男言葉で普通に歌うより、同じメロディで女言葉にするだけでポップになる。そういうのが効果的だなと思っていたので、そういった意味から作りました。
ーーそうですか。で、僕が思うのは、竜人くんはこういう世界観が好きなんじゃないかということなんですよ。こういう歌を歌いたいというイメージがあったからじゃないかと最初に質問したのは、だからなんです。
清:あ、僕が、人間的に? プライベート的に、ということですか。
ーーそうそう。そうです。
清:うーん、そうですね……このアルバムだけに限らず、基本、僕はたぶんロマンチストなので。だからロマンチックな情景描写もそうですし、心情表現みたいなものも、ただ「愛してる」っていうんじゃなくて、違う表現で歌詞にすることは意識してきたつもりではあって。このアルバムの世界観も、たぶん自分が好きな世界みたいなものになってるとは思いますけど、昔のソロの頃の自分とすごく変わってるわけでもないという感覚はあります。
ーーですよね。だから、むしろ今までのソロで作ってきた楽曲との一貫性がよく見えるんです。それこそ、ちょっと古くさいような男の姿だったり、どうしても不器用さが出てしまう恋愛模様とか。
清:そうですねえ……どうなのかなあ(笑)。
ーーたしかに普遍性も追求しているけど、そこでの歌のポイントの置きどころが古風な男像にある気がするんです。
清:ああ~。古風な男像というか、「平成の男」の歌詞が一番アンサーになってるかなと思うんですが。時代の価値観とかイデオロギーには順応しつつ、ただ「男がオスであるからには、時代が変わったとしても絶対になくさないであろう感情というものもあるだろうね」と。それは獣として、動物として、ですね。そことの兼ね合いをとりながら、「平成の男」は今の時代の男のあり方としてのラブソングにうまく落とし込めたかなとは思ってます。
ーーだからリアルでもあるんですよね。古風な男の心を持ちながら、平成の時代をちゃんと生きてきた人のラブソングになってると思います。
清:「けど、やっぱ君のこと、守るよ」とかね。たとえば、もし好きな女に「あなただけに守ってほしい」と言われたら、大多数の男はやっぱりうれしいと思う。「そんなこと俺、荷が重いよ」と言うんじゃなくて、そこで女の子を守ってあげたいと思う感情はあるだろうし。その方法だったり、表現の仕方は、時代に合わせて変えなければいけないことですけどね。そういうものをこの平成の終わりのタイミングで、素敵なラブソングとして仕上げられたら面白いかな、というところでした。
ーー竜人くんは過去、好きなマンガに『本気!(マジ)』を挙げてたじゃないですか。あの作品の世界観って、もろにそういうところですよね。昭和の古い男の姿だったり、恋愛感情だったり。
清:ああ、そうですね。立原あゆみさんのあの世界観は昔からすごく好きなんで、自分に落とし込んでる部分もあるかもしれないですね。まあ自分の性格というよりかは、作品性として、うん、いい塩梅でね……そういうところもあるのかな。ちょっと自分じゃわかんないけど。(注/かねてから『本気!』を座右の書に挙げるほど愛読していた清は、2012年発表のアルバム『KIYOSHI RYUJIN』のジャケットのイラストを同マンガの作者である立原あゆみ先生に描いてもらっている)
ーーそう思うと、こちらもわかりやすいんですよ。ああいう世界が好きな人だからこういう歌を書いてる、という構図は。
清:『本気!』という作品は、すごく愛のあるストーリーなんですね。でもその愛というものが、キレイごとじゃなくて、現実的な愛なんです。そこに僕はすごくシンパシーを感じるというか。
ーーわかります。なにせ『本気!』は話が任侠ものですからね。
清:ただ「君のことが好きだよ」という愛じゃなくて、世の中の汚いこととか、男女の関係の、美しいものもそうだし、醜いところも含めて、そこまで理解した上での現実的な愛というものが僕は本当な気がするから。そこはすごく共感できる部分ですし、自分が描きたい世界にも近いと思いますね。
ーーで、アルバムにはそうした中で青春の歌も入ってますね。それから「あいつは死んであの子は産まれた」は特徴的な色合いを持つ曲として最後に置かれていますね。
清:ラストソングの「あいつは死んで~」は、このアルバムの収録楽曲の中でほんとに最後に作った曲で。ある種、最後の1曲にどういうのが入るとバランス良くアルバムが完成するかなというところから考えて作った曲ではありますね。で、「青春は美しい」は、冒頭にちょっと話しましたけど、原型は昔からあったんですが、今回のアルバムの作品性にすごくマッチするようなメロディラインだったんです。メロディラインから匂ってくる情景ってあるじゃないですか。その肌感が近かったので、今回の収録になりました。
ーー「青春は美しい」のMVはすごくキレイですよね。
清:ああ、ありがとうございます。もう3カット、4カットぐらいしかないんですけど。
ーー撮影された場所も美しいなと思いました。あれはどこで撮ったんですか?
清:伊豆のあたりですね。中学校の授業中に撮りました。昼間だったので、隣の教室で授業してましたよ。
ーーでは、そろそろまとめようと思います。先ほどの「あいつは死んで~」には〈失ってから気付くことが我が人生に多過ぎて〉という歌いだしなんですが、竜人くん自身は失って気づいた重大なこと、大事だったなと思うことって、何がありますか?
清:うーん……どんなことがあるのかなあ(笑)。何だろう……僕はけっこう二兎を追うタイプなんです。で、二兎を捕まえるまで絶対に走り続けるタイプなので、あんまり……でも失ってるんでしょうね。「あの女の子ともうちょっと仲良くしときゃよかったな」とか、そういうのはありますけどね。「あ、連絡が疎遠になっちゃった」とか。「あ~、もうちょっとマメに連絡とっときゃ、今も失わずに済んだのに!」とか、あるかもしんない(笑)。失ってから気づくことはね。それぐらいしか思い浮かばないです。
ーーそれはみんな、大なり小なりあると思います(笑)。じゃあ恋愛以外ではありますか?
清:まあ家族の死とかね、そういうのはありますよ。近しい人間が亡くなったりすると、けっこう後悔が残ることがあるので。で、誰かが死んで、その分、誰かを大切にできるようになるところはあると思うんで……そういうのはありましたね。
ーー今、ちょっと大人なこと言いましたね。若いうちはなかなか言えない言葉だと思いますよ。
清:そうですかね? ありがとうございます。
ーー音楽活動ではありませんか? それこそ「デビューした頃にもっとこうしておけば良かった」とか。
清:あ、それは基本的にはあんまりないですね。ただ、今年10周年なんですけど、振り返ってみて……まあベストは尽くしたなと思ってますが、自己採点で言うと50点ぐらいかなと思っていて。なので、次の10年はその点数をより上げていけるように、マイナーチェンジもそうだし、ブラッシュアップもしていきたいなとは思ってますけどね。
ーー50点って、思ったより低いですね。どのへんがそう思わせてるんですか?
清:まあ基本的にはセールスですよね。浸透度とか。自分が作ってきた作品には自信もあるし、プライドも持ってますけど。ただ、作ってきた100曲以上の中には、いいものもあれば、良くなかったものもあると思ってて。それをある程度ちゃんと整理をしようと、振り返ってみようと思ってます。その上で次の10年を続けていきたいと思いますね。
ーーその、次につなげようという姿勢も、今まではなかったですよね。というか、過去はこういう話をすると「いつ辞めようかなと思ってます」みたいに言ってましたよね?
清:それは半分本音で、半分冗談ではありましたけどね。最近はほんと、音楽で食べてるなんて、こんな楽なことはないんで、続けていきたいなという気持ちがある。やっぱり続ければ続けるほど、すごくやり甲斐を感じる仕事でもあるから。冒頭に話したような使命感もそうかもしれないですけど、人の気持ちに影響を与えられる職業なのは、すごく面白いし。
ーーそういうのに無頓着な印象がありましたけれどね。あなたには。
清:昔はね。もちろん楽しくやってましたけど、ほんとに1枚目、2枚目ぐらいまでは自分が満足してるところはありましたね。そこで燃え尽き症候群みたいなところもあったかもしんない。
ーーそんな初期に燃え尽きてたの?
清:うん、やっぱデビューって、すごく大きなことだったので。デビューの時も今も、アティチュードというか、音楽業界に対しての精神みたいなものはそこまで変わってないなとは思ってます。その時も「人が作れないようなものを作りたい」という気持ちではやってたし。ただ、ベクトルは同じだけど、その矢印の長さと太さが、当時はそれほどではなかったなと思いますね。それに比べると今は、もっとモチベーションもエネルギーもあると思います。楽しいことをしたいですね。ただ、歌って楽器弾いてるのも、ちょっと飽きてきたというか……だいたいいつも、この周期なんですけど。で、またダンスしたら次はマイク持つ、みたいなね(笑)。
ーーいや、次は役者とかタレント業も、もしかしたら。
清:そうですね……はい。まあ楽しいことはしたいし。僕が楽しいことをすることで、みんなが楽しくなるのが一番いいなと思います。
ーーちなみに次回作の構想とかあるんですか?
清:ちょうど最近考えないとなぁと思って、考えはじめてはいますけど。まだちょっと……というのは、インタビューの席では言いますね(笑)。
ーーデュエットアルバムとか、どうですか? 今回は吉澤嘉代子さんと唄ってますが。
清:デュエットアルバム……たとえばどんな人と?
ーーいや、自分が興味がある、いいと思う人でいいんじゃないですか。女性でも男性でも、若い子でもベテランのシンガーでも。
清:全員……女子中学生とか?(笑)。それか、1歳から70歳まで、70曲デュエットですね。この曲の相手は1歳、最後の曲では70歳!とか(笑)。
取材後記
この取材から数日後、5月25日に清は新木場STUDIO COASTで主催イベントの『ハーレム♡フェスタ2019』を行った。そしてこの日の彼のステージは、なんと「マイクを置いてダンスをする」ものとなったのである。
当日は堀江由衣、上坂すみれ、でんぱ組.inc、ももいろクローバーZの佐々木彩夏と、清にゆかりの深いアーティストたちが出演。その大トリとして、10周年スペシャルと銘打って展開された彼自身のライブの中身は、2012年発表の4枚目のアルバム『MUSIC』を元にしたステージの7年ぶりの再演だったのだ。披露されたのは同アルバムからの4曲で、いずれもミュージカル的な構成を持つ歌。各曲は多数の共演者(その顔ぶれには堀江や霜降り明星の粗品も)のセリフや歌を含み、また清自身は歌の世界に合わせて学生、アイドル、チンピラとキャラや衣裳をチェンジ。取材の席ですでにヒゲを(おそらくは腋毛も)剃り落としていたのは、このステージのためだったのだ。
そして10月にこの『MUSIC』の全10曲を披露する3公演を渋谷で行うことを発表。インタビュー中、自身の歩みを振り返った話が幾度か出ていたが、まさかそれが現在の活動に表れてくるとは予想していなかった。ただ、彼は以前、アルバム『MUSIC』について「もっと評価されても良かったと思う」という趣旨の発言をしているので、この作品への思いは強かったのだろう。僕自身も『MUSIC』は音楽シーンにもっときちんと届くべきだと思っていたので、この再演はうれしい話である。もっともこれで清の次の活動が『MUSIC』的なものに一本化されるとは、とても思えないが。
ただ、今回の取材では、かつてはなかった自覚や、それに伴う創造性が湧き上がってきている事実を感じた。10周年以降の彼は何を見せてくれるのか? 役者? それともタレント? そこまで含めて、大いに期待している。
(取材・文=青木優)
■リリース情報
『REIWA』
発売:2019年5月1日(水)
【初回限定豪華盤】(CD+DVD):¥7,000(税抜)
BOX仕様、CD、DVD、フォトブック
【通常盤】(CD):¥2,778(税抜)
<収録曲>
01. 平成の男
02. TIME OVER
03. 目が醒めるまで(Duet with 吉澤嘉代子)
04. 抱きしめたって、近過ぎて
05. 馬鹿真面目
06. サン・フェルナンドまで連れていって
07. 25時のBirthday
08. 青春は美しい
09. Love Letter
10. 私は私と浮気をするのよ
11. 涙雨サヨ・ナラ
12. あいつは死んであの子は産まれた
<初回限定豪華盤DVD収録曲>
・平成の男 MUSIC VIDEO
・目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子) MUSIC VIDEO
・サン・フェルナンドまで連れていって MUSIC VIDEO
・青春は美しい MUSIC VIDEO
・2018.11.17「清 竜人ワンマンライブ2018 秋」@TSUTAYA O-EAST
01. Love Letter
02. TIME OVER
03. ヘルプミーヘルプミーヘルプミー
04. 馬鹿真面目
05. 涙雨サヨ・ナラ
06. サン・フェルナンドまで連れていって
07. All My Life
08. きみはディスティニーズガール
09. The Movement
10. LOVE&PEACE
11. あくま
12. 痛いよ
13. ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング
<ENCORE>
01. 抱きしめたって、近過ぎて
02. 私は私と浮気をするのよ
03. 平成の男
■ライブ情報
『清 竜人MUSIC SHOW 2019』
10月11日(金)夜公演 OPEN18:30/START19:30
10月12日(土)昼公演 OPEN14:00/START15:00
10月12日(土)夜公演 OPEN18:30/START19:30
会場:渋谷TSUTAYA O-EAST
出演者:清 竜人and more
全自由/ ドリンク代別
チケットぴあ (Pコード:154-204)
『EVIL LINE RECORDS 5th Anniversary FES.
“EVIL A LIVE” 2019』
7月15日(月)パシフィコ横浜国立大ホール
出演:特撮/ももいろクローバーZ/ドレスコーズ/TeddyLoid
イヤホンズ/サイプレス上野とロベルト吉野/月蝕會議/The Dirty Dawg(from「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」) /清 竜人/内藤るな+高井千帆+平瀬美里 (ex.ロッカジャポニカ)
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