サカナクション、King & Prince、HYDE……キャリアにおける記念碑的なアルバム
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サカナクションのじつに6年ぶりとなる(!)ニューアルバム、瞬く間にアイドルシーンのトップに立ったKing & Princeの1stアルバムなど、キャリアにおける記念碑的な新作を紹介。ターニングポイントを迎えたアーティストたちの充実作、勝負作を体感してほしい。
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前作『sakanaction』から約6年ぶりとなる、まさに待望のサカナクションのニューアルバム『834.194』。『グッドバイ/ユリイカ』『さよならはエモーション/蓮の花』『新宝島』など、前作以降にリリースされた全シングルを含む本作は、極限まで洗練されたディスコファンクチューン「マッチとピーナッツ」、パーカッシブなサウンドとエキゾチックな旋律がひとつになった「モス」など、ダンサブルな楽曲を中心に構成されたDISC-1、静謐なピアノのフレーズを軸にした「茶柱」、エレクトロニカの極北と称すべきトラックとともに、憂いを帯びた心象風景を映し出すタイトル曲「834.194」など、サカナクションの深遠な精神性が堪能できる楽曲を収めたDISC-2による2枚組。前作以降のバンドのストーリーを一大叙事詩に発展させた大作だ。
シングル表題曲「シンデレラガール」「Memorial」「君を待ってる」を収めたKing & Princeの1stアルバム『King & Prince』。歌謡曲的なメロディとロマンチックな歌詞の世界を軸にした王道のアイドル路線を突き進む彼らだが、本作には音楽的トレンドを取り入れた楽曲も収録され、表現の幅を大きく広げている。それを象徴しているのが、リードトラックの「Naughty Girl」。マイリー・サイラスなどの楽曲を手がけるDrew Ryan Scottをはじめ、USのクリエイターのコライトによるこの曲は、心地よいファンクネスを感じさせるギターカッティング、サブベースを取り入れた重厚なトラック、中低域の響きを活かしたサウンドメイクなどを共存させたダンスチューン。ラップやファルセットボイスを交えたボーカルも印象的だ。
2018年6月にシングル『WHO’S GONNA SAVE US』でソロアーティストとして再始動したHYDE。Sho(MY FIRST STORY)、PABLO(Pay money To my Pain)、さらにUSのクリエイターも参加した今作『ANTI』は、10年代のモダンヘビィロックを基軸にしながら、これまでの彼のキャリアのなかでも最もハードでアグレッシブな作品に仕上がっている。憂いと激しさを共存させたメロディライン、怒り、哀しみ、憤りといった感情をダイレクトにぶつけたリリック、ライブでの熱狂を想起させるサウンドメイクも、現在のHYDEのモードにつながっているのだろう。日本のロック史上、最大級の成功を収めた彼が、ここにきて『ANTI』(アンチ)というタイトルのアルバムを放つことの痛快さをたっぷりと感じてほしい。
KREVAが、ソロデビュー15周年のアニバーサリーに向けた9カ月連続リリースの第6弾『成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~』は、『クレバのベスト盤』『KX』に続くベストアルバム。もちろん単なるベストではなく、ソロデビュー曲「音色」から最新曲「存在感」まで、15年のキャリアを彩ってきた代表曲、ヒット曲をすべてバンドサウンドで新たにレコーディングした“新作”だ。リスナーの期待をいい意味で裏切り、「これを聴きたかった」と「こんなの聴いたことがない」、そして「っていうか、これすごくない!?」”を同時に叶えてしまうKREVAのアイデアと度量こそが、この作品の醍醐味だろう。生バンドのグルーヴを肉体的に捉え、強度と深度を増したボーカルとラックも当然のように素晴らしい。
CDデビュー5周年のアニバーサリーを締めくくるSHISHAMO初のベストアルバム『SHISHAMO BEST』は、「君と夏フェス」「明日も」「OH!」などのシングル曲を網羅した“入門盤”的な作品。「僕に彼女ができたんだ」「恋する」など高校時代に制作された楽曲も含まれているが、少女マンガのようなストーリーを描き出す歌詞の世界、シンプルなスリーピースサウンドを軸にした音楽性がしっかりと貫かれていて、バンドのブレないスタンスを実感できる。ロックンロールからR&Bまでを行き来するアレンジのセンスも絶品。幅広い層のリスナーに届くポップミュージックを生み出せる稀有なバンドであることを再認識できる1枚だ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。