脚本家・吉田玲子が語る、『きみと、波にのれたら』湯浅政明監督との2度目のタッグで描いたもの
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映画『きみと、波にのれたら』が6月21日より公開されている。
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本作は、映画『夜明け告げるルーのうた』や『夜は短し歩けよ乙女』、Netflixで全世界配信中の『DEVILMAN crybaby』など、数々の話題作を世に送り出す湯浅政明監督の最新作。海辺の街を舞台に、消防士の青年・港とサーファーの大学生・ひな子の青春ラブストーリーが繰り広げられる。GENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太が港役、川栄李奈がひな子役でW主演を務め、重要なキャラクターとして、松本穂香と伊藤健太郎が出演する。
今回リアルサウンド映画部では、『夜明け告げるルーのうた』に続き、湯浅監督と2度目のタッグを組んだ脚本家の吉田玲子にインタビューを行った。『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』をはじめ数々のヒット作品を手がける吉田氏に、本作の企画段階から、脚本のアプローチの仕方など語ってもらった。
■「湯浅さんは音楽シーンを描くのが上手い監督」
ーー完成披露試写会で作品をご覧になっていかがでした?
吉田玲子(以下吉田):完成した作品を見ると、基本的には反省会になっちゃうんですけど(笑)、同じ曲が何回も繰り返されるのでそれがしつこくないかなとか、歌がどう使われているのかとても気になっていたので、そこが問題なかったので少し安心しました。
ーー『夜明け告げるルーのうた(以下、『ルーのうた』)』の際も歌が印象的に使われていましたが、今回も主題歌をもっと聴きたくなるような力が作品にありました。
吉田:歌ったら水の中に出てくるという設定にしようと、最初から決まっていて、脚本に書いている時に、仮の歌詞でしたがデモテープが上がってきていたんです。設定として歌が重要で、印象に残るようにしないと最後に効いてこないので意識して作りました。湯浅さんは音楽シーンを描くのが上手い監督さんなので、そういう設定を活かして、表現してくださる信頼はありました。
ーー『ルーのうた』の公開後、どのくらいの期間でこの企画が始まったんですか?
吉田:『ルーのうた』の公開が終わったあとくらいです。企画書が1枚作られていて、そこに湯浅さんのアイデアとして、「死んだ彼が水の中に出てくるゴーストみたいなお話」ということが書かれていて、水の中で男の子と女の子が出会うといったようなイメージイラストがありました。
ーーそれを見て、すぐに脚本をやることを決めたのでしょうか?
吉田:そうですね。湯浅さんの真っ向勝負のラブストーリーってどうなるのかなと、むしろ私が見たいと思って(笑)。
ーー『ルーのうた』の際は、脚本が吉田さんと湯浅監督の連名でクレジットされていました。今回吉田さん単独です。お話の展開は吉田さん主導で進めていったということなんでしょうか?
吉田:シンプルなコンセプトは決まっていましたし、ラブストーリーというところで、女性が見るでしょうし、私が書いた方がいいのかなというところがあったと思います。やはり『ルーのうた』のあと、もっと多くの人に向けた作品を一度作ってみたいなということで進んだ企画だと思ったので、今回はそういうスタンスで湯浅さんは一貫して臨まれていたのかなと。プロデューサーをはじめいろんな人の意見を聞かれていましたね。
■「キャラクターの味付けに今回は気を配りました」
ーー吉田さんから見る湯浅監督の魅力はどこにありますか?
吉田:一番最初に湯浅さんの作品に出会った時に、すごく面白い線の絵を描かれる人だなと。今では、その湯浅さんの絵をそのまま活かせる自由奔放で発想力の豊かな画面作りがされていて、そこが湯浅さんの一番の魅力ですね。その映像表現に対して、現実世界のラブストーリーがどういう風に描かれるのだろうと私も未知数なところがありました。
ーー湯浅さんもコメントで「愛らしい2人のラブストーリー」と書かれていました。このラブストーリーに対してどのような意識で望まれたのでしょう?
吉田:幸せの中にも何か不安とか迷いがある女の子が、一度自分と向き合って再生するお話で、単なるラブストーリーではなくその線をすごく気をつけて書きました。登場人物それぞれの再生の物語としても観れるよう意識しました。
ーー観ていてすごくいいシーンだなと思ったのが、港が、真夏に海辺で熱いコーヒーとタマゴサンドイッチを作るところで。
吉田:監督は、港がすごくこだわる人というか、頭でっかちで、ひな子とは対照的な人にしたいと考えていたみたいで。「外でコーヒー豆を挽いちゃうような人」というのは湯浅さんのアイデアですね。タマゴサンドもその場で作るようにしたいとおっしゃったのもそうです。「形から入りがちな人」というキャラの印象を前半でつけたかったんです。港を含めた男の子側は、結構湯浅さんの意見が入っています。港の方に監督が投影されているんじゃないでしょうか。
ーーでは女の子側の造形を吉田さんは意識されたんですか?
吉田:そうですね。ただ配分が大事で、ひな子がずっと甘いのも個人的に辛いなと思っていて、毒というかスパイスになるキャラクターが欲しく、洋子が出てきました。ちょっと強いかなと思ったんですけど、そのまま行きました。料理のようにキャラクターの味付けに今回は気を配りましたね。
ーー脚本段階でキャストは決まっていたんですか?
吉田:片寄さんだけがほぼ決まりな状態で、他の方は全然決まっていなかったです。片寄さんの歌っている映像や出演作品をプロデューサーからいただいて、この人が港なんだというのは念頭に置きながら脚本書いたところも少しあって。片寄さんの持っていらっしゃる雰囲気、オラオラ系ではなくて、ソフトな柔らかい感じでガテン系じゃないというところは反映されていますね。
ーー一方でひな子のキャラクターはどのように作り上げたのでしょう?
吉田:港とは対照的に、まだ自分の道も見つけられず考えるよりも先にサーフィンに行っちゃうような、後先考えないような女の子が初めて自分と向き合うというキャラクターを考えていました。恋人を失うようなつらい出来事がなくとも、自分の道を決めるときにしっかり自分と向き合わないと見つからないことってあると思うので、自分が何をしたいのか、どこに行きたいのか、そこから逆算して、そうではない女の子に持って行きました。
■「話の切り替わりと脚本のテンポを大事に」
ーー予告編でもあるように港がひな子を消防クレーンで助けに来るシーンなど、本作では縦の動きを重要視されているのかなと思いました。
吉田:波に乗るというところで、サーフィンだと立つのが一番難しいらしいんです。そういうところから映像的に何かリズムをつけるのにも、反復的に立つ高さというのは意識していると思います。私は感覚的に縦を並べちゃったけど、そこに湯浅さんはこだわりを見出されたんだと思います。
ーー吉田さんご自身はこれまでも色々な監督とタッグを組んでいます。脚本作りで心がけていることはありますか?
吉田:リズム感を大事にします。なんとなく話の切り替わりと脚本のテンポが合うような感じですね。感情でもストーリーでも波があると思うんですけど、そういう波みたいなものは意識して描くようにしています。
ーー今作では登場人物が少ないですが、その波を意識することはあったのでしょうか?
吉田:今回は主要キャラクターが4人で、それぞれの心の軌跡が見えるといいなと思っていました。オリジナルストーリーで、尺もそこまで長くない中で4人が観客のみなさんにどう捉えられていくのか、その感情の移ろいがわかるように設計したいなと。
ーー湯浅さんとまたタッグを組まれることもあるんでしょうか。
吉田:もちろん是非やりたいです。今回がとても爽やかだったので、次はダークファンタジーみたいなものもやってみたいです(笑)。
(取材・文=安田周平)