岡崎体育が歌詞にまでして歌い続けてきた夢の場所 たまアリ単独ライブを振り返る
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2019年6月9日日曜日、18,000人を集めてソールドアウト、掛け値なしの大成功に終わった、岡崎体育のさいたまスーパーアリーナワンマンライブ。これは、インディー時代から「30歳までにやる」と目標として掲げ、そのことを再三再四MC等で口にするだけでなく、メジャー一発目のアルバム『BASIN TECHNO』の1曲目「Explain」では〈いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対〉と歌詞にまでして歌い続けてきた……いや、口パクし続けてきた夢の場所であり、ゴールであり、到達点である。
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いつものように……いや、規模がでかい分、いつも以上に爆笑を巻き起こしながらも、本人が何度か感極まりそうになっていたのも(こらえていたけど)、「そりゃあそうだよなあ」とつくづく思った、そしてこちらもつられてじーんとした、本当に感動的なステージだった。初期に比べると“笑いどころ”と同じくらい“感動どころ”が存在するライブだったのも、最新アルバム『SAITAMA』(2019年1月9日リリース)で“ネタ曲排除”という方向に舵を切ったからだけではなく、この日を目指して走って来た彼のストーリーを18,000人が心から共有していたからだと思う。
では、以下、この日のライブのポイントを、箇条書きで追っていきます。
・尺は約2時間半ちょっと、曲数は全25曲(SE含む)。最初のMCで本人が「とても楽しい2時間をお約束します」と言っていたので、予定より長くなったのだと思うが、にしても、このキャパで、この尺で、ちょっとだけ出たサプライズゲスト(後述。なお、その人も曲には参加していない)を除いて、たったひとりでやりきる。というのは、相当なことだなあ、偉業と言ってもいいくらいだなあ、と、改めて思う。Perfumeだって3人だし。ゆずだってふたりだし。なお、開演前の影アナも本人が務めていた。
・ライブは3部構成。1部8曲、2部7曲、3部はアンコール合わせて10曲。1部と2部の間は「岡崎体育とバーチャル食事デート体験」(お客は岡崎体育の彼女目線、彼に話しかけられながら朝食をとるというもの)、2部と3部の間には「なにをやってもあかんわ」のMV、と、それぞれ幕間映像がつないだ。
・巨大な効果映像あり、レーザーあり、火炎や銀テープなどの特効あり、花道とセンターステージあり、とこの規模の会場らしい演出がいっぱい。アリーナと1階スタンドのお客さんにプレゼントされたお土産=フリフライトの光の色が、曲に合わせて変わり続けるさまも、圧巻だった。
・開演予定時刻の16時30分を15分ちょっと回ったあたりで客電が落ち、爆音でSEが鳴り響く。ステージ前に貼られた巨大な白いスクリーンに本人のシルエットが浮かび上がり、その胸の「BASIN TECHNO」の文字をレーザーがなぞり、1曲目「Open」が始まると同時に幕が落ち、巨大な白階段の上に立った本人が登場ーーというオープニング。第一声は「岡崎体育です、よろしく! 夢叶えに来ました!」。
続く「R.S.P」では恒例の、岡崎体育とじゃんけんして勝った人が踊れるやつに突入。「最初はグー! じゃんけんぽん! パー出した奴は、お、ど、れー!」という叫びでアリーナもスタンドもジャンプの渦と化す。
・最初のMCで、彼が事前に公言していた「会場に入った段階で3つおもしろいことがある」件の、答え合わせが行われる。
(1)花道がとてつもなく細い:アリーナ中央のセンターステージに向かって伸びる花道、平均台くらいの細さ。経費削減のため、と本人が説明。
(2)センターステージの飾りがエノキ:フジロックのフィールド・Gypsy Avalonみたいにステージの周囲を花で囲む装飾、時々見かけますが、あの花の代わりにエノキが並んでいる。本人曰く「花って高いんですよ」。
(3)会場の運営スタッフに藤木直人がまぎれこんでいる:ステージ前の柵のところにスーツ姿でいた。ということが明かされ、たまアリが驚きに包まれる。それぞれと仕事をしている音楽プロデューサーがつないだ縁で実現したとのこと。岡崎体育にうながされてステージに上がった藤木直人、「最前列でフェンス押さえてました」。
・そこから「感情のピクセル」「からだ」を経て披露された新曲「Naked King」は、画面に「心のキレイな方のみ聴き取れる周波数でパフォーマンスしております」というもの。この日最初の“曲の中での爆笑”だった。
岡崎慎司から祝福のDMが届いた、というMCから続いた〈バンドざまぁみろ〉でおなじみの「FRIENDS」は、てっくん(岡崎体育のステージ上唯一の友達)のセリフがたまアリバージョンに。ラッキーアイテムで爆笑を取る占い曲「Horoscope」で、1部は終了。
・「岡崎体育とバーチャル食事デート体験」の中の会話の流れにしたがって、2部の1曲目「今宵よい酔い」では、岡崎体育、ワイヤーに吊られて登場。オーディエンスの度肝を抜く。「MUSIC VIDEO」のショートバージョンから、平均台花道を通ってセンターステージに移り、2コーラス目で歌詞がとんであせりまくる心の中をモノローグする「Voice Of Heart」。この曲でセンターステージがせり上がる。本人「やりたいことやってまーす!」。てっくんのメジャーデビュー曲「フェイクファー」も、センターステージで歌われる。画面には同曲のMVが映し出された。
で、MCしながらメインステージに戻ったところで、雰囲気が変わる。「6年前に作って1回もライブでやってない、初めて披露するならさいたまスーパーアリーナだと決めていた」という「スペツナズ」と、このたまアリ公演を発表した直後、深夜のホテルで襲われた感覚を曲にした「龍」。この2曲を、せつせつと歌う時間。「龍」はピアノの弾き語り。そして、「初ライブの1曲目」だった「Okazaki Hyper Gymnastic」でもう一度盛り上がって、2部が終了。
・3部は、ライブで1曲目に持ってくることが多い鉄板曲「Stamp」でスタート。岡崎体育は原チャリに乗って(ちゃんとヘルメットもかぶって)登場した。「みんなの近くに行くから!」と、次の曲でトロッコに乗ってアリーナの外周を回り始めるが、聴いたことのない曲。新曲かな……と思っていたら、サビの歌詞は〈みんなが全然知らない曲でトロッコ回んな。今日初披露の曲でーー〉。爆笑。アリーナを半周まで行ったところで曲が終わる。残りの半周は、このライブが半年後に映像作品としてリリースされた時の副音声を模した(というか先取りした)曲「オーディオコメンタリー」で回り切った。また爆笑。
そして、今日来てくれた子供たちのために「ポーズ」「キミの冒険」のポケモン曲2曲を1コーラスずつプレゼント。さらに、歌うま風な自分に2コーラス目からツッコミ続ける「Voice Of Heart 2」でまた爆笑を巻き起こし、各地のワンマンやフェスで場をかっさらってきた「XXL」で今日何度目かのピークを作る。
本編の締めは、各地のワンマンやフェスを最後にジャンプの嵐で満たしてきた「Q-DUB」とインディー時代の「BASIN TECHNO」をミックスして生まれ変わらせ、『SAITAMA』のラストに収録した「The Abyss」だった。今日いちばんのジャンプでたまアリが埋め尽くされる。
・アンコールは、「ネタ曲じゃない方の岡崎体育の曲」としてインディー時代から高い人気を誇る「鴨川等間隔」でスタート。映像効果もあいまって感傷的でいい空気がたまアリを満たすも、歌い終えて本人、「おっさんのカラオケをカネ払って観に来てるだけやからな。みんなそうやで」と照れ隠しの言葉を吐く。客席から飛んだ声に何か返そうとするも、聞き取れなかったようで、「……ごめんなさい、アリーナクラスの野次、拾えないですね。そのレベルまで達しました」。みんな笑って拍手喝采。
そして「スペツナズ」と同じく、初期からあるがライブでやったことがなかった「エクレア」を、「6~7年前、音楽活動やっていていいんかなって迷ってた頃に作った」という紹介から、歌い上げる。〈いい曲はいい人と共に〉のリフレインで、たまアリを大きな感動で満たしてステージを下りた……いや、下りない。ダブルアンコールまでの間を省略したのだった。
本当に最後の1曲は「この曲は、今日ここでやって、終わりです」と宣言しての「Explain」。〈いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対〉という最後のラインを現実にして締めくくった、ということだ。〈だから歌ってる途中に 水分補給もできる 便利〉のところで水を飲んでみせた。ここ数年、各地で観てきたパフォーマンスもこれが最後か、としみじみする。俺だけか。
去る前に、寿司くんことヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやと対談した時に「これで燃え尽きんでくださいよ」と言われた、という話から、次の夢=2020年2月11日エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)の開催を発表。客席をバックに記念撮影の後、もう一度トロッコに乗ってアリーナを一周。進みながら四方八方にまんべんなく手を振るのが大変のようで、「バンドやったらよかったー!」と何度も叫ぶ。
最後の挨拶は「人生最良の日になりました!」「ひとりでさいたまスーパーアリーナワンマンできたよ!」だった。
客が全然いない7年前から言い続けてきた、地方のフリーターの青年の荒唐無稽な夢が叶ったーーというストーリーの他に、もうひとつストーリーがあった。この岡崎体育さいたまスーパーアリーナには。
「これが実現したら演者はやめて裏方(プロデューサー、曲提供)にまわる」と当初は公言していたが、活動を続けていくうちに大きく考えが変わり、たまアリ開催発表と同時に「これが終わってもやめません」と宣言。その考えが変わる過程で、最新アルバム『SAITAMA』は、いったん作ったネタ曲をすべてボツにして作り直したーーつまり、かなりリスキーな進路変更を行った。というストーリーもあったのだ。その両方の意味で、ここまでの大成功を収めたんだから、本人の達成感、それはもう大変なものだろうと思う。
ただし、観終わって、「集大成だなあ」とか「総決算だなあ」とか「これからどうするんだろうなあ」という気持ちは、一切湧かなかった。
25曲もやって、ネタ曲もシリアス曲もたくさん聴けた(観れた)けど、考えたら「弱者」も「私生活」も「Natural Lips」も「式」も「家族構成」もやってないんだなあ、とか。あと、シリアス曲はこのあとも順当に新しいのが作られていくだろうけど、ネタ曲、ほんとにもう作らないのかなあ? 『SAITAMA』でインタビューした時は、そんなニュアンスのことを言ってたけど、まったくやめなくてもいいんじゃないかな。ライブでやってそのたびにバカウケしてたけど、『SAITAMA』の方向性が変わったので収録されなかった(のだと思う)「ケルベロス」という曲、俺、大好きだから音源化してほしいんだけどなあ……。
と、次の岡崎体育のアクションについて、早くもいろいろ考えている自分に、帰りの埼京線の中で気がつきました。あ、エディオンアリーナ大阪は、このさいたまスーパーアリーナと近い内容になるだろうし、そうするべきだとも思うので、次の一手にはカウントしません。そのまた次を楽しみにしています、心から。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。
■セットリスト
『JINRO presents 岡崎体育ワンマンコンサート「BASIN TECHNO」』
6月9日(日)さいたまスーパーアリーナ
【第1部】
01. Overture
02. Open
03. R.S.P
04. 感情のピクセル
05. からだ
06. Naked King ※初披露
07. FRIENDS
08. Horoscope
【第2部】幕間映像(1)岡崎体育とバーチャル食事デート体験
09. 今宵よい酔い ※初披露
10. MUSIC VIDEO (short version)
11. Voice of Heart
12. フェイクファー ※初披露
13. スペツナズ ※初披露
14. 龍
15. Okazki Hyper Gymnastic
【第3部】幕間映像(2)「なにをやってもあかんわ」MV
16. Stamp
17. トロッコにのって ※初披露
18. オーディオコメンタリー ※初披露
19. ポーズ~キミの冒険 (medley)
20. Voice of Heart 2
21. XXL
22. The Abyss
<En 1>
23. 鴨川等間隔
24. エクレア ※初披露
<En 2>
25. Explain