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福山雅治が戦っているのは抗うことのできない現実だ 『集団左遷!!』第一章/第二章でテーマの変化

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リアルサウンド

 日曜劇場(TBS系日曜夜9時枠)で放送されている『集団左遷!!』が最終回を迎える。物語の主人公は大手メガバンク・三友銀行で働く片岡洋(福山雅治)。ある日、片岡は蒲田支店の支店長に昇進する。しかし、ノルマの100億を半年以内に達成できなければ廃店になると同時に知らされる。

 統廃合のために支店の廃店はすでに決定事項。だから、頑張らなくてもいい。廃店になった後の身柄は保証すると乗務取締役の横山輝生(三上博史)に言われた片山は、当初は指示通りに動くつもりだった。しかし、真面目に働く部下たちの姿を見て「頑張らないなんておかしい」と考えを改めノルマ達成を目指す。彼の態度は本部に対する反逆と受け取られ激しい嫌がらせを受けるものの片山は部下たちとの結束を高めていく。最終的にノルマには届かなかったが、蒲田支店の頑張りは頭取の藤田秀樹(市村正親)から評価される。蒲田支店は廃店となるものの、リストラは全員免れ、別の銀行に異動となる。

【写真】『集団左遷!!』クランクアップ現場に密着

 物語は二章構成となっており、第二章(第7話以降)では、片岡は本店の融資部へ異動となっている。

 総合百貨店・マルハシホールディングスの再建プランをめぐって本部が揺れる中、片岡は日本橋支店の副支店長となったかつての部下・真山徹(香川照之)に届いた告発メールの送り主を調査したことをきっかけに、横山を含めた幹部クラスの人間が日本橋支店に裏金専門の銀行口座を作っていたことを突き止める。

 真実を告発するために裏金のリストを公開する片岡。しかし横山だけは、何故か、藤田頭取によって、リストから名前を消されていた。銀行のために横山を探る片岡は、証拠となる手帳を手に入れ、役員会議の場で、改めて、横山の不正を告発する。

 牧歌的だった第一章に対して第二章はシリアスだ。『半沢直樹』(TBS系)以降、定番化している池井戸潤の原作小説をドラマ化したシリーズのテイストに近づいている。これは登場人物が大企業の社長や幹部クラスの銀行員が中心になり、第一部で中心だった庶民や銀行員たちが背後に退いた結果だろう。

 片岡を演じる福山の演技も抑制されたシリアスなものへと変化している。コミカルでドタバタとした芝居には賛否があったが、ラジオ等で知る福山の人柄がフィードバックされており、頼りないが優しい片岡の魅力をうまく引き出していたため消えてしまうとさみしいものがある。

 第二章のシリアスな片岡は、始まる前に福山に期待されていた大人の演技だと思うのだが、横山の不正を暴こうとする必死の形相を見ていると、片岡の中にあった無垢な気持ちが失われていくかのようで胸が痛くなる。

 当初の片岡なら横山に「あなたは人の上に立つべき人間ではない」と説教したりはしなかったはずで、もしかしたら片岡も権力闘争と正義の快楽に(そうとは知らず)呑み込まれつつあるのかもしれない。

 おそらく最終回では、横山と片岡の最終対決が描かれ、集団左遷を目論む横山の真意が明らかとなるのだろう。

 福山雅治は「サンデー毎日」5月5-12日合併号(毎日新聞出版)に掲載されたインタビューの中で「横山には横山の正義がある。これが単にパワハラとかトップダウンならただの嫌な奴ですが、横山はそうじゃない。彼には正義がある。だからこそ怖い存在なんです」と答えている。このあたりは序盤から一貫している。

 片岡は、まずお客様の利益を第一に考えるのだが、デジタル化もAIの導入も悪いことではないし、多すぎる支店を統合するのも仕方がない。左遷やリストラも同様で、企業である以上、利益を出さないと生き残れないと、頭では理解している。

 横山の合理主義的な経営方針に対し、片岡は「がんばりましょうよ」と銀行員たちに発破をかけて、ノルマ達成のために走ることしかできない。というのが第一部だった。対して第二部では、正しいことをするためなら、不正に目をつぶっていいのか? という方向にテーマが移っている。

 しかし、横山との対決を描くのであれば、片岡は横山とは違う形で三友銀行が生き残るための対案を示さないといけないのではないか? 今の見せ方だと、反論できないから不正という粗探しをしているように見えてしまう。これがなんとも痛ましい。

 「銀行がここから生き残っていくためには脱銀行しかないのです。古い考えを捨てて新しい理念を持つしかないのです」と言い、デジタル化とAIの導入と27店の統廃合と大規模なリストラ(9500人の人員削減)と引き換えにダイバーサーチという外資系ネット通販会社と資本提携を結ぶ横山のやり方は、一見正しく見える。

 これが、福山がインタビューで語った、正義があるからこそ怖い存在だということなのだろう。不正を暴き、仮に横山を失脚させても、彼の唱える正義は時代の流れである全てを否定することはできない。

 片岡が戦っているのは抗うことのできない現実そのものである。そのため、横山の不正を暴けても、どこか苦い結末となるのではないかと思う。

(成馬零一)