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V系シーンにおける“ファンサービス”への考え方 『有吉ジャポン』から見えた最新事情

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 6月21日に放送された『有吉ジャポン』(TBS系)では、「ヴィジュアル系バンドを支えるバンギャたち」と題して、最新のヴィジュアル系バンドのファンサービスと、お金をつぎ込む“バンギャ”たちのリアルな姿が放送された。番組で取り上げられたのは、今年28周年を迎えるPENICILLINと、若手バンド・0.1gの誤算。特に0.1gの誤算は「バンギャ一人あたりがバンドにつぎ込む金額が大きい」と紹介され、具体的なファンサービスの内容が赤裸々に公開された。

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 たとえば、ライブの物販で1,500円のCDを2枚買うと、好きなメンバーと2ショットチェキが撮れるというもの。このサービスは、地下アイドルやメンズアイドルの現場で行なわれているイメージが強いが、最近はヴィジュアル系シーンでもかなり多くのバンドが導入している。また、0.1gの誤算には物販1,500円分で1ポイント貯まるポイントカードがあり、貯まったポイントに応じて、2ショット動画撮影や、プリクラ撮影などのサービスが受けられる。約11万円分のポイントを貯めれば、ライブハウスで自分だけのために好きな曲を演奏してもらえるという、なんとも夢のような企画まであるのだ。まるでメイドカフェのようなシステムだが、何度もライブに通って物販を買うバンギャの人数を増やすには、有効な手段だろう。さらに、チェキや動画だけに留まらず、メンバーと生で触れ合うイベントも頻繁に開催されている様子。魚釣り(2時間/6,500円)、カラオケ(1時間/6,500円)、BBQ(9,800円)、ボーリング(25,000円)など、メンバーと一緒にさまざまなレクリエーションが楽しめる。金額はライブのチケット代よりも高額だが、ステージから降りたメンバーと至近距離で話せるのは、満足度が高いようで、「延長料金払ってもいいから、まだ居たい!」と笑顔で豪語するファンの姿も。

 2010年以降あたりからヴィジュアル系では、このようなファンとの交流イベントが盛んだ。若手バンドはもちろん、日本武道館やZepp Tokyoクラスでライブを行う人気バンドでも、新曲をリリースすれば全国各地のCDショップでインストアイベント(握手会、撮影会、サイン会など)を開催してまわり、その参加券は争奪戦となる。1人で数十万円分のCDを購入し、メンバーと撮影した大量のチェキと紙袋いっぱいのCDを両手に抱えて帰るような、撮影会に大金をつぎ込むバンギャの数も増えた。下火と言われがちなヴィジュアル系シーンで、ライブや音源での収入のみでは食べていけないバンドがいるのも事実。ファン側としては少しでも長く活動してほしいのが本音だ。ファンサービスにお金をつぎ込むことでバンドが潤い、不安なく応援できるのであれば、win-winなのかもしれない。

 ただ、この番組を観て、ヴィジュアル系の現状に驚いた人へ伝えたいことが2つある。まず一つ目は、ヴィジュアル系バンド全てが、このようなサービスを行なっているのではないということ。近年、ファンサービスに対する考え方は、シーンの中でも二極化している。「もっと身近にバンドを感じてほしい」「もっとファン1人あたりの使う金額を増やしたい」「音楽以外でも稼げる仕組みを作るべき」といった考え方でファンサービスにさらに力を入れるバンドもいれば、「ファンとは一定の距離を取るべき」「バンドの世界観が壊れるようなことはしたくない」「音楽以外に力を注ぐ時間がもったいない」といった考え方のバンドも一定数いる。そして、「アイドルではないのだから音楽で勝負してほしい」「音楽以外の活動には興味がない」と、後者の考え方を支持するバンギャも多い。音楽性、衣装やメイクなどと同じように、活動の仕方もバンドによってさまざまだからこそ、たくさんのバンドの中から、自分の考えや応援の仕方に合ったバンドを選ぶことができる。それがヴィジュアル系を追いかける楽しさでもある。

 そして二つ目は、ファンサービスに力を入れているバンドも、「ファンサービスだけ」を頑張って売れているわけではないということ。今回取り上げられた0.1gの誤算は、今年3周年を迎えた若手。結成当初、メディア露出はほぼゼロだったにもかかわらず、彼らの活動や宣伝手法はSNSやクチコミで話題を呼び、Zepp DiverCityまでのし上がってきた。たとえば、ショッピングモールや路上での無料ライブ映像をTwitterにアップし、真昼間に暴れるバンギャの姿で話題を呼んだり、学割チケットや、47都道府県ツアーでの遠征割(県を跨いで遠征してきたら2,000円キャッシュバック)を導入したり、さらには0.1gの誤算に対する“アンチツイート”を見せると、チケット代が無料になるアンチ限定無料ワンマンの開催など。他のバンドにはない発想力で戦略的な話題作りに成功し、時には炎上しながらも集客を伸ばしてきた、売れるべくして売れたバンドだ。さらに、シーンを皮肉るような尖った歌詞の楽曲や、一体感のあるライブ、個性的なメンバーのキャラクターなど、アーティストとしての魅力ももちろんある。番組でインタビューに答えていたバンギャたちも、決して「距離が近いから」「ファンサービスしてくれるから」というだけで、お金を落としているのではない。0.1gの誤算の音楽性や考え方、バンドそのものを支持した上で対価を支払っているのだ。

 衰退しつつあるという声もあるヴィジュアル系。だからこそ、バンドのカラーに合った活動方法を貫き、シーンの活性化に繋げていってほしいと思う。(南明歩)