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テイラー・スウィフト「You Need to Calm Down」、ポップなMVに込められた本当の狙い

音楽

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リアルサウンド

 「頭を冷やしなさいよ! (you need to calm down)」

 7作目のアルバム『Lover』の発売を前に、思いきりLGBTQムーブメントのサポートに踏み込んだシングル「You Need to Calm Down」をリリースしたテイラー・スウィフト。彼女自身が起こした同性愛者の平等を促す訴えが、下院議会を通ったことを受け、上院にも通そうという目論見のもとに作った曲だ。同曲は瞬く間にLGBTQコミュニティのアンセムになり、続く6月17日、プライド月間の真ん中で披露したビデオが良くも悪くも大きな話題になっている。ビデオアーティストのドリュー・キルシュを共同監督に、YouTuberからスターになったトドリック・ホールをサポート役に据え、30人弱もの同性愛を公言しているセレブリティを揃えたビデオはとことんポップなのだが、狙いとメッセージは辛辣だ。「良くも悪くも」の理由を解説してみよう。

Taylor Swift – You Need To Calm Down

楽曲に対して巻き起こる「良い反響」と「悪い反響」 

 「良い反響」はまず、テイラーの新作をとにかく楽しみにしているファンから巻き起こっている。彼女が好きな数字である13や過去の歌詞を映像のあちこちに埋め込み、新作への期待を膨らませる手法はさすがである。ラップ調で〈そっちの表現の自由は尊重するつもり/ほかの人を気にしたり絡んだりするのは楽しくないのもわかっているし〉と断りながら、テレビ界の超大物司会者エレン・デジェネレスや、ドラァグクィーンカルチャーのアイコン、ル・ポールらカメオ出演した有名人たちをカラフルで陽気に描く一方、同性愛者を攻撃するデモ参加者については醜く、意思表示のためのプラカードの字をわざと間違えるなど、無教養に見せるなど容赦がない。有名人の内訳はフレディ・マーキュリーの後がまポジションがハマってきたアダム・ランバートやオリンピック・スケーター、アダム・リッポンなど。筆者は大好きなコメディドラマ『モダン・ファミリー』のミッチェル(役)が、R&B界の人気者シアラの仕切りで結婚しているシーンで思わず微笑んでしまった。後半になると、ル・ポールの長寿番組『ドラァグ・レース』の出演者たちがアリアナ・グランデやレディ・ガガ、アデル、カーディ・B、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、ニッキー・ミナージュ、そしてテイラー自身に扮するシーンが出てくる。これは、ただの仮装大会ではなく、テイラーは〈ネットで私たちを比べている人たちなら知っている/私たち全員勝ち組なのにね〉というリリックをかぶせ、「この人たちと私を比べるのをやめてちょうだい」という真意を伝えてから、王冠を宙に飛ばす。

 では、「悪い反響」も少し。まず、「新譜の宣伝にLGBTQの話題を使うべきではない」というカルチュラルアプロプリエーション(「文化の盗用」とよく訳されるが、「文化の誤用」か「文化的でしゃばり」あたりが適当だろう)という、最近ことあるごとに出てきてしまう声。これは感情論なので受け流すしかないが、「自殺者も出ている性差別の深刻さと、自分に対するネットの悪口を同列にするのは軽いのではないか」という意見は、私も少し同意してしまった。「(高級テキーラの)パトロンのショットを飲むみたいに、口撃(ショット)をしてくる」というラインも秀逸だけれど、どこかライトだ。ポップディーバが音楽で性差別と闘うのはアメリカのお家芸であり、この方面の大先輩、マドンナやレディ・ガガは自分自身が「異端」として扱われたため、一体感と説得力があった。今回、テイラーの新曲について、同性愛者側の批評家が書いたレビューは、「ありがとうね、でもなんか違うんだよねー」との論調が多いのだ。

テイラー&ケイティの衣装は“世の中に対する見解”を示している?

 それでも、私はテイラーのファンベースを考えると、意義のある動きであり、曲だと思う。LGBTQの有力支援団体GLAADを歌詞に織り込むだけでなく、大金を寄付し、それにならって彼女のファンが13ドルを寄付する動きも広まっている。学級委員の様な「みんな仲良くしましょう」というコンセプトも彼女らしいし(そのわりに宿敵カニエ・ウェストの妻、キム・カーダシアンとのケンカを象徴するヘビはしつこく出しているが)、それに沿ってここ数年、仲違いしていたケイティ・ペリーと仲直りするというオチも用意している。

 さて、ここからは筆者の独自理論を展開したい。ケイティがMet Galaで着たハンバーガーの衣装に合わせ、テイラーがフレンチフライになっているのは「仲よし」を象徴する以上に、「アメリカ的なもの」に対する彼女なりの姿勢ではないか? その前に出てくる人気番組『クィア・アイ』の出演者たちとの「不思議の国のアリス」を彷彿とさせるティーパーティーは、共和党の根回し運動、ティーパーティー運動の当て付けにも見える。保守的な層に人気があるカントリーをベースにしたポップを奏でながら民主党支持を表明し、トランプ嫌いを公言したのはとても勇気がいること。30歳を目前にしたテイラー・スウィフトはアメリカのアーティストらしく、自分の「世の中に対する見解」を示しているのだ。

 極めつけは、歴史的にゲイ解放運動の幕開けとされる、50年前にストーンウォールの反乱がおきた酒場をライアン・レイノルズが画家に扮して描くクライマックス。このレイノルズが絵を描いている構図が、アメリカの画家、ノーマン・ロックウェルの自画像を描く絵とそっくりなのだ(参照:WIKI ART)。ロックウェルは市井の人々を描いた画家として知られ、早い段階で公民権運動を支持する絵を描いた。わかりやすく、愛らしい画風はテイラー・スウィフトの音楽性と一致する。これはアメリカのメディアも指摘していないので、筆者の深読みかもしれないが、パステルカラーのビデオは見かけよりずっと丁寧に準備されていることは間違いない。そういった点にも注目しながら、ぜひこのビデオを見直してほしい。

(文=池城美菜子)