劇団青年座が新たな「明日」に奮闘、稽古場に立ち上がる戦時中の日常
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劇団青年座 第237回公演「明日-1945年8月8日・長崎」稽古の様子。(撮影:小林万里)
劇団青年座「明日-1945年8月8日・長崎」が、7月10日に東京・東京芸術劇場 シアターイーストで開幕。ステージナタリーでは、6月中旬に青年座稽古場で行われた稽古の様子をレポートする。
井上光晴の小説を原作とした本作は、1989年に小松幹生の脚色、鈴木完一郎の演出で初演された作品。2009年に死去した鈴木の演出を踏襲する今回は、初演と再演に出演した山本龍二が演出補として作品を引き継ぐ。作中では、1945年8月9日11時2分、長崎に原子爆弾が投下されるまでの時間、そこに生きていた人々のささやかな日常が描かれる。
稽古では、まず製鋼所の工員・中川庄治(前田聖太)と三浦ヤエ(角田萌果)の婚礼の場面が公開された。若い2人の門出を祝うために集まった人々が語り合うと、稽古場にはにぎやかな長崎弁が飛び交う。祝いの席のほほえましいやりとりが繰り広げられる中、会話の端々には食糧配給や空襲警報、広島に落とされた“新型爆弾”などのワードが入り混じり、戦時中のものものしさが漂った。演出補の山本は、セリフについて「もう少し深刻度が増すように」といったようにアドバイスを送り、時には登場人物の動作を自ら演じてみせた。
稽古中盤では、刑務所に収監された堂崎彰男(桜木信介)と妻ハル(津田真澄)が面会するシーン、写真で生計を立てる銅打弥助(山崎秀樹)と後妻みね子(柳下季里)のシーン、新婚の庄治とヤエが、ぎこちなく会話するシーンといったように、夫婦たちのエピソードが積み重ねられていく。山本は俳優陣の演技を真剣な眼差しで見つめ、「ボーン、ボーン」という柱時計の音や「ミーン、ミーン」という蝉の声など、劇中の効果音を口に出して場に臨場感を与えた。
さらに稽古の後半は、娼家をさまよう男・石原継夫(逢笠恵祐)、看護婦の福永亜矢(小暮智美)、市電の運転手・水本広(高松潤)とその妻・満江(田上唯)の場面などが披露される。俳優たちはそれぞれに事情を抱えながらも明日に希望を抱く市井の人々のリアルを体現。1人ひとりの繊細な息遣いから、戦時中の暮らしの情景が立ち上がっていった。「明日-1945年8月8日・長崎」の公演は7月10日から17日まで。
劇団青年座 第237回公演「明日-1945年8月8日・長崎」
2019年7月10日(水)~17日(水)
東京都 東京芸術劇場シアターイースト
原作:井上光晴
脚色:小松幹生
演出:鈴木完一郎
演出補:山本龍二
演奏:大貫夏奈(ピアノ)、菅野千怜(ヴァイオリン)、石貝梨華(チェロ)
出演:山本与志恵、津田真澄、山賀教弘、五十嵐明、佐野美幸、山崎秀樹、柳下季里、遠藤好、高松潤、小暮智美、桜木信介、逢笠恵祐、前田聖太、田上唯、田邉稚菜、角田萌果
※山崎秀樹の「崎」は立つ崎(たつさき)、逢笠恵祐の「逢」はしんにょうの点ひとつが正式表記。