Suspended 4thが語る、バンドの見据えるシーンの広さ「アンダーグラウンドでやるつもりはない」
音楽
ニュース

Suspended 4thが、7月24日に1stミニアルバム『GIANTSTAMP』をリリースした。Suspended 4thは、名古屋栄で路上ライブを中心に活動している4ピースロックバンド。今作は、<PIZZA OF DEATH>からのリリースとなる。リアルサウンド初となる今回のインタビューでは、バンドの成り立ちから、ストリートとライブハウスシーンへの考え方、初の全国流通盤を今回リリースした意味を聞いた。バンドの圧倒的な個性について石井恵梨子が迫る。(編集部)
路上のほうがチャンスがある気がする(Kazuki Washiyama)
ーー今のところ「名古屋・栄のストリート出身」という情報しかないので、このバンドがどんなふうに始まったか、教えてもらえますか。
Seiya Sawada(以下、Sawada):バンドの発起人は僕です。最初に出会ったのはボーカル(&ギター)のWashiyamaで、彼が高校3年生だった時にライブハウスでばりばりのハードロックを演奏してて。「あ、こいつ面白い!」と思って声をかけて。それが5年前ですね。
Kazuki Washiyama(以下、Washiyama):2013年か。当時、音楽の先生にギターを教えてもらったりロックを聴かされたりしてて。それがたまたま70年代、80年代のハードロックで。髪が長い感じの。ヌーノ・ベッテンコートとか。
ーー……久しぶりにその名前聞きました(笑)。20代で珍しいですよね。
Washiyama:あー、でも普通の高校だったんで、「普通じゃねぇ奴がいる!」みたいな感じが面白かったんですね。教室にギター持ってきて人前で弾きまくってる。見てるだけで楽しいじゃないですか。その先生に憧れて、文化祭でも一緒に演奏したりして、そのままハードロックが好きになっちゃった。
Sawada:俺もそこが新鮮で声かけたんですよ。周りにいないから逆に面白くて。
一一そこからバンドが始動。当初はリズム隊が違ったそうですね。
Sawada:はい。ベースが最初に辞めて、次のベースを探すためにSNS見てたら、彼(Fukuda)が投稿してたのが高速スラップの動画で。そこでも「うわ面白いなぁ」と思ってメッセージ送って。たまたま彼のバンドが解散したタイミングだったから、いい感じに引き抜けて。で、今度ドラムが辞める時にYouTubeで探したら、Dennisのドラムソロ動画を見つけて。そのスタジオが、Washiyamaの隣町ぐらいの市民スタジオなんですよ。「これ、隣町やん!」ってびっくりして。だって……この見た目だし(笑)。
一一ははははは。
Sawada:「これ日本やん、しかも愛知県! 隣町やん!」って。それでメッセージ送って。当時すでに俺らは路上でやってたから、「路上ライブやってるバンドだったら面白そうだし、いいっすよ」みたいな。
Denis Lwabu(以下、Dennis):曲も聴かずに決めました。
Sawada:だからみんな、一番面白くて印象に残るものなら何でも良かったというか。音楽性に惹かれるっていうより「その日一番目立ってナンボ!」みたいなマインドは持ってて。最終的にそれができる4人が集まったなって。
Dennis:僕、サスフォーに入る前のバンドでは、やっぱり自分が一番目立ちたいと思ったし、けっこうオーバーなパフォーマンスをしてたんですけど、全然バンドとの調和が取れてなかったみたいで。でもサスフォーで路上ライブやると、みんなで激しく燃え上がれる感じはありますね。全員、演奏だけじゃなくパフォーマンスにも意識が向いてる状態。
一一路上ライブを始めたのも、「面白い」とか「目立つ」が理由ですか。
Dennis:ライブハウスは自分たちのことを知ってる人しか来ないから、どうやって自分たちのことを拡散するんだろう、っていうのはありましたね。たとえばウィンドウショッピングする時は「この店、いいもの置いてあるな」って思えばフラッと入るじゃないですか。ライブハウスはその感覚で入れないから。
Washiyama:だからチャンスが少ない。路上のほうがチャンスがある気がしますね。もちろん見てる人たちの目線も全然違いますけど。
一一それこそ、本当に冷たい目で見てくる人もいますよね?
Washiyama:もちろんもちろん。全然います。
Dennis:僕、自分が通りがかったら冷たい目で見ますもん(一同爆笑)。
Washiyama:……いや、まぁ、うるせぇしな?
Dennis:そう。「うるさいなぁ」って思う。
一一そこで面白がってもらうには、何が必要になってくるんですか。
Dennis:その時やってる曲がいい曲かどうか、判断してもらう時間がないから。単純に面白いかどうか。
Washiyama:ずっと演奏に勢いがないとお客さんは帰っちゃうし。だから、人を見る余裕も必要で。歩いてる人の速度とかテンポに合わせて曲を始めるとその人が立ち止まるとか。めっちゃ単純な話だけど、そういうことがたくさんある。こっちの顔とか、パフォーマンスによって反応も変わるし。ここで盛り上がったらさらに人が集まるだろうなっていうタイミングの見定め方とか。それは路上じゃないと培われなかった感覚だと思う。
Hiromu Fukuda(以下、Fukuda):お客さんの反応がわかりやすいっていうのが路上の面白さですよね。いいパフォーマンスをしてればもちろんベストだし、自分がそんなに良くない時ってお客さんもイマイチ盛り上がらない。そういったところが如実にわかるから。
一一みなさん今20〜25歳ですよね。ルーツもそうだけど、発想そのものが同世代のバンドとは大きく違う気がします。
Washiyama:確かに。ライブハウスで他の同世代から「やっぱ路上いいなぁ」とか言われるんですよ。「じゃあやればいいじゃん。なんでやらんのよ?」って思う。みんな「まぁどうせやれんけどね……」って感じでしょ(笑)?
一一やっぱり恥ずかしいし、勇気がいると思いますよ。ファン百人の前でなら歌えるけど、目の前で舌打ちされたら心が折れる。
Washiyama:俺ら、目の前で舌打ちされたら睨みますからね。そういう尖った部分があるからできるのかもしれない。同世代とのギャップはそこですね。なんか恥ずかしがってる人が多い。
Dennis:音楽のみならずね。それを感じることはあります。
一一みんなが恥ずかしさを感じないのは、それだけの鍛錬を重ねてきた、それだけの楽曲があるという自信があるから?
Washiyama:いやぁ? そういうわけでもない。なんか、ほんとにおかしい奴らが集まった感じなんですかね? たぶん自信じゃなくて、過信してやってる。
Sawada:あぁ、そうだね。自惚れる才能は4人ともあると思います。
Dennis:僕、初めてドラムセットに座った時に「これが仕事だ」って思いましたもん。それからずっと自分に言い聞かせてる。
Washiyama:そういう自惚れ方が上手いからかもしれない。
Sawada:……っていうことをこの場で冷静に指摘されると、なんか恥ずかしくなってきますね(一同爆笑)。言われてみると、っていう感じ。
Dennis:確かに、今このバンドがこういう感じになってなかったら、ただのイタい人たち(笑)。
Washiyama:でも、恥ずかしそうに路上でやるほうがイタくないですか?
一一確かに。それは見たくない。
Sawada:何かから隠れるように弾いたりとか。それこそ気持ち悪い。「じゃあなんでやってるの?」ってなるもんね。
Fukuda:路上で恥ずかしがるのが恥ずかしい、っていう感じ。
Washiyama:むしろガッと胸反らせて弾いちゃうぐらいが格好いいいもんね。で、「なんでお前道端でそんなギター弾いてんの?」って言ってくる奴らに対しては、「知らねぇよ!」っていうスタンスでやってるんで。
一一それだけキャラクターの強烈な4人が揃ったんでしょうか。
Sawada:いや、でもFukudaはただの優しい、いい奴って感じ(笑)。
Fukuda:Suspended 4thで一番健全だわ、俺が。
Washiyama:彼がいないと、今こういう形でやっていけなかったと思う。メンバーに曲聴かせて、まず3人で「めっちゃええ!」って盛り上がるんですけど、彼が「なんか…ダサくない?」って言うとボツになる。けっこうそれって大事で。目線が一番リスナーに近い。で、他の3人はどっかおかしいんですよ。
Sawada:いやいや、一番ヤバいのこいつですから(笑)!
一一どんなふうに? 放っておいたらどんどん前に出ていっちゃう?
Washiyama:いや、逆ですね。コミュ障の集まりじゃないけど、みんな「ウェーイ!」っていう陽キャラじゃないから。どこかしらオタクなんですよね。何かにずっと没頭してて、浅くやれない奴ら。それって簡単には理解されにくいと思うんです。陰キャラというか職人キャラ。
Sawada:けっこうそのことしか考えられないもんね。だから普通に大勢の友達と飲んでも何話したらいいかわかんない。打ち上げとかもすごく苦手。
Dennis:そう。ライブ終わった後、だいたいWashiyamaさんだけに残ってもらって、僕らは帰りますね。
一一職人的に没頭するっていうのはライブを見ても思いました。みなさん、楽器オタクの側面は確実にありますよね。
Washiyama:まぁまぁ……でも楽器オタクの領域は超えてるというか。単に「ギターをいっぱい集めたい」とかじゃないんですよね。自分の職業的に使う道具、っていう考えでしかないんで。いかに磨くか、だけ。だからどんだけみすぼらしいギターでも、そいつがめちゃめちゃいい音するんだったら使います。で、速弾きとかもジャムセッションしてて「こういう奏法が今ここに来たら盛り上がるだろうな」って感じたらパッと出すし、別に要らないなと思ったら使わないし。
Sawada:速弾きで喜ぶのって、同じ奴、要は音楽ばっかり聴いてるオタクじゃないですか。そういう奴らが「わかるー!」って喜んでくれるのが面白いからで。
一一「いっぱい練習しました」ってひけらかしたいわけじゃない。
Sawada:そうそう。あくまで面白いかどうか。それは大前提かもしれません。
コミュニケーションの言語が楽器なだけ(Seiya Sawada)
一一あと、ジャムセッションの話が出ましたけど、曲の演奏中であっても、いきなりジャムに変わることがよくありますよね。
Washiyama:そうですね。わりと普通に曲やってると、バンドのテンションがアガんない日があるんですよね。そこでなんかアクセントじゃないけど、自分らを奮い立たせるフレーズか出てくるまでジャムをやるというか。そういう時が一番ゾワッとする。だから、ほんとは別に仲も良くないし一一。
一一ははは。そうなの?
Sawada:まぁ一緒に遊びに行くような仲ではないよね。
Washiyama:楽屋とかでもあんま喋んないし、始まる15分前までみんなバラバラに行動してたりするし。だから、その瞬間に「俺らじゃないとダメ!」っていう瞬間を作れないと盛り上がらないというか。
Sawada:だいたいジャムを仕掛けてくるのはこいつ(Dennis)っすね。
Washiyama:嫌な奴(笑)。でもそういう奴がいるから成り立ってるし、いい奴ばっかりいても面白くならない。
Dennis:仕掛けてみて、みんなが困ってるところから楽しいし。困った先にまたやり返してこられたらもっと楽しくなる。
Washiyama:いい奴(Fukuda)がいるんでね、彼を前に出しとして「あいつにパスしたら絶対ゴール決めてくれるから」みたいな感じで、3人で後ろでいろいろ遊んで。で、最後に「ここでスラップ(ベース)派手に決めてくれ!」みたいな。そうやってSuspended 4thの個性を出し切ったうえで、また楽曲に戻っていくと「やっぱいいな」「この4人でやれてんね」って思えたりするから。
一一ジャムって、けっこうな技術が必要になると思うんです。「超絶技巧派集団」なんて呼ばれたらどう思います?
Sawada:あんまりしっくり来ないですね。なんか、コミュニケーションの言語がたまたま楽器なだけで、喋ってるのと一緒なんですよね。「いや俺こっち行きたいわー」「そっちかぁ」って。
Washiyama:もちろん超絶技巧派でジャムやってる人たちも世界にはいるけど、そいつらのジャムとか見ても全然わかんない(笑)。早口でめっちゃ難しいこと言ってるぞ、みたいな。
Sawada:なんか学者たちがディスカッションしてる感じ。
Dennis:「それは○○的見解ですか?」みたいな(笑)。
Washiyama:そんな会話だよね。俺らは「どこでラーメン食う?」「あのラーメン屋でいいんじゃね?」「食った後どこで飲む?」みたいな。そこが技巧派か技巧派じゃないかっていう違い(笑)。けっこうイージーな感じでやってますね。
一一そうやって形のない面白さを求める反面、作品を聴くと、歌ものとしての側面もあるのが面白いです。「ヨンヨンゼロ」とか「think」とか。
Dennis:「ヨンヨンゼロ」は、僕がドラムでWashiyamaさんがベース弾いてる別のインストバンドがあって。そこのギターの2人に今年子供が生まれて。それに向けて書いた曲。
一一この曲の〈新しい玉座に座るの誰〉っていう歌詞は、サスフォーがそれを狙っている、という意味なのかと思いました。
Dennis:そこは関係なくて。その生まれた子供たちが、玉座に座ってくれたらいいなって気持ちですね。
Washiyama:でもやっぱ、バンドドリームみたいなものに憧れてる部分はあるんですよね。ジャムやるのが面白い反面、売れたい、っていう部分は絶対あるんですよ。俺らは尖ってますけど、アンダーグラウンドでやるつもりはないし、オーバーグラウンドでいろんな人たちに聴いてもらって、やっぱり共感してもらいたいっていうのが第一にあるんで。ライブはもっと別物で、全然CD通りにはやらないし、どんどんジャムをするんですけど。でもCDはCDで作品なので。
一一基本的に歌はポップですもんね。「ストラトキャスター・シーサイド」もそう。
Washiyama:そうそう。基本こういうバンドってアングラになりがち、オーバーグラウンドで戦ってる奴らを馬鹿にしがちなんですけど。俺らは全然そんなことないっす。
Sawada:みんな、何かしらのアーティストに憧れてバンド始めたわけだし。そこに対するリスペクトは今もあるんで。
Washiyama:……ちょっと斜めからね。「なんでこいつらジャムしないのに、こんなに楽しそうに演奏できてるんだろう?」って思いながら(笑)。まぁでも、それができることが本当に凄いと思う。偏見は何もなくて。
Dennis:圧倒的完成度があるアーティストとか、普通に憧れますもん。
一一そういう考え方自体が新鮮です。ジャムとか即興って、東京だと新宿Pit Innみたいな専門のハコがあって、その道のプロが毎回とんでもない音を鳴らしてる。ファンは喜んで見るけど、でもその世界が一気にオーバーグラウンドに広まるとか、そういうことにはならないから。
Washiyama:そうっすよね。それやってもいいクルマ買えないじゃないですか。
一一おぉ。いいクルマ、乗りたいですか。
Washiyama:いいクルマ乗りてぇっす! いいクルマ、乗りたいよな?
Sawada&Fukuda:乗りたい。
Dennis:ジャムやるだけでポップじゃなかったら、家も1軒しか住めないし。
Sawada:難しいことばっかりやって「これお前らわかんないだろう?」って高飛車になってるほうがダサいと思いますね。
Washiyama:そういうジャムのシーンの人たちが中堅にいて、なんか下から出てくるアーティストを叩いてる感じ、めちゃめちゃ気に入らないんで。「関係ないじゃん?」っいうのでやってるから。
Fukuda:「どけよ」みたいなね。
一一そういう考えだからこそPIZZA OF DEATHと組むんでしょうね。サウンドだけ聴いたら、まず「なんで?」って思うから。
Sawada:僕らも「なんで?」って思いました(笑)。「いいの?」みたいな。
Washiyama:でもこのマインドが一致してると思うんで。そういう意味でもPIZZA OF DEATH以外は全然。いろいろ(レーベル契約の話を)もらったんですけど、全然しっくりこなくて。
一一決め手は何でしたか。
Washiyama:一回、ピザの人とサシで喋って、サタニック(SATANIC CARNIVAL)のイベントをどうやって作ってるか話を聞いたんですね。もうめちゃめちゃD.I.Yで。イベンターみたいなのも特にいなくて、ピザだけで回してるって言われて。自分らも去年の夏に『Street Musician Summit』っていう路上でフェスみたいなイベントを完全に自分たちでやったし、その苦しさも知ってるから。やっぱり学校の文化祭とは違うじゃないですか。個人個人が輝いて、ちゃんと商業的にも成り立つイベントをD.I.Yで作ってるって聞いて、この人たちとだったら話は合うなと思ったんですよね。レーベルやってる人でも、そんな経験してる人間のほうが少ないと思うんで。そういう人たちだったらやりたいなと。
一一もしその話がなかったら、未だに路上でやってましたか。
Washiyama:やってたし、実は自分らでも回せちゃってたから。路上ライブのチップとかでレコーディングも自分らでやれたし、MVも作れたし。自分らのマネージメントもできてたから。別に(レーベルが)なくてもできる状況で。改めて事務所の人と手を組を組むなら、モチベーションが合致してないとやる意味ないなと思ってましたね。
一一今の時代、やり方はいくらでもありますもんね。
Washiyama:そう。だからそこが決め手。そういう熱意のある人と出会えてなかったら、今ここにいないと思います。
(取材・文=石井恵梨子/写真=林直幸)
■リリース情報
『GIANTSTAMP』
発売:2019年7月24日(水)
価格:¥1,800(税抜)
1. 〒460-0008
2. GIANTSTAMP
3. 97.9hz
4. ストラトキャスター・シーサイド
5. Vanessa
6. ヨンヨンゼロ
7. kniht
8. think
■ライブ情報
『GIANTSTAMP TOUR 2019』
9月19日(木)大阪 Live House Pangea
w/ w.o.d
9月20日(金)名古屋 CLUB ROCK’N’ROLL
w/ w.o.d
9月27日(金)東京 TSUTAYA O-Crest
w/ 後日発表
【東京公演チケットinfo】
受付期間:7月5日(金) 21:00 〜 7月10日(水) 23:59
入金期間:7月12日(金) 13:00 ~ 7月14日(日) 21:00
受付URL