ベーシストIKUOが語る、“歌うこと”に対する目覚め「ボーカリストとしても一生懸命やれば伝わる」
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ベーシストのIKUOが、2ndソロアルバム『Easy come, easy core!!』を7月24日にリリースした。
BULL ZEICHEN 88やRayflowerのメンバーとして、ロック、ジャズ、フュージョン、アニソンとジャンルレスに活躍し、確かなテクニックで幅広い支持を得ているIKUO。本作は自身がボーカルを務め、LedaとKenTという若手の敏腕プレイヤーを迎えたトリオバンド編成での作品となっている。オリジナル楽曲から、アニメ『デジモンセイバーズ』OPテーマ「ヒラリ」やアニメ『テニスの王子様』OPテーマ「Make you Free」など自身が過去に在籍していたバンドのセルフカバーまで、様々な挑戦を詰め込んだアルバムの魅力をじっくりと語ってもらった。(編集部)
テクニカルなもの、フュージョンライクなものをポップに昇華させる
ーー前作『R.E.D. ZONE』(2014年)はソロとしては初めてのアルバムでしたが、どんな作品だったと振り返りますか?
IKUO:あのときは『テニスの王子様』の主題歌(「LONG WAY」)を歌ってから10年で、それでソロデビュー10周年という言い方をしてはいたんですが、僕はそれまでにノンジャンルでいろんな方と音楽活動をしてきてたんですよね。最初はビジュアル系バンドをやって解散して、そこからアニソンの作家をやったり、六本木のPIT INNに通って、フュージョンの人たちと共演したり、ラウドミュージックをやったり。だから、自分の初めてのソロアルバムということで、セッションマンとして関わってきた、総勢30人のゲストを呼んで作ったんですよ。音楽ジャンルもフュージョンだったり、ラウドミュージックだったり、僕が書いた曲のセルフカバーだったり、要はそれまで自分がやってきた活動のカタログ的な、集大成的な感じになるものを出したかったんですよね。
ーー今回の『Easy come, easy core!!』は、LedaとKenTという若手の敏腕プレイヤーを迎えたトリオのバンド編成で制作した点が、まず前作との大きな違いになりますよね。もともとはどんな構想があったんですか?
IKUO:『R.E.D. ZONE』から5年ぐらい経ってたし、去年はMASAKIさんが<<PSYCHO DAZE BASS>レーベルから2枚目のアルバムを出してるんですよね。だから、次は僕のターンだなと薄々は思ってはいたんですが、そんなときに、2019年に手がけるはずだった、とある案件が急遽なくなりまして。それでちょうどスケジュールが空いたので、「ここしかない!」と思って、キングレコードのディレクターさんに、ぜひリリースしたいと話をしたんです。そこで話を進めていくうちに、「IKUOさん、歌ってください」「歌ものがいいです」って言われたんですね。正直、僕はインストよりも歌ものを作るのが得意なので(笑)、これはすぐにできるだろうなと。なおかつ、自分で歌う、ベース&ボーカルという立場になるわけで、それならば前回との差別化もできるし、僕の好きなRUSHじゃないですけど、トリオのロックバンドという形でやらせてもらえませんかと提案させてもらったんですね。そしたら、好きにどうぞみたいな感じで(笑)。
そして、次は音楽性はどうしましょうかという話になるんですけど、僕がやりたい音楽というのが実はあったんですね。それがタイトルにもなった、“イージーコア”なんですよ。イージーコアって日本ではあんまり浸透してないんですよね。わかりやすく言うと、ポップパンクとかメロディックパンクに、メタルコアのザクザクしたアレンジの要素を入れたようなサウンド。
ーーNEW FOUND GLORYなどの登場から確立していったものですよね。
IKUO:そうそう。NEW FOUND GLORYに、ラウドなものが重なったアレンジをしているような。わりとそういうイメージがわかりやすいと思うんですね。僕が今回作ったものは、実際にはイージーコアではないんですけど、“っぽい”ものですね。要はラウドなものに、ポップなサウンド。昔からそれが大好物なんですよ。だけど、ラウドな要素はもっとラウドにしたくて……いわゆるイージーコアって、ダウンチューニングなんですけど、もっと下の8弦ギターのF#の音を使いたいと。そういう裏テーマを掲げたんですよ。それは誰もやってないだろうし。8弦を使う人って、ジェントとか、メタルコア寄りの人が多いじゃないですか。そういったイメージがあるものを使って、ポップな音楽ができたらいいなと思い浮かんだんですよ。そこで誰かいいギタリストはいないかなと思ったときに、Ledaくんがパッと浮かんで。ドラムのKenTは、喜多村英梨さんという声優さんのライブのサポートのお仕事を一緒にやったことがあるんですけど、まあ、巧いんですよね。彼女の音楽性って、メタルコアなんですよ。僕の人生で、一番ヘヴィな音楽をやったのは、BULL ZEICHEN 88でもなんでもなく、喜多村英梨だったっていうぐらい(笑)。
ーーLedaくんも喜多村英梨さんの作品に参加してましたよね。
IKUO:レコーディングは参加してましたね。KenTはThe Winking Owlではシンプルなドラムを叩いてますけど、彼が凄いヤツだってことは、キッズドラマーだった頃から知ってるんで、いつか一緒にやりたいなと思ってたんですね。だから、自分の理想のバンドを作るようなイメージで、ソロならではの発想で彼ら2人をブッキングした感じです。
ーーディレクターさんとの話の中で、アルバムの内容が具体化していったというのが面白いですね。もちろん、イージーコアについては、かねてから温めていたアイディアだったとは思いますが。
IKUO:そうですね。とりあえず漠然と「出したいんですけど」というところからスタートで、ちょっとずつ定まっていって。でも、何でもありだと、何を作っていいかわからなくなりますよね。今回はグッと絞って、そこに合わせて曲を作ったり、リアレンジしたので、わりとスムーズに上手くいったかなって感じはします。
大前提としてポップなものが好きというのは、昔から変わらないんですよね。僕の言うポップというのは、どちらかというと、メジャーコードを使ったものなんですよ。ただ、西海岸のパンクとか、それこそNEW FOUND GLORYとか、SUM41とかSimple Planとかのサウンドが好きでいながら、かといって、ベース関しては、テクニカルなもの、ラウドな方向なものが好きだったりする。好きな音楽とベースって考えたら、ちょっとギャップがあるんですよ。そこで、結構テクニカルでキメキメなのが、ポップなものにくっついてるイージーコアのスタイルにすごく魅力を感じたんですよね。そこにさらに自分のテクニカルなもの、ちょっとフュージョンライクなものを昇華させる、そういうのが僕のやりたい音楽だと思っていて。
その意味では、BULL ZEICHEN 88が、僕の一番やりたい音楽なんですよ。ポップでラウドで、ベースは普通なら入れない、かなりフュージョンのテクニックを入れてるんですよ。そこがバンドの個性だし、BULL ZEICHEN 88の面白さだと思うんですよ。今回は、それをもっとデフォルメして、ギターのチューニングを下げて、さらにテクニカルにしてやりたいなと。どうせなら人がやってないことをやりたい。そういう気持ちがありますね。
アルバム作成で芽生えた歌い続けたいという思い
ーーなるほど。今回のアルバムを聴いて、すぐに思い出したのは、IKUOさんがかつて活動していたLapis Lazuli(ボーカリストはきただにひろし)だったんですよ。
IKUO:今回は「Jumping Out」のカバーも入ってますからね(笑)。いや、ホントにルーツですよ。Lapis Lazuliの元を辿ると、TOTOとかJourneyなんですよ。そういう80’sのわかりやすいメロディとポップなものに、当時のモダンなグランジをダウンチューニングで入れたのがLapis Lazuliだと思っていて。今回は今の時代ならではのラウドミュージックやエクストリームなサウンドを入れたけど、自分がやりたいメロディとかポップなものというのは変わってないのかもしれないですね。
ーーええ。IKUOさんがいかに優れたベーシストであるかというのは、改めて言うまでもなく、誰もが認めることですし、実際にこのアルバムを聴けば、ベースという楽器を知っている人は、驚きの連続だと思うんですよ。
IKUO:まぁ、いろいろやってますね(笑)。
ーーもちろん、それも大事な聴きどころなんですが、このアルバムのポイントになるのは、やはり歌だなと思うんですね。IKUOさんの歌を聴いたのは初めてだったわけではないですが、ここまで巧い人だったのかと(笑)。
IKUO:ホントですか? そう言ってもらえたら嬉しいですね。でも、とっかかりとして、ベーシストのアルバムという聴き方をする人がほとんどだと思うんですよ。その意味では、ベースはもうちょっとフュージョンみたいにいろいろやったほうがよかったという人もいるかもしれないし……。
ーー……相当やってますけどね(笑)。
IKUO:うん、結構やってますけどね(笑)。ただ、前回はわりとテクニックの方向かもしれないですけど、今回は作家としての自分を見てほしいなというのがあったんです。作家=歌ですよね。だから、結果的には自分の声、歌の技術にもつながってくることなんですけど、自分が作家として自信のある曲を伝えるには、いいボーカルじゃないと、歌が巧くないとその曲が伝わらないという怖い面もあるわけじゃないですか。そういう意味では、歌をしっかり歌わなきゃって思いは、すごくありました。歌い方も研究したりしましたし、何か前回よりは、そこそこ歌えるようにはなってきたのかなという感じはしてて。
ちょっと喉の感じも若干変わったんですよ。BULL ZEICHEN 88でも、フライスクリームの仕方とか練習してたんですけど(笑)、やればやるほど、喉が作られて、できるようになってくる。楽器と同じ感覚ですよね。歌に関しては未開だなと思ったし、ちょっと練習しただけで、この年齢なのに、少しずつ喉が変わってきたんですよ。実際に今回は最初からピッチも安定していたし、思ったような表現の仕方ができたというか。ペンタトニックフェイクとか流行ってるじゃないですか。ああいうのも意外と形になったりとか。今回、大嫌いだった自分の声が、ちょっとだけ好きになったかもしれないですね。
ーーでも、本職のボーカリストのように思えますよ。
IKUO:それね、結構、今回の取材で言われてるんですよ。ボーカリストとして認められたいとは思ってなかったですけど、僕はRayflowerのベーシストのIKUOが歌ったとか、そういう感覚じゃなくて、元アニソンシンガーなんですけどみたいなところも、ちょっとあるんですよね(笑)。昔、『デジモン』の歌も『仮面ライダー』の歌も歌ったし。実を言うと、「ヒラリ」(作曲はIKUO)という曲があるじゃないですか。あれを歌われてた和田光司さんの追悼ライブが、以前、Zepp Tokyoであったんですよ。そこにかつての『デジモン』のシンガーたちが集まったんですけど、そこに僕も呼ばれたんですね、ボーカリストとして。だから、めちゃめちゃカラオケで練習したんですよ。しかも、その日はバンドもいたんですけど、僕はベーシストだから、ベースを弾きながら「ヒラリ」を歌ったんです。そしたらめちゃめちゃ楽しくて盛り上がってね。『デジモン』ファンからすれば、特に思い入れもある曲だったかもしれないけど、そのときに、ボーカリストとしても、一生懸命やれば伝わるのかなと思ったんですよね。なので、やっぱり昔取った杵柄的なものじゃなくて、現在進行形で歌もやっていきたいなって。だから前回と違って、このソロユニットを続けていきたいなと思ってるんですよ。まぁ、そこはLedaとKenTのスケジュールによりけりですけど、歌うということを続けたいなと、今回のアルバムを作る中で思いましたね。
ーーその「ヒラリ」はこのアルバムの中でも、すごく歌が飛び込んできますが、今の話を聞いて頷かされました。一番歌い込んだものなんだなと。
IKUO:そうですね。和田光司さんのようには歌わないんですけど、あえて自分の個性で歌いきっちゃおうという。やっぱり誰かに似せるということじゃなくて歌えたほうが、いいと思うんですよね。誰に似ているのかもわからない。ただ、フライスクリームを練習してたから、ちょっと歪んだ声が出せるようになったというか。「Fly」や「Pride in motion」にしても、昔はああいう洋楽っぽい声は出なかったんですよ。そういうのが感じられると、歌っていても、より楽しくなるんですよね。
ーーそれができるようになるのは、才能があったからこそですよ。すべての人が、練習すれば巧く歌えるようになるわけではないですから。
IKUO:そうか……確かにそうですね。素質がちょっとあったのかもしれないですね。それを伸ばすことをしてこなかったということかもしれないですね。
自分の中にあった普遍的ないい曲を形に
ーーええ。先ほども話題に出たLapis Lazuliの「Jumping Out」を取り上げたのは
IKUO:2年前に、Lapis Lazuliは再結成ライブをやりましたけど、あの時代に自分が書いていたたくさんの曲の中で、イージーコアふうにアレンジしていける曲がないかなぁと。「Jumping Out」は僕が一番好きなLapis Lazuliの曲なんですね。そこでキーを1音下げて、F#のリフができるようにして。もともとマイナーなグランジーなリフがついてたんですけど、イージーコアのリフってメジャーキーなんですよね。メジャーのコードでザクザクと重いことをやるから、爽快で面白い。でも、原曲のままのサイズ感でいじってるんですよね。それを後で当時のメンバーに聴かせて笑ってもらおうっていう(笑)。
僕、昔やってたバンドを否定してないんですね。たとえばLapis Lazuliもすごく好きだったし、やりたいことをやれてるバンドでしたからね。今回収録された他の曲も、ストックしておいたものは多いんですよ。その時代においてカッコよかった、ダサかったとかじゃなく、自分の中にあった普遍的ないい曲を形にしたかったというか。さっき作家としてという話をしましたけど、そういう意味合いも今回はあるんですよ。
ーーなるほど。新たに書き下ろしたものも当然ありながら、表に出していなかったアイデアもこのタイミングで形にしたと。
IKUO:そう。だから、「Confession」と「僕らの約束」は、全然ポップソングだったんですよ。それらをアレンジするに当たって、ESPから8弦ギターを借りたりして。もともとはコンペとかに出すために作ったんですけど、それも誰々のコンペっていう感覚じゃなくて、ただ単に自分が好きなミドルテンポのポップな歌っていう感じで作ったものだったんですね。
ーーすごくルーツにAORなどが感じられるような曲ですよね。
IKUO:まさにそうなんです。ルーツはAORテイストな曲ですね。それをゴリゴリのアレンジに変えて。あれは自分の趣味で言うと、どストライクなんですよね。実はあれぐらいのテンポの曲が好きなんですよね。でも、Lapis Lazuliじゃないですけど、BULL ZEICHEN 88でもRayflowerでも、ああいうタイプの曲は使えないんですよ。
ーー日の目を見てよかったですね(笑)。でも、今後はそういった曲も、このユニットがあればどんどん出せていけそうですよね。
IKUO:出していきたいですね。MVを撮影した「Fly」は書き下ろしですね。あれはもう狙って作った曲です。あっという間にできました。スラップの曲を作ろうと思ったんですけど、やっぱり、Primusとか、ああいった不思議のコード感のものをイメージして、そこに何かDragon Ashふうな感じが入って、ミクスチャー的になったんですけどね。そうそう、真ん中の間奏を、みなさんベースソロって勘違いされるんですけど、あれはギターとベースのスラップのバトルなんですよ(笑)。MVを観るとよくわかります。でも、8弦ギターがまだ浸透してないから、音そのものがわからないですもんね。
ーーええ。ただヘヴィな音というイメージしか湧かないかもしれません。
IKUO:そういうところも自己満足ですけど、一応説明しておかないとなって(笑)。あとはインストゥルメンタルの「Arch of the rainbow」、「Pride in motion」とかは書き下ろしですね。「Road to tomorrow」はRayflowerのボツ曲です(笑)。もともとはギターもあんなにヘヴィじゃなかったんですけど、田澤(孝介)くんって、何でも歌えちゃうぐらい巧いんですよ。だから彼の歌を想定して作ってるわけですね。シンセメロが入ってるテーマのところも都(啓一)さんをイメージしてましたし。だから、曲自体、一旦、Rayflower用に完成されてたんです。それをヘヴィにアレンジして、自分自身で歌ったんですけど、これがRayflowerだったらどうなってたか、ちょっと面白いですけどね(笑)。
ーーリフの変則的な感じはIKUOさんらしいですよね。
IKUO:リフはかなり作り込みましたね。
ーー冒頭に「EBM」というフュージョン系のインストゥルメンタルがありますが……。
IKUO:これは単純に“エレクトリック・ベース・ミュージック”です(笑)。ただのテクニックのひけらかしの曲(笑)。やっぱりベーシストのソロアルバムだから、派手なものも入れておかないとってところから作ったんですよ。でも、ウワモノをEDMっぽくして、ちょっと雰囲気がお洒落な感じになって。最終的にそろそろ曲順も決めないといけないですねって話になったときに、じゃあ、これを1曲目にしようかなって。
ーー1曲目を想定して書いたわけじゃなかったんですね。
IKUO:そう。何となく歌ものが続いて、ちょっと気分転換にというような感じで考えてたんですよ。でも、僕の最新テクニックは織り込んでるんですよね。僕がずっとやっているロータリー奏法をさらに進化させて、クソ速くしたみたいな感じなので、とりあえず、ベーシストが喜んでくれたりする曲をと思って作ったんですけど、曲を並べていくうちに、これが1曲目だったら、オープニングのSEみたいだし、ど頭にもうやり切っちゃうというか(笑)、みんなを惹き付けて驚いてもらう。そこで2曲目から本編のイージーコアスタイルがスタートするみたいな。結果的にはよかったですね。
ーーさて、アルバム発売後の東名阪ツアー『IKUO 2nd Live Tour 〜Easy come, easy core!!〜』も決まっていますが、これは制作時のトリオ編成で行われるんですよね。
IKUO:うん。見え方としてはバンドとしてやりたいし、そう見てもらいたいですね。とはいえ、LedaくんにしてもKenTにしても、ちゃんとサポートメンバーとしての立場をわきまえて、役割を果たしてくれる人たちなんですよ。でも、それは気合を入れることでもなく、“Easy come, easy core!!”なので(笑)、気楽にやりたいですね。だってパフォーマンスできないですもん、歌いながら(笑)。
ーーいやいや、この敏腕ベースを弾きながら歌うんだなと考えたとき、IKUOさんは恐ろしいなと人だなと思いましたよ(笑)。
IKUO:僕も怖いですよ(笑)。でも、お客さんにも楽しく観てもらいたいですね。
(取材・文=土屋京輔/撮影=三橋優美子)
■リリース情報
『Easy come, easy core!!』
リリース日:2019年7月24日(水)
¥3,000+tax
PSYCHODAZE BASS
レーベル:KING RECORDS
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