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乃木坂46ドキュメンタリー撮影で見えたグループの裏側とは? 岩下力監督インタビュー

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リアルサウンド

 乃木坂46のドキュメンタリー映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』が、7月5日より公開されている。

7/5(金)公開/予告編『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』公式

 本作は、2015年に公開された『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』から4年ぶりとなるドキュメンタリー映画第2弾。「乃木坂46に訪れた季節の変わり目の物語」と銘打たれた『いつのまにか、ここにいる』は、乃木坂46を卒業する西野七瀬、2年連続の大賞を受賞した『日本レコード大賞』(TBS系)、20歳を迎えグループのエースに躍進する齋藤飛鳥の3つを大きな軸に、様々な角度からメンバーたちの素顔を映し出す。このドキュメンタリーを通して、また新たな乃木坂46を発見することができ、上映後、グループのイメージは一新しているはずだ。

 監督を務めたのは岩下力。CMやドキュメンタリーを数多く手掛ける映像演出として活躍。これまで2016年に明治神宮野球場で開催したデビュー4周年記念ライブのドキュメンタリー『乃木坂46 BEHIND THE STAGE IN 4TH YEAR BIRTHDAY LIVE』を手がけてはいるが、メンバーのパーソナルな部分をことが分からないまま、今回のオファーをもらい撮影し始めたという。前作『悲しみの忘れ方』との対比、レコ大の裏側、ドキュメンタリーを通して感じた西野、齋藤、そして乃木坂46に抱く今の思いを聞いた。(渡辺彰浩)

100%体当たりで臨んだ撮影秘話

――今作では、2017年から2019年までの乃木坂46にとっての節目が描かれています。前作『悲しみの忘れ方』と比べると、すでにグループが成熟しきった状態でのドキュメンタリーです。

岩下力(以下、岩下):撮影開始当初は難しかったですね。メンバーの方々が慌てふためくような光景も見えず。僕以外の方だったら見つけれられるのかもしれないですけど、本当に分からなかったです。ライブでもちゃんとお客さんを沸かせていて、映画で言えばゴールのような気すらしてきて(笑)。

――言ってしまえば、ハプニングがあったほうが撮れ高になる。

岩下:全体を考えればそうですよね。一般的には、至らない人たちがジタバタして成長していってスターを目指すことが、最大の描きがいのある部分なのかなとも思います。

――撮影しながら完成の画は見えていったのでしょうか?

岩下:おぼろげな予感だけですね。ドキュメンタリーのクリップ(素材)は、時に複数のスタッフで撮っていることもあって、すべての映像を見た時に、自分が撮ったものとあわせてイメージできることもあるだろうなと思っていはいましたが、全体像は編集してみないと分からなかったです。

――描かれている時期としては最新シングルの『Sing Out!』までなので、公開ギリギリまで制作していたのではないかと想像します。

岩下:ドキュメンタリーが完成して、家の大掃除をしたら今って感じなので(笑)。

――公開自体が発表されたのも6月11日なので、つい最近ですよね。

岩下:そうですね。発表された時は、まだ編集の最終形も決まっていませんでした。わりと最後の最後までドラスティックに検証していたので。まばたきや言葉の一つひとつまで、とにかく素材を何カ月も見ていました。

――岩下さんはメンバーについて多くは知らなかったとのことですが、撮影前と今とでは乃木坂46の印象はどのように変わりましたか?

岩下:撮影前はスター集団のような見え方で。とっつきにくいのではないか、相手にされないんじゃないか、みたいなことも考えていましたけど、今ではほっこりするところもあります。親戚のような、テレビに出ているのを観ても「元気かな?」って思いますね。撮影が終わって何カ月か経っているので、僕がドキュメントを撮っていた時とはまた別のストーリーが彼女たちの中で進んでいるはずで。それを僕は知らないから再び興味が湧く一方で、すでに追憶の中という感覚もあります。撮影前は、撮影が終わった時に「寂しいな」とか「完成してしまったんだ」という立ち直れないくらいの感慨深さが残ればいいな、というのは思っていました。淡白にならず、僕自身の気持ちごとごっそり持っていかれるよう作品になってほしかった。

――今の監督の心境は?

岩下:掃除以外にやることがなくて、どうしたらいいか分からないです……(笑)。心の整理がつかない。

――すっかり抜け殻になっているんですね(笑)。前作を踏まえた上で、この映画をどのような作品にしたいと思いましたか?

岩下:前作を観て、彼女たちの歩みにリスペクトはしつつも、それに引っ張られた続編にはしないようにと決めていました。前作を経由して真似事のようなことをして描くよりも、100%体当たりで、直にその被写体と格闘して描いていく方が映画として正解なんじゃないかと。ファンやメンバーには遠慮せずに、初めて観る人もノックアウトできる作品にしたかった。

 途中で生駒(里奈)さんが出てきますが、そこで前作の音楽が少しかかるんですよ。前作から引き続き、音楽は袴田(晃子)さんに担当いただいています。僕からは特に前作を踏襲した編曲をお願いしたわけではないのですが、生駒さんのシーンに前作の曲を少しだけアレンジした新しいスコアをあててくれました。そういった意味でも、生駒さんに出ていただけたのはよかったです。

――『悲しみの忘れ方』は堀未央奈さんが髪をショートにした場面で終わりますが、そのシーンが今作でも使われていますよね。

岩下:最初からあのシーンを入れようと想定した上で、堀さんは撮影しました。『悲しみの忘れ方』のラストはスローモーションなので、今回もスローモーションで登場していただこうと思って。堀さんにもできるだけ前作と重なるような角度で歩いてきてくださいと、お願いしました。

西野七瀬は「かっこよくて届かない存在」

――生駒さんのエピソードと合わせて、もう一度観たくなりました。今作の視聴層として、乃木坂46の歴史やライブを知っている人と、そうではない人の2パターンがあると思うのですが、そういったファンの視点は意識しましたか?

岩下:どちらかと言えば、僕は乃木坂46を全く知らないに近い状態ではあったので、そういった人にとってはある程度入りやすい作品なのかもしれないです。でも、僕自身はファンの方々の気持ちには到達できない。グループの歴史に対してどういう考え、気持ちを持っているかというのはわからないので、そこは推し量るしかないんです。亡くなった市川崑監督は『東京オリンピック』というドキュメンタリーを撮った時に、いろいろと批判を浴びたんですけど、回顧録で「もっと自分のものにしとけばよかった」と言っていたんです。だから僕も、自分が被写体と格闘した期間の中で、一番良い形に結実した自分にとってベストと思える作品にすることしかやれることはないなと。

――乃木坂46は、『日本レコード大賞』(TBS系)にて大賞を2年連続で受賞しました(2017年「インフルエンサー」2018年「シンクロニシティ」)。そのリハーサルで行われた振付師・Seishiroさんとの円陣は、ドキュメンタリーの山場の一つです。改めてあの現場の風景を見てどのように感じましたか?

岩下:異空間でした。編集された映像からも当時の情感は伝わってくるかと思いますが、現場にも不思議な力が働いているような印象でした。誰も言葉で説明できないような状況だったんですよね。

――リハーサルでは、メンバーのみなさんが自分たちのパフォーマンスの映像を見て、自然と涙を流していました。

岩下:なぜかは整理がつかないけれど、みなさん涙が止まらなくなったみたいですね。映画として伝えるためには、出来事の入り口からしっかり伝えないといけない。あのシーンは、編集で整理するのに時間がかかりましたね。

――岩下さんにとって特に思い入れのあるシーンはどこですか?

岩下:序盤で西野(七瀬)さんと与田(祐希)さんが抱き合っている暗闇の中のショットは宗教画のようで印象深いです。あのシーンを撮れた時は自分自身もびっくりしました。2人の人間関係はうっすら分かっていたけれども、カメラを振ったらあの光景があって。互いを抱き寄せていて、かすかに光が射すとルーブル美術館にでもあるような西洋絵画のように二人が微笑むんです。それを見たときに鳥肌が立って。そのシーンを基軸に2人に話を聞いて整理していきました。メンバーを追いかけて、それぞれの人間関係を知るということは多々ありましたね。

――西野七瀬とはどのような存在だったと思いますか?

岩下:一時期は、「儚い」「守ってあげたい」という印象を持たれる方が多かったのかなと思うのですが、僕が接していた期間は、卒業が近くなって「かっこよくて届かない存在」という見え方が強くなっていきました。ドキュメンタリーの中でもそういう方向で西野さんを描こうと思いました。

――劇中では、西野さんともう一人、齋藤飛鳥さんもグループの大きな軸として描かれています。飛鳥さんの印象は撮影前とで変わりましたか?

岩下:だいぶ変わりましたね。知り合いになった気がする、というのが大きいです。飛鳥さんがどう思っているかは分かりませんが、共感する部分が一番多い方だったなと。

――打ち解けたと思えた瞬間は?

岩下:飛鳥さんが成人式の後に参加した中学校の同窓会ですね。同窓会の場には、乃木坂46のスタッフの方やマネージャーの方がいないわけではないんですけど、わりと遠くにいて。何かあったら自分が飛鳥さんを守らなきゃいけない。同級生たちが、次にどういう動きをするのかまったく分からないという(笑)。

――飛鳥さんの隣に同い年の男性が来る場面も……。

岩下:そう!普通にひょこんと座ってきて「覚えてる?」と話しかけていて……ドキドキしました(笑)。同窓会の最後に、先生が飛鳥さんに話してもらおうと提案してくる時も、飛鳥さんが「どうしよう……」って言って、僕も「挨拶するなら助け舟は出さずに撮ります」と。打ち解けた瞬間として、あの日は決定的だった気がします。

――帰りの真っ暗な車内で飛鳥さんが放心しているシーンにて、「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」で使用された「気づいたら片想い」の写真がインサートされるのも印象的でした。

岩下:観る人がいろんな受け止め方をしていただければ。スッと差し出しますけど、答えは提示しようとは思っていなくて。観る人に体感していただければベストかなと思います。

――映画は飛鳥さんと訪れるスコットランドでラストを迎えます。

岩下:飛鳥さんから行きたいという話があったので、「撮っていい?」と聞いたんです。自分もヨーロッパで撮れたらいいなとは何となく考えていて、まだ自分の中で作品に決着がついていなかった頃なんですよ。日常ではない、都会ではない遠くの場所で、大事なことを聞き出すチャンスはないだろうかと考えていたところ、そういった機会に恵まれたので、意を決して。

――岩下さんが今後乃木坂46に対して期待することは?

岩下:アイドル、グループとしてというよりは、単純に一人ひとりと接して、人間として近づいていった気がするので、アイドルではなくなる日が来ても、テレビからいなくなっても、元気でいてくれればいいなという気持ちが強いですね。

――『いつのまにか、ここにいる』は、岩下さんにとってどのような作品になりましたか?

岩下:長編のドキュメンタリーを作ったのは初めてだったので、このボリュームはすごいなというのは体感しました。大変ではありましたけど、やれてしまったので、さらなる欲が出てしまいます。今後も大きいものを作りたいなという気はありますね。

(取材・文=渡辺彰浩)

■作品情報
『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』
公開中
企画:秋元康
監督:岩下力
出演:乃木坂46
製作:今野義雄 北川謙二 大田圭二 秋元伸介 安齋尚志 
エグゼクティブプロデューサー:石原真 磯野久美子
プロデューサー:上野裕平 金森孝宏 菊地友 中根美里 佐渡岳利 
ラインプロデューサー:渡辺洋朗
監督補:菅原達郎 河本永 制作担当:宮田陽平 
撮影:小暮哲也 岩下力 編集:岩下力 
音楽:袴田晃子 熊谷隆宏 塩野恭介
制作:ノース・リバー 
制作協力:パレード・トウキョウ  
製作:乃木坂46合同会社 東宝 Y&N Brothers NHKエンタープライズ
配給:東宝映像事業部
(c)2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会
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