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フジロックやサマソニも席巻のオーストラリア出身アーティスト、越境する音楽性と独自の海外戦略

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■夏フェスに定着したオーストラリア勢

 先ごろ行われた『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』。歴代上位の観客動員数を記録した2019年の主役はオーストラリア勢だったと言っても過言ではない。2日目ヘッドライナーとしてベストアクトの呼び声も高かったシーア(Sia)を筆頭に、予想外のヘヴィメタル仕様ながら詰めかけたオーディエンスを熱狂させたKing Gizzard and the Lizard Wizard。2度目の出演となるコートニー・バーネットと初出演のステラ・ドネリーは、エッジの立った存在感と同時代性で異彩を放った。

 また、スケールの大きなグルーヴでグリーンステージを揺らしたHiatus Kaiyoteや、メルボルン出身のSunnyside、DJではアンナ・ルノーなど、大小さまざまなステージでオーストラリア出身のアーティストがフィーチャーされていた。

 3日間にわたって開催される『SUMMER SONIC 2019』にもオーストラリア勢は登場。東京最終日(大阪2日目)のフルーム(Flume)や、7月24日にアルバム『Flow State』国内盤をリリースしたフィメール・ギタリストのタッシュ・サルタナ、パース出身の4人組Psychedelic Porn Crumpetsら、いずれ劣らぬ注目のアーティストだ。フルームは、2018年のTame Impalaに続いてステージトリを務めるなど、こうして見ると豪州発アクトは日本でも定着した感がある。

(関連:シーアはなぜポップミュージックに求められ続けるのか 楽曲提供、コラボなどの歩みを辿る

■海外展開への取り組み

 近年、オーストラリア出身のアーティストが存在感を強めている背景には、特有の音楽環境と海外展開の取り組みがある。人口約2,500万人のオーストラリアだが、ライブ、コンサートの観客動員数4,000万人という数字はスポーツを上回る。人口の15%が音楽をクリエイトするという国民性は、近年のストリーミングサービスの普及によって促進傾向にある(参考:MUSIC AUSTRALIA STATISTICAL SNAPSHOT – August 2017)。

 ARIA(オーストラリアレコード産業協会)によると、オーストラリアのレコード産業は2018年まで4年連続で成長しており、収入の約7割をストリーミングが占める(参考:MEDIA RELEASE – 4 APRIL 2019; ARIA 2018 MUSIC INDUSTRY FIGURES SHOW 12.26% GROWTH)。実は、オーストラリアのチャートで国内アーティストの占める割合は2~3割と高くないが、オーストラリア出身のアーティストに対する著作権使用料は過去5年で倍増している。また、日本のJASRACにあたるAPRA AMCOS(Australian Performing Rights Association Limited)の統計では、国外でのコンサート等による興行は、2012年の2,845回から2017年には7,095回と2.5倍に増加(参考:Australia’s Annual Music Exports Worth $137M: Report)。いずれも国外での伸長によるものだが、こうした動きを後押ししているのがSounds Australiaである。

 国・州政府と関係機関の協力のもと、2009年にAPRA AMCOSによって設立されたSounds Australiaは、『SXSW』や『The Great Escape Festival』など各大陸の音楽フェスや見本市で豪州(と一部ニュージーランド)出身アーティストのショーケースライブを行っている。その代表格がオーストラリアの国民食にちなんだ「AUSSIE BBQ」で、注目バンド・シンガーを海外のレーベルやエージェントにつなぐ役割を果たしてきた(参考:How Sounds Australia Is Paving Global Paths for Australian Artists)。

 たとえば、今年5月に英老舗<ラフ・トレード・レコード>からデビューアルバムをリリースしたAmyl & The Sniffersは、2018年にロンドンで開催された同イベントに出演。また、2013年にHiatus Kaiyoteやフルーム、2018年にはステラ・ドネリーやジョーダン・ラカイがSXSWでの同イベントに出演するなど、アーティストに世界進出への足場を提供してきた。

■オーストラリア在住ミュージシャンに聞く、豪州シーンの特徴

 オーストラリア国内に目をやると、各都市にシーンが形成され、アーティスト間の交流が盛んだ。この点について、先ごろ日本ツアーを終えたばかりのメルボルン出身の4人組ユニット・Elle Shimada Collective(ESC)を率いるエル・シマダに話を聞いた。

ーーESCはどんな音楽ですか?

エル・シマダ:ひとことで言うと“ダンスフロア・アクティビズム”。ジャズなどインテレクチュアルな音楽とクラブカルチャーの融合した音楽で人をつないでお互いにエデュケートしあえる空間を作りたいと思っています。

ーーUSやUKの音楽とオーストラリアの音楽にはどんな違いがありますか?

エル・シマダ:地理的にUKやUSと離れているので、アンダーグラウンドの流行に敏感でいることは難しいです。その代わり、自分たちのオリジナルな音の追求に熱心でピュアな音楽家が多い印象があります。口コミだけでカルト的な人気があるコアなローカルミュージシャンもたくさんいて、その土地に来ないとわからない音楽がたくさん隠れているのがオーストラリアのおもしろさですね。最近はジャイルス・ピーターソンや<Rhythm Section International>などのUKのキーパーソンやレーベルがメルボルンの音楽シーンに目を向けているので、もっと距離が縮まるかもしれません。

ーーオーストラリア人が音楽好きと言われるのはなぜでしょう?

エル・シマダ:遊びに貪欲なオーストラリア人は、趣味を追求することが人生をリッチにするという考え方を持っています。メルボルンでは、平日でも無料または低価格で音楽を楽しめるので、仕事帰りに生音を聞く習慣が自然に生まれています。

ーーメルボルンと他の都市の音楽シーンにはどんな共通点がありますか?

エル・シマダ:それぞれの街にいろいろな特徴があるけど、共通するのはその小ささと濃さですね。各都市におすすめのミュージシャンがいて、アデレードにはESCのメンバーでもあるアビー・ハウレットがいますよ!

ーーESCやHiatus Kaiyoteなどのジャンルにとらわれないミクスチャー感覚は、メルボルンのバンドの特徴でしょうか?

エル・シマダ:先住民のアボリジニには長い歴史がありますが、入植者の歴史は200年と浅く、メルボルンの音楽家たちにとって、いまは自分たちのサウンドをつくっている過程。だから自由でおもしろい。

 小さなコミュニティのミュージシャンには、いろいろなジャンルに対応できるハイブリッドなスキルが求められます。そうやって培った経験や、伝統音楽を含む影響に自分の色を乗せるうちに現在の音ができあがりました。Hiatus Kaiyoteのメンバーとは一緒に住んでいることもあって影響は受けていますが、他にも多くの素晴らしいバンドがいます。毎晩のようにシェアハウスでセッションすることから生まれる音の一体感がメルボルンのサウンドの特徴かもしれません。

***

 エル・シマダの言葉からは、都市ごとに存在するコミュニティで繰り広げられる濃密な音楽的交流の様子が伝わってきた。英米の影響を受けながら独自の進化を続けるオーストラリアの音楽シーン。日常的に音楽に触れる国民性がアーティストを支え、Sounds Australiaが世界への橋渡しをする。ある意味でアーティストにとって理想的な環境といえるが、日本にとっても参考になるだろう。グローバルでUS、UKに続く第三極を形成しつつあるオーストラリア出身アーティストたち。来日時にはぜひその勢いを体感してほしい。(石河コウヘイ)