結城萌子が語る、川谷絵音や菅野よう子らと表現した“まっさらな自分”「豪華すぎて不思議な気持ち」
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ソーシャルゲーム『ファントム オブ キル 失われた千年王国編』(2018年)や、アニメーション映画『あした世界が終わるとしても』(2019年)で声優としての第一歩を踏み出した結城萌子がメジャーデビューEP『innocent moon』をリリースした。
全4曲の作詞作曲を川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女。ほか)が手がけ、アレンジャーとして菅野よう子、Tom-H@ck、ミト(クラムボン)、プロデューサーに冨田明宏というアニメ/ゲーム/声優アーティスト界で欠かせない面々が参加。ジャケットのアートディレクションを椎名林檎やスピッツでお馴染みの木村豊(Central67)が手がけ、フォトグラファーに乃木坂46やCharaのジャケット写真を手がける間仲 宇を迎えている。日本のポップカルチャーのトップランター達を集結させた結城萌子とはどんな声優であり、どんな歌手なのか。幼少時代の話からシングル制作までを振り返ってもらった。(永堀アツオ)
自分が歌手になるとは思ってなかった
ーープロフィールには、「幼少期よりアニメや漫画、ゲームに親しみながら育ち」とありますね。
結城萌子(以下、結城):好きですね。もともと親や兄弟が好きで、家の中に漫画やゲームがたくさんある状態だったんですね。だから、自分の中ではそれが当たり前で、外で遊ぶのではなく、家の中でずっと遊んでるっていう子どもでした。粛々とオタク活動をしてました。
ーー(笑)。特にハマった作品はなんですか?
結城:『セーラームーン』(美少女戦士セーラームーン)ですね。お姉ちゃんがセーラームーン世代で、すごく好きで、小さい子が着る公式のコスプレ衣装も家にあって。そういう姉がずっと近くにいたので、私も自然と好きになったし、漫画もテレビアニメも劇場版を見るようになっていきました。
ーーちなみに誰派でした?
結城:好きな人がいっぱいいるんですけど、外部系の天王はるかさんが好きでした。内部系と外部系があるんですけど、内部系を見守っているお姉さん的存在の外部系が4人いて。カリスマ的存在なんですけど、その中でもちょっと中性的でショートカットのはるかさんがすごく好きでしたね。
ーーその後のオタ活は?
結城:『セーラームーン』のあとは、『新世紀エヴァンゲリオン』、『ウテナ』(少女革命ウテナ)、『るろ剣』(るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-)、『シャーマンキング』っていう作品に小学生の時に触れていました。エヴァとウテナはちょっと大人向な描写がある作品だったので、大人からしてみると、ちょっと子どもらしくなくて、可愛くない子どもだったかもしれないですね。
ーーませてますよね。
結城:同い年の子とはあんまりアニメの話もできなくて。だから、家で一人でPCをカタカタしてるような子どもでした。
ーー当時は将来の夢はどう考えてました?
結城:そういう家庭環境で育ったので、アニメや漫画に携わるお仕事がしたいなと思ってました。絵も描くのが好きだったので、声優さんか、漫画家さんになりたいなって思ってたんですけど、漫画家さんの夢は、春田ななさんが中学3年生で『りぼん』でデビューしたと知った時に途絶えましたね。中学3年生で、こんな画力や構成力の高い人がいるんだっていうことの衝撃を受けて。その時に、漫画家は厳しいぞ、趣味程度にとどめておこうって思いました。
ーー声優に憧れたのは?
結城:物心がつく前から、気づいたら声優さんになりたいって思っていたので、明確なきっかけは覚えていなくて。小さい頃から、今でいう大御所さんの声優さんの作品を見ていたので、漠然とそういう声優さんになりたいなって考えてました。
ーー歌うことはどうでしたか?
結城:もともと好きだったんですけど、それを仕事にしようとか、歌手になって人前でパフォーマンスしたいっていうのはなかったです。本当に一人でひっそり歌ってて。一人でカラオケに行くくらいの程度でした。本当に自分が歌手になるとは思ってなかったので、今もまだ歌手になってるっていう実感がないですね。
ーーカラオケに行ったらどんな曲を歌うんですか?
結城:みなさんが知ってる王道のアニソンを歌います。『涼宮ハルヒ』(涼宮ハルヒの憂鬱)とか、『ガンダム』(機動戦士ガンダム)とか、『エヴァ』とか。あと、ギャルゲーの曲も歌いますね。本当に普通のオタクです……。
ーー(笑)。では、学生時代はどんな日々でした?
結城:小中学生の時はあんまりクラスの子にオタクっていうことを公言してなかったので、学校にいるときの自分と、家にいるときの自分はまた別の何かだったと思います。割と、落ち着いてたかもしれないですけど、めっちゃ暗いわけでもなくて。中学生の時は吹奏楽部にも入っていて。すごく忙しい部活なので、ずっと練習ばかりしてました。くたくたで家に帰ってきても、アニメ見なきゃって、体に鞭打ってアニメを見る、みたいな日々でした。
ーー楽器は?
結城:フルートです。
ーーああ、そこはイメージ通り!
結城:あははは。でも、フルートが可愛いからやりたいっていう方がいますけど、結構、大変なんですよ。華奢な楽器ですけど、肺活量はかなり使うんですね。私はもともと7歳くらいからピアノをやっていて。フルートは小学校の高学年から始めたんですけど、お姉ちゃんがフルートやってたっていう、あるあるみたいな感じの入り口でフルートを始めて。楽器は、練習したらしただけ上達するのが面白かったので、だんだんとはまっていきました。
ーー卒業する時は将来をどう考えてました?
結城:声優になりたいとは考えていたものの、具体的にアクションを起こすとかはしてなかったです。なりたいっていうぼんやりした考えだけで……今、振り返ってみると、あの時から行動していたら別の未来があったかもしれないなって考えるときもあります。でも、あの時、行動していたら、今、出会ってる人たちと出会えてないので、これはこれでよかったかなと思います。
川谷絵音との不思議な関係性
ーーそうですよね。デビュー作からこんな豪華な作家陣が。歌手デビューの話がきた時はどう感じました?
結城:びっくりしすぎてよくわからないのと、音楽はもともとやっていたので、やっぱり私は音楽とずっと生きていかないといけないんだなっていう風に思いました。一番は声優になるっていう夢があるけど、運命的なものは感じましたね。
ーー制作はどのように進められたんですか?
結城:実はかなり年月がかかっている作品でして。表現とか声の感じもちょっと違うかもしれないですね。
ーー一番古いのは?
結城:3曲目の「幸福雨」ですね。そもそも、アーティストとして、<ワーナーミュージック>さんと音楽をやるっていうきっかけは川谷さんが与えてくださったものなんですね。川谷さんが声をかけてくださったから、いろんなことが動き出して。ただ、川谷さんとはあんまりお話をしたことがないので、どういう方かはよくわからないんですけど。
ーーそうなんですね。こういうEPにしようっていう話し合いとかは?
結城:全くないです。でも、アレンジャーさんや、レコード会社のスタッフの方々を引き合わせてくれたのは、原点を辿ると、全部、川谷さんなんですよ。だから、すごく感謝してるんですけど、直接面を向かって何かを言われたことはなくて。なんだか不思議な関係です。
ーー足長おじさんみたいですね(笑)。EPを聞くと、歌詞の主人公がみなさん妄想したり、夢見がちだったりするので、何かコンセプトがあるのかと感じてました。
結城:そう思いますよね(笑)。私もびっくりしましたね。この歌の活動が始まって、川谷さんが詞曲を提供してくださるってなった時に、川谷さんがどういう立ち位置になるのか、どこまで踏み込んできてくれるのかも、スタッフを含め、私も全くわからない領域だったんです。だから、どういう曲にしようとかのヒアリングも一切なくて、いきなりポーンと渡されたっていう感じです。
ーーでは、「幸福雨」を受け取った時はどう感じました? アレンジはちゃんMARIで、変わったリズムのテクノポップになってます。
結城:面白いし、いい曲だなって思いました。川谷さんっぽさもあるし、どこかに漂うブルーな感じもある。川谷さんはこれをどういうシチュエーションで書いたかはわからないんですけど、私にこういう詞を歌って欲しいんだろうなって思って。
ーー楽曲を通してどんなイメージで見られてると感じました?
結城:サビが〈幸せになれたら/いくらでも私を傷付けて〉なので、ポジティブな人ではないですよね。どこか訳ありというか、「なんかありそうだなこの人」って匂わせてる。あんまり喋ったことはないんですけど、私のビジュアルとか喋り方で、そういう風に思わせる何かがあったのかな? と感じました。
川谷さんは女性以上に女性のことがわかってる
ーー歌う時はどんなアプローチでした? 楽曲の主人公になりきるのか、自分の経験と重なる部分を使うのか、それとも技術的なことにこだわるのか。
結城:1曲目だったし、川谷さんと全くコミュニケーションを取ってない状態からレコーディングが始まったので、とにかく仮歌をめちゃくちゃ聴いてました。どういうディレクションをしていただけるのかもわからなかったので、最低限ちゃんと音だけは外さないようにしようと思って準備していきましたね。でも、この曲はさくさくとレコーディングが終わって。川谷さんからも特別なことはなく、2時間くらいで終わったんです。2年前なので細かいことは覚えてないんですけど、「今日はありがとうございました。では」みたいな感じで。あっさり始まって、あっさり終わったので、その時は、川谷さんはいつもこうやってるんだなって思いました。
ーーその後、印象は変わりました?
結城:その次に録ったのが「さよなら私の青春」だったんですけど、すごい青春ソングだと思って。私はこんな眩しい青春を味わったことがなかったので、どこからインスピレーションを受けたんだろうっていうのと、川谷さんは普段、こういうことを考えてる、乙女チックな方なのかなって思ったんですね。
ーー編曲は菅野よう子さんです。
結城:もともとファンだったので、とにかくびっくりしました。『カウボーイビバップ』や『マクロスF』を夢中で観ていたし、CMソングもたくさん手掛けてらして。生きていたら絶対に誰でも一度は菅野さんが携わった曲を耳にしたことがあるっていうくらい、すごい方だと思うんです。本当に存在しているのかなっていうくらい遠い存在ですし、『マクロスF』を見ていた当時の自分に「将来、菅野さんと仕事するよ」って言っても絶対に信じないと思う。川谷さんがいてくださったから、菅野さんも引き受けてくださったと思うので、本当に感謝してます。
ーーレコーディングのことは覚えてますか?
結城:「幸福雨」から1年以上期間が空いたので、川谷さんの考えが変わったのかもしれないんですけど、これは2日間くらいかかりましたね。川谷さんのディレクションについていくので精一杯で。日付をまたいでレコーディングをしていたし。千本ノックのようでした。
ーー求められたものはなんだったんでしょう。
結城:具体的にこうして欲しいとか言われないんです。ただひたすら、「もう1回」って何度も言われるんです。しかも、川谷さんと菅野さんが同席してる中で歌うっていう、緊張感MAXの空間で千本ノックを食らっていたので、とにかく、くじけない心でいました(笑)。
ーー途中で泣き出したくなるようなシチュエーションですね。どうしたらいいのかわかりませんって。
結城:中学の時が本当に厳しい部活だったので、厳しいことに免疫があったし、反骨精神が強い性格なので、言われたらやりますっていう気持ちもあるんですね。だから、この時は、中学の時の厳しい部活に感謝しました。厳しすぎて嫌だった時もあったけど、そういう経験をしていると、いざ、大事な時に、へこたれずに頑張れるなって。そういうのがなかったら、「無理です」って言って、普通に泣いてたと思う。自己表現がどうとかも考えずに、ただ、お二人についていくのがやっとっていう感じでした。
ーー青春時代を思い出すというディレクションだったのかも。
結城:そうですね。完全に野球部のような感覚で歌ってました。
ーーもうちょっと甘酸っぱいです(笑)。「散々花嫁」はTom-H@ckさんの編曲です。
結城:最初は『けいおん!』みたいなアニソンが来るかなと思ったんですけど、川谷さんの歌詞やメロディに寄せてくださって。
ーーまた全然テイストの違うシティポップ〜歌謡AORになってますし、何よりタイトルや歌詞のインパクトが強烈ですよね。説明はありましたか? 〈チャンポン麺みたいな絶妙な塩梅で恋がしたい〉ってどういうことなのか、とか。
結城:全くないです(笑)。しかも、また訳ありな感じの女の方が出てきて。でも、散々とか言ってるけど、めっちゃ強気だし、一人でもやっていけそうな感じがしますよね。タフな感じが自分とも似ているなって感じて。あと、MVの撮影の時に、マネージャーさんが、〈散々な人生でも結婚すればいくらでもやり直せるわ〉っていう歌詞に対して、「そうだよね」って言ってて。女性はお付き合いする男性一人一人をリセットして恋愛するって言いますけど、私はその感覚がわからないんです。でも、こんなに身近にちゃんと共感する人がいるから、川谷さんって女性以上に女性のことがわかってるんだなって思いました。
ーー女性が共感する歌詞なんですね。最後の「元恋人よ」はミトさんです。
結城:デモを聞かせてもらった中では、一番心が揺さぶられた曲でしたね。
ーーピアノとストリングスによるクラシック小品のようなバラードになってます。
結城:それまでの3曲はアップテンポだったり、割とビートを感じられる曲でしたけど、次はバラードがくるっぽいですって聞いていて。私は山口百恵さんや松田聖子さんのような、昭和の歌姫が歌うバラードがもともと好きだったので、そういう曲が来るのかなっていう楽しみがあって。でも、私自身はバラードを歌った経験がなかったので、どういう気持ちでレコーディングに臨もうかなっていうのは、この曲が一番悩んだり、考えたりしました。どういう声色で歌おうかっていうところから丁寧に組み立てた曲でしたね。
ーー実際の歌入れはどうでした?
結城:歌詞に個人的な共感はないんですけど、なぜだか涙が出ちゃう曲なんですよ。歌うと泣いちゃうから、練習もできなくて。ただただ仮歌をひたすら聞いて、ちゃんと歌ったことないまま、レコーディングに臨んで。レコーディング中もじわっときちゃうんですよ。そういう不思議な力がある曲だし、アレンジだなって思います。理由のわからない涙が出てきちゃう曲だから、感情の流れが途切れないように、大切に気持ちを込めて、最初から最後まで、何回も繰り返して歌いました。
ゴリゴリのアニソンも歌ってみたい
ーー4曲揃って、ご自身にとってはどんな1枚になりました?
結城:豪華すぎて不思議な気持ちでいますね。私もなんで、こういう人たちが集まってくれたのかは明確な理由はわからないんですけど、タイミングとご縁が合致して集まってくださった方々なんですね。そのご縁にも感謝しつつ、『innocent moon』で私を知ってくださる方がほとんどだと思うので、少しでも興味を持ってくださったり、次の楽曲を楽しみにしていただけたら嬉しいなと思ってます。
ーータイトル『innocent moon』にはどんな思いを込めましたか?
結城:今回、スタッフの方が萌子さんがつけていいよって言ってくださったんです。私は今、声優としても歌手としても駆け出したばかりだし、まっさらな状態なので、まだ何にも染まってない私が初めてだすEPだよっていう意味も込めて“innocent”という言葉をつけて。あと、私は月や星、宇宙が好きなので。月っていうワードを入れたいなと思っていて。月はいろいろと形が変わるし、見る場所によっても違ってくる。私のことを知ってくださる方も、いろんな入口があると思うんですけど、声優としての結城萌子も、歌手としての結城萌子も、これからまた別の活動をしていくかもしれない結城萌子も。やっていることは違くても、みんな1つの結城萌子=月を見ているというイメージですね。
ーー冒頭に出てきた『セーラームーン』とも繋がってますしね。歌手としての今後はどう考えてますか?
結城:今回は、アニソン系のアレンジャーさんもいらっしゃいますけど、私的にはかなりオシャレな楽曲だなって思ったので、もうちょっとゴリゴリのアニソンも歌ってみたいし、その曲でアニメのタイアップが取れたら嬉しいなと思います。
ーーでは、声優としての結城萌子は?
結城:私、アニメ作品としては、リアルなものが好きなんです。割と今は、異世界に飛んだり、非現実的なアニメが人気ですけど、私がかなり現実主義者なので、ファンタジーであっても、リアリティを感じる作品が好きなんですね。例えば、『ウテナ』も、胸から剣が出てきたりしますけど、登場人物の人たちはかなりリアリストで、綺麗なものだけを描こうとしている作品ではない。どうしても叶わないものがあるっていうこともちゃんと描いているし、夢だけじゃなく、ちゃんと現実も見せてくれている。全てが綺麗というよりは、割と泥臭い部分が垣間見える作品の方が心を寄せやすしですし、そういう作品に携わりたいですね。人間じゃないものとか、自分じゃないものになれるのが声優の一番の魅力だと思うんですけど、私はどこにでもいるような人物に感情移入して表現するっていうことをやってみたいなと思っています。
(取材・文=永堀アツオ/写真=堀内彩香)
■リリース情報
『innocent moon』
2019年8月28日(水)リリース
価格:¥1,500(+税)
<収録曲>
「散々花嫁」(作詞/作曲:川谷絵音、編曲:Tom-H@ck )
「さよなら私の青春」(作詞/作曲:川谷絵音、編曲: 菅野よう子)
「幸福雨」(作詞:川谷絵音、作曲:川谷絵音/ちゃんMARI 、編曲:ちゃんMARI)
「元恋人よ」(作詞:川谷絵音、作曲:川谷絵音、編曲:ミト)
全4曲収録
■配信情報
タイトル:「散々花嫁」
各配信サイトはこちら
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2019年9月3日(火)まで