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中屋敷法仁が柿喰う客の新作で“解散”に言及

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柿喰う客『御披楽喜(おひらき)』

柿喰う客の新作本公演『御披楽喜(おひらき)』が、9月13日より東京・本多劇場で幕を開ける。劇団結成13年目の彼らが今回演じるのは、恩師の13回忌に集う13人の男女の物語。“13”という不吉めいた数字と意味深なタイトルも含め、今回の公演について代表・中屋敷法仁に話を聞いた。

「いつか劇団の解散公演をやるならこのタイトルで、と決めていたものなんです」

と、のっけからドキリとすることを言う中屋敷。しかし、柿喰う客が今作で解散をするわけではもちろんない。

「“劇団”の話をやりたいなと思ったんです。今もう、劇団というものがもはや希少価値のある集団になりつつありますよね。今も劇団というものがある、それだけで作品を超える価値があるんじゃないか……そんなことを思っていたんですよ」

中屋敷自身も近年、2.5次元ミュージカルなど外部作品の演出を手がける機会が増え、劇団から離れた活動が多くなってきた。演劇活動を始めた頃とは環境が変わっていく中、改めて「劇団でやるべきこととは何か」を突き詰めて考えていくことが増えたという。そして今回、劇団にしか表現できないこととして考えたのが、“解散”。

「なぜなら、解散公演だけは劇団にしかできないものだから。例えば『レ・ミゼラブル』に“解散”はないですよね(笑)。劇団の唯一劇団たる所以は、“集合”なんです。“集まれ!”といって集まったのが劇団であるならば、解散する様まで考えるのが劇団ではないか。劇団というものにものすごく興味と確信がある今、劇団の一番最高のパフォーマンスは“解散”にあるんじゃないか、と。ひとつの集団が生まれ、集団がバラバラになっていく様……それがノスタルジズムに陥るのか、それともそこには新しいアヴァンギャルドなものが生まれるのか。そういう興味があります」

そうして出来上がったのが、とある美術大学でのかつてのゼミ仲間という“集団”の物語。本当の解散公演ではないが、過去の作品のセリフがところどころに散りばめられた劇団の総決算的作品になっているという。これは、東京公演に先駆け、兵庫県の「豊岡演劇祭」に招かれて『御披楽喜』を上演することも大きく影響しているとか。なぜなら豊岡演劇祭のディレクター、平田オリザこそが、かつて「今後脚本家、演出家としてどうやっていけばいいですか」と問うた中屋敷に「劇団を作ること」と答えた張本人だから。

「当時2000年代の初頭だったので、なんでこんな古臭いことを言うんだろうと思ったんです。劇団なんてこれから崩壊していくんですよ、これからは作品と演出家の時代、俳優の営業の時代になってきますよなんて偉そうなことを言ったんですよね。でもオリザさんが言ったのは“だからこそ、劇団をやるんだよ”と」

劇団というものに理想を抱いたスタートではなかった、だからこそ劇団の価値を客観的に問うことができたのかもしれない。劇団継続の危機もあったが、その都度周囲の人たちから改めてその価値を知らされることもあったという。そして劇団を続けて13年目、そんな大きなきっかけを与えてくれた“心の師”とでも言うべき存在が手がける演劇祭に、メインプログラムとして呼ばれた。だからこその“総決算”だ。

「2.5次元作品の場合は、いろいろな人の憧れや理想がある上での作品だから、幻想があっていいと思うんです。でも劇団はそういった幻想を捨て、“演劇とはなんぞや”という核に迫れる場所」と語る中屋敷。彼の“劇団でしか表現できないこと”をぜひ、劇場で確かめてみようではないか。

取材・文:川口有紀