「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ある船頭の話』
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リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週はかつてオダギリジョーに憧れ独特な服装に挑戦するものの、すぐに無理だと悟ったファッション漂流者・石井が『ある船頭の話』をプッシュします。
『ある船頭の話』
俳優として数々の映画・ドラマに出演し続け、唯一無二の存在として輝き続けているオダギリジョーさん。その初長編監督作が本日より公開となる『ある船頭の話』です。
映画を観始めるようになった高校生の頃、「この役者が出ている作品は追いかけよう」と思った1人がオダギリジョーさんでした。映画初主演作となった黒沢清監督作『アカルイミライ』。オダギリさん演じる仁村のやり場のない苛立ち、世間に対応できずズレを感じてしまうその姿に、「俺もそうだ!」と感情移入していたのを懐かしく思います。
以後、オダギリさんの出演作『血と骨』『パッチギ!』『メゾン・ド・ヒミコ』『スクラップ・ヘブン』『ゆれる』などを追いかけたことで、現在も日本映画界で活躍し続ける俳優やスタッフたちを知っていくことができました。ジム・ジャームッシュや、フェデリコ・フェリーニの映画を観るようになったのも、オダギリさんが好きだと公言していたからだったような気がします。狂気を感じるときもあれば、飄々とした柔らかさもあり、それでいて大人の色気もある。「本当に格好いい」と心から思える俳優の1人です。
そんなオダギリさんの初監督作品。おそらく、役者が監督をするという情報を見たとき、「本職じゃない人が……」と思ってしまった人はいると思います。実際、異業種監督というだけで持て囃され、実力が伴っていなかった人も少なくありません。しかし、ひとつはっきりと言えるのは、本作はそんな片手間で作られた作品ではないということです。紛れもなく、監督・オダギリジョーの本気、そしてそれに応えるキャスト・スタッフたちの思いが溢れ出ている骨太の日本映画となっています。
映画が始まった瞬間、その映像の美しさに息を飲まずにはいられません。櫂をくゆらせるように渡し舟を漕ぐ船頭。川を取り囲む木々の深い緑。日本の失われた原風景がこれでもかと映し出されていきます。撮影を担当したのは、『花様年華』『ブエノスアイレス』など、ウォン・カーウァイ作品のカメラマンで知られる名匠クリストファー・ドイル。ロケ地も日本であり、監督・キャスト陣も日本人にも関わらず、どこか中国映画のような、異国情緒を感じさせます。
物語の主人公は船頭・トイチ(柄本明)。山あいの河を渡す船頭である彼は、村と川向こうの町を行き来する人々の足として質朴な暮らしを送る。しかし、川上には巨大な橋ができあがりつつあり、トイチが渡していた人々も徐々に減っていく。そんな中、謎の少女(川島鈴遥)がトイチのもとにやってきて……というのが本作のおおまかなあらすじです。
おのずと物語の舞台はほぼ河原。登場人物もトイチを中心にわずかであり、スペクタクル要素とは無縁です。にも関わらず、徐々に変化していく風景、そして人々とトイチの会話、トイチの暮らしぶりに、映画後半には胸が締め付けられるような痛みを感じます。
利便性と経済合理性を追求した結果、今を生きる私たちの手からこぼれおちてしまったもの。そしてそこに取り残された名もなき人々。『ある船頭の話』は、私たちが失ってしまったかもしれない、あるいは気づくことができなくなってしまった問題が、刻みこまれていました。オダギリジョー監督の渾身の思いが詰まった一作、是非映画館の大スクリーンで観ていただきたいです。
■公開情報
『ある船頭の話』
新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:柄本明、村上虹郎、川島鈴遥、伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
脚本・監督:オダギリジョー
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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