タル・ベーラ「サタンタンゴ」初上映で来日、演出のポリシーや引退にまつわる心境語る
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会見に出席したタル・ベーラ。
「サタンタンゴ(4Kデジタル・レストア版)」の公開を記念し、監督のタル・ベーラが来日。本日9月14日、東京のシアター・イメージフォーラムで行われた会見に出席した。
クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を映画化した「サタンタンゴ」は、全編約150カットの長回しで構成された7時間18分に及ぶ大作。製作から25年の歳月を経て、このたび4Kデジタル版として劇場初公開される。
第69回ベルリン国際映画祭でプレミア上映されて以降、欧米やアジアなど世界各地で披露されてきた本作。タル・ベーラは「どんな宗教でも、どんな肌の色でも関係なくこの作品を受け止め、同じように理解してもらえています」と反響に触れ、「理由はわからないけど、この作品の中に根本的な“何か”を皆さんが感じるのかもしれません」と分析した。
また彼は、長回し撮影の中で役者を演出することについて「彼らの個性を限定してしまうし、自分のビジョンと相容れない」と否定的な見解を示す。「サタンタンゴ」の人々が酒場で踊るシーンでは、演者たちに実際に酒を飲んでもらったという。「みんな酔っ払いに近い状態で自由にやってもらいました。その中で何が起きるかアプローチしたら、ワンテイクでいいものが撮れて自分でも驚いた」と振り返るタル・ベーラ。「自分で演出するより100%よかったと確信しています。自由であることは、力でもある。人は自由であれば花咲くことができるし、そこに存在することができると考えています」と自身のポリシーを堂々と伝えた。
2011年製作「ニーチェの馬」を最後に監督業を引退したタル・ベーラ。1977年に22歳で初めて作品を発表し、30年以上にわたり長編映画を手がけた。「1作ごとに新しい問いが生まれ、より深く掘り下げてきました。そして1作ごとに自分の映画的言語を見つけることができました」と噛み締めるように語る彼は、「ニーチェの馬」を制作した頃には引退を決めていたという。「引退の準備はできていました。伝えたいことは、映画の中で言い尽くしていたから。作ったものを皆さんと分かち合い、それをすべて行った時点で過去のものになる。あとは皆さんにおまかせして、自分は扉を閉めました」と当時の心境を説明。引退後も、映画学校を創設して教育者として後進を育成するなど活動的な彼は「クリエイティビティをあきらめたわけではありません。やりたいこともたくさんありました。ただ、ストーリーテリングはもう終わりにしたのです」と強調した。
「サタンタンゴ(4Kデジタル・レストア版)」はシアター・イメージフォーラムほかで上映中。