『ノーサイド・ゲーム』ラグビーシーンは映画的スペクタクルを獲得 今までの池井戸潤作品との違い
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TBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』の最終回が今夜放送される。
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大手製造メーカー「トキワ自動車」の中堅サラリーマン・君嶋隼人(大泉洋)が左遷人事で地方の工場に総務部長として赴任し、トキワ自動車ラグビーチーム「アストロズ」のゼネラルマネージャーを兼務することに。低迷するラグビー部と出世の道を絶たれた君嶋の、再起をかけた戦いを描く本作。
『半沢直樹』や『ルーズヴェルト・ゲーム』、『陸王』などこれまで数々の作品が実写化されてきた池井戸潤原作とあって、放送前から視聴者の期待も集まっていた。本作は、これまでの池井戸作品と比べ、一歩先へ行くものになっていると、ドラマ評論家の成馬零一氏は語る。
「日曜劇場に限らず、池井戸作品は、時代ごとに変遷が見えます。『半沢直樹』の時は人と人とのぶつかり合いをストレートに描いていました。演出も、顔のアップをぶつけ合う画が多かった。それが『陸王』あたりから、悪役の描写もニュートラルになってきて、群衆の描写が増えて群像劇の様相を呈してきました。『ノーサイド・ゲーム』も人がたくさん映りますよね。ラグビーの試合を撮るためのロケも大変だし、エキストラも揃えなければいけないからコストがかかるのですが、手間暇かかっているだけあって、映画的なスペクタクルのある映像に仕上がってます」
これまでの池井戸作品同様、企業の悪しき体質に個人が立ち向かう本作。ドラマは大泉洋が演じる君嶋がサラリーマンとして再起する姿とともに、低迷するラグビー部も立ち上がるべく、白熱した試合の臨場感と、ラグビーというチームスポーツを軸にしたシーン展開が話題に上がっている。
「チーフ演出の福澤克雄が、学生時代にラグビー選手だったこともあり、勘所が分かっているなぁと思います。屈強な男をかっこよく見せるというのは、近年の筋トレブームなどにもつながっていると思います。屈強な人たちをかっこよく見せるのは、なかなか難しく、どうしても悪役っぽく映ってしまう。それは、これまでのドラマにおいては細い人が中心になるようキャスティングされ、屈強な人たちは脇に追いやられていたためです。このドラマは、あえて彼らを真ん中に持ってきて、かっこよく描いている。さらにそれが悪い意味での“体育会系”になっておらず、知的な部分をしっかりと出せているのもポイントだと思います。
また、アストロズが一番重要視しているのは、どれくらい試合に人を呼べるかという興行です。ただ優勝すればいいのではなく、企業としていかに利益を上げるかを描いている。そこがサラリーマン層にも支持される点だと思います。少年漫画と青年漫画でスポーツの描き方が違うように、大人向けのコンテンツになると、“いかにして生活の糧にして生きていくか”という問題を避けて通れません。『ノーサイド・ゲーム』は、『ルーズヴェルト・ゲーム』や『陸王』のように、スポーツと企業ものが連携した路線に続くドラマではあるのですが、フィジカルにも寄らず、頭でっかちにもならず、バランスよくここまで進んでいると思います。例えば、『下町ロケット』などは、昔ながらの根性論的な働き方が賛否を呼んでいました。それが本作では、大泉洋が演じる主人公の効果もあり、少し理性的に描かれています。昭和的なものから、やんわりと世代交代してきている感じはありますね」
日曜劇場初出演で初主演となった大泉洋。放送前からこれまでの池井戸作品の主人公像とは、一風変わった配役に注目が集まっていた。
「大泉洋が、体育会系の人たちの中に1人経営者目線でいることが良い方向に働いています。これまでの池井戸作品は、阿部寛や役所広司など“強いお父さん像”を主人公としてきました。一方で、大泉洋は団塊ジュニアの象徴で、世代がちょっと変わってきているんです。嫌なやつでもないし、かといって善良な人でもない。どこか情けない存在でもあって、松たか子が演じる奥さんとの関係が面白い。奥さんの設定も良妻賢母なわけでもないし、悪妻でもない。この2人の関係性は、これまでの池井戸作品には見られなかったものです」
先週の放送では、君嶋がカザマ商事買収を推し進めようとした滝川(上川隆也)を糾弾することに成功。なんとかラグビー部存続を勝ち取れたかに見えた矢先、新しく常務に就任した君嶋のかつての上司・脇坂(石川禅)から横槍が入る。最後に、最終回の注目ポイントについて同氏は以下のように語った。
「実は、ドラマと小説版とでは構成が変わっているんです。ドラマは松たか子さんのナレーションで物語を引っ張っていますが、原作ではほとんど出てこない存在だったり、滝川が更迭されるのは、原作だと中盤で起きるイベントで、ドラマのようにギリギリまで引っ張っていないんです。池井戸作品は、原作準拠のイメージが強いのですが、実は『半沢直樹』も現代に合わせるために調整を施しており、その変え方にこそ、作り手の個性と時代性が出ているように思います」
(取材・文=安田周平)