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『記憶にございません!』、大ヒットスタート ターゲットはバブル世代!?

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リアルサウンド

 先週金曜日に公開された『記憶にございません!』が好スタートをきった。初日から9月16日(祝)までの4日間の累計で動員は64万6000人、興収は8億1900万円。土日2日間の動員は35万7000人、興収は4億5800万円で、週末動員ランキングで堂々初登場1位を獲得。これは、三谷幸喜監督の映画作品として前作にあたる『ギャラクシー街道』との興行比で169%という成績。1997年に『ラヂオの時間』で映画監督としてデビューして以来、全作品で脚本も手がけながら着実にヒットメイカーの道を歩み、2006年の『有頂天ホテル』は興収60.8億円を記録。以降も『ザ・マジックアワー』、『ステキな金縛り』、『清須会議』とヒット作を重ねてきた三谷幸喜が、累計興収13.2億円に終わった2015年の『ギャラクシー街道』を経て、4年ぶりの新作で見事にV字回復を果たしたかたちだ。

参考:三谷幸喜、不敗神話崩壊!? 『ギャラクシー街道』にファンからも失望の声

 公開初日の9月13日には、早朝から深夜までフジテレビで放送されるすべての番組にプロモーションで出演するという、作品の製作を手がけるフジテレビとの相変わらずの蜜月ぶりも目立つ三谷幸喜。そもそも、今回の作品の日本の首相が主人公という設定自体、1997年にフジテレビで放送された『総理と呼ばないで』で一度チャレンジしたもの(ちょうど映画監督デビューをしたのと同じ年の作品だというのも興味深い)。当時の三谷幸喜といえば、『振り返れば奴がいる』『古畑任三郎』『王様のレストラン』(いずれもフジテレビ系)が立て続けに高視聴率をあげて、テレビドラマ脚本家としての人気がピークだった時期。そこで三谷幸喜が田村正和、西村雅彦ら『古畑任三郎』の主要キャストと再び組んだドラマが『総理と呼ばないで』だったが、初回の22.6%から回を追うごとに視聴率が低下し、一桁台を記録することもあった。少なくとも当時は「政界コメディ」というテーマは大衆から受け入れられなかった。したがって、今回の『記憶にございません!』のプロモーションで三谷幸喜は本作が13年前から構想していた作品と語っているが、22年前の『総理と呼ばないで』の雪辱戦というアングルから語ることも可能だ。

 『総理と呼ばないで』と『記憶にございません!』の主人公、つまり内閣総理大臣の共通点を挙げるなら、政治家としては優秀ではないが(そもそも今作の場合は記憶がないという設定なのでそれどころではないが)、根っからの悪人ではないというところ。もっとも、この「優秀ではない」が「悪人でもない」という設定は内閣総理大臣を主人公にした作品をコメディとして駆動させるための三谷幸喜にとっての必要条件のようなもので、今作を観た安倍晋三と三谷幸喜とが対談をおこなっていたり、大学の先輩後輩の関係でもある安倍晋三と主演の中井貴一に以前から親交があったりする事実はあるものの、そこに作劇の都合以上の意図はないだろう。

 興味深いのは、本サイトもデータ提供を受けている興行通信社が「50代以上を中心に幅広い層を集客しており、腰の強い興行が期待される」(http://www.kogyotsushin.com/archives/topics/t8/201909/17171800.php)としていること。90年代から三谷幸喜脚本のドラマに親しんできた世代からすると、三谷幸喜作品に「年配の観客向け」というイメージはないのだが、そんな自分も気がつけば50代目前。観客の年齢層の上昇もごく自然の流れとも言える。まるで地球上でお台場だけ90年代が続いているかのようなフジテレビのお祭り騒ぎ的な作品のプロモーションも、バブル世代とされるその層にとってはまだ一定の効果があるのだろう(自分は民放局の成り立ち及びその社会的役割からは逸脱していると考えているが)。

 三谷幸喜監督と主演の中井貴一は現在58歳の同学年。彼らと同世代の観客に支持されている『記憶にございません!』の成功をふまえると、前作『ギャラクシー街道』は宇宙を舞台にしたコメディという題材が受け入れられなかっただけでなく、そもそもの想定ターゲットが三谷幸喜作品の観客の中心となる年齢層とズレていたことも大きかったのではないだろうか。今後も「数年後のシニア層」の興味やテイストと寄り添う限り、「三谷幸喜作品は安泰」ということかもしれない。(宇野維正)