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『なつぞら』ヒロイン・なつの埋まらない孤独 視聴者の話題に上がった言動を振り返る

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 歴代朝ドラヒロインやイケメンが多数登場したり、ついには大泉洋の出演も発表されたことで「TEAM NACS」がコンプリートされたりと、何かと話題に事欠かない第100作目朝ドラ『なつぞら』(NHK総合)。

【写真】『半分、青い。』鈴愛の“天真爛漫女子”の毒

 戦争で親を失い、兄妹と離れ離れになったヒロインが健気に生きる「王道朝ドラ」で「朝ドラの集大成的作品」とも言われる。

 しかし、その一方で、広瀬すず演じるヒロイン・なつには反感の声も多数ある。一体なぜなのか。いくつかのポイントから振り返ってみたいと思う。

 まずときどき指摘されてきた、なつの「お礼を言わない」問題。日本人は、誰かに親切にしてもらったときなど、お礼を言うことを幼い頃から躾けられることが多いだけに、「お礼を言わない」行為には違和感を覚える傾向があり、朝ドラではときどき反感を買う。

 子役時代のなつが、お世話になっていた柴田家にお礼も言わずに立ち去ったことについては、幼さと、親を失って一人で生きる野生動物のような必死さがあっただのだろう。

 しかし、天陽(吉沢亮)に会いに行く途中、吹雪の中で倒れ、阿川親子(中原丈雄、北乃きい)に助けられたときもお礼を言わなかったことには非難の声も多数あった。

 さらに、視聴者の間で大いに話題になったのは、娘・優(増田光桜)が咲太郎(岡田将生)の会社でなつの帰りを待つようになり、おやつをくれる光子(比嘉愛未)に「ママがありがとうと言っちゃダメと言ったから」と言った場面。それに対して光子は「感謝の気持ちは人間の基本。ありがとうは言わなくてはダメよ」と伝え、なつの教育方針に疑問を抱いていた。

 これは、もしかしたら子どものなつに育ての母・富士子(松嶋菜々子)が「親子なんだから」と言った言葉が受け継がれている、つまり、「親子の間では水臭いから、わざわざ言うことではない」という部分とつながるのかもしれない。しかし、子どもにはその言葉の前後のつながりがわからないため、言わんとしたことが伝わらず、単に一つのルールとして覚えてしまうということは、実際にある。

 そう思うと、ここには親子のすれ違いのリアルな描写があったのかもしれない。しかし、『半分、青い。』が度々「後出し」と指摘されてきたように、今は視聴者がスピーディーに答えを求める向きがある。「伏線」の張り方・回収の仕方のタイミングが、今の視聴者のスピード感と合うかどうかは、難しい時代になっているのかもしれない。

 また、なつについてときどき指摘される「ドライさ」の問題。一つは天陽が死んだときにすぐに会いに行かなかったこと。また、途中まで妹のことを思い出す場面は全くなかったのに、上京後に唐突に思い出し、必死で探し始め、暗く沈んだ様子を見せたこと。さらに9月17日放送分の妹が作った両親の「天丼」の味についても、母親の存在はこれまで全く思い出されていなかったことなど、ところどころで「薄情」という指摘がされる。

 もちろん描かれていない場面で心配したり、思い悩んだりしているのだろうが、なつには何かと言葉足らずな面がある。実はこれは「お礼を言わない」問題と同じで、なつをよく知らない者(視聴者)からすると不思議に思える部分もある。

 しかし、このドライさは、幼少時のなつに「よう言った! それでこそ赤の他人じゃ!」と言い放った泰樹おんじ(草刈正雄)にも通じる部分があるのではないか。

 根っこの部分に温かさを持ちつつも、ベタベタしない。他者を自分の尺度で「かわいそう」などと決めつけず、一人一人が自分の足で立ち、自分の力で道を切り開いていくことを示す「開拓者精神」によるものなのかもしれない(※とはいえ、泰樹はなつには常にデレデレだったわけだが)。

 そして、なつの性格に対する批判として一番多いのは、なつが常に「周りに甘やかされてばかり」「みんなに助けられて順風満帆にいきすぎ」という指摘。

 確かに柴田家では実の孫たちよりも泰樹に溺愛されていたし、アニメーターとしては周りが常に助けてくれたり評価してくれたりしていたし、子育てでは同じ女性アニメーターだった茜(渡辺麻友)が、自身は仕事を辞めたのに、なつの娘・優を引き取って世話をしてくれるし……と、本当に周囲の人々に恵まれている。しかも、いずれの場合も、なつが誰かに頭を下げてお願いしたり、甘えたり、頼っていたりするわけではない。それが一部視聴者には「ご都合主義」に見え、「姫」などとも言われる。

 でも、実はこれこそが孤独のリアルなのではないかとも思う。戦災孤児であったことから、幼少期に嘘をついたり、人の顔色を見たりして生きてきたなつは、たくましさと共に孤独を常に抱え、完全に誰かに寄り掛かることができない。

 結果的には、夫が家事・育児をやってくれるし、職場でも周りに助けられてばかりなのに、自分からはSOSを出せない。いつも必死で、一人で立とうとする。そして、「SOS」が出せない人は、誰かに甘えたくない、自分の力で何とかしたいと思っているから、ひとに助けられたときに必要以上に罪悪感を抱いたり、バツの悪さを感じたりしてしまって、その思いが先立ち、素直にお礼が言えないのだ。

 しかし、逆に、そういう人だとわかるからこそ、周りは心配になるし、頼まれてもいないのに手を貸したくなる。こういう人、実は周りにもいないだろうか。

 人に素直に「助けて」を言える人と「ありがとう」を言える人は、実は周りを信じられる人、心が満たされた人ではないかと思う。そういう意味で、なつはいつも空虚感を抱えている。

 そして、それを埋めるために「自分がやりたいこと=アニメーション」に走っているわけで、それが自分勝手に見えるところはあるのかもしれない。

 ワガママ、自分勝手に見えて、実はこの上なく孤独を抱えたヒロイン・なつ。仕事も成功し、家庭も手に入れ、それでも埋まらない孤独が満たされる日は来るのだろうか。

(田幸和歌子)