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『アド・アストラ』初登場3位 国内映画興行におけるSF映画の可能性と限界

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リアルサウンド

 『記憶にございません!』が好調を維持し、2週連続で1位となった先週の映画動員ランキング。初登場作品としては最高位となる3位につけたのは、ジェームズ・グレイ監督、ブラッド・ピット主演の『アド・アストラ』。ランキングの集計対象となる土日2日間の成績では動員12万2000人、興収1億7300万円と2位『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』に後塵を拝した(興収では約200万円という僅差)ものの、公開日の金曜日から祝日を含む4日間の動員21万9000人、興収3億300万円という数字は、事実上の2位スタートとしていい成績だ。

参考:『記憶にございません!』、大ヒットスタート ターゲットはバブル世代!?

 『アド・アストラ』は興行分析的観点から大きく二つの位置付けが可能な作品だ。一つは、ブラッド・ピット主演のスター映画という位置付け。もう一つは、ハリウッド製作のオリジナル脚本による大作SF映画という位置付け。実際の作品内容は、近未来の宇宙開発を背景としたかなりパーソナルな作品ではあるのだが、それを大規模な予算と贅沢なキャスティングによって実現させた快挙に敬意を払い、ここでは「大作SF映画」とさせてもらう。

 まず、ブラッド・ピット出演作としてすぐに比較可能なのは、先月末に公開されて、現在もまだ公開中の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だ。公開スクリーン数も『アド・アストラ』の396スクリーンに対して320スクリーンとほぼ同じ規模。その『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はファーストウィーク土日2日間の興収2億2600万円だったから、『アド・アストラ』は77%。一見もの足りないようにも思えるが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』がギリギリ夏休み興行にも重なっていたこと、ブラッド・ピットのスター映画であるだけでなくレオナルド・ディカプリオのスター映画でもあったこと、そしてクエンティン・タランティーノという現在のハリウッドでは数少ない日本でも広く知られているスター監督の作品であったことなどをふまえると、かなり健闘していると言っていいだろう。また、これは日本だけではなく世界的な現象だが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』における名演によってブラッド・ピットの役者としての再評価の機運が高まっていることも、『アド・アストラ』の興行に少なからず好影響を与えたに違いない。

 続いて、『アド・アストラ』の大作SF映画としての側面について。『スター・ウォーズ』シリーズのようなSFというよりもファンタジー寄りの作品や、マーベル映画やDC映画などのスーパーヒーロー作品は固有のファンベースを持つので除外すると、近年の大作SF映画として思い浮かぶのは、『エリジウム』(2013年)、『ゼロ・グラビティ』(2013年)、『インターステラー』(2014年)、『チャッピー』(2015年)、『ジュピター』(2015年)、『トゥモローランド』(2015年)、『オデッセイ』(2015年、日本公開は2016年)、『メッセージ』(2016年。日本公開は2017年)、『パッセンジャー』(2016年、日本公開は2017年)、『ライフ』(2017年)、『エイリアン:コヴェナント』(2017年)、『ブレードランナー 2049』(2017年)あたり。また、SF映画ではなく伝記映画ではあるが、今年公開された『ファースト・マン』は、宇宙開発ものという『アド・アストラ』との共通点を持つ作品だった。

 ここに挙げた作品で、日本で興収30億円を突破したのは『ゼロ・グラビティ』(32.3億円)と『オデッセイ』(35.4億円)の2作品のみ。他は、20億円台はおろか10億円台後半(興収15億円以上)をクリアした作品もなく、ほとんどの作品は10億円にも届いていない。SF映画全盛の80年代を劇場で体験してきた一人としてはつい嘆きたくもなるが、現実として、現在の日本で大作SF映画はいくら当たっても興収35億円あたりが上限で、それも数年に1本出るかどうか、ということがわかる。

 『アド・アストラ』の初動成績、及び賛否にはっきり分かれている日本の観客の評価をふまえると(ちなみに自分は「絶賛」の立場だ)、興収10億のラインは狙えるものの、10億台後半にはまず届かないだろうという情勢。近作でいうと、『インターステラー』、『トゥモローランド』、『ブレードランナー 2049』あたりと同程度ということになる。これは、前述した作品内容をふまえると、やはり健闘と言っていいのではないだろうか。製作費がかかるわりには、大ヒットが出にくい現在のSF映画の置かれている状況は、日本だけでなく世界的に厳しいものとなっている。ましてや、『アド・アストラ』のように(その才能は突出しているものの)あまり知名度のない監督によるオリジナル脚本の新作は、もはやその存在自体が奇跡と言っていい。実際、本作もアメリカの20世紀フォックス本社がディズニーの傘下になったことも影響して、本国で公開が8ヵ月以上先送りになるという不遇な扱いを受けてきた(もし撮影のタイミングがもう少し後ろにズレていたら、ディズニーによって製作がキャンセルされていたかもしれない)。近年はNetflixが積極的にSF作品を作っているが、やはりSF作品は大きなスクリーンで観たいもの。ジャンルのファンとしては、できるかぎりの応援をするしかない。(宇野維正)