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TK from 凛として時雨×ヨルシカ特別鼎談 3人が語り合う、音楽や創作に向き合う姿勢

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 TK from 凛として時雨がデジタルシングル「melt(with suis from ヨルシカ)」を発表する。タイトル通り、ヨルシカのボーカリストであるsuis(スイ)をゲストに迎えた一曲で、今年発表された2枚のアルバム『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』がともにロングセールスを記録しつつも、詳細なプロフィールは公表せず、謎めいた存在であるだけに、TKとのコラボレーションは大きな話題を呼んでいる。しかも、「melt」はTKの楽曲では初めて打ち込み主体の仕上がりになっていて、その意味でも、かなりのチャレンジだったはず。そこで、TKとsuisに加え、凛として時雨を学生の時によく聴いていたというヨルシカのブレーン・n-buna(ナブナ)も交えて、楽曲制作の裏側やsuisの魅力、創作に対する姿勢について語り合ってもらった。(金子厚武)

(関連:サカナクション、Base Ball Bear、凛として時雨…クリエイティブな女性ベーシストの現在地

■「ヨルシカはバランスが独特というか、類稀な感じ」(TK)
――今回はシングル曲「melt」でTKさんとコラボレーションをしたsuisさんとともに、凛として時雨を学生の時によく聴いていたというn-bunaさんにも来ていただきました。

TK:自分たちの音楽をよく聴いてくれてるのはもうちょっと上の世代のイメージで、n-bunaくん世代が聴いてくれてるっていうのはあんまりわかってなかったので、びっくりしてます。

n-buna:僕の周りには凛として時雨が好きな友達がすごく多くて、高校生くらいのときによく聴いてた僕ら世代が、音楽をやり始めて、今やっと世に出てきたのかなって。特に、僕の周りにいるギターキッズは時雨好きが多くて、「類は友を呼ぶ」みたいな感じだったんだと思います。

TK:「ボカロ」っていうジャンルで括っていいのかはわからないけど、そういう音楽を聴いているイメージで、僕らみたいな……荒くれたロックっていうか(笑)、そういうのを聴いてる感じはあんまりしなかったんですよね。ヨルシカに対して、僕はまず透明感があるのがいいと思って。あと、こういうジャンルって、隙間を埋めていく方向で構築する音楽が多い印象だったけど、ヨルシカは一曲の中の音のバランスがすごく上手く取れてるなって。空間を大事にするのって、すごく難しいんですよ。埋めてしまった方が、アレンジとしてはやりやすい。でも、ヨルシカはバランスが独特というか、類稀な感じがあるなって。

n-buna:嬉しい……ありがとうございます。

suis:(n-bunaを見ながら)あまり見ない感じの喜び方を……堪え切れてないよ(笑)。

――suisさんの歌声の魅力についてはいかがですか?

TK:匿名性というか、神秘性がまず魅力的だなって。suisさんの歌声は僕の中で、悪い意味ではなく、青さがあって、でもその中に淀みとか影が共存してる感じがした。ヨルシカの楽曲全体の感触としては、透明感があって、光と同時に影の部分も感じて、それは歌詞もそうですけど、ボーカルにも表れている気がして。これが実際彼女の持っているものなのか、n-bunaくんが付け足したものなのか、飛び込んでみないとわからない部分もあったけど、僕の楽曲にこの声が入ってきたときに、「ちょっと思ってたのと違うな」って思ったとしても、それがいい方向に行けばいいなって。

――これまでsuisさんと直接的な面識があったわけではないですもんね?

TK:そうですね。これまで誰か女性ボーカルを入れるときは、自分がずっと聴いてきた方にお願いしてたんですけど、今回は逆に、「今この人とやったらどうなるんだろう?」っていう、瞬発的なコラボレーションというか。楽曲自体も、「アルバムに向けて」とか「シングルのタイアップで」とかじゃなくて、「ツアーに向けて、ライブでやる曲を作ってみようかな」っていう、ある種一番ピュアな曲作りで、楽曲ができていく中、自分も予測できないものにチャレンジしたくなってきて。なので、僕自身レコーディング当日までどんな人が来るかもわからない状態だったんです。

――オファーを受けたsuisさんはどう思いましたか?

suis:びっくりしました。マネージャーさんからお話を聞いて、「どうして私なんでしょう?」って、聞き返したくらい。

n-buna:その頃ヨルシカの予定もちょこちょこ入ってたので、会う度に、「TKさんのことがこんなに好きなのに、何で僕じゃなくてsuisさんなの?」ってずっと言ってて(笑)。

suis:怖かったです(笑)。だから、最初は正直「自分でいいのかな?」って思って。歌い手としての歴も浅いですし、不安もあって、レコーディングスタジオにお邪魔したときも、最初の1時間は、借りてきた猫みたいだったなって(笑)。

n-buna:でも、できた音源を聴いたら、すごくいいものになっているなと思いました。完全にTKさんと調和してて、「suisさん、こういう歌い方もできるんだ」って。彼女はめちゃめちゃ器用な人だから、雰囲気とか歌い方を飲み込んで、寄せに行くことができるタイプで、ただのTKさんの歌真似じゃなく、コーラスのごとく調和してて、よかったなって。

suis:「器用」ってよく言ってくれるんですけど……私はただ歌っただけです。

n-buna:suisさんは楽曲に引っ張られるタイプだと思います。

TK:「この楽曲はこうだから、喉のこの部分を使おう、鼻を通そう」みたいな、そういうテクニックではなくて、ホントに自然に吸い寄せられてる感じはしました。最初にレコーディングで歌を聴いたら、「(ヨルシカのときと)全然違うじゃん」って思って(笑)。それは悪い意味ではなく、その曲の持ってる言葉や音の質感に彼女が自然とアジャストしてくれた感じがあって、最初から声色としてバッチリでした。

n-buna:ヨルシカの楽曲作りでも同じような感覚で、彼女は役に入って歌ってくれるタイプで、僕が今作りたい音楽も、登場人物がいる、物語的な音楽だからこそ、めちゃくちゃ助けられてるんですよね。僕は「才能」っていう言葉は嫌いなので、悔しいですけど、でもこれは才能、センスなんだろうなって。

TK:ヨルシカのボーカルレコーディングにn-bunaくんは立ち会わないんですよね?

n-buna:今は完全に任せてます。初期は立ち会ってたんですけど、のびのびと、自由にやらせるには、その方がいいかなって。自分の意志が介在しない方が、どう転ぶかわらないから、後から聴いて、意外性のある音源になってるのが楽しいっていうのもあって。そういう意味でも、器用というか、ちゃんと「この曲にはどういう歌がいいのか」を、客観的にわかってくれてるのかなと思います。

TK:suisさんは「n-bunaくんが欲しいのはこういう声かな?」とか思ったりするんですか?

suis:私は好きに歌ってるだけで、「いいよ」って言ってもらってるので、子供が遊びで歌ってるみたいな感じです(笑)。もちろん、私だけじゃなくて、ディレクターさんやエンジニアさんと一緒にレコーディングをするので、私がわからなくても、2人がn-bunaくんの欲しいものをわかってるときもあって。

n-buna:2人とも1st(『夏草が邪魔をする』)からずっとお願いしてる方で、その人たちに軽くイメージを伝えつつ、レコーディングに臨んでもらってるので、上手くコミュニケーションを取ってやってくれてるなって思います。

TK:僕で言ったら、345のレコーディングを自分がいないところでお願いするってことですが、僕にはそういう考え方はほぼないですね。それは不安だからで、「自分がディレクションしなきゃ」って思っちゃうけど、立ち会わずに、それで何が生まれるか楽しみって思えるのは、凄く羨ましいです。

n-buna:僕は自分が音楽を楽しむためだけにやっているので、最初はちょっと不安でしたけど、信頼があるからこそ、できることかなって。センスがないと思う人だったら、絶対任せないですけど、suisさん、ディレクターさん、エンジニアさん、3人ともセンスがあると思うから、今は完全に任せています。

――「melt」のレコーディングでは、どんなやりとりがあったのでしょうか? 最初は借りてきた猫状態だったとのことですが(笑)。

TK from 凛として時雨 Digital Single「melt (with suis from ヨルシカ)」 Music Video
TK:今回のコラボレーションは、周りに人がたくさんいて、ガチガチにやっちゃうとよくないと思ったので、マネージャーとかには頭だけいてもらって、あとは2人でやりとりをしながら作っていって。

suis:本当に助かりました。

TK:すごく刺激をもらいましたよ。長くやられている方とご一緒するのももちろん刺激的ですけど、suisさんは今まさに立ち上がろうとしているボーカリストの、天性のものが生まれる瞬間を見ているような感じがあって。自分自身、こういう声が出るって思ってないまま歌ってる感じがしたから、今後もいろんな人とコラボをすることで、ヨルシカとしての表現の幅も広がる。そういう可能性を秘めたボーカリストだなって。

suis:ありがとうございます。自分は音源を出している数も他の方と比べて少ないですし、まだ実績も出してない。そんな未知数の私を大事な作品に使おうと思ってくれたのはすごいなって……。自分は今回、鉄砲玉だったと思うんです(笑)。自分でも何をしでかすかわからないし、どんな力が出るかわからない。

TK:鉄砲玉にもいろいろあると思うんですけど(笑)、どれを選ぶかは、瞬間のセンスというか。ヨルシカのことはちょっと前にマネージャーから聞いたんですけど、たまたまうちのインディーズのときの担当が今ヨルシカを担当していて、そういう偶然があったりすると、「もしかしたら呼ばれてるかも?」って思う瞬間があるし、お誘いできるところまで行くかは、結構自分の中で見定めてて。どうなるかわからないとは思いつつ、実はちょっとした確信が自分の中ではありました。

■バンドで培った“処女性”を捨てて、別の女性として声を出すイメージ(suis)
――サウンドに関しては、TKさんの楽曲でここまで打ち込み主体で作られたものは珍しいですよね。

TK:さっきもお話ししたように、今回はふと楽曲を作ってみたいと思ったので、タイム感的にCDを出すのは難しくて、配信リリースをしたいって話をしたら、配信だとそんなに予算が組めないと。だったら、ピンチはチャンスじゃないけど、一回自分の手の届く範囲で完結させてみようと思って。「生ドラムは録らない」って決めたときに、自分がどういう音を作るのか、自分自身知りたいっていうのもあったり。これまで生バンドの中にプログラミングが入ってることはありましたけど、最終的に生にしないのは初めてですね。打ち込みのドラムを聴いてると、「お前が3分後に叩くフレーズを俺はもう知ってる」って気持ちになっちゃって、生ドラムにしたくなっちゃうんですけど(笑)。

――気持ちはわかります(笑)。

TK:今の時代、リスナー側は「打ち込みでも生でもどっちでもいい」という人も多いと思うんですけど、自分がどう思うかって、音楽の中で一番重要なところなので、今回はあえて無機質なものにして、温度感は言葉で出す方に振ってみて。なので、自分の中では「配信」だからこその、いろんな要素を含んだチャレンジですね。

――「音源は打ち込みで、ライブは生で」っていうのは、現代的ではありますよね。

TK:そうですね。サポートメンバーから「どうすればいいの?」って、連絡が来てます(笑)。曲にもよりますけどトム・ヨークのソロは音源が全部打ち込みで、ライブでは生になって、全然違う楽曲に聴こえたり、最近そういうアーティストも多いと思うんですけど、僕はやってこなくて。どちらかというと、CDを作るときにベストを尽くしてるので、それをやりたいっていう気持ちでした。なので、今回は自分でも「どうしよう?」って思ってるんですけど。

n-buna:僕、The 1975が好きで、彼らも今は打ち込みっぽい要素を取り入れてますけど、ライブは生バンドですよね。この間『SUMMER SONIC』で観て、めちゃくちゃよくて。もともとは1stアルバム(『The 1975』2013年)らへんのインディロックな感じが好きだったんですけど、最近の曲がライブで再現されたときの感動はすごかったですね。

TK:音源を打ち込みで作って、それを生に落とし込むのって、危ないところもあると思うんです。ライブを観て、「生になると、こんなにいいんだ」ってなるアーティストは、実は相当いろんなバランスを取っていると思うんですよね。まだ今の段階ではいつライブで披露できるかわからないですけど、自分はライブアレンジは初めてのチャレンジなので、「こんな風に有機的に変わるんだ」っていうのをちゃんと見せたいなと思います。

――suisさんは「melt」の歌詞をどのように捉えて、どう歌に還元させましたか?

suis:ヨルシカにはまずありえない歌詞だったので、バンドで培った“処女性”みたいなものをかなぐり捨てて、別の女性として声を出そうっていう、ざっくりとしたイメージはありました。あとは、すでに入れてもらっていたTKさんの歌声と歌詞を体感して、そこに自分も入って行く。それこそタイトルが「melt」なので、曲の中に溶けるようなイメージで歌いました。

――ヨルシカのときは、処女性というか、ある種の純真さを意識してる?

suis:意識していると思うけど、意識しなくても、根が純粋なので……って自分で言うのもおかしいですけど(笑)。「役を演じる」部分も当然あるんですけど、根っこの部分ではそんなに意識せず、ありのままで歌っているので、純粋なものになってるかなって。なので、今回に関しては、背伸びをした感もあったと思います。

TK:ヨルシカの“少年と少女”って感じはすごくいいですよね。n-bunaくんがレコーディングに立ち会ってないっていうのを聞いてちょっと納得したんですけど、曲を作っているプロデューサーとボーカルという組み合わせの場合、ボーカルが強い意志を持っていない場合が多い気がして。でも、suisさんはそこがちょっと違って、音源を聴くと、しっかり意志を持っている感じがする。さっき「背伸びをした」って言っていたけど、今回の「melt」はもともとsuisさんが持っているものがより強く出ている気もして。無理してると感じたら、「もうちょっとこうして」って言ってたと思うんですけど、「むしろこれが素なんじゃないか」って感じもあって、そこが天性の勘なのかもしれないですね。「無理して、大人っぽくしている」声色ではなかったですし、Aメロから「入ってきてるな」って感じました。

ーーやはり、憑依型といいますか。

TK:だから、僕の音楽の中でsuisさんが生きている瞬間は、「むしろヨルシカのときに背伸びしてる?」とも思うし、でもヨルシカを聴くとやっぱりその中で生きてるsuisさんがいて。結果として双方の音楽の奥行きを作るというか、「どっちが本当なのかな?」って……どっちも本当なんですけど。

suis:そう言われると、自分の本当がどっちなのかわからなくなりますね……本当なんてないのかもしれない。

n-buna:いろんなタイプの曲を歌うボーカリストとして、理想的だと思います。

TK:カメレオンタイプもいろいろで、何でも歌える人って、「じゃあ、その人の色って何なの?」ってなりやすいと思うんです。その人自身は無色透明で、だからどんな曲にも馴染みやすいって人もいると思うけど、ちゃんとその人の色があった上で、全体を透き通らせてくれるって意味では、(suisさんは)類稀な方のカメレオンタイプだと思う(笑)。自分の色を持ちながら、相手の色にも合わせられるって、なかなかできないことだと思います。アクが強過ぎても、「その人が入った」ってだけになっちゃいますしね。

suis:ホントにありがたい言葉をいただけて……いい人生でした(笑)。

――最後に、これはちょっと深読みかと思うんですけど、様々な場面で大小の「分断」が起こっている現代において、フラットに作った楽曲のタイトルが「melt」だったというのは、ある種のメッセージ性を読み取ることもできると思ったのですが、いかがでしょうか?

TK:そういった時事的なものは意図的にメッセージには込めないですね。一番重要視してるのは、自分が今何を欲していて、何を伝えたいのか、なのでその中で生まれた言葉でしかないです。それが結果的に自然と聴き手の中でリンクしていくものだと思うので。「聴いてくれる人がいるから」とか言いたいものですけど、それって余裕がある人じゃないと言えないのかなって。もちろん、聴いてくれる人がいるからこそ、活動ができている側面はありますけど、「みんながいるから、この楽曲ができました」とは感じたことがないというか。誰もいなくても、この音楽は生まれてるはずだと思っていたいんです。もちろんそうやって生まれた楽曲が響いてくれる人がいるっていうのは、嬉しいですけどね。

n-buna:すごくわかります。いつも僕が言ってることと同じだったから、おこがましいですけど、自分と同じ面が感じられて、嬉しいです。僕は誰が聴いてなくても曲はずっと作り続けると思いますし、suisさんはその曲をヨルシカのフロントマンとして人に届ける意識でやってくれてると思うんですけど、根本的なところは同じだと思うんですよね。僕はヘンリー・ダガーという、イリノイ州のマンションで50年間一人で小説と絵を描き続けて、それが死後に発表された人をリスペクトしていて。これって創作のあり方としては一番美しいと思うんです。

――じゃあ、「melt」の歌詞に「ヨルシカ」が隠れているのも、シンプルにTKさんがやりたくてやったことだと(笑)。

TK:そうですね(笑)。

n-buna:あれは嬉しかったなあ。

suis:嬉しかった。粋ですよね(笑)。(金子厚武)