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さらなる変化と出会いを求めて。是枝裕和監督が語る新作『真実』

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『真実』撮影中の是枝裕和監督と俳優たち (C)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA / photo L. Champoussin (C)3B-分福-Mi Movies-FR3

是枝裕和監督の最新作『真実』が公開になる。本作は是枝監督がフランスに渡り、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらをキャストに迎え、初めて組む外国のスタッフと制作にあたった作品で、是枝監督がおし進めてきた“自身をオープンにして、壊して、さらに先へ進む”映画づくりの延長線上にある1作になった。

1995年に映画監督として歩きだした是枝監督はある時期から自分ひとりで緻密に考えて創作にあたるのではなく、自分を開いて、予期せぬ出会いや、不安定な要素を意図的に作品に取り込んできた。そのきっかけのひとつは、2011年公開の『奇跡』だという。

「あの時に“新幹線で何か映画を”って依頼を受けて(『奇跡』は同年春に九州新幹線が全線開通したことを機に企画された)、最初はこういうのもひとつの手かな、ぐらいの感覚だったんですけど、実際にやってみたらとても面白かったんですよ。もちろん惰性でつくってきたわけではないですけど、どうすれば自分が新鮮でいられるかは考えますし、ずっとオリジナルでやっていると自分が描ける人間や世界が何となくわかってくる。その状況を壊すにはどうしよう? と思ったりはします」

偶然か必然か『奇跡』が完成した後に是枝監督はフランス人女優ジュリエット・ビノシュから“何か一緒に映画を撮りませんか?”と提案を受けた。「社交辞令よりはもう少し強い感じで、その頃(彼女には)日本で撮りたい企画があったみたいなんだけど、それには乗っからずにかわしつつ(笑)どうせやるならフランスに行って撮りたかった。自分の制作の環境を変えてみようかなという気持ちがありました」

その後も是枝監督の“意図的な変化”は続いていった。福山雅治をキャストに迎えた『そして父になる』、吉田秋生のコミックを原作にした『海街diary』、名優・役所広司と対峙しながら完成直前まで苦しみ抜いて制作にあたった『三度目の殺人』、そして女優・安藤サクラ、撮影監督・近藤龍人から多大な刺激を受けた『万引き家族』……その間もフランスで新作を撮る構想が消えることはなかったようだ。是枝監督は「いつだったか忘れてしまいましたけど、フランス映画祭で来日していたフランソワ・オゾンに“君はフランスで撮っても成功すると思うよ”って言われて……真に受けちゃったって感じです」と笑みを浮かべる。

映画『真実』の舞台はパリ。自伝『真実』の出版を控える大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)のもとに、アメリカで脚本家として活動している娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)、その夫でテレビ俳優のハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘シャルロット(クレモンティーヌ・グルニエ)がやってくる。3人は自伝出版を祝うためにやってきたが、本を読んだリュミールはそこに“真実”が書かれていないことから母と衝突。さらにファビエンヌを支えていた秘書が職を辞してしまい、母と娘はいつも行動を共にすることに。長年に渡ってそれぞれが蓄積してきた不満、言えなかった想い、ウソ、演技、秘密、そして真実が家族の間を行き交う。

「最初からこの映画をフランス映画にしなきゃという強迫観念はなかったので“いつもやっている形をフランスで”が基本」と是枝監督は振り返る。しかし、完成した映画はこれまでの是枝作品とリズム、語り口、映像的な視点が大きく変化している。

「今回の映画ではこれまでの作品よりは人間と人間を“衝突”させているんです。日本人なら語らずに“…”だろうなという場面でも今回はセリフの数を少し多くして衝突させた方が自然だろうと考えて脚本を書いてます。それに日本語だと主語を省略したりしますけど、日本語からフランス語に翻訳する際に主語を戻して、時制も統一して……すごく言葉の数が増えるんですよ。ただ、カトリーヌ・ドヌーヴはすごく早口で、他の女優よりも同じ秒数で多くの言葉をリズミカルに音楽的にしゃべることができる。だからこのリズムは生かそうと思って撮影していきました。

大変だったのは編集で、撮影中に“これがOKテイクだな”というのはほぼ間違えずにジャッジできたと思いますし、ドヌーヴとビノシュは演技の組み立て方も、どのテイクで演技のピークがくるかも違うのでその見極めは丁寧にやったつもりですけど、そのテイクを編集で切り取っていくと、これが本当にベストだったのか、カットが変わるのは本当にこのタイミングでいいのか……編集の段階で改めて全部ジャッジしなおすことになりました。日本語でも“この言葉の途中でカットが変わると気持ち悪い”ってことがあると思うんですけど、僕はフランスの文法がわからないから、監督助手と通訳の方に観てもらいながら修正していって……そこでも映画のリズムは変化したんだと思います」

そして何よりも大きな変化は撮影に名手エリック・ゴーティエを招いたことだ。オリヴィエ・アサイヤス、アルノー・デプレシャン、レオス・カラックスらの作品を手がけ、近年はジャ・ジャンクーやアモス・ギタイなど海外の映画作家ともタッグを組む現代の映画界を代表する撮影監督のひとりだ。「エリック・ゴーティエの力は大きいですよね。言葉が通じないので、こちらの意図を伝えるために事前に画コンテを描いて渡してあって、彼はコピーを台本に貼って現場に来てくれたんですけど、芝居を見た後に“カメラをこうやって動かすと、この3カットはひと続きに撮れる”って。確かに日本家屋でそこまでカメラを動かしたら少し気になりそうなところが、まったくそんなことはなくて、カメラを切り返していないのに、ワンカットの中でカメラを切り返しているような画になっていて……これはすごいなと(笑)。だから、ある段階からそこは任せてしまいましたし、結果としてカット数がどんどん減っていったんです。だから今回は画家で言うなら“筆”を変えてみようという感覚ですよね」

国が変わり、俳優が変わり、言語が変わって編集のリズムが変わり、撮影監督によって“映画の語り”も変わった。「自分としては変わらない自分なんてなくてもいいと思ってやっていますし、カメラマンが変わるだけでこんなにも文体が変わるのか、など新しい出会いを新鮮に受け止めている感じです。だからこの先、どうやっていくかですよね。この映画もまだ“ファミリードラマ”の枠組みはあるわけで、それをとっぱらった時に何が残るのか? どこまで行けるだろう……ってほどの道を歩いているとは思わないですけど(笑)、次に一体、何を壊したら何が残るんだろう? それでも壊しきれないものは一体、何なのだろう? ってことは考えますよね」

映画監督の中にはキャリアをかけて、自覚的にひとつのテーマを追求する人もいるが、是枝監督は意図的に“縛り”や“固定化”を避け、変化し、スクラップ&ビルドを繰り返して“変化し尽くしても変化しないもの”を見つけようとしており、その流れの中に本作もある。この映画は海外で撮った“特別編”でも、外国で活動するための“足がかり”でもないのだ。

「そうです。僕の中ではこの映画は『万引き家族』よりも“真ん中”にある映画で、何年か経って振り返った時に“あそこで変化があったんだな”と思えるのはこの映画なんじゃないかと思っています。次へ向かう方向性を決めている作品。でも、それがどちらに向かっているかは……まだわからないんです(笑)」

『真実』
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