『蜜蜂と遠雷』映画化成功に導いた松岡茉優の演技力 『ちはやふる』とは異なる“天才役”に
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作品を重ねるごとにめきめきと女優の魅力を積み上げている松岡茉優。公開中の『蜜蜂と遠雷』では初の大作映画主演を務めている。昨年は『勝手にふるえてろ』『ちはやふる』『万引き家族』で数々の賞を受賞。その姿を追い続けてきたライターの麦倉正樹氏は、改めて『蜜蜂と遠雷』の松岡に感じた表情の魅力について語る。
「昨年の『万引き家族』以来の映画出演で、やはり映画で見たいと感じさせる女優だと思いました。というのも、彼女は画面にひとりで映っているときに表情で物語れるというか、“何を考えているんだろう”と、観ている人たちを惹きつける魅力があるように思うから。テレビドラマの場合、なかなかそういうシーンが作れないですし、見ているこちらの集中力の問題もあるでしょう。さらに、今回の映画で彼女が演じた役は、主役にしてはセリフが少なかったので、そういった彼女の持ち味が特に光った作品だったように思います」
【写真】【写真】松岡茉優撮り下ろしカット
国際ピアノコンクールを舞台に、亜夜(松岡)、明石(松坂桃李)、マサル(森崎ウィン)、塵(鈴鹿央士)という世界を目指す若き4人のピアニストたちの挑戦、才能、運命、そして成長を描いた本作。恩田陸の人気原作の映像化は、期待の声も多く、ハードルが高かったはずだ。しかし実際に、公開された作品を見た人々の評価は高く、恩田自身もコメントを寄せている。麦倉氏は映画化成功のカギを握ったもの俳優たちの演技だったと指摘する。
「モノローグとファンタジー表現を避けたのが、今回の映画化の最大のポイントだったように思います。原作小説は、キャラクターの心情を描いたモノローグや演奏時の比喩的表現など、小説ならではの描き込みが特徴的でしたが、今回の映画では、モノローグを多用したり、比喩表現を律儀に映像化するようなことはなく、むしろドキュメンタリーのような緊張感溢れるリアリズムで描かれていました。よって、その分の表現が、役者の芝居に託されるわけですが、心情を具体的に説明するセリフもほとんどないなか、ピアノの演奏シーンの芝居の見せ方も丁寧に、且つストーリーを物語っていくことを上手くやられていたなと思います」
さらに麦倉氏は、松岡が本作で演じた亜夜と過去に演じてきた「天才役」についての魅力を振り返る。
「『ちはやふる』の若宮詩暢といい、松岡さんは天才役が似合いますよね。彼女をみていると、どこか分からなさがあるというか、その内面で、物事をものすごく考えていたり、孤独を背負っているような気配を匂わせることができるから。ただし、若宮詩暢はある種の鋭さを秘めた天才でしたが、『蜜蜂と遠雷』の英伝亜夜は、尖ったところのない天才というか、自信をなくした天才だったので、同じ天才役でもまるで印象が違いましたし、そういう柔らかい役もできるんだという驚きが、今回の映画にはありました。そして、何よりもクライマックスの演奏シーンですよね。彼女の堂々たる芝居は、この物語が、単なる“天才の復活”ではなく、“元・天才がエンターテイナーとして生まれ変わる”物語であることを、見事に体現していたように思いました」
松岡の同世代には、広瀬アリスや土屋太鳳ら現在活躍中の女優が勢揃いしている。そんな中でこれから松岡はどんな女優なっていくのだろうか。麦倉氏は、今後の出演映画についても期待を明かす。
「いわゆる天然タイプではなく、芝居に対してあらかじめ徹底的に理詰めで考えながら準備するような、同世代のなかでも、実はかなり努力家タイプなのではないでしょうか。デビューも早いですし。なので、これまであまり同世代的な括りで見ることがなかったのですが、ここ最近、安藤サクラさんや樹木希林さんなど、上の世代の実力派女優と共演する機会を得たこともあってか、彼女のなかで同世代に対する共闘意識のようなものが芽生えてきたように思うんです。上の世代には、素晴らしい役者がたくさんいるけれども、これからの時代を作っていくのは、自分たちの世代である、といったような。バラエティー番組に出演したときの発言などを見ても、そんな気がしますよね。いずれにせよ、是枝裕和監督からはじまって、今回は以前から『愚行録』で注目を集めてた新鋭・石川慶監督、そして次は白石和彌監督(『ひとよ』)、さらにその次は行定勲監督(『劇場』)など、現在の日本映画を担う実力派監督たちの作品への出演が続くなど、キャリア的にも充実した時期に入っているので、そこでどんな芝居を見せてくれるのか、これからの活躍がますます楽しみですよね」
出演作が発表されるたびに、次はどんな演技を見せてくれるのだろうかと待ち遠しく、ワクワクさせてくれる女優・松岡茉優。主演でも、ヒロインでも、主人公を支えるどんな役でも、物語を動かすひとりとして欠かせない芝居をしてくれる彼女には安心感がある。これからも松岡が胸を張って届けてくれる作品が楽しみだ。
(大和田茉椰)