WANIMAが明かす、万人に音楽を届けるための準備と覚悟「僕たちだけのWANIMAじゃない」
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WANIMAが、1年9カ月ぶりとなるメジャー2ndフルアルバム『COMINATCHA!!』を10月23日にリリースする。同作は、アニメ映画『ONE PIECE STAMPEDE』主題歌「GONG」をはじめとするタイアップソング、新曲やセルフカバーも含めた全15曲が収録。バンドのこれまでとこれからが詰まったフルボリュームの内容となった。
参考:WANIMA、『ONE PIECE STAMPEDE』と主題歌への情熱「たくさんの人の想いも背負って唄う」
メジャーデビューした2017年に『NHK紅白歌合戦』出演、2018年メットライフドームにて初のドーム公演開催、2019年には音楽サブスクリプションサービス解禁など、バンドシーンからお茶の間までリスナーの輪を日々拡大するWANIMA。ポピュラリティーの高い存在になったことでバンドの置かれる状況も変わる中、今作『COMINATCHA!!』にはどんな想いが込められたのか。新しい局面を迎えるWANIMAの“今”に、音楽ライター・石井恵梨子が迫る。(編集部)
■ドーム公演は「課題が見つかったライブ」
一一久しぶりに会ったら、みなさん身体つきが変わっていて。だいぶ絞られましたね。
KENTA:ライブに向けての体力だったり、制作に対する取り組みの中で、身体を絞っていきました。去年の『Everybody!! Tour』ファイナルはメットライフドームを貸し切ってやりましたが、そこでドラムのFUJIが倒れて。
FUJI:1日目に、ちょっと。ライブに対して準備が足りなかった。
KENTA:改めて精神や身体から作っていこうと。ライブ前に緊張するだけじゃなくて、その前にどれだけ準備できるか、その大切さに気づきました。気持ちも身体もたるんだところを削ぎ落としていこうって。
一一メットライフドーム、私は楽しめましたよ。ただ、今の話を聞くと「わぁ、良かったね」という空気ではなかったんですか。
FUJI:そうですね、僕は特に。課題が見つかったライブでした。
KO-SHIN:ライブが終わった時、まず悔しかった。
一一……ダメなライブじゃなかったと思いますけど。
KENTA:来てくれたみんなに助けてもらった感じでした。ただ、課題というか「俺たちもっとできたよな?」「もっと届けられたよな?」っていう気持ちのほうが大きかった。初めてのことが多くて、いろんな気負いもあったし、いっぱいいっぱいのところもあって。そこは今、冷静に感じます。
一一そこからはライブツアーを繰り返しながら曲作りに入って。今回のアルバム、制作はスムーズに行きました?
FUJI:スムーズに行くっていうこと、そもそもあんまりなかよね?(とKENTAを見る)
KENTA:(ふっと遠い目を見る表情になり)アーティスト的に言うとぉ、親から子どもがだんだん離れていく感覚って言うのかな? なんかフォーッと手から離れていく感じ? でもお客さんに届いてゴールだからね。まぁそっからスタートするんだけどぉ。
FUJI:何言っとるのか全然わからん。ゴールなのかスタートなのか(笑)。
KENTA:創ってない君には感じることも共感することもできないと思うよ。
一一曲作りで難航するのは、どんなところですか。
KENTA:僕が持ってるイメージを二人に共有してもらう作業。そこが繋がってしまえば話は早いんですけど。
FUJI:それまでの時間がかかる。
KENTA:パソコンでの作業じゃなくて、スタジオで原始的にドーンと鳴らすから。僕がまず歌って、それにみんなが合わさって創るっていうやり方。時間はかかるんですけどね。もっとこう、深くまで辿り着きたいと思ったら、僕たちはそのスタイルでしか曲が生まれないんですね。
一一データのやり取りなら早いし、いろいろ端折れるんだけど。でも同じ場所に3人が集まって、身体で感じることが大事。
一同:そうですね。
一一これはアルバム制作とは別の話ですけど、6月にはサブスク(音楽サブスクリプションサービス)解禁もしてますよね。ちょっと意外でした。
KENTA:はい。僕ら世代はCDを買って歌詞カードを見ながらコンポの前で聴くのが普通だったんですけど。でも今はいろんな聴き方があって。もちろんバンドの気持ちはちゃんと打ち出したかったので、そこは現場でも、いろんなとこでも言ってます。「やっぱりCDは大切やし、僕らにとっては宝物だ」って。僕らのCDを買って損してほしくはないし、パッケージに込めるこだわりっていうのは変わらずあります。でも今の時代のいろんな聴き方を否定したくはないし、僕らは音楽をやってる以上、よりたくさんの人に聴いて欲しい、届かないと意味がないっていう思いがあるので。
■いろんな人の応援があったから自分たちを走らせ続けることができた
一一前作を出して、実際に届いた、広がったという実感は得られたと思うんですけど、それを踏まえて、今回意識したことはあります?
KENTA:うーん、もちろん創り方だったり根幹の想いは変わらないんです。でも世の中的に見れば「こういうWANIMAもあるのか」って思うようなところ。そこを楽しみながらやれたかなって思います。
FUJI:曲の中で飛んでくる音だったり、耳にちょっと入ってくる音だったり。一曲ずつの表情を豊かにするために、そういうのはけっこう取り入れていって。
一一あぁ、表情豊かっていうのは今回のアルバムに相応しい言葉。前2作はまず駆け上がっていく勢いやスピード感が印象的でしたけど。
KENTA:そうですね。ツアー中に「あ、もっとこういう曲あったらお客さんと一緒にさらに新しいところに行ける」とか「こういう展開があったら新しい」とか、そういう要素を取り入れて。
一一最初は元気なツービート。でも聴き進めていくと「Like a Fire」とか、いいスパイスになる曲がいくつも出てくる。
KENTA:そうです。あと「宝物」って曲も、初めてWANIMAに触れる人にとっては「あ、こんな曲もあるんだ」って思ってもらえる曲だと思う。「KENTA、意外に低い声もかっこよかやん」みたいな。
FUJI:自分で言う(笑)。
KENTA:今までもスタジオではこういうゆったりした曲をやっていたから、僕らの中では自然でした。でもそれをたくさんの人に向けては、まだ創れてなかった。それはライブやりながら思ったことでもあったので。
一一あとは「Baby Sniper」。歌詞もいつものエロソングとは違う感じで。
KENTA:はい。こういう曲調や雰囲気の曲、スタジオ練習中にはよくやっていたんです。あとこの曲は聴こえてくるワードから、聴く人のイメージが膨らんだらいいなって。「なんかわからんけど……変なところが熱くなって固くなってきちゃった、お母さん」みたいな(笑)。
一一ははは。直接的ではないんですよね。
KENTA:そう。人によってはエロく聴こえるだろうけど、そうでもない人も当然いるだろうし。ちょっと微妙なラインの妖しさを出したかったんですよ。それがコード感とかにも表れてて。
一一テーマ自体はそんなに変わらない。ただ、そのために自分たちで細部を確認しているというか、間違いなく届けるための作業があったと。
KENTA:そうですね。「やっぱりWANIMA間違いないよな」とか「やっぱり音楽聴くならWANIMAだよな」って、いろんなシーンで認めてほしかった。信頼してほしかった。それは今言われて思いますね。
FUJI:やっぱり重ねてきたことが形になっているので、そこに自信だったり、間違いないっていう確信はあるんですけど。でも、次をイメージするならどれだけ準備するか、なので。そこを考える時間を今回大事にしました。
一一準備は必要ですか。ロックバンドなんだから「せーの、バーン!」でいいじゃない、とは思わない?
FUJI:WANIMAはそういうバンドじゃないです。
KENTA:それだとしっかりは届かない。その感じだとメットライフドームまでは行けなかったと思います。やっぱりたくさんの人に支えられて、いろんな人の応援があったから、自分たちを走らせ続けることができたと思います。
一一すでに何もないわけじゃない、っていう感覚は歌詞になっていますよね。
KENTA:あ、ほんとですか?
一一今「雨上がり」とか初期の歌を聴くと、本当に何もないまま、ただ耐えている主人公がいる。でも今はひとつ確かめるもの、守るものがあって、さらにその先を目指している人の歌になっていて。
KENTA:そうですね。やっぱり自分たちの中にあることしか歌えない。ライブをしていて思いますけど、みんないろんなものを抱えて会場に来てくれるんですよ。それを実感すると、間に合ううちにちゃんと届けたいなと思います。「BOUNCE」っていう曲とか、創った時は僕も煮詰まったり、ちょっといっぱいいっぱいの時期で、一呼吸しながら歌えたらいいなと思ってて。この曲ができた時は僕も救われたなって思いました。自分の中で、歌で昇華してる。過去にあった悲しいこととか辛いことも全部歌になっていくから。
一一KENTAさんは、そういう辛さを抱えてきた自分を自覚してる。でもそれは歌の中以外で出てこないですよね。
KENTA:はい。みんな抱えたまんま、どうしてるんだろうなと思います。僕ら、音楽なかったらもっと早く爆発してたと思う。
一一爆発?
KENTA:もう人じゃなくなってたと思う(笑)。音楽があってよかったなぁと思います。で、僕たち3人だけで音楽をやるんだったら、ライブだけやってるし、テレビもラジオも出ていないと思います。でも僕たちだけのWANIMAじゃない。全国いろんなところに応援してくれる人たちがいるから。そういうところに気づけたことは大きかったです。
■悔しさが僕らを突き動かしてる
一一WANIMAの良さって、テレビだと誤解されやすいと思うんですよ。それは自分たちでも感じます?
KENTA:はい。「なんでこう伝わっちゃったんだろう?」と思う時もありますけどね。
一一辛い思いを吐き出してる歌ばかりなのに、響きが明るいから、なんとなくパーティーソングみたいに扱われてしまう。「不本意だなぁ」とは思いますが、そこで反発しないですよね。
KENTA:反発しない。そういう悔しさが僕らを突き動かしてる。日々のいろんなこと、もっとひっくり返してやろうって。そうじゃないって思うこと、怒りとか、不甲斐ない気持ちって、僕たちの原動力のひとつです。
一一それが結果的にすごく明るいものに見えちゃうのは、なぜなんでしょう?
KENTA:……ねぇ?
FUJI:「ねぇ?」って(笑)。
KENTA:昔から見てるファンの人たちは違うと思いますけど、初めての人には、ただ元気な3人組に見られがちで。でも、そこでムキになって反論したり、逆に「今日は何食べましたよ~。自撮り~。」みたいなことばっかりSNSに上げたり、そういうのはしたいと思わないですね。音楽やってるんやったら、やっぱり曲を創って、CDを出して、ライブをしたい。それで答え合わせをお客さんとする。それが正解やなと僕たちは思ってます。
一一正しいし、強いなと思います。
KENTA:ありがとうございます。
一一単純に不思議なんですけど、なんでそんなにタフでいられて、大きな夢を追えるんですかね。前にも言ったけど、ライブハウス出身で「メットライフドームでやりたい」って豪語するバンドを、私はあんまり見たことがない。
KENTA:「メットライフドームでやりたいんだぜ!!」って強く想っていたというよりは、「最初お客さん2~3人のバンドが、あれだけ大きいメットライフドームでもやれるんだ」っていうところ。そこで「あぁ、だったら俺たちもやれるかもしれない」って思って欲しかった。驚いて欲しかったっていうのはありますね。
一一それは、夢を見せたい、夢を見てもいいんだよ、っていう感覚?
FUJI:そうですね。
KENTA:うん。『Are You Coming?』でも歌ってましたけど、冷めてスカしてるんじゃなくて、もっと熱く。どんな小さなことでも。「明日何食べる?」とか「どこに行く?」とかでもいいんですけど、些細なことでもちゃんと楽しみを見つけていければ。それをひとつWANIMAのライブで見つけてもらえるなら、僕たちも音楽をやってる意味があるなぁって思いますね。それを実感できたら、喜びも二倍になるし。その繰り返しです。
一一そういう時にKENTAさんは〈一度きりの人生〉〈命は一回きり〉と歌いますよね。その死生観は昔から一貫してる。
KENTA:そうですね。その気持ちは年々強くなってます。やっぱり僕で言ったら、大好きだった母親代わりの婆ちゃんが去年いなくなったり。FUJIくんだったらお父さんやお母さんが亡くなってたり……。
FUJI:(苦笑)びっくりするくらい健在です!!
KENTA:(笑)。誰かひとりでも大切な人だったり、犬でもいいんですけど、いなくなったりすると、その気持ちが強くなっていきますね。
一一仕方ないんだよ、と諦めるわけじゃなくて。
KENTA:まぁ仕方ないこと……避けられないことではあるんですけど。できればその前に、間に合ううちに。自分たちが生きてるうちにやっていきたいなっていう想いが強くなってますね。
一一このアルバム、一曲目が〈産まれて死ぬまであとどれだけ?〉で始まり、ラストが〈だって生きてるうちに〉ですからね。
KENTA:あぁ、そうか。気づかなかった。でも毎回「この曲で最後になったら……」みたいな。向き合って創っています。
KO-SHIN:(強く頷く)僕の場合ライブは必ずそう想ってますね。「これが最後なら……」って。
KENTA:ライブって毎回同じ曲をやるじゃないですか。僕、ずっと想ってたんですよ。「ずっと同じ曲を何十年もやるアーティストって、どんな気持ちなんだろう?」って。でも自分たちがやってみたら、毎回同じ曲をやってても毎回違いますもんね。みんなあれにやられちゃってるんだなぁと思う。
FUJI:毎回表情が違うし、そういう意味でも全部が一回きり。
一一はい。あとシリアスな死生観だけじゃなくて、KO-SHINくんの名前がいきなり出てくる「シャララ」みたいな曲もあります。
KENTA:はい。これもアルバムならではの曲やなぁと思います。ライブでも、楽器を持たなくても歌えるような曲。サビはみんなで歌えて。
FUJI:みんなで手拍子したり。
KENTA:そう、手を叩きながら歌える曲。シングルには入れんけどアルバムやったらアリかもね、っていう曲をたくさん入れたかった。
一一ライブのフックになるような。ここに出てくる〈変わらない港町〉っていうのは二人の故郷ですよね。ルーツになる景色がちょくちょく出てきますけど。
KENTA:地元の存在はおっきいですね。もうほんと鮮明に覚えてます。自分たちの街、あの港町のどこに何があって、あそこに誰がいて……っていうのは今でも頭の中で辿っていける。
一一ドキュメントで見ましたけど、けっこうな田舎町ですよね。そういう環境で育ったこととWANIMAの音楽性って、繋がっていると思いますか。
KENTA:繋がっていると思います。人口が少ないぶん一人ひとりの関係性は濃いものがありました。スタジオもないからパチンコ屋の跡地を自分たちで改造して創ったり。結局自分たちで動いて発信しないと何も変わらないっていうことに気付かされる土地だったので。僕たちが悪い方向ばかり進むんじゃなくて、音楽と出逢って音楽をずーっと365日やってこれた学生時代っていうのは、今に繋がってると思います。
一一わかりました。今後はツアーが控えていて。25万人動員予定とすごい数字が出ていますけど、ライブの魅せ方は変わっていきそうですか。
KENTA:魅せ方は、ほんとシンプルです。来た人に楽しんで欲しいっていうのと、ちゃんと届けたいっていう、そこは変わらずに。ただ、今までWANIMAがやってこなかった新しいこともやりたいです。それは別に難しいことじゃなくて、たとえばFUJIくんがやってたモノマネパートをKO-SHINがやるとか。
一一いきなりハードル高い(笑)。
KO-SHIN:……それはやめてほしか……。
KENTA:3人がそれぞれ新しい扉を開いていけたらいいなと思います。で、これは違うと思ったらお客さんにはすぐ言って欲しいです。
FUJI:大至急止めますので(笑)。(石井恵梨子)