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『ハル ~総合商社の女~』の“デキる女”は当たり役!? 主演作相次ぐ中谷美紀が支持され続ける理由

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 孔子の「四十にして惑わず」という言葉には、もともと「四十にして或(くぎ)らず」だったのが変化したという説がある。「40代を迎えても自分を限定せず可能性を広げなさい」という意味で使われていたそうだ。ことエンターテインメントの世界には40歳を超えて、一層活動の幅を広げるタイプも少なくない。たとえば中谷美紀もそのひとりだろう。先ごろ放送されたテレビ東京のSPドラマ『あの家に暮らす四人の女』は三浦しをん原作の同名小説の実写化だったが、本作で中谷は刺繍作家でもある主人公を好演。コミカルな芝居も交えて演じきった。また、テレ東ドラマBizで放映が始まった『ハル ~総合商社の女~』でも主演に抜擢。大手総合商社を舞台に、持ち前のパワフルさでさまざまな問題を解決していくシングルマザーという役どころを体当たりで演じている。

参考:中谷美紀、現代女性の代弁者に 『あなたには帰る家がある』主演で見せる“共感力”

 過去10年を遡っても、ほぼ毎年、ドラマや映画でコンスタントに主演やヒロイン役を務め、今や日本のエンタメ界になくてはならない存在となった中谷美紀。心なしかその美しさも年を重ねるごとに研ぎ澄まされていっているようにも思える。ここでは改めて彼女の魅力を紐解いていきたい。

 1990年代から女優業を開始し、異色の刑事ドラマ『ケイゾク』(TBS系)に主演したことを機にトップ女優の仲間入りを果たした中谷。映画なら『壬生義士伝』や『電車男』、ドラマでは『JIN -仁-』シリーズ(TBS系)や『軍師官兵衛』(NHK)など、数々のヒット作に名を連ねてきた。女優としての転機となったのは『嫌われ松子の一生』だろう。ある女性の壮絶な生き様を、ファンタジックで極彩色の映像美の中で描き出した本作は大きな話題となり、中谷自身も「日本アカデミー賞」や「アジア・フィルム・アワード」などで主演女優賞を総なめした。その裏に中島哲也監督の相当なしごきがあったのは有名な話。一時は引退も考えたというが、その後単身渡ったインドで人々の自由な生きかたに触れ、再び女優の道を歩いていく決心をしたという。近年では『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)や『あなたには帰る家がある』(TBS系)など、シリアス路線からやや離れて、実年齢を意識したコミカルな芝居を取り入れることも多く、視聴者に親近感の湧く役づくりを心がけている印象。そういう意味では『ハル ~総合商社の女~』で演じる、サバサバした“デキる女”は当たり役と言えよう。

 スクリーンの中でまたはテレビの画面を通して、中谷美紀を観るときにいつも圧倒されるのは彼女のまとうオーラだ。登場した瞬間、場の空気が一気に変わるというか塗り替えられるような迫力がある。決して大げさな演技をしているわけではない。ただ自身の見せ方、役への理解を極限まで突き詰めて本番に臨んでいるのが伝わってくる。ストイックで真面目。言うなれば職人気質の女優なのだろう。舞台『黒蜥蜴』で中谷と共演した井上芳雄はこのように語っている。

「演技のサイズや質感がとてもリアルで、等身大というのでしょうか。それを無理に大きくしたり、大きい声を出したりはしない。でもその中で、どんどん役を深めていって、感情が爆発するところもあれば、本当に小さい声でやるところもある。舞台だけやってきた方の演技とは違うし、映像の演技でもない。美紀さんならではの表現の道がそこにはあるのだなと感じます」(参考:https://style.nikkei.com/article/DGXMZO26408000R00C18A2000000/)

 等身大でリアル。過剰ではないのにインパクトのある演技。多くの作品で主演/ヒロインを務めながら磨き上げた独自の演技哲学が、中谷美紀という “ブランド力”を磨き上げてきたのだろう。

 2020年に配信を控えるNetflixオリジナルシリーズ『Followers』では、蜷川実花とタッグを組み、金髪の女性写真家というまるで蜷川本人を彷彿させる人物を演じるという。本作は東京で生きるさまざまな立場の女性たちがSNSを通して交錯し、自分らしい生き方を模索していく物語。クランクアップの会見で中谷は、「年齢や性別を何かを諦める理由にしない人間でありたいなと思いました」と、作品から受け取ったメッセージについて語ってみせた。まさに「四十にして或(くぎ)らず」。中谷美紀の女優道は、まだ見ぬはるかな高みへと続いている。(渡部あきこ)