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井上陽水トリビュート、山下達郎、カーリングシトーンズ……卓越した技術&意外性に溢れたアイデアが楽しめる新作

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リアルサウンド

 デビュー50周年を迎えた井上陽水のトリビュートアルバム、木村拓哉主演のドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)の主題歌として話題の山下達郎の新曲「RECIPE(レシピ)」。卓越した技術、意外性に溢れたアイデアに裏打ちされた、独創的なソングライティングの妙を楽しめる5作品を紹介。

(関連:『井上陽水トリビュート』全15曲ダイジェスト映像はこちら

 「傘がない」「東へ西へ」「少年時代」「リバーサイドホテル」――曲名を見ただけで、メロディと歌詞、あの歌声が脳内で自動的に再生されてしまう名曲を生み出してきた井上陽水。『井上陽水トリビュート』は彼のデビュー50周年を記念したトリビュートアルバムだ。2004年の『YOSUI TRIBUTE』以来のトリビュート盤となる本作には、井上と同じくデビュー50周年を迎えた細野晴臣のほか、ACIDMAN、iri、宇多田ヒカル、ウルフルズ、オルケスタ・デ・ラ・ルス、King Gnu、KREVA、斉藤和義、椎名林檎、SIX LOUNGE、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、福山雅治、槇原敬之、ヨルシカの15組が参加。それぞれの音楽的ルーツやスタイルを存分に活かした個性的なカバー(及びリミックス)を提供している。世代、ジャンル、性別を超えたアーティストの共演が実現した本作から伝わるのは、井上陽水のソングライティングの驚くべき奥深さ。フォーク、ロック、ファンク、ボサノバ、ラテンといった多彩な要素を自然に織り交ぜたメロディ、日本語の響きとグルーヴを追求した歌詞から生まれる肉体的な快感こそが彼の真骨頂なのだと、改めて実感させられる。

 『ミライのテーマ/うたのきしゃ』(2018年7月)以来、約1年半となるニューシングルの表題曲「RECIPE(レシピ)」は、木村拓哉主演のドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)の主題歌。木村拓哉と山下達郎の“共演”は、2003年放送の『GOOD LUCK!!』(TBS系)のエンディングテーマに「RIDE ON TIME」が起用されて以来、16年ぶりだ。フランス料理のシェフを主人公にしたドラマの内容と重なるように、「RECIPE(レシピ)」の歌詞には〈スープ〉、〈テリーヌ〉、〈スパイス〉などのワードが並ぶ。料理と愛の示し方をリンクさせながら、成熟した大人の恋愛ソングに導いている。洗練されたコード構成、抑制を効かせながらも、徐々に熱を帯びていくメロディも素晴らしいが、特筆すべきは、トラックメイクの現代性。ファットでしなやかなシンセベース、心地よい跳ね感と豊かな低音の響きを活かしたビートは、たとえばチャーリー・プースやトム・ミッシュといったアーティストのプロダクションを想起させる。そう、世界的な評価を高め続ける山下達郎のポップスはいまもアップデートを続けているのだ。

 前作2015年の『L.O.K』以来、約4年ぶりとなるニューアルバムが到着。『Beautiful People』とタイトルされた本作には、シングル「So Beautiful ~more beautiful mix~」(コーセー『エスプリーク』CMソング 2018 冬)、「You Go Lady」 (コーセー『エスプリーク』CMソング 2018 春)をはじめ、久保田利伸の最新モードを強く反映したカラフルな楽曲を収録。Ryosuke “Dr.R” Sakaiとの初タッグによって生まれた豊潤にしてプリミティブなグルーヴが心地いい「JAM fo’ freedom」、レゲトンとR&Bが融合した「Green Light ~青信号~」 、ボサノバ風のギターとトラップ経由のトラックが共存する「天使と悪魔」、80年代ファンク、ディスコを想起させるダンスナンバー「FUN FUN CHANT」など、ルーツミュージックへの敬意と奔放なアイデアがひとつになった現代的なポップチューンをたっぷり堪能できる。独創的なビートをしなやかに乗りこなし、日本語の歌詞をグルーヴさせるセンスと技術は流石のひと言。気分良く体を揺らしているうちに、人間賛歌、女性賛歌を含んだ歌が心を満たしていく感覚も素晴らしい。

 寺岡呼人、奥田民生、斉藤和義、浜崎貴司、YO-KING、トータス松本らによる“新人”バンド・カーリングシトーンズの1stフルアルバム『氷上のならず者』。バンドの名前が“The Rolling Stones”のモジリであることからもわかるように(?)全員50代のメンバーたちが10代の頃から聴いていたであろう音楽、たとえばThe Beatles、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、サム・クック、Sly&Family Stoneなどへの愛情が、すべての楽曲にたっぷりと反映されている。誤解を恐れずに言うと、洋楽にハマった高校生が“俺もこんな感じでやってみたい!”とオリジナル曲を書き始める瞬間に似ているが、そこはもちろんキャリア豊富なミュージシャンとあって、人生の切なさ、楽しさ、虚しさをたっぷり含ませた、優れたポップソングに導いている。それぞれの活動とは一線を画す、バンドをやる楽しさ、曲を書くおもしろさがストレートに伝わることも本作の魅力だ。

 先行配信曲「シャミナミ」「ジェニーハイラプソディー」、アイナ・ジ・エンド(BiSH)をフィーチャーした「不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH)」を含むジェニーハイの1stフルアルバム『ジェニーハイストーリー』。もともとはバラエティ番組『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)の知名度を上げるために始動したプロジェクト、つまりテレビ番組の企画モノだったわけだが、中嶋イッキュウ(Vo/tricot)、新垣隆(Key)、くっきー!(Ba)、小籔千豊(Dr)という異色すぎるメンバーのキャラと音楽的センスを的確に活かした川谷絵音(Gt/Vo)のプロデュースセンスにより、前衛性と大衆性を兼ね備えたポップアルバムを実現している。変拍子、ポリリズムを交えたアンサンブル、緻密に構築されたコード進行、起伏に富んだ(ときにトリッキーな)メロディなど、スリリングにしてポップな楽曲は、川谷のキャリアのなかでも最上位だと思う。(森朋之)