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熱くて優しいスポ魂映画の快作! 『ファイティング・ファミリー』ロック様が提言する「プロレス」の魅力

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リアルサウンド

 本作『ファイティング・ファミリー』(2019年)は、アメリカン・プロレスの最高峰WWEで活躍する女子レスラー、ペイジの伝記映画である(ただし完全なノンフィクションではなく、時代設定も異なるし、駆け足気味でもある)。イギリスの片田舎で暮らすナイト一家は、レスリングのコーチと家族プロレスで日銭を稼いでいた。娘のサラヤも選手としてリングに上がり、両親や兄を相手にガンガン技を決めまくる。そんなアグレッシブな根性を買われ、サラヤはアメリカ最大のプロレス団体WWEのトライアルに合格。単身アメリカに渡り、ロック様ことドウェイン・ジョンソン(本人役)のアドバイスを受けながら、スターの座を目指すのだが……。本作『ファイティング・ファミリー』は決して超大作ではないが、ささやかで優しいスポ魂映画である。

【動画】『ファイティング・ファミリー』ドウェイン・ジョンソン登場シーン

 まず特筆すべきは、主人公ペイジことサラヤ・ジェイド・ベヴィス(フローレス・ピュー)のキャラクターだろう。13歳からプロレスに夢中な夢見る少女……こう書くと、やや突飛なようにも見えるが、実際のところは(口は悪いが)ごくごく平凡な少女である。プロレスラーという肩書きからタフな性格を想像するかもしれないが、家族との別れでは涙を流すし、過酷なトレーニングには弱音を吐く。次々と襲い来る試練に苦悩する彼女の姿は、必ずや観客の心に届くことだろう。そして本作の白眉は「プロレス」という題材を、このペイジのキャラを通じて見事に描いている点だ。

 「プロレス」の最大の特徴は、1人では出来ないことだ。自分がいて、対戦相手がいて、観客がいて、初めてプロレスは成立する。また、試合の勝敗以上に、観客をどうやって沸かせるかが重要だ。そのためには自分のパフォーマーとしての能力は勿論、対戦相手との信頼関係も大事になってくる。ただ暴れればいい、ただ強ければいい、そんなことではプロレスラーとして通用しない。高い身体能力はもちろん、周囲とのコミュニケーション、自分を魅力的に見せるパフォーマンス能力、こういった様々な要素が求められるのだ。

 また、本作にはロック様がロック様役で登場する。昨今のロック様映画と言えば、良くも悪くもザックリした映画が多かったが、今回ばかりは別である。重要な役どころではあるが、脇役に徹しつつ、映画の要所をきちんと押さえる。そして劇中でのロック様曰く「プロレスは脚色されているが、観客はウソを見抜く」まさに本作のテーマであり、プロレスの魅力そのものだ。プロレスというファンタジーの世界で生き抜くためには、本物のスキルとハートを持っていないといけない。

 ペイジがぶつかるのは、こうしたプロレスラーとしての壁だ。ペイジはずっと家族プロレスでスターとして活躍してきた。両親に仕込まれたレスリング技術も高く、ある意味で既に“プロ”なのである。そんな彼女が一緒に競い合うことになるのは、いかにも陽気でアメリカンなモデル出身の美女たちだ。曇り空のイギリスからやってきた武闘派のペイジとは、まさに真逆の存在である。実際、彼女らのレスリングの技術は低く(しかしマイクパフォーマンスは上手い)、ペイジは彼女らに強い反発心を抱き、強烈な孤独を抱えてしまう。しかし……この先の展開は、映画を実際に観てもらうのがいいだろう。この作品は「プロレス」を題材にすることで、「女の敵は女」なる巷に溢れる言説を陳腐なものと一蹴してみせる。この部分は非常に痛快だ。本作は「家族」のドラマが主軸にあるが、個人的には、こうしたレスラー同士の関係性も非常に魅力的だったように思う。

 夢の世界で活躍するためには、血と汗と涙を流す必要がある。そして努力が報われるとも限らない。本作は厳しい現実を描く一方で、「夢」という言葉の持つパワーと、「夢」を叶えるため奮闘する人々を優しい眼差しで見つめている。熱くて優しいスポ魂映画の快作だ。

(加藤よしき)