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Alcest、Mamiffer、Leprous……エクストリームシーンから“個”を確立させたHR/HM5枚

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ハードロック/ヘヴィメタルやラウドロックなどエクストリームミュージックを軸にしたキュレーション連載。2019年最後の更新は直近リリースの中から、ヘヴィ/ラウドから派生した独自のスタイルを確立させオリジナリティを強めていった様がよくわかる5作品を紹介したいと思います。

 1組目は日本にも根強いファンが少なからず存在するフランスのバンド、Alcestのニューアルバム『Spiritual Instinct』です。彼らはネージュ(Vo/Gt/Ba/Syn)とヴィンターハルター(Dr)の2人組で、もともとはブラックメタルの範疇にあるサウンドを武器としたバンドでしたが、徐々にポストロックやシューゲイザーなどからの影響が色濃く表れるようになり、“ブラックゲイズ”と評されるサウンドへと進化していきます。

 宮崎駿監督の映画『もののけ姫』にインスパイアされた前作『Kodama』(2016年)から3年ぶりとなる今作は、ラウド&ヘヴィミュージックの名門レーベル<Nuclear Blast>からの第1弾作品。ある意味ではドリームポップやシューゲイザーの観点から語ることもでき、また視点を変えればブラックメタルから派生した新種のヘヴィメタル/エクストリームミュージックと捉えることができる、無限の広がりを見せる意欲作と言えるでしょう。全6曲中半数が約8分を超える大作で構成されており、時折挿入されるスクリームやグロウル、ドラムのブラストビートからはブラックメタル的邪悪さが垣間見えるものの、壮大かつドラマチックなプログレッシブロック的展開はまるで映画のサウンドトラックを聴いているようでもあります。ヘヴィな音楽に抵抗があるリスナーにも十分受け入られる魅力を持った本作、ぜひ幅広い層に届いてほしい“2019年を代表する1枚”です。

 2枚目はアメリカ・シアトルを拠点に活動する男女2人組Mamifferの新作『The Brilliant Tabernacle』です。マルチプレイヤーでもある才女フェイス・コロッチャ(Vo/Piano/Organ/etc.)と、公私ともに彼女のパートナーであるアーロン・ターナー(Gt)の2人からなるこのプロジェクトはドローンやアンビエントなどに属するサウンドを軸としていますが、IsisやSumac、Old Man Gloomなどのエクストリームミュージックバンドで活躍してきたアーロンのヘヴィな要素が加わることで、ヘヴィミュージックやポストロックを愛聴するリスナーにもアピールする存在へと成長。これまでに4枚のスタジオアルバムや複数のコラボアルバム、スプリット作品を発表しており、過去3回の来日を実現させています。

 前作『The World Unseen』(2016年)から3年ぶりとなる今回のアルバムは、一定期間に集中して制作されたものではなく、2013年から2018年にかけて断続的に行われたセッションから、方向性を絞り込んで完成させたもの。近作で聴けたアーロンのダイナミックなギターサウンドは影を潜め、Mamifferの原点でもあるピアノとエレクトロニクス、そしてフェイスのボーカルに焦点を当てた、“静”の要素が強い作品集となっています。今作最大の聴きどころは、やはりボーカリストとしてのフェイスの表現力が著しく成長していること。また、どこか宗教音楽のような楽曲の数々は、方向性的に最近リリースされたChelsea Wolfeの新作『Birth of Violence』(こちらも素晴らしい力作)にも通ずるものがあります。エクストリームミュージックが進化するひとつの到達点として考えると、本作が2019年に果たす役割は非常に重要ではないでしょうか。そういった意味でも、幅広い層に行き届いてほしい1枚(日本盤のみ20分にもおよぶアンビエントトラック「Salt Marsh」を収めたボーナスディスク付きの2枚組仕様)です。

 3作目はノルウェーの5人組バンド、Leprousの6thアルバム『Pitfalls』です。Leprousはモダンヘヴィネスやオルタナティブメタルにプログレッシブロックの要素をミックスしたサウンドと、エイナル・スーベルグ(Vo/Syn)の哀愁味を帯びたディープなボーカルとが相まって、唯一無二のスタイルを確立。ここ日本ではEmperorのフロントマン、イーサーンのソロ来日時にバックバンドを務めたことで注目を集め、2013年のイーサーン再来日時には3rdアルバム『Coal』で待望の日本デビューも果たしています。

 前作『Malina』(2017年)から2年ぶりに発表された今作は、前作にあったスリリングなアンサンブルが影を潜め、穏やかさの中に色気が見え隠れする、聴き応えのある意欲作に仕上がっています。いわゆるHR/HM的要素はかなり減退しており、そちら側を期待するとガッカリするかもしれませんが、アンビエントやポストロック、あるいはMassive Attackあたりのトリップホップにも通ずる世界観からはこのバンドがひとつの場所に止まらず、常に変化を続けていくという強い意志が感じられます。Massive Attackと例に挙げましたが、本作の日本盤にはボーナストラックとしてMassive Attack「Angel」のカバーを収録。こちらの仕上がりもなかなかのものがあり、エイナルの艶やかなボーカルとの相性も抜群です。実はSigur Rósあたりとの共通点も見受けられる本作、ライブではどのように表現されるのかも気になるところです。

 4組目は女性ボーカリストのジェニー・アン・スミスを擁するスウェーデンのドゥームメタルバンド、Avatariumの4thアルバム『The Fear I Long For』です。Avatariumはもともと、Candlemassのレイフ・エドリング(Ba)が2012年に立ち上げたプロジェクトで、翌2013年にセルフタイトルアルバムでデビュー。その後、レイフは健康上の理由でライブ活動から撤退し、現在はソングライティング面などでバンドに関与しています。ヘヴィな楽曲の数々は、オジー・オズボーン在籍時の初期Black Sabbathが信条としたドゥーミーなサウンドと、ロニー・ジェイムズ・ディオ在籍時のBlack Sabbathが得意としたメロウでドラマチックな正統派ヘヴィメタルがミックスされ、かつモダンな手法で味付けされたものばかり。オールドスクールなスタイルながらも決して古臭く感じられないのは、そういった彼らならではの個性も大きく影響しているのかもしれません。

 今回のアルバムでは過去3作にはなかった新たな試みも用意されています。それはメンバーのマーカス・イデル(Gt)が語るRainbowやLed Zeppelin、The Doorsからの影響が物語っており、本作が単なる“Black Sabbathをルーツとしたドゥームメタルの焼き直し”ではないことは一聴すればご理解いただけるはずです。特にマーカスの奏でるアコースティックギターや、リカード・ニルソン(Key)のオルガンやピアノをフィーチャーしたムーディな味付けは、このアルバムにおける大きなフックとなっており、Avatariumがほかのドゥームメタルバンドとは異なる領域へと一歩踏み込んだことが伺えます。同郷の大先輩でありレイフという共通人物を持つCandlemassも今年、バンドをネクストレベルへと導いた力作『The Door To Doom』をリリースしていますが、こういった温故知新的ジャンルですらモダンな形へ進化を遂げているあたりに、現在のシーンの面白みを感じ取れるのではないでしょうか。

 最後の1枚はドイツ出身のメタルコアバンド、Eskimo Callboyの新作『Rehab』です。彼らは2010年に結成されたキーボーディスト/プログラマーを擁する6人組で、シンセを前面に打ち出したピコリーモ~エレクトロニコアサウンドと、矢継ぎ早に展開していくパーティ色の強い楽曲が武器となり、ヨーロッパ圏で高い支持を誇ります。特にメジャー進出後の2作(2015年の3rdアルバム『Crystals』、2017年の4thアルバム『The Scene』)はともに本国ドイツでチャート6位まで上昇。2017年に行われたジャパンツアーでは、日本のHER NAME IN BLOODと共演し、話題となりました。

 前作『The Scene』の時点で少しずつシリアスな側面が見え始めた彼らでしたが、続く今作ではその要素が一気に開花。もはや“チャラついたパーティバンド”なんて呼ばせないほどにタフさが目立つ、バンドの新章幕開けを飾るにふさわしい1枚に仕上がっています。メロディセンスにはさらに磨きがかかり、バンドアンサンブルにも“脱メタルコア”的な意識が感じられ、もっとマスに向けた“わかりやすさ”が強まっているのではないでしょうか。さまざまなメディアで、本作に対して“Bring Me The Horizonに対するドイツからの回答”なんて表現が使われていますが、その意図もなんとなく理解できるものがあります。しかし、Bring Me The Horizonがメタルやロックといった大きなジャンルを壊そうとしていたのに対し、このEskimo Callboyの場合はまだラウド&ヘヴィな音楽の枠内で戦っている印象が強いかなと。その中でメインストリームのポップシーンの要素を取り入れていると解釈するのが、今は正しい気がします。もちろん、Bring Me The Horizonのやり方、Eskimo Callboyの戦い方のどちらが正解というわけではないので、それぞれが自分の信じるやり方で進化を続けるのが一番かと。そういった意味では、今回Eskimo Callboyが完成させたクオリティの高い1枚は、まず“チャラい”という偏見を持ったままのラウド系リスナーを唸らせるに十分な快作ではないでしょうか。