Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > SING LIKE TALKINGが語る、ポップスと時代の関係「環境に素直に反応して、ベストな仕事をする」

SING LIKE TALKINGが語る、ポップスと時代の関係「環境に素直に反応して、ベストな仕事をする」

音楽

ニュース

リアルサウンド

 2018年の結成30周年に向けて、活動のペースを上げているSING LIKE TALKINGがニューシングル『風が吹いた日』(ODS「SING LIKE TALKING LIVE MOVIE –Strings of the night-」主題歌)をリリース。ホーンセクションをフィーチャーしたこの曲からは、デビュー以来、音楽的な欲求を楽曲に反映してきた彼らの現在のモードが伝わってくる。

 今回Real Soundではメンバーの佐藤竹善、藤田千章、西村智彦にインタビュー。昨年10月に行われたプレミアムライブ「SING LIKE TAKING Premium Live 27/30 〜シング・ライク・ストリングス〜」の手応え、ニューシングル「風が吹いた日」のコンセプト、30周年に向けたビジョン、さらにAOR、シティポップが復権している現在の音楽シーンに対する印象など、多岐に渡って話を聞いた。(森朋之)

SING LIKE TALKING – 「風が吹いた日」リリックビデオ

「ポップスには時代のあだ花みたいな側面もある」(藤田千章)

ーーまずは昨年10月に行われたプレミアムライブ「SING LIKE TAKING Premium Live 27/30 〜シング・ライク・ストリングス〜」について聞かせてください。このライブの模様は「SING LIKE TALKING LIVE MOVIE -Strings of the night-」として映像化され全国の映画館で公開されていますが、30周年のカウント・アップ・ライブの第1弾として、ストリングスをフィーチャーしたライブを開催したのはどうしてなんですか?

佐藤:2013年の25周年のときに“25/50”(「Amusement Pocket 25/50」というライブを開催して、その翌年にはツアーをやったんですけど、2015年にも「30周年に向けて盛り上がっていける、プレミアムな企画をやりたいですね」というスタッフサイドからのアイデアがあって。最初は「ストリングスをフィーチャーして、バラードのライブをやりませんか?」という提案だったんですけど、「マッタリして、つまらなそうだな」と思ってしまったんです(笑)。ただ、ストリングをフィーチャーするという切り口自体はすごくいいなと思ったんですよね。ストリングスといっても、クラシカルなものから、ジャジーなもの、R&Bなど、さまざまなアプローチが出来るじゃないですか。SING LIKE TAKINGは幅広いテイストの楽曲を作ってきたし、ストリングスを背景にした楽曲も多いので、ストリングス自体を主役にして選曲してみたらいいんじゃないか、と。そうすれば通常のツアーではこぼれる曲も演奏できるだろうしーー長くやっていると、どうしても“ライブでやらなくちゃいけない曲”というのがあるのでーーストリングスという観点から僕らの音楽性を見せることができるかもしれないと思ったんですよね。それはファンの人にとってもおもしろいだろうし、自分たちへのイメージを広げることにもつながるんじゃないかな、と。

ーーなるほど。映像を拝見して、とにかくサウンドのクオリティに高さに驚かされました。金原千恵子ストリングスをはじめ、江口信夫さん(Dr)、高水健司さん(Ba)、大儀見元さん(Per)、塩谷哲さん(Pf)、露崎春女さん(Cho/G)が参加するなど、錚々たるメンバーが揃っていますね。

佐藤:凄腕のミュージシャンばかりだし、若い頃から一緒にやっている仲間でもあるので、僕らの音楽のこともよくわかってくれてるんですよね。これまで僕らの楽曲に参加してくれた海外のミュージシャンに対してリスペクトを持ってくれているのも大きいんですよ。特に今回はクレア・フィッシャー(1960年代からジャズ、ポップスを中心に活躍した鍵盤奏者、アレンジャー)の存在が非常に大きくて。2012年に亡くなってしまいましたが、世界的なストリングス・アレンジャーでしたので。

ーークレア・フィッシャーがストリングス・アレンジを手がけた「Your Love」「点し火のように」はライブのなかでも大きなポイントになってますよね。

佐藤:そうなんですよ。そこに今回のライブの柱を置くことで、僕らがどういうふうに世界の音楽シーンを見つめてきたかということを、具体的に表現できるんじゃないかと思いまして。「Your Love」と「点し火のように」はクレア・フィッシャーにアレンジしてもらうことが決まってから書いた曲なんです。ポール・マッカートニーの「ディストラクションズ」という曲もクレアにストリングスを付けてもらうことを前提にして書かれた曲なんですけど、それと同じ発想ですよね。ストリングスの旋律自体が楽曲になっているし、その2曲を繋いで演奏できたことは、ライブのなかのひとつのハイライトだったと思います。間のインタールードを手がけたのはソルト(塩谷哲)なんですが、彼もクレアを尊敬しているし、ずっと研究していましたから。あの部分が上手くいけば、ライブの半分は成功すると思っていましたね。

ーーなるほど。西村さんは去年のストリングス・ライブをどんなふうに捉えていますか?

西村:まず、リハーサルが3日しかなかったんですよ。覚えるのに必死で、余裕はなかったですね。

佐藤:ハハハハ(笑)。

西村:ストリングスの編成がダブルカルテットというのも「果たして、どんなものなのかな」と思ってたんです、最初は。カルテットがふたつということですけど、それで音圧が出るのかなって。でも、リハーサルの一発目の音が完璧だったんですよね。室内音楽みたいな雰囲気ではなくて、ちゃんとオーケストラの音になっていて。それはすごくビックリしたし、ギターの手を止めて聴いていたいような気持ちになりました。

佐藤:しっかりしたストリングスが入ると、余計なことをしなくてよくなりますからね。

ーー藤田さんはどうですか? ストリングスをフィーチャーすることで、新たな発見もあったと思うのですが。

藤田:アンコールの1曲目に「止まらぬ想い」を演奏したんですが、この曲は音源にも弦が入ってるんですね。そのときはバイオリンとチェロのダブルだったんですけど、ライブでやったバージョンはアレンジ的により“弦らしい”という感じがあって。楽曲も新鮮に聴こえたし、おもしろかったですね。

ーー弦のアレンジは今野均さんですね。

藤田:そうですね。原曲のストリングスのラインをあまり崩さず、さらに肉付けしてもらった感じなんですけど、想像以上に説得力がありました。

ーー本来やりたかったアレンジが実現できたということですか?

藤田:いや、どうですかね。たとえば「止まらぬ想い」がいまの曲で、いまレコーディングしたのであれば、今回のストリングス・ライブのようなアレンジにしたかもしれないですけど。それはそのときの時代感とか、自分たちの考え方にもよると思うんですよ。僕らはポップスをやっているわけですけど、ポップスというのは時代のあだ花みたいな側面もあるので。あだ花という言葉は誤解を招くかもしれないけど、時代の気分、流行の影響は確実にありますからね。CDに入っている「止まらぬ想い」のアレンジにしても、当時はそれがベストだと思っていたはずですからね。

佐藤:「止まらぬ想い」のアレンジは、その頃(1990年〜1993年)一緒にやっていたロッド・アントゥーンが仲間のバイオリニストとチェリストを連れてきてくれて、その場で演奏しながら作っていったんです。それは僕らも初体験だったんですが、まずチェロの女性が弾いて、バイオリンの男性が「じゃあ、俺はこう弾こうかな」という感じで。弦とかホーンはスコアを書くものだと思っていたからすごく驚きましたけど、アメリカでレコーディングしてたときって、そういう体験をたくさんしたんですよ。時代との一期一会っていうのはありますからね。今回のライブのアレンジも、そのときに出来たラインをもとにしているわけだし。

藤田:そう、オリジナルのニュアンスを残すことも大事だなと。それを含めて上手くいったと思います。

ーーなるほど。それにしても、実際に弾きながらストリングスのアレンジを決めるってすごいですね。

佐藤:それも時代の流れによって変わっていると思いますけどね。当時は僕らも「弦とホーンはスコアを書くもの」と思っていたけど、いまの若いミュージシャンはそうじゃないかもしれないし。クレア・フィッシャーのオーケストラもすごかったんですよ。スタジオに行ってみたら通常は4人で構成するはずのコントラバスが6人もいたんです。しかもそれは音を厚くするためではなくて、低音のなかで内声を構築させるためなんですよ。ある意味、前衛的ですよね。

ーー現代音楽のような発想ですよね。

佐藤:うん、そうですね。ソルトも大学時代に現代音楽も吸収していたし、そのなかでクレア・フィッシャーに惹かれたところもあると思います。

160608_slt_int_s.jpeg佐藤竹善

160608_slt_3.jpeg

 

「大衆性を考えても、ロクなものは作れない」(西村智彦)

ーー「Find It(In Your Heart)〜初夏の印象〜」(1990年)から「Loging 〜雨のRegret〜」(2015年)までキャリアを網羅したセットリストも印象的でした。音楽の幅も本当に広いですよね。

佐藤:八方美人というか(笑)、いろんなことをやってきましたからね。AORと呼ばれているものから本格的に音楽に入ったんですけど、いろいろとルーツを探っていくうちに「AORはジャンルというより、音楽的な捉え方の概念なんだ」というところに行き着いたんです。究極はビートルズとかクインシー・ジョーンズの全人生ということになるんだけど、彼らと同じように、そのときに興味を持っているものに手を出しながら音楽を作っていきたいなと思うようになって。

ーーさまざまな要素を取り込むことこそがAORだという解釈ですね。

佐藤:そうですね。AORのなかにはカントリー、ブルース、ジャズ、ハードロック、クラシック、ソウル、R&B、テクノまで、全部が入っていると思うんですよね。そう考えると「もっと自由でいいんだな」と。続けていくにつれてその概念が当たり前になってきたし、様々な音楽に手を出していないと、作ってる自分たちもつまらなくなるんですよ。一緒にやってくれるミュージシャンの仲間もいろんな音楽に興味を持っているんですよね。たとえばソルトはチャイコフスキーやヴィヴァルディの話をするし、大儀見はサルサのアーティストのことを話したりしますけど、僕らにとってはそれもAORだし、全部「カッコイイな」って思う。そのうえで“ポップスとして僕が歌う”というところに帰結できれば、こんなに楽しいことはないですからね。それを今回はストリングスという切り口で掘り下げてみたということですね。

ーーさきほどのクレア・フィッシャーの話もそうですけど、ストリングスという視点からSING LIKE TALKINGの音楽性を捉え直すことにもつながると思います。

佐藤:そういうふうに楽しんでもらえたら嬉しいですね。人によっては“洋楽っぽいポップス”というくらいのイメージかもしれないけど、28年の活動のなかで、いろいろな変化があるので。比べるのもおこがましいですけど、たとえばイーグルスにしても、ジョー・ウォルシュが加入したことでブルース、レゲエなどの色合いが強くなって、そこから「ホテル・カリフォルニア」が生まれたわけじゃないですか。バンドのキャラクターの変遷を知識ではなく、感覚として触れることができたら、音楽はもっと楽しくなると思うんですよね。

ーー音楽性が変化すれば、リスナーからも賛否両論が出ますよね。とくにヘビィロック系のサウンドを取り入れた『METABOLISM』(2001年)に対するリアクションなどは相当すごかったのでは?

佐藤 すごかったですよ。アルバムの売り上げが半分以下になったんじゃないかな?(笑)

ーーそれもやりたいことをやった結果と?

佐藤:そうですね。積み重ねてきた音というのもあるけど、ぜんぜん違うものが好きになることも当然あるので。さっきも言ったように、それを素直にやらないとモチベーションが下がるんですよ。どこかワガママというか、大人になり切れない部分があるんだと思うんですけど、自分にビビッと来る音楽をやりたいというのはずっとありますね。

ーーポップスである以上、より多くの人に楽しんでもらう側面もあると思うのですが、やりたいことを追求することと、聴きやすいものを作るというバランスはどんなふうに取ってるんですか。

藤田:バランスは取ってないですね、僕らは(笑)。

佐藤:取れないんですよ(笑)。

藤田:それが出来ていれば、もっとヒット曲があっただろうし。

佐藤:おそらく、そういう才能がないんでしょうね(笑)。

西村:大衆性みたいなことを考えても、ロクなものは作れないと思いますね。「楽しんで作ってないな」という空気感も曲のなかに出ちゃうだろうし。

佐藤:流行っている音楽を聴くのは好きなんですけどね。たとえば僕は“いきものがかり”も好きだし、いいメロディだなって思うけど、自分で作ろうと思っても作れないですから。流行っているものに接近してほしいと求められることはあるけど、出来ないことはやらないほうがいい。それぞれのミュージシャンがやりたいことをやって、それぞれにマーケットがあって、そのトータルが音楽シーンになるわけだから。

藤田:うん。ポップスが時代のなかで生きている以上、ファッション性、時代性みたいなものはどうしても含まれますけどね。そのときの社会状況もそうだし、制作の観点でいえれば、テクノロジーの問題もあるし。レコーディングの方法が変われば、同じものを目指していたとしても違うものになることもありますからね。ただ、僕らは大衆性とかけ離れた音楽を追求したいという欲求はあまりないです、おそらく。

ーーストイックに音楽を追求しているイメージはありますけどね。

藤田:そう見えるとしたら、利益留保率みたいなものを考えないからでしょうね。

佐藤:ハハハハハ(笑)。

藤田:そのときにやりたいことに対して、納得できるまで突っ込んでるだけで。あとはなにもないですよ。

ーースティーリー・ダンもそうですけど、ポップスの音楽家は往々にしてマニアックなところに飛び込んでしまいますからね(笑)。

藤田:そうですね。西村くんのソロアルバムを作ったときにエンジニアのロジャー・ニコルスとそういう話になったんですけど、スティーリー・ダンのレコーディングには当時からコンピューターの専門家が参加してたらしいんですよ。「こういうことが出来るか?」という話をして、新しいシステムを開発して。そうなると表現のためにやってるのか、テクノロジーの開発が先なのか微妙じゃないですか、

佐藤:トッド・ラングレンだともっと微妙だろうね(笑)。たぶん、ポップスという言葉の捉え方が各自でぜんぜん違うんでしょうね。ポール・マッカートニーもブライアン・イーノもポップスをやってるつもりだと思うけど、表現はまったく違うじゃないですか。

ーーブライアン・イーノもポップスを作ってるつもりですかね…?

藤田:うん、そうでしょう。

佐藤:さらに突き進んだら、ジョン・ケージみたいになるかもしれないけどね。「それに比べたら、音が出てるんだからポップスだ」っていう感じじゃないかなあ(笑)。それはJ−POPでも同じだと思うんですよ。それぞれのポップスの概念があって、それを形にしているっていう。僕らはいろいろな海外のアーテイストから影響を受けてますけど「彼らがどんな真実を求めて音楽を作っていたか?」というところまで感じられないと、そのクオリティには追いつけないとずっと思ってるんですよね。実際に追いつけたかどうかは別問題ですけど、少なくとも「マネだけしていてもダメだ」というのはありますね。あとね、海外の音楽を取り入れて、ドメスティックなものとして再構築することにも興味がないんですよ。唯一あるとすれば、日本語で歌っているというだけで。

ーー“このサウンドは日本のリスナー向きじゃないから、アレンジしよう”という発想もなかったんですか?

佐藤:ないですね。というか“向く”と思ってたんです。曲が出来るたびに「今回こそ大ヒットだ!」って思ってたから。それが気付いたら、こんな有様ですよ(笑)。

西村:ハハハハ(笑)。

佐藤:いや、どっちがいいとか悪いって話ではないんですけど、リスナーから求められていることを意識して作ったことは一度もないので。自分たちが表現したいこと、求めているものを曲にして、それに対してお足を払っていただく。その結果、プロして活動できる限界値を上回っていれば、来年もまたアルバムが出せるっていうことですから。さっき千章が利益留保率なんて言ってましたけど(笑)、売れたら売れただけ使っちゃいますからね。

ーー利益が出たら、次の制作に回すと。ただ、2000年代以降の制作環境は様変わりしてますよね。バジェットも下がり続けているし、スタジオがどんどん閉鎖している状況もあるし。

佐藤:でも、歴史に“もしも”はないですから。さっきも千章が言ってましたけど、そのときの環境、そのときの空気によって出来上がる曲も変わるじゃないですか。たとえばビートルズは1stアルバムを2週間で録ってるんですね。それは録らざるを得なかったからですけど、だからこそ、あれだけのパワーが生まれたわけで。「ツイスト・アンド・シャウト」をジョンが声をつぶしながら歌ったのも、言ってみれば偶然なんですよ。

ーーそれが伝説的なテイクとして後世に残ったわけですからね。

佐藤:もし1stアルバムから潤沢なバジェットがあったら、また違ったものになったでしょうからね。機材もそうだし、いろいろな外的要因によって生まれて来る作品も変わるというか。だからいまの若いアーティストも、そんなに「昔は良かった」とは思ってないんじゃないかな。だって、昔のことは知らないから(笑)。僕らだってシナトラの時代は知らないし、「そんなことが出来て、羨ましい」なんて思わないですからね。

ーー悲観するようなことではない、と。

佐藤:そう思いますよ。才能とクールな判断力さえあれば、いろんな可能性があるはずなので。その時代のなかで与えられた環境に素直に反応して、ベストな仕事をするしかないですからね。

160608_slt_int_f.jpeg藤田千章

160608_slt_2.jpeg

 

「形を変えて同じことを繰り返している」(佐藤竹善)

ーー最新シングル「風が吹いた日」についても聞かせてください。もちろんこの曲にも“いまやりたいこと”が反映されていると思いますが、まず、ホーンセクションがフィーチャーされていますね。

佐藤:そうなんです。この曲は(ODS「SING LIKE TALKING LIVE MOVIE –Strings of the night-」)主題歌であると同時に、次のライブへの布石なんですよね。27年目にストリングスを切り口にしたライブをやったので、今年は“28/30”としてホーンをフィーチャーしたライブを準備していて。そのパイロット版なんですよね、この曲は。ストリングス・ライブの前にもパイロット版として「Longing 〜雨のRegret〜」をリリースしたので、それと同じですね。だから今回のシングルは、3曲ともホーンをフィーチャーすることを前提にして書いたんですよ。

藤田:基本的には作った曲に対して、ストリングスを入れるかホーンを入れるか考えるので、最初からホーンを入れることを決めてから楽曲を作るのは珍しいケースですよね。

佐藤:初めてじゃないかな。手法を変えるのはすごく新鮮だったし、楽しかったですよ。

ーーホーン・セクションを軸にしたライブ「SING LIKE TALKING Premium Live 28/30 Under The Sky 〜シング・ライク・ホーンズ〜」の会場は日比谷野外音楽堂、野外の単独ライブも初めてだとか。

佐藤:フェスではやってるんですけど、単独はやってなかったんですよね。何となく室内的なイメージがあったり、僕がものすごい雨男ということもあって(笑)、ライブを組むときは当然のようにスタッフがホールの会場を押さえていたので。僕らも「野外で単独ライブをやりたい」なんて思ったことないですからね。

藤田:確かにそういう欲求はなかった(笑)。野外だからと言って、音楽的な何かがあるわけではないですからね。

佐藤:野外らしい演出が出来るわけでもないしね(笑)。ホーンセクションを活かしたライブということで、ふだんはあまり演奏しない曲も入ってくるだろうし、また違った掘り下げ方が出来るのは楽しみですね。

西村:R&B、ファンキーな曲が中心になると思うんですけど、そうするとカッティング・ギターが増えるんですよね。ずっとカッティングしないといけないから、腕が疲れるだろうなと(笑)。そこは勝負ですね。

160608_slt_int_n.jpeg西村智彦

ーーストリングス・ライブ、ホーン・ライブと音楽的な意図が明確なイベントが続きますね。

佐藤:そういうことを続けていないと“どうでもいい”ということになってしまいますから。だからバラードのライブはやらなかったわけだし。何年か後にはポジティブな意味で“どうやってもいい”って言えるときも来ると思いますけどね。

ーーいつかは無理なく“周りが望むことに応えよう”と思えるようになるだろう、と。

佐藤:だと思います。そのときまでミュージシャンとしてやれたたら、ですけどね。

藤田:何があるかわからないからね。

佐藤:僕らはプロの契約社員ですから(笑)。近いところで言えば、2018年の30周年は集大成になると思うんですよ。25周年からの5年間で成長した部分を見せないといけないし、そのステップとして、ストリングス、ホーンのライブをやって。そういう意味では、来年に何をやるかが大事になってくるでしょうね。

ーー非常に楽しみです。最後にもうひとつ質問させてください。いまの音楽シーンには、AOR、シティポップに影響を受けた若いバンドが同時多発的に登場していますよね。たとえばcero、Yogee New Waves、Awesome City Clubなどですが、その世代のバンドとの共通点だったり、“また時代が巡ってきた”という感覚を感じることはありますか?

佐藤:両方感じますね。まず共通点としては“どんなジャンルに手を出してもいい、自由でいい”ということですよね。インディーズで活動しているバンドが多いということもあるけどーー僕らの頃は“インディーズ=アングラ”だったけど、いまのインディーズはひとつの自由な文化なのでーーたとえばAwesomeにしても、ザ・バンドみたいな曲からテクノまで、自由に何でもやるじゃないですか。僕らもそうだったんですよね。デビュー曲(「Dancin‘ With Your Lies」/1988年)はファンキーな曲だったんですが、その別バージョンを1stアルバム(『TRY AND TRY AGAIN』/1988年)に入れてるんですよ。まだリミックスという言葉もない頃だったんですけどね。じつはラップを入れようというアイデアもあったんです。それは結局は入れなかったんですけど、何でもやってみようという姿勢は、いまのバンドにも共通してるんじゃないかな。

ーー音楽のトレンドが巡る感覚についてはどうですか?

佐藤:僕らが大学生の頃にモータウン・サウンドのブームが起きたんですよね。フィル・コリンズやビリー・ジョエルなどが60年代のモータウンを80年代に蘇らせたわけですが、それと同じようなことが最近も起きていて、ヨーロッパ、北欧、南米などで80年代のAORをそのままやっているアーティストがどんどん出ているんです。ブラジルのエジ・モッタというアーティストなんて『AOR』というタイトルのアルバムを出しましたからね。TOTOの初期のようなサウンドなんですが、30代前半の彼にとっては新鮮なんだと思います。ニュー・ビンテージというスタイルもそうですよね。楽曲、アンサンブルだけではなくて、サウンドのトーン、ミックスに至るまで昔の音に近づけるっていう。

ーーそういう音楽シーンの動きに刺激を受けることもありますか?

藤田:同じ時代を生きているわけだし、特に意識しないでも刺激は受けていると思いますけどね。ただ、音楽自体に対する考え方は、途轍もなくかけ離れてるとは思うんですよ。僕らの感覚でいうと音楽を作る人はミュージシャンなんですけど、いまはどっちかというと、クリエイター的な人が増えてますよね。それはつまり、音楽という作品ではなく、音楽≒コンテンツという意識で制作している人が多くなっているということじゃないかな、と。そういう傾向はかなり以前から感じてたんだけど、それを露骨にそうだと表現されるようになったのは、ダフトパンク辺りからじゃないかなと。

ーーなるほど。

藤田:それがいまは当たり前になっている気がしますね。手作業、人力からPC上の作業に移行して、音楽に対する意識も作品からコンテンツに移行した。いまはまだ過渡期で、その中間でいろいろなアプローチの人たちが存在感を示しているという構図だと思うんですよ。それが将来的にどうなるかはわからないですけど、音楽をコンテンツとして捉える考え方自体が僕にとってはすごく新鮮だし、おもしろいなって思うんですよね。僕らは音楽に対して「人生をかけてやり遂げる」的な感覚があるけど、いまは「いま、こんな感じ、おもしろいんじゃない?」みたいな感覚の人がたくさんいるわけで。それは良い、悪いの問題じゃないですからね。そういうニュアンスを取り入れてみたいという気持ちもあるし、逆に僕らの感覚を(若いクリエイターが)受け取るとどうなるのかを見てみたいなと。

佐藤:お互い、自分たちが持ってないものに憧れますからね。ダフトパンクが(アルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』で)ミュージシャンに近づいたり。そうやって刺激し合ったり、近寄ったり離れたりすることで、また新しいものが生まれるだろうし。

西村:確かに「感覚がぜんぜん違うな」と思うことは多いですね。たとえばライブ告知のビラにしても、いまはアマチュアのミュージシャンもすごくキレイに作るじゃないですか。レコーディングも自宅で出来るし、そのクオリティも良くなってますからね。

ーーいまの若いバンドって、音源はもちろん、ビジュアル的な打ち出し方、ステージの演出からグッズまで、すべて自分たちで手がける場合が多いですからね。自己プロデュース能力が高いというか。

佐藤:それも大局で見れば、たとえばデヴィッド・ボウイがトータルで世界観を作り上げていたのと同じだと思うんです。セックス・ピストルズだって、パンクというスタイルをビジネスに組み込んだイメージ戦略だったわけじゃないですか。いまのアーティストは表現、表し方が違いますが、それを新しいムーブメントと捉えるか、形を変えて同じことを繰り返していると考えるか……。僕は「形を変えて同じことを繰り返している」と捉えているんですが、それはとてもいいことだと思うんですよ。そういう方法って、じつは何十年、何百年と繰り返されてきたことですからね。

(取材・文=森朋之/撮影=竹内洋平)

 

160608_slt_j.jpegSING LIKE TALKING『風が吹いた日』

 

■リリース情報
『風が吹いた日』
発売:2016年6月8日
【初回限定版】 ¥2,700 (税込)
1 風が吹いた日
2 Hysterical Parade
3 Prima Donna
CD2
1 月への階段 (Live)
2 Longing ~雨の Regret~ (Live)
3 離れずに暖めて (Live)
4 Rendezvous (Live)
5 Your Love (Live)
6 点し火のように (Live)
7 回想の詩 (Live)
8 止まらぬ想い (Live)
9 With You (Live)
10 Spirit Of Love (Live)
※ライブ音源
・2015年10月12日東京・昭和女子大学人見記念講堂で行われた「SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリ ングス~」公演より。
・ボーナスディスクとしてライブ音源10曲収録

【通常盤】 ¥1,700 (税込)
1 風が吹いた日
2 Hysterical Parade
3 Prima Donna
4 Your Love (Live)
5 点し火のように (Live)
6 回想の詩 (Live)
7 止まらぬ想い (Live)
8 With You (Live)
9 Spirit Of Love (Live)
※ライブ音源
2015年10月12日東京・昭和女子大学人見記念講堂で行われた「SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリ ングス~」公演より。
ボーナストラックとしてライブ音源6曲収録

■「風が吹いた日」配信情報
「風が吹いた日」
レコチョク http://po.st/sltkazeblreco
iTunes http://po.st/sltkazeblitms

「風が吹いた日(Bonus Track Version)」
レコチョク http://po.st/sltkazebtblreco
iTunes http://po.st/sltkazebtblitms

「風が吹いた日」ハイレゾ
e-onkyo music https://po.st/sltkazebloky

■SING LIKE TALKING LIVE MOVIE-Strings of the night-
〈舞台挨拶付上映スケジュール〉
6月11日(土)  大阪府   あべのアポロシネマ  13:00~
6月12日(日)  東京都   角川シネマ新宿  ①10:30~・②13:00~
6月12日(日)  神奈川県  イオンシネマみなとみらい 16:00~
6月18日(土)  福岡県   ユナイテッドシネマキャナルシティ13 13:00~
6月19日(日)  宮崎県   セントラルシネマ宮崎 15:00~
※東京&神奈川&名古屋&大阪はメンバー3名。 その他地域は佐藤竹善1人の登壇予定。

■SING LIKE TALKING Premium Live 28/30 Under The Sky ~シング・ライク・ホーンズ~
<東京公演>
開催日時:2016年8月6日 (土) 17:15 開場 / 18:00 開演
会場:日比谷野外大音楽堂

<大阪公演>
開催日時:2016年8月13日 (土) 16:15 開場 / 17:00 開演
会場:大阪城野外音楽堂

■オフィシャルサイト
https://singliketalking.jp/