BOYS END SWING GIRL 冨塚大地が明かす、地元千葉への思いと自身の弱さ 「音楽があったから生きていられる」
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今年6月に1stアルバム『FOREVER YOUNG』でメジャーデビューを果たした4人組ロックバンド・BOYS END SWING GIRLが、早くも6曲入りのミニアルバムとなる新作『STAND ALONE』をリリースした。
デビュー作では60年代ブリティッシュロックから90年代オルタナティブロックまで、洋楽のエッセンスを随所に散りばめつつMr.Childrenやスピッツなどに影響を受けたソングライティングによって、フックの効いたポップミュージックを展開してきた彼ら。本作はその延長線上にあるサウンドプロダクションだが、メインソングライターでボーカル&ギターの冨塚大地が書く歌詞世界には徐々に変化が訪れているようだ。例えば「ラックマン」や「LONELY HOPE」といった楽曲には、昨今のSNS騒動や児童虐待・ネグレクトといった社会問題からインスパイアされた言葉が並んでいる。これまで自己の内面と向き合いながら言葉を紡いできた冨塚の、そうした意識の変化はどのようにして訪れたのだろうか。
最近は地元である千葉県に根差した活動も積極的に行い、年明けには成田市文化芸術センターで初のホールワンマンにも挑戦するというBOYS END SWING GIRLの“現在”について、冨塚に聞いた。(黒田隆憲)
地元・千葉での台風被害を受けての変化
ーー6月にメジャーデビューしてから、この半年間はどうでした?
冨塚大地(以下、冨塚):楽しかったよりも、めちゃくちゃキツかったことの方が多いですね。アルバム『FOREVER YOUNG』を出した時点で「もう終わった」と。歌いたいことは全て込めたし、これで歌えなくなってもいいとすら感じていたんです。でもすぐにリリースの話が来て(笑)。今回の6曲を選ぶまでに何十曲も書かなきゃいけない状況になって。だから「自分が何に対してどういう感情を抱くのか?」を、見つけに行く旅に出る必要があったんです。
ーーそうだったんですね。
冨塚:そのためには本もたくさん読んだし、世界のこと、社会のことをもっと勉強して。そしてそれを、どうやって自分の音楽に落とし込んでいくかをずっと試行錯誤していました。今までは、自分の内面から出てきたものについて歌うことが多かった。でも今回は、社会的なもの、時代的なトピックを、自分の内面とどうやって共鳴させて音楽にしていくかについて考えました。ゼロから動き出すのって本当にキツイと身に染みて感じた半年間でしたが、それが出来たからこそ新しい場所に行けたし、バンドにとっても大きな一歩になったと思っています。
ーー例えばどんなことにインスパイアされました?
冨塚:インスパイアと言っていいのか分からないけど、虐待やネグレクトについては感じることが多々ありました。毎月のようにそういう記事が上がっていて、その数が多くなっていくにつれて、こちらの「痛み」が麻痺していくというか。「ああ、またか」みたいに感じている自分がすごくイヤだなと思って。
そのことについて、正面から向き合って歌詞にする勇気は正直まだ持てていないんです。でも、自分の身の回りでも近いようなことが起きているんじゃないかと。それを歌っているのが「LONELY HOPE」という楽曲です。親から過度な期待を受けて、応えられず失望された時にどんな感情になるのかについて考えながら書きました。「誰かに認められないと生きている感覚が持てない」という人に、この曲が届くといいなと思っていますね。
ーー虐待やネグレクトも「どこか遠い場所で起きた特殊な事例」ではなく我々のすぐそばにあって、いつ自分の身に降りかかったり、当事者になってしまったりするかもしれないわけですよね。たとえ今は正面から向き合えなくても、身近なことをテーマにしつつその先を見据えようとする冨塚さんの姿勢に胸を打たれました。そういえば、地元の千葉で今年起きた台風災害に関してnoteで言及していましたよね。ミュージシャンとして、何かできることはないか色々考えたのではないかなと。
冨塚:すごく考えましたね。自分の思ったことは音楽以外でも発していくのは大事なことなんじゃないかと思っています。最初は避けてたんですよ、「俺が言っても何も変わらないんじゃないか」という意識がずっとあって。でも、1万人に届かなくてもいい、100人でも50人でも届くのだったら、ちゃんと言葉にして発していこうと最近は思うようになりました。それは、デビューしてからの心境の変化かもしれないです。
ーー地元といえば、千葉県のバンドオーディション(千葉県10代限定バンドバトル 『アオハルロック』)審査員も務めているんですよね。夢に向かって頑張っている人たちを見ると、昔の自分たちを重ねるところってあります?
冨塚:ありますね。オーディションの審査員をやっていながら、負けた方にも感情移入しちゃうんですよ。僕らずっと負けてきたというか……19歳の頃、何度もオーディションを受けて落ちて、25歳の時に出演した『ROAD TO EX 2017』で初代チャンピオンになったことで、ようやくメジャーデビューの道が拓けたという経緯があるので。落ちたバンドの子たちの前に行くと、ついその時の話をしてしまいます。「負けることも大事なんだよ」って。
ーー失敗や紆余曲折があったからこそ、今のBOYS END SWING GIRLがあるとも言えますよね。それは、今作『STAND ALONE』の歌詞にも反映されていると思いました。
冨塚:ありがとうございます。本当にそうですね。僕の人生、挫折の方が多いけど「それでも強がって前に進む」というのがBOYS END SWING GIRLの歌詞世界なんです。そこを共感してもらえたら嬉しいですし、今回それが前に出ていると思いますね。
それと、僕ら成田市出身なんですけど、隣の佐倉市出身のHalo at 四畳半とめちゃめちゃ仲が良くて。地元で一緒に出ていたライブハウスが色んな縁を繋いでくれたんですよ。そこで生まれたバンドだからこそ「地元が好き」というのもあるんですよね。僕は本当に幸せな人生を送ってきたなあってつくづく思います(笑)。そこでもらったものを、これから出会う人に伝えていきたい。そういう存在になりたくて審査員を引き受けたところもありますね。
ーーちなみに今作『STAND ALONE』はミニアルバムですが、作品としてはどんな位置付けですか?
冨塚:前作『FOREVER YOUNG』と対になっているというか。僕が一番好きなバンドはLUNKHEADですけど、彼らが『AT0M』というアルバムを出した後に『V0X e.p.』というミニアルバムをリリースしたんです。この2枚はリンクしているというか、ジャケットや曲調がよく似ていて。その感じがいいなと思ったんですよね。「LUNKHEADで好きなアルバムは?」と聴かれたときには、この2枚を同時に挙げるくらい好きで。今回のミニアルバムの位置づけは、そこからの影響もあると思います。
ーー番外編というか。
冨塚:本当、そんな感じです。これを聴けば『FOREVER YOUNG』がより深く理解できるし、ここには『FOREVER YOUNG』の要素が受け継がれているという。ただ、この2枚で取り上げた「青春」というテーマには、これで終止符を打ちたいと思っています。そろそろ大人になりたいなと(笑)。さっき話したように、もっと社会のことや政治のことに関心を持ちたいし、自己を掘り下げるというよりは広い視野に立って物事を見たいですね。
「普通の人たちに届く歌」が歌いたい
ーーアルバム1曲目の「ラックマン」は、最近のSNSについて歌っているのかなと思いました。
冨塚:はい。最近「つながり孤独」という言葉を知ったんですよ。SNS上の友人はたくさんいるのに、どうしようもなく孤独を感じてしまったり、人のライフスタイルに劣等感を抱いてしまったりすることを言うらしいんですけど。
モチーフ自体は大学生の頃に書いていました。その時の歌詞は「何者かにならなければならない気がしている」みたいな、単に自分の気持ちをつらつらと書き綴ったようなものだったんです。何になったらいいのか分からずに立ち止まっている状態というか。その歌詞の内容も好きだったんですけど、今の自分の、音楽を通して自分のメッセージを伝えることに自信を持てるようになった状態で、もう一度歌詞を書き直してみたいなと。結果、20代前半の時に感じていたリアルな気持ちと、それから数年経って客観性が出てきた視点が混じり合ったすごくいい歌詞に仕上がりました。これは自分にとって、本当に大切な1曲になりましたね。
ーー「ラックマン」というタイトルの由来は?
冨塚:「ラック」というのは「欠けている」という意味ですけど、欠けている僕らは、それが何かを探しているというか、欠けている部分で共鳴する人に出会い、その人と歩いていくのが幸せなのかなと。最初は「欠けている」という意味の「lack」が、そのときに「幸せ」という意味の「(good)luck」に変わるんじゃないか、という歌詞です。これ、俺すげえ上手いこと考えたな! と思いましたね(笑)。
こういう言葉遊びが昔から好きだったんですよ。例えば、〈また他人の幸福を羨んでハートつけた〉という歌詞の、〈ハート〉というのはSNSの「いいね」のことなんですけど、ニュースとか見てたら最近はみんな「いいね」と思ってなくても「いいね」を付けていると聞いて。「それって何なんだろうな」と思っちゃったんですよね。今は写真も加工するのがデフォルトですけど、気持ちまで加工しなくていいんだよ? という思いも込めて、〈誰かと比べなきゃ 幸せを感じられない 君は君のままでいいのに 君が感じた気持ちは 加工しないでいいから〉とも歌っていますね。
ーー人は足りないところをつい埋めたくなりがちですが、自分が「足りてない」と思っている部分が、他人には魅力である場合も多いですよね。
冨塚:本当にそう思います。……これ、初めて言いますけど、人生を変える出来事が子供の頃にあって。小学生の頃は足がものすごく速くて、めっちゃモテてたんですよ。足が速い男子がモテた時期ってありましたよね(笑)? ところが中学1年生になった年の体育祭で、クラスで一番速い子たちが集まって競う100メートル走があって。俺、自信満々だったんですけど、そこでビリッケツになっちゃったんです。
ーー最も自信があった競技で、今までにない屈辱を味わったと。
冨塚:そこからは「どん底の日々」が始まったんですよね。ちょうどみんな成長期でどんどん背も伸びて、僕だけ体が小さかったから体格的にも追い抜かされた感じがして。どんなに頑張っても不可能なことって絶対的にあるんだというのを、その時に感じちゃったんです。そこから自分の心に暗い部分が生じたのかもしれない。それから走るのも、体育祭も嫌いになりましたね。ふと、そんなことを思い出しました(笑)。
ーーそういう経験があったからこそ、弱い人の気持ちが分かったり、失敗した人に手を差し伸べたくなったりするんじゃないですかね。つまり冨塚さんのその「lack」こそが魅力になっている。
冨塚:だといいなと思います。僕、特別すごい体験もしたことがなければ、強烈に辛い出来事に遭遇したこともないんですよ。普通の人が普通に生きてて味わう、普通に辛い出来事はいろいろあるんですけど(笑)。でも、だからこそ僕は「普通の人たちに届く歌」が歌いたくて。僕らBOYS END SWING GIRLがアマチュア時代に付けたキャッチコピー、「最強の普通バンド」はそこから来ているんです。
ーー「ラックマン」には〈“何か”にならなきゃいけない気がしている〉、「LONELY HOPE」には〈何も果たせないまま 捨てられたくない〉というラインも出てきます。前作にも「何者」という曲がありましたが、「何者にもなれない自分」が許せず苦しんでいる人は多いけど「別に何者にならなくてもいいじゃん」と思えれば楽になる。そんなこともBOYS END SWING GIRLは歌っているように思います。
冨塚:どんな仕事でも働いているだけで「めっちゃすげえことだぞ!」って思いますよね。僕らも天才でもなんでもない、ただ楽器が弾けたり、歌詞が書けたりする普通の人間で。だからこそ普通に生きている人たちが、自分を好きでいられる楽曲を歌いたいんですよね。
ーーちなみに今回、作詞でjamさんが関わっていますね。
冨塚:はい。共作という形で3曲を一緒に作りました。例えば「クライマー」という曲は、最初タイトルがついてなくて、自分たちがメジャーデビューを果たして「今から頑張っていくぞ」という覚悟についての歌詞だったんです。それをjamさんが見て、「この歌詞は険しい山を一歩ずつよじ登っているようなイメージだね」と言ってくれて。一瞬にして情景が思い浮かんだんですよね。それで山登りを彷彿とさせるフレーズ……例えば〈雲を掴んだ感覚〉や〈深呼吸で起動しなくちゃ〉、〈夜明け前〉といったフレーズを随所に散りばめてみたら、歌詞が面白くなったんです。こういう発想って、一人だったら出来なかったと思うんですよね。
共作をやっていると、周囲のミュージシャンからは「歌詞を共作ってどうなの?」みたいに言われることが多くて。でも僕は「最高だよ?」って思う(笑)。自分ではたどり着けないところまで行ける、自分で100点だと思ってた歌詞が、まだまだ見直すべき場所がたくさんあることに気づかせてもらえるのって、ものすごい成長だと思うんですよね。その曲が求めている場所まで、誰かの力を借りて到達するのってすごく楽しいです。
ーー表題曲である「スタンドアローン」は、どんなふうに作りましたか?
冨塚:ちょうど1年くらい前に作っていた、僕の中では最も思い入れの強い曲ですね。昔はライブがそんなに得意じゃなかったんですよ。狭い部屋でギターを弾きながら、曲を作っている時が一番楽しかった(笑)。その後、どんどんライブも好きになっていくんですけど、当時はメジャーデビュー前で、そのプレッシャーに押し潰されそうになり、曲を書くのがどんどん楽しくなくなってしまっていたんです。むしろ苦しかったんですよ。机の上に座るのさえ辛くて、ギター弾きながらワケもなく涙が出てくるような状態というか。
ーーそうだったんですね。
冨塚:電話口でマネージャーに、「もう僕は音楽が続けられないかもしれません」と言ったくらい追い詰められていて。気づいたら外を歩いているみたいな(笑)、そんな危うい日々が続いていたんですよね。人生で一番苦しかったかもしれない。
で、もう最後の手段というか、この泣いてる自分に向けて曲を作ってみて、それが上手くいかなかったらもう失踪してやろうと(笑)。そういう気持ちで家に帰り、30分くらいで作ったのがこの曲です。それまで毎日ギターと格闘しても全く書けなかったのが、泣いてる自分に曲を書こうと思ったらすぐ書けたので、本当に自分を救ってくれた曲なんですよね。
ーー冨塚さんが書く歌詞の多くは、人生の答えを自分ももがきながら聴き手と一緒に探している感じがします。決して大上段に構えて上から目線で言うのではなく、「僕は、こう思うんだけど、君はどう思う?」と語りかけているというか。そこに共感するのだと思いました。
冨塚;それはすごく嬉しいです。さっき言ったように僕は普通の人間で、みんなと同じように悩んでいるし、同じように苦しんでいるんだよ? と伝えたかったです。僕には音楽があったから、こうやって生きていられているだけで、本当に辛いし苦しいし、弱いっていうことを伝えていきたい。そのもがく姿を見て欲しいと思いますね。
ーー〈人生に負けはない〉も、自分に言い聞かせている感じがします。だからこそ響くというか。
冨塚:その通りです。自分の気持ちを言葉にして出すってとても大事ですよね。
ーーでは最後に、来年1月に開催される成田市文化芸術センターでのワンマンについて、意気込みをお聞かせください。
冨塚:ホールでのコンサートは、ずっとやりたいことの一つでした「ホールでやれるロックバンド」に憧れていたので、それがようやく実現できるのは嬉しいです。「何をしたら楽しいだろう」「みんな喜んでくれるかな」とずっと考えています。地元の人たちはもちろんだけど、それ以外の場所から観にきてくれる人もたくさんいるだろうから、「俺たちの街っていいだろ?」というところも見せていきたいですね。暖かい日になると良いなあ!
(取材・文=黒田隆憲/写真=林直幸)
BOYS END SWING GIRL 冨塚大地が語る、冬の恋のエピソードとは…!?
■リリース情報
『STAND ALONE』
2019年12月11日(水)発売
定価:¥1,818+税
<収録曲>
1、ラックマン (リードトラック)
2、ロンリーホープ
3、毒を喰らわば皿まで
4、スノウドロップ(Album Ver.)
5、クライマー
6、スタンドアローン
■ライブ情報
『BOYS END SWING GIRL ONE MAN LIVE 2020「HOME ALONE “s”」』
日程:2020年1月26日(日)
会場成田市文化芸術センター スカイタウンホール
時間:開場 17:00 / 開演 18:00
料金:¥4,000(税込)
チケット2019年12月7日(土)10:00~ 一般発売