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『同期のサクラ』は岡山天音あってこそ? バイプレーヤーにも主人公にもなれる稀有な才能

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リアルサウンド

 12月18日の放送でいよいよ最終回を迎える日本テレビ系列水曜ドラマ『同期のサクラ』。入社から1年ごとの、ある一時期のエピソードを1話ずつ見せていくという斬新な展開を通して、社会の変化や20代という最も激動な時期を駆け抜けていく登場人物たちの成長と夢や友情を描いた物語は、どことなく漂うクラシカルな部分と現在的なエッセンスがきちんと適合した、いかにも遊川和彦ドラマらしい見応え充分な作品であると高く評価できよう。

参考:『同期のサクラ』場面写真はこちらから

 回を重ねていくごとに、つまり劇中で年月を重ねていくごとに、高畑充希演じるサクラをはじめとした登場人物たちにはあまり外見的な変化が見られない。それは、主に20代前半からの新卒入社後10年の間で著しく変化するのは、個人差はあれど外見的な部分よりも内面的な部分であるということを表しているかのようだ。しかしながら、メインの5人の中で岡山天音演じる土井蓮太郎だけはその見た目にも多少の変化が見受けられる。第1話の頃から比較すると髪型が変わり、眼鏡も掛けるようになるなど、終盤に差し掛かるにつれて急激に貫禄が携わってきた印象だ。

 この蓮太郎という役柄は、他の4人と比較しても(他の4人もなかなかではあるが)複雑で劇的な人生を歩んでいるキャラクターではないだろうか。大学を二浪し、“一級建築士”になりたいという明確な夢を持って会社の設計部へ配属されるも、周囲とうまく渡り合うことができず、さらには一向に一級建築士の試験に受からない。さらには実家のラーメン屋にコンプレックスを抱き、第4話では部屋に引きこもってしまうというくだりも。その後第7話で一級建築士にようやく受かった彼は、サクラの上司だったすみれ(相武紗季)と交際に発展し結婚。さらに先週の第9話で、会社を辞める決心を語る。こうした一連の流れだけでも、蓮太郎単体でドラマができそうなぐらいだ。

 5人の同期たちの中で、1人だけ歳上という設定を抜きにして考えても、あまりにも多くの人生の転機を経験するという難しい役どころを演じきってきた岡山。彼自身もここ2年ぐらいで急激に出演作が増加するという劇的なキャリアを歩んでいる印象だ。そのきっかけとなったのは2017年に放送された『ひよっこ』(NHK総合)で間違いないだろう。多くの若手俳優たちが朝ドラをステップに飛躍を遂げることは今更言うまでもないことだが、同作の放送終了直後に公開された『氷菓』から丸2年で、彼が出演した映画とドラマの作品数は主演作品も含めて実に30本にも及ぶ。いくらなんでも劇的に飛躍し過ぎているだろうと思わずにはいられない。

 『ひよっこ』以前からも数多くのドラマや映画でキャリアを積んできた岡山。その経歴がNHK教育で半世紀近く続いた長寿シリーズ『中学生日記』のオーディションから始まったというのも、最近の若手俳優陣の出自を考えるとなかなか珍しい。しかし、25歳の若さにして“バイプレイヤー”としての地位をほしいままにしているというのはそれ以上に珍しいのではないだろうか。柳楽優弥と瀬戸康史がダブル主演を務めた『合葬』や、野村周平や間宮祥太郎といった若手俳優たちが勢揃いした『ライチ☆光クラブ』や『帝一の國』など、思い返してみればあの作品にも出ていたのかと驚くものが多数ある彼のフィルモグラフィは、いかにもバイプレイヤーらしいものであろう。

 簡潔に言えば、主演俳優を立てて、必要以上に目立つことはないものの独特な存在感を発揮するというのがバイプレイヤーの条件だろう。しかし岡山の特殊なところは、主演作においてもその才を発揮し、これまでにないような主人公像を確立するところにある。昨年末から今年春にかけてBSスカパーで放送された『I’’s』で彼は、4人の女性の間で揺れ動く主人公を演じきった。徹底してうだつが上がらない優柔不断にもかかわらずなぜかモテるという、主人公らしからぬキャラクターをあまりにも自然に演じきるのだから漫画の世界がほぼそのままに具現化しても一寸の嫌味たらしさもなく、逆に岡山の雰囲気が愛らしく思えるほど綺麗にハマる。そしてそれと同時に、彼を取り巻く4人のヒロインたちの魅力を見事に引き立てるという離れ技も繰り出すのだ。その後の本田翼とダブル主演を果たした『ゆうべはお楽しみでしたね』(MBS・TBS系)もしかり、主演作ではないにしろWOWOWの『東京二十三区女』もしかり、それなりに目立つ位置にいたとしても一歩下がったところから共演女優の個性や魅力を引き立てる。まさに天性のバイプレイヤーにしかできない所業だ。

 それだけに今回の『同期のサクラ』のように、ヒロインの極めてユニークな雰囲気が中枢を担っている作品に、岡山の存在は不可欠だったと断言できる。しかもドラマ序盤では橋本愛演じる百合に告白して撃沈したり、年上の女性であるすみれ、すみれの娘であるつくし(粟野咲莉)と、彼の演じる蓮太郎の周りにはつねにまったくタイプの異なる女性キャラクターが存在していた点も見逃せない。同世代の俳優たちの中で個性の違いを見せるバイプレイヤーとしての才能に、女優陣を立てる一歩引いた演技。そしてこれまで演じてきた役どころにはなかった30代の落ち着きと一抹の疲労感すら漂わせた演技など、あらゆる引き出しを駆使していく本作は、岡山天音という俳優の価値をさらに高め、無二なものにしてくれることだろう。 (文=久保田和馬)