Brian the Sunが“男性的表現”を意識した理由 森良太「チヤホヤされる環境が退屈で仕方なかった」
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Brian the Sunが、1月11日にメジャー1stアルバム『パトスとエートス』をリリースした。同作はバンドが結成10周年を迎える2017年最初の作品であり、どこか緊張感のある新曲群に加え、フロントマンの森良太(Vo./Gt.)が“うしろめたさP”としてニコニコ動画に投稿した「アイロニックスター」や、田中駿太(Dr.)が加入し、2011年に現体制初の作品としてリリースしたシングルの楽曲「Cloudy#2」が収録されるなど、バンドの歴史もパッケージングされた1作に仕上がっている。
リアルサウンドでは今回、森にソロインタビューを行ない、彼が「男性的な表現を意識した」という作品のコンセプトや、楽曲に対する考え方、現状の音楽シーンに対する疑問などについて、じっくりと語ってもらった。(編集部)
「将来的には帰ってくる場所、つまり『エートス』になる」
ーー以前インタビューした際に「アルバムをちょうど作っていて、3曲できてあと8曲くらい」というお話でした。でも、いざ蓋を開けてみると面白いラインナップだなと思ったのですが、森さん的には作り終えた現在、どういった心境でしょうか?
森:期間中は必死で何も考えてなかったですけど、今思い返してみたら楽しかったですね。色々心が動くことがたくさんあって。
ーーちなみに最初の方にできた3曲というのはどの曲ですか。
森:表題曲と「Hi-Lite」、「Impromptu」の3曲ですね。これらがアルバムの主軸になっているし、できたことでアルバムの方向性が見えました。2015年の5月くらいにできたのが「Impromptu」で、「パトスとエートス」は結構前からアイデアはあったんですけど、曲として落とし込めたのは結構後の方だったんです。そもそも、アルバム自体はどちらかというとハードなものというか、男性的な表現を持たせたいという思いがあって。
ーー男性的なもの?
森:「女性的」と聞くと、温かかったり丸かったり包み込んでいたりと、柔らかみのある印象を受けるんです。逆に「男性的」やなと思うのは、断ち切るとか切断するとか、角ばっていて寒色のようなイメージで、今回のアルバムはその感覚を重視しました。タイトルの『パトスとエートス』に関しては、一般的な意味でパトスは「情動とか感情の動き」、エートスは「性格や習慣」、意訳だと「帰属する場所」という意味があるそうで。メジャー1stアルバムなので、現状は「パトス」側の気持ちで作ったんですけど、将来的には帰ってくる場所、つまり「エートス」になってるはずなんですよ。
ーーそのイメージは表題曲や「Physalia」などから感じ取ることはできました。原点回帰ともいえるミクスチャー風のアレンジを含め、面白いけどヒリついた実験的要素が散りばめられているというか。
森:正攻法じゃない感じがするけど、メロディは結構ちゃんとついているので、変な感覚になる人も多いと思います。
ーーBrian the Sunはインディーズ時代に2枚のフルアルバムをリリースしているので、「初めて」とはまた違う感覚だと思うのですが、その時と制作方法で大きな違いがあるとすれば?
森:インディーズ時代の2作は、曲がたくさんあって、そのなかから選んで入れるという感じだったので、ベスト盤を作る感覚に近かったんです。でも、今回は「新しいものを打ち出す」という自分の中でのテーマもあったので、自分なりに解釈した2010年代中盤の雰囲気も落とし込めました。音作りに関しては、サウンドディレクターがインディーズの時から変わってなくて、今回も同じ方にお願いしたのでそこまで苦労はないですね。メンバーの技術も少しづつ上がってきていて、制作のスピードも早くなっているので、昔は1日1曲2曲録るのが限度だったのが、1日2曲は録れるようになってきています。
ーーそうなんですね。全体的に音に変化があったように聴こえたのですが。
森:どう聴こえました?
ーー今までのBrian the Sunの音は「密度のある音の塊」というか、一発録りしているような印象があったのですが、今回は同じリスニング環境でも各プレイヤーの音が細やかに、解像度が高く聴こえたんです。
森:それは単純に駿太が上手くなったこともあるかもしれません。やっぱり録音って、どこまでも嘘をつくことができますし、キックなんて1発いいのを録って、それを全部に使っても誰もわかんないものなんですけど、これまでも今も、それだけはやりたくなかったんですよ。今の流行りや時代感の出ている録音を聴いて「これは絶対に風化するな」と思うし、解像度の高いハイファイな音ではあるものの、それが得てして「いい音」ではないんですよね。今の録音ってなんか冷たい感じがするというか、空気の音がしないんです。
ーー駿太さんのドラムは、これまでもドライにチューニングすることが多かったと思うんですけど、今回はその周りにある空気感も綺麗に入っていましたね。
森:僕らは空気の音を大事にして、スネアがどういう空気を伝って届くかまでわかるようにしたいんです。やっぱりドラマーの技術ってめちゃくちゃ大事で、アンビエントのマイクをポンポンって立てて、音量を上げれば上げるほど空気感が出るんですけど、それって技量がより必要になってくるんです。
ーーそれは全体的に他の楽器もそうで、Brian the Sunって割とカロリーの高い曲もあるのに、今回はあっという間に聴き終わるし、疲れないという印象だったんですよね。
森:デジタルには落としてるんですけど、基本的には全部アナログ卓を通して録ってるし、使ってるエフェクトに関しても、エンジニアさんが過度に加工しないことが影響していると思います。
ーーなるほど。以前お話を伺った際に、森さんが「感情って湧き始めた瞬間から劣化するものなので、曲には賞味期限がある」と言っていたのですが(参考:Brian the Sunが語る“遅れてきたルーキー”の戦い方「結果的に目的地が一緒、というのが理想形」 )、そういう意味では昔の曲をもう一度引っ張り出してくることに対して抵抗はなかったのでしょうか。
森:「曲に賞味期限がある」というのは、作り上げる前の話で、自分の中である程度形が出来ていたら大丈夫なんですよ。ただ、録音する前の段階で悩んでいる状態のままだと、賞味期限があるんです。
ーー自分の納得いく形で1回加工してしまえば、それは長持ちするものだと。
森:そういうことです。
「『らしさ』にバンドが殺されてしまうこともある」
ーー個人的にアルバムのトラックリストを見て気になったというか驚いたのは、「アイロニックスター」と「Cloudy#2」が入っていることで。前者は森さんが“うしろめたさP”として初音ミクを使ってニコニコ動画に投稿した楽曲で、後者は(田中)駿太さんがバンドに加入して初めてのシングル収録曲ですよね。この2曲を改めてこのタイミングで収録した理由は?
森:そこまで特別な感情はなくて、シンプルに曲として馴染むかどうかということを考えて収録しました。どっちもタイミングがあれば入れたいとは思っていたので。「Cloudy#2」に関しては、ほかにめちゃくちゃ爽やかな曲があったんですけど、どうも合わなかったので収録することをやめて、この曲を収録することになりました。
ーー打ち込みだった「アイロニックスター」も、バンドサウンドとなると一味違いますね。
森:じつはこの曲、ソロの宅録名義で出したCDにも入ってるんですよ。だからボカロ曲にした時点で焼き直しという扱いで、原点に戻ったという意味合いが強いです。
ーーもう1曲、最初の方にできた「Hi-Lite」は、アルバムの中だと際立って爽やかに聴こえました。
森:自分的には作り終わってから「THE YELLOW MONKEYっぽい曲だな」と感じました。「Hi-Lite」はおじいちゃんが吸っていたタバコの銘柄で、自分はおじいちゃんとおばあちゃんに育てられたので、「Hi-Lite」が父性の象徴みたいなものなんです。そこに触れたい、そうなりたいという願望だったり、その強さに対する憧れを表現している象徴ですよね。
ーーこれも前回インタビュー時に話しましたが、今のBrian the Sunは、森さんの弾き語りをベースに作っていくやり方と、バンドのアンサンブルを考えながらパッケージングしていく方法の二通りの作り方があるんですよね。今回のアルバムでは、どちらの比重が高かったですか?
森:昔からある曲を除けば、家で作り込んでいったパターンの曲が多いですね。「Mitsuhide」とか「Physalia」といった、疾走感を感じる、直感に訴えかけるような曲はメンバーに任せることもありましたけど、全体的に僕のなかでイメージを固めて「こういう路線でいきたい」とお願いするものが大半でした。「Hi-Lite」は弾き語りベースに少しだけ全体を作って、プレイヤーとしての個性を出す部分は任せました。
ーーラストの「月の子供」は、インディーズ2ndアルバム『Brian the Sun』でいうところの「アブソリュートゼロ」に近い、森さんのピアノ弾き語りをベースに進行していく楽曲です。
森:この曲は「アブソリュートゼロ」とは違って後半にバンド演奏が入っているので、弾き語りを作った意識はあまりないですね。これは個人的な感覚でしかないんですけど、バンドの音楽ってあくまで言葉とメロディがあっての曲だと思うんですよ。ギターもベースもドラムもあくまで伴奏で、それぞれのプロフェッショナルが集まっているのがバンドというか。1人1人に強烈なアイデンティティがあると、うまくバランスも取れないやろうし、楽器隊が歌とメロディに対してアプローチしてくれてないと、何が主題かわからなくなるじゃないですか。
ーー楽器としては、必要なところに必要なフレーズや音が入っていればいい、という感覚?
森:そうですね。ギターもドラムもベースも必要不可欠なんですけど、そういう意識をしながら伴奏としての音を鳴らすと、しっかり曲が映えて、歌ものバンドとしての意味が生まれると思うんです。
ーーそれって、バンドマンとしては珍しい発想なのかもしれないですね。歌うたいというか、シンガーソングライター的な考え方かなと。Brian the Sunにはバンド然としたイメージがあったので、意外に感じました。
森:バンドに限らないことかもしれないですけど、長く知ってくれていればいるほど、受け手側って、その対象に「らしさ」を求めがちじゃないですか。でも、僕は割とそれについてはどうてもいいと思っていて。むしろキャラクターが立っている今だからこそ、その「らしさ」にバンドが殺されてしまうこともあると思うんです。ニーズを敏感に察知すればするほど、そこに変化していく本来の自分は無くなっていくので、あえてピントを必要以上に合わせていくつもりはなくて。真ん中から少しずれたところを目掛けてぶつけるのが、一種の楽しみでもあります。
ーーパブリックイメージは、その対象を認知する人が多くなればなるほど勝手に出来上がっていくものなので、メジャーというフィールドに上がった今もこれからも、戦う瞬間は増えていくでしょうね。
森:そこには立ち向かっていたいですね。とはいえ今回は1枚目のアルバムなので、この先「メジャーファーストアルバムはこういうものでした」と振り返って「これを作っておいてよかった」と思えるものを作りたかったから、自分の1番得意なことを積極的に取り入れていこうという思いはありました。
ーーアルバムに書き下ろした新曲のなかで、Brian the Sunの“次”を表しているのかなと思ったのが、「Cold Ash」という楽曲で。質感的には少しひんやりとしたもので、先ほど森さんが話してくれたコンセプトをまさに表すものだなと感じたんですよ。
森:これは『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2015』のときに書いた曲ですね。ツアーのファイナルで演奏したかったんですけど、中途半端になるくらいならやめようと思って取っておいたものです。
ーー歌詞も<誰かの言葉に 心をやられてしまった 愛した音楽も 冷たい床に転がって>と、シリアスな内容ですが、ツアー中にそういう体験があったと?
森:やっぱりこういう大きなところに出ると、いい意味でも悪い意味でも注目は集まるので。色んな人からアドバイスされたり、ダメ出しをもらったりするんですけど、それを言いたい感情って、「意見を言って、自分のスペースをその人の中に作りたいから」なんじゃないかと思うようになって、それが鬱陶しいと感じてしまう時期があったんです。そんなの愛ゆえの一言で、良かれと思って言ってくれてるのに。そんな余裕のない時に作ったもので、救いを求める感情が強い1曲なんですよね。
「シーンが細分化されているのをいいことに聴き方が偏ってる」
ーーだから情念めいたものが乗っかっているのかもしれませんね。冒頭に少し話してくれましたが、なぜ森さんはこのタイミングで、Brian the Sunが出すメジャー1stアルバムに「男性的な表現」を求めたんでしょう?
森:これって男性の本能だと思うんですけど、自分がアイデンティティを持てているかどうかを確認する術って、日常の中にはないような気がするんです。どちらかというと、緊急事態や有事の時にしか発揮されないものというか。だから平和な今の日本で、男性というものがアイデンティティを示すのはすごく難しくて。
ーーなるほど、そこに自分自身を重ね合わせたり?
森:そうです。僕自身もメジャーデビューをし、バイトも辞め、外側と対峙することもなくツアーや制作をして、音楽を作って行く中で周りはみんな自分のシンパというかよくしてくれる人ばっかりで。曲を書いて歌ってさえいればお客さんからもチヤホヤされる、そういう環境が退屈で仕方なかったというか。別に順風満帆な生活がしたいわけではなくて、自分の中にある鬱屈とした感情や、存在意義を確認するような面倒臭いことをいちいち打ち出したかったのに、こんなことでいいんだろうかと。まだ、バイト先で怒られながら反骨精神を持っているほうがアーティスティックな発想や「自我を確立したい」という意思があったのかもしれないと思うようになって。
ーー自分を囲む枠の外側がわからなくなっていくという感覚ですよね。
森:このままじゃダメだと思ったし、色んなしがらみを断ち切って自我を確立したいという感情が強かったんだと思います。そのうえで、何かに迎合することなく、ズルせずに勝ちたいんですよ。正々堂々と戦いたい。もしかしたら、インディーズのミュージシャンからすればタイアップが付いてることだけでもセルアウトっぽく見えるかもしれないけど、そこはそこで妥協することなく戦っていくんです。そうするうちに、時代の流れが変わって、音楽がもっとしっかり作品としてみんなに聴いてもらえるようになれば、それ以上のことはないと思っています。
ーー裏を返すと、今はどう捉えられていると思ってます?
森:今はシーンが細分化されているのをいいことに、音楽に対する聴き方が偏ってるように思えます。誤解を恐れずに言うと「暴れに行きたい人」と「聴きに行きたい人」が違うというか。もちろん、時代の変化に合わせて音楽を聴く形も変わってるし、何かをしながらではない形で音楽と向き合う人が減っていることも理解しているんですけど、本来の楽しみ方はそうじゃないわけで。
ーーだからこそ、自分たちは音楽と向き合ってもらうように働きかけていきたいと。2月11日に東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE、2月17日に大阪・Music Club JANUSで開催する『「パトスとエートス」リリース記念ライブ』は、アルバムを再現するものになるそうですが、なぜこのタイミングで再現ライブにトライしようと考えたのでしょうか。
森:演奏として、音源で出来ていることは全部ライブでもできるはずなのですが、それをライブで通してとなると、課題も見つかってくると思うんです。でも、それを乗り越えたらこのアルバムは完全に自分たちの武器になると確信しているので、頑張らないとなという気持ちです。
ーー最後に、アルバムの発売日が1月11日ということで、この作品がBrian the Sunの2017年を占う一枚にもなると思うんですが、森さんとしてはバンドを向こう1年でどのように進めたいと考えていますか?
森:僕自身、先のことを全く考えないタイプなんですけど、2017年はバンド結成から10周年イヤーでもあるので、さすがに今年は色々やろうぜと話していて。面白いイベントもやりたいですし、10周年のグッズも作りたい。一年の締めには、「10年やってきてよかったな」と思える年にしたいですね。
(取材・文=中村拓海)
■リリース情報
メジャー1stアルバム『パトスとエートス』
発売:2017年1月11日(水)
価格:DVD付初回生産限定盤 3,333円(税抜)
通常盤 2,700円(税抜)
<CD収録曲>
M-1 Impromptu
M-2 Physalia
M-3 パトスとエートス
M-4 HEROES
M-5 Cold Ash
M-6 Maybe
M-7 アイロニックスター
M-8 Cloudy #2
M-9 Mitsuhide
M-10 Hi-Lite
M-11 月の子供
<DVD収録内容>
2016年6月~7月に行われた全国18本のツアードキュメンタリーと渋谷クアトロでのLIVE映像に加え、VANS 2016 Fall and Winterイメージソングとなった「しゅがーでいず」MVを収録
【配信情報】
Brian the Sun「Maybe」
iTunes
mora
レコチョク
■ライブ情報
『「パトスとエートス」リリース記念スペシャルLIVE』
各公演¥2,000(税込)整理番号付
※ドリンク代 別途必要(東京公演¥500 大阪公演¥600)
※席種 :全自由
・東京公演
2017年2月11日(土祝)
@Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
開場 17:30 開演 18:00
問)ソーゴー東京 03-3405-9999
・大阪公演
2017年2月17日(金)
@Music Club JANUS
開場 18:30 開演 19:00
問)ソーゴー大阪 06-6344-3326
全国ツアー『Brian the Sun TOUR 2017 「パトスとエートス」』
2017年3月3日(金)仙台 enn 2nd【ワンマン】
2017年3月12日(日)名古屋 SPADE BOX【ワンマン】
2017年3月25日(土)京都 KYOTO MUSE
2017年3月26日(日)神戸 Varit.
2017年3月31日(金)高松 DIME
2017年4月1日(土)岡山 IMAGE
2017年4月4日(火)札幌 COLONY
2017年4月7日(金)横浜 BAYSIS
2017年4月11日(火)宮崎 SR BOX
2017年4月12日(水)鹿児島 SR HALL
2017年4月22日(土)金沢 vanvan V4【ワンマン】
2017年4月23日(日)富山 SOUL POWER
2017年4月30日(日)新潟 CLUB RIVERST【ワンマン】
2017年5月6日(土)梅田 CLUB QUATTRO【ワンマン】
2017年5月12日(金)広島 BACK BEAT【ワンマン】
2017年5月21日(日)福岡 BEAT STATION【ワンマン】
2017年5月27日(土)東京 LIQUIDROOM【ワンマン】
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