鈴木愛理、J☆Dee’Z、當山みれい、Anly、リトグリ芹奈……生演奏の魅力感じた『Voice JAM』
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9月29日の23時より、BS TBSにて音楽番組『Voice JAM』が放送される。同番組は、8月3日に行われた同名の音楽イベントの模様を撮影したもの。リアルサウンドではイベント当日の模様を本稿にて紹介する。
ライブとして上質なものを作り上げながら、アーティストと音楽家がともに成長する。そんなライブは滅多に見れるものではないが、8月3日に行われた『Voice JAM』は、その数少ない貴重な瞬間を体験することができるイベントだった。
この日はTBSアナウンサーの日比麻音子がMCを務めながら、アーティストを次々に呼び込んでいくスタイル。佐々木望(Gt)、山本 連(Ba)、田中 航(Dr)、山下健吾(Key)、青柳 萌(Vn)、大浦萌(Vc)、関山博史(Tb)、吉澤達彦(Tp)、林 洋(Sax)がハウスバンドとして登場し、曲によって編成を変えながら豊潤な演奏を聴かせてくれた。さらにこの日は岸田勇気、工藤拓人、佐々木貴之、佐々木望、須藤優、吹野クワガタ、藤井洋、山下健吾といった若手〜中堅の音楽作家がアーティストの原曲をこの日のためだけにライブアレンジ。それを島田昌典、本間昭光、斎藤ネコ、坂本昌之といった大物音楽プロデューサーが最終的にコーティングし、演奏として聴かせてくれるという豪華な布陣だ。
リアルサウンドではイベント前に仕掛け人とアーティストによる対談記事を掲載したが、核となっているのはLittle Glee Monsterなどを手がけてきた<Sony Music Records>のプロデューサー・灰野一平氏と、TBSで『SEIKO presents Sonud Inn”S”』や『クリスマスの約束』などの音楽番組を手がける服部英司氏の2人。彼らの持つ“生演奏”へのこだわりが、今回の実験的な試みを生んでいる。
ライブはAnly、City Chord、J☆Dee’Z、當山みれい、やえ、れみふぁ、わたなべちひろがステージに立ち、全員でThe Rubettesの「Sugar Baby Love」をカバーするところからライブがスタート。Winkやキャンディーズがカバーしたり、『WATER BOYS』で挿入歌として使用されるなど、洋楽カバーながら、全世代に馴染みのある一曲から始まるというのは、プロデューサー陣の音楽への愛情が感じられてなんともこのイベントらしい。
そこからAnlyが残りアデルの「Hello」を、City ChordがMaroon5の「Sunday Morning」をそれぞれカバー。演奏陣による音の足し引きも絶妙で、「Hello」ではドラムがマレットで奥行きを出し、ディレイで鳴らすギターが心地よい。「Sunday Morning」ではCity Chordのマーシーがアコギとアカペラで原曲との違いを見せたり、フルバンド編成によるホーン隊の響きが印象的だった。
続く當山みれいは、工藤拓人がアレンジした「Dear My Boo」を披露。ウッドベースも加えたジャジーなアレンジで、原曲よりも大人っぽい楽曲へと成長していた。藤井洋によってアレンジされたJ☆Dee’Z「あと一歩」は、ピアノとホーンが目立つバージョンに。シンガーソングライターのやえとれみふぁのコラボ“やえれみふぁ”は、尾崎豊「僕が僕であるために」をカバー。キーも低く難しい歌だが、力強い声のやえと柔らかい声のれみふぁによるハーモニーを聴かせてくれた。
今回最年少、14歳のわたなべちひろは、岸田勇気のアレンジで、よりファンタジー感が増したミュージカル『アニー』の「Tomorrow」カバーからスタート。ジョン・レノン「Imagine」のカバーは、アコギとローファイなシンセを含むノスタルジー感溢れるアレンジに。 オリジナル曲の「You will always be the one」は、豪華演奏陣によって壮大な映画のエンドロールのようなアレンジが施され、彼女の常人離れした歌声が、さらに大きなスケール感を持って響いてきた。
そんなわたなべちひろの歌声に、メンバーのマーシーが「ゾワゾワが止まらない」と感嘆の声を上げたCity Chordは、「Now you’re gone」とオリジナル曲の「The Sun」を立て続けに歌い上げる。「The Sun」は佐々木望による洋楽ギターポップ感溢れるカバーがたまらない。
れみふぁはフュージョン~ファンク的なABから、一気に開けるサビという展開の「Twelve」と、“オレンジ”を元にして作ったという「Heart Picture」を歌唱。「Heart Picture」は少女漫画の実写映画のエンドロールで流れているような、ピュアで切ない曲と歌が印象的な楽曲だった。やえの「初めてのキス」は、タイトルとは裏腹に切なくストレートな歌詞がまっすぐ届くようなアレンジ。続く「Liar」ではエレキギターを弾き、ロックシンガーとしての力強さを見せる。
ライブも後半に差し掛かったところで、Anlyが登場。「エトランゼ」はいつものようにループペダルを使用するが、田中 航によるアフロ・キューバンのリズムが加わることで、さらに複雑でワクワクするアレンジに。かたや「Moonlight」は、Nujabesあたりを彷彿とさせるジャジーヒップホップ色が強まっていた。
そしてJ☆Dee’Zは、amiが「毎回自分の決めた道が正しいのか不安になる。そんな時、自分の決めた答えなら正解なんだと自信を持てたきっかけになった曲を」と語り、「Answer」を披露。いつもよりBPMを抑えにし、しっかりと一つひとつの歌や踊りを見せるアレンジに変化していた。當山みれいはデビュー曲の「Fallin’Out」を歌い上げたが、前身イベント『After School Swag』のときに披露したロック調のアレンジ(参考:対談記事)とは異なり、ローズ・ピアノの音色が絶妙に新しさと懐かしさを感じさせてくれた。
この2組はコラボステージも展開し、映画『SING!』でおなじみトリー・ケリー「Don’t you Worry ‘Bout A Thing」から美空ひばり「川の流れのように」のマッシュアップを歌い上げたあと、まさかの乃木坂46「インフルエンサー」カバーへ。フラメンコギターではなく、原曲にあるラテンの要素は控えめにし、ジャズっぽさを強めたアレンジに。間奏では歌って踊れる4人ならではのダンスも披露し、会場を大きく盛り上げた。
残すところあと1組、と思いきや、シークレットゲストとして登場したのはLittle Glee Monsterの芹奈。前身イベントはリトグリがきっかけとなって始まったものなので、彼女の登場には感慨深いものもある。芹奈自身も「(當山)みれいやJ☆Dee’Zは昔から一緒にやってきたので嬉しい。みんな個性的だけど歌が素晴らしくて圧倒されてる」と喜びながら、初めてのソロステージを見せてくれた。歌ったのはグループでも彼女がリードボーカルを取る、スガ シカオ作詞作曲の「ヒカルカケラ」。序盤はこの場を楽しんでるみたいに笑ってたかと思えば、サビでは切なく崩れ落ちそうな声で歌う。改めてボーカリストとしての圧倒的な表現力をたった1曲で叩きつけてステージを後にした。
そして最後に登場したのは元°C-uteの鈴木愛理。「初めてのことが多すぎて、共演者に圧倒されて顎が外れるかと思った。緊張してます」と前置きしつつ、いつもよりテンポを落とし、ストリングス隊も加わった「君の好きなひと」からライブをスタート。ホーン隊も入ってさらにアッパーになった「Candy Box」では、会場の空気がアイドル歌手のそれに一変した。
その後、出演アーティストとプロデューサー陣が勢ぞろいし、ABBAの名曲「Thank You for the Music」と再び「Don’t you Worry ‘Bout A Thing」を歌い上げたところでライブが終了した。
改めてになるが、ここまでアーティストや音楽家にとって成長の場となるイベントはないのでは、と感じるほど、ステージの上には様々な工夫が凝らされていたし、観客を飽きさせない構成にもなっていた。どのアーティストのファンであっても、最終的には音楽そのものの楽しさを感じ取れていたのが目に見えて理解できたというのも、あまりない経験で面白い。今回が第一回目ということだが、舞台に上がった面々とそれを見ていた客席がともに成長し、日本の音楽業界を支える場としてさらに機能していくことを、いち音楽ファンとして期待したい。
(取材・文=中村拓海)
■放送情報
『Voice JAM』
BS TBSにて9月29日(土)23:00から放送