AKB48「ヘビロテ」はなぜクセになる? 亀田誠治と森山直太朗が“弱起”の効果を解説
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音楽プロデューサーの亀田誠治がJ-POPのヒット曲を分析するテレビ番組『亀田音楽専門学校』(NHK Eテレ)の最終回が12月19日、午後11時25分より放送された。
この番組は亀田が校長、小野文恵アナウンサーが助手を務め、毎回様々なアーティストがゲスト講師として出演する全12回の教養番組。最終回のテーマは「弱起は強気」ということで、ゲストには前回に引き続きシンガーソングライターの森山直太朗が出演した。
この手法が使われている例として亀田は、安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE」、平井堅の「POP STAR」、いきものがかりの「ありがとう」を挙げた。弱起とは音楽用語で、メロディーがその小節の1拍目以外から始まること。『拍』には強い拍と弱い拍があり、1拍目を強拍、それ以外の拍を弱拍という。弱起とは強拍にむかうメロディーの束のことをいうのだ。
『弱起は強気』その1:弱起と歌詞の関係
弱起の効果はまず、束になって強拍に向かうことで、リスナーを曲に引き込む力が強まり、キャッチーになること。亀田はまず、森山直太朗の「さくら(独唱)」をケツメイシの「さくら」と対比させ、サビ部分の弱起の効果を検証。森山の「さくら」は、「さく」までが弱起、「ら」が強拍。対してケツメイシの「さくら」は「さくら」までが弱起、「『ま』いちる~」の「ま」が強拍にあたる。両方をスタジオで歌い比べた森山は「見えてくる景色がちがうんじゃないかな」と解説。「僕の『さくら』のほうは、単純に「さくら」そのものに(強拍に)かかっている。対してケツメイシさんの『さくら』は、『まいちる』に強拍がかかってくる。名詞か動詞かで景色が変わってくると思う」という。「強拍の言葉でページがめくれて、その先広がっていく景色の大きさが全然違う」という亀田は、弱起の歌詞は強拍から始まる情景の導入になると説明した。さらに「ケツメイシの『さくら』はすごくよく出来てて、弱起を『さくら』におくことで『まいちる』っていう景色をしっかりと提案している。で、直太朗君の場合は、しばらく『さくら』っていう……シンプルな景色だけにカメラが留まっているわけ」と続けると、小野アナウンサーは「じゃあ、弱起の使い方っていうのは、強拍の場所っていうのがポイントなんですね」というと、「その通り!」と頷いた亀田。描きたい歌詞を強拍におくのがポイントなのだと語った。
森山直太朗が選ぶ『弱起の名曲』
まず、森山が挙げたのは沢田研二の「時の過ぎゆくままに」。「心がまず奪われていきますよね。前もって自分たちを誘ってくれるテンポが用意されているけど、その分歌詞がすごく重要になってくる。内容がメッセージとして非凡なものでないと(期待はずれになってしまう)」と解析した。そして、次に挙げたのは母である森山良子の「涙そうそう」。「(弱起になっている)『晴れわたる』が、やっぱり空が見える気がするもんね。その期待を裏切らずしっかりと表している」と亀田も語る。そして、歌が先行することで、歌詞の世界についていくことができると説明した。そして3曲目は西田敏行の『もしもピアノが弾けたなら」。「この曲は弱起に溢れているというか(笑)。『もし“も〜”』のところの歌詞が先行していることで、どれどれ?っていう気分になる。次に続くストーリーへの興味がわく」と解説。「弱起を使うことで、言葉のハードルが上がる」と、亀田は弱起と言葉の相性について語った。
弱起は強気その2:「弱起」のおかわり
弱起はついついおかわりしたくなるという。「癖になっちゃうの」と亀田は話し、AKB48の「ヘビーローテーション」のサビを例に挙げた。小野アナウンサーの「繰り返したくなっちゃうのは誰ですか?」という問いに「まず作り手じゃないですかね」と亀田。弱起とリフレインは非常に相性がいいという。「なんかもう、弱起のわんこそばみたいな」と「ヘビーローテーション」を語る亀田。強拍を「YOU」で揃えている力強さもあるという。そしてサビの中に日本語と英語が混在していることにより、J-POPでしか成せない面白さがあると森山も解説した。そして、「曲の最初から最後まで、徹頭徹尾弱起を貫いている名曲があるんですよ」と、亀田は荒井由美の「卒業写真」を紹介。「こんなに弱起が散りばめられ、尚且つ名曲であるということ。それがクイーンオブ弱起」と語った。それこそ卒業アルバムをめくるように、メロディーがリフレインされるというこの曲。大小様々なリフレインが、聴き手を包み込んでくれるのだ。
今回を振り返り亀田は「弱起はメロディーが率先して聴く人を曲に引き込む特効薬」とし、聴く人は弱起を追いかけることによってさまざまな景色を想像出来ると結論づけた。そして、作る時は強気に、いいメロディーにいい歌詞をつけるように、と作り手にメッセージを送った。
最終回となった『亀田専門学校』だが、「まだまだ伝えたいことがたくさんあるから、またやりたい」と語る亀田。J-POPならではのさまざまなテクニックを解説してきた同番組は、目からうろこの発見が多く、ミュージシャンはもちろん、一般リスナーにとっても有意義な教養番組であったため、続編を期待する音楽ファンも多いのではないだろうか。
(文=岡野里衣子)