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電撃BiS階段から中川翔子、初音ミクまで…なんでもアリだったフェス『夏の魔物』の新しさ

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リアルサウンド

 去る9月14日、青森県平内町にある夜越山スキー場特設ステージにて、ロックフェス『夏の魔物 AOMORI ROCK FESTIVAL ’13』が行われた。

 2006年から開催されているこのフェスは、アマチュアバンドで活動していた成田大致(当時10代)が、地元青森県でロックフェスを開催したいと個人で立ち上げたという少し特殊なイベントだ。これまでも、ラフィンノーズ、怒髪天、ニューロティカ、ギターウルフ、といったベテランパンクバンドから、神聖かまってちゃん、在日ファンク、ザ50回転ズ、andymori、といった旬のバンド、頭脳警察、外道、山口富士夫、内田裕也といった大ベテランまで、個人フェスとは思えない豪華なラインナップで気にはなっていた。ところが、去年開催された『AOMORI ROCK FESTIVAL ’12』では、でんぱ組.inc、BiS、アップアップガールズ(仮)、アリス十番、といったアイドルグループ、ダイノジ、掟ポルシェ、鹿野淳などによるDJプレイ、うしじまいい肉、吉田豪×杉作J太郎、加藤鷹などのトーク、そしてDDTプロレスリングによる試合など、さながらサブカルチャー見本市の様相を呈し始めてきた。その傾向は今年も変わらず、アイドル、DJ、トーク、プロレスはもちろん、中川翔子、桃井はるこ、影山ヒロノブといったアニソン歌手、さらにボカロ文化の象徴、初音ミクまでラインナップに名を連ねているではないか。これらすべてが大好物である俺は「さすがにこれはヤバイ」と感じ、現場を確かめるべく青森遠征を決意、チケットを購入したのだ。

 しかしタイムテーブルには驚かされた。スタートはなんと朝7時、そして俺的メインアクトの1つである非常階段3連発が7時半ではないか! 朝一の飛行機か新幹線で行けばいいかと思っていたのだが急遽前日入りを決定、予想外の出費だが遠方まで赴いてお目当てを見逃すなどありえない。前日の飛行機、ビジネスホテルホテル2泊、レンタカーをすぐさま予約した。

 さて、いよいよ当日だ。微妙に寝坊し朝6時半過ぎに青森のビジネスホテルを出発、小一時間ほどのドライブで会場の夜越山スキー場に到着だ。駐車場から会場に向かう時点ですでに爆音が聞こえてくる。恐らくDJダイノジだろうか、足早に通過し、場所的には一番奥になる「赤コーナー(ステージ名)」に向かう。時間は7時30分を少し過ぎている。

 ほどなくしてディストーションギターと電子音が聞こえてくる。うお! 初音階段だ!!! 初音階段は名前の通り非常階段と初音ミクのコラボ。ただし初音ミクはボーカロイドの電子音声だけではなく、ミクコスの美少女(シンガーソングライターの白波多カミン)がステージに立ち肉声でも歌っている。そこにJOJO広重のノイズギターとT.美川の電子音が加わるのだ。おもしろくないわけがない。やっている曲がまたいい。「YES-YES-YES(オフコース)」や「虹とスニーカーの頃(財津和夫)」といったニューミュージックの名曲たち。ともすれば単にベタベタしたものになりがちな素材だが、非常階段の二人が加わることで原曲の持つ情念の部分があからさまにされていく。すでに音源は耳にしていたが、この感覚は生で体験しないとわからなかったことだ。

 最終曲が終わると白波多カミンが手を振りながら退場し、代わりにボイスのJUNKOとドラムの岡野太が登場する。すると会場の雰囲気も「ミクちゃんかわいい!」モードから一気に引き締まり、本家非常階段の怒涛のノイズ攻撃がはじまる。JUNKOの耳をつんざく絶叫にフリーキーな岡野のドラムが追随し、JOJO&美川のノイズが爆発するスタイルは初音階段よりも遥かに殺伐としたものだが、観客も戸惑うことなくついていってるのが頼もしい。20分ほどのステージが終わると、戸川純の「好き好き大好き」をバックに白いセーラー服姿の美少女6人が登場、そう、BiS階段だ。だが、今回はそれだけではない、ついつい例のダンスをしてしまうおなじみのテーマが流れ、ツナギ姿のヤバそうな男たちがステージに乱入する。BiS階段に電撃ネットワークの面々が加わった電撃BiS階段のスタートだ。「PPCC」、「primal」、「nerve」 といったBiSの鉄板曲をベースにノイズが唸り、電撃ネットワークのエクストリームなパフォーマンスが繰り広げられる。BiSのメンバーはトイレットペーパーや生肉をまき散らしながら歌い踊り、客席は客席で研究員(BiSのファン)を手本に早朝から集まった猛者共が背面ケチャなどヲタ芸をぶちかます。まさにカオスと言うにふさわしい空間だった。

 その後も同ステージでは、DJジェットバロン(高野政所)を従えたhy4_4yh(ハイパーヨーヨ)がファンコットで客席を盆踊り状態にしたかと思えば、エロゲ作家でもあるbamboo率いるmilktubが脳みそを一切使わないパンクロックをぶちかまし、Negiccoやアップアップガールズ(仮)といった正統派アイドルがおっさんの胸をキュンキュンさせる。今でこそロックフェスにアイドルが出演することは珍しくもなんともないが、ロック側と地下アイドルが同じステージで、単なる客演ではなくコラボする姿は「壁が壊れた」というレベルからすでに何歩も先を走っており「来てよかった」という思いで胸がいっぱいになった。しかも信じられないことに時間はまだ午前中なのである。

 だが、その後少し心にひっかかる出来事があった。それは「元祖アキバ系女王」桃井はるこのステージでのことだ。「アキハバラブ」、「始発にのって」、「.LOVE.EXE」といった盛り上がり必至のアゲアゲセットリストに熱狂的なファンもサイリウムを盛大に振って応えていたのだが、なぜか彼女は冒頭からあからさまに不機嫌だった。それは態度だけではなく「わたしは来年は来ない(呼ばれない)と思うので」、「ロックの人はアイドルとの垣根がなくなった、なんて言ってますが、アキバ系から見ると垣根ありまくりですよ!(大意)」といった異例とも言えるガチMCからもわかった。これは推測でしかないが、アイドルに比べ、アニソン・アキバ系はロックフェスにはまだあまり呼ばれておらず、「なぜアイドルだけが」との思いがあったのかもしれない。

 だが安心してほしい、恐らく今は過渡期なのだ。確かにアイドルに比べ、アニソン・ボカロ系のフェスへの参加はまだ少ない、だが今年になって『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013』ではアニソン系の坂本真綾と中川翔子、ボカロ系のkz(livetune)と八王子Pが出演している。恐らく来年はもっと増えることだろう。

 「ジャンルの垣根」はものすごいスピードで壊れ始めている。そのことは「夏の魔物」に参加して心から実感できた。外野が思うほど観客はジャンルなど意識してはいない。そもそもYouTubeやニコ動で音楽を聴き始めたいまどきの観客なら、水樹奈々やスフィアが登場しても、大歓迎で受け入れるだろう。もちろんそのことに関して苦々しく思っている人もいるだろう。「ロックフェスでアイドルやアニソンを聞きたくない」というのもわかる。だが、受け入れられないなら別のステージに移動すればいいのだ。だってそれがフェスの利点でもあるのだから。

 とは言え、せっかくのお祭りだ、できれば普段は聞かないジャンルこそ積極的に体験し、壁を壊してほしい。フェスがきっかけで新しい世界が広がることもある。それはフェスでしか味わえない醍醐味なのだから。数年前まで典型的なうるさ型ロックオタだった俺が言うのだから間違いない。

 もちろん今回もたくさんの新しい体験をした。初見の中ではN’夙川BOYSといずこねこには驚かされたし、envyやフラワーカンパニーズのライブパフォーマンスの素晴らしさもあらためて実感した。(逆にライブを見てがっかりしたアーティストもいたが、それはここで書くことではないだろう)

 そのなかでも最大の発見は人間椅子だった。恥ずかしながら俺は人間椅子をまともに聞いたことがなかった。イカ天出身の色物バンドでしょ?というバカすぎる偏見からスルーしてきていたのだ。ももいろクローバーZのシングルに和嶋慎治がギターで参加していることで現在も活動していることを知ったという体たらくだ。だが、これがとんでもなく素晴らしかったのだ。ブラック・サバスとキング・クリムゾンが合体したような重金属サウンドに、乱歩・寺山テイストの独特な歌詞が乗る、日本でしか現れようのない独特な世界観に心を揺るがされたとともに、なぜ今までライブを見てこなかったのだろうと深い後悔に包まれたのだ。人間椅子本体の前に行われたRolly(こちらも同じ理由であまり聞いてこなかった)との合体ユニットもすごかった。特にRollyのプロジェクトTHE 卍の、サバス「Paranoid」にインスパイアされた曲「奇妙な隣人」は、電源トラブルにより何度も演奏が中断されたにもかかわらず、圧倒的な凄みを持って個人的今回のハイライトとなった。

 しかしとにかく居心地のいいフェスだった。天気に恵まれたこともあるが、混みすぎもせず空きすぎもせず、ステージ間の距離も近い。グダグダだと聞いていた進行も、イベント会社が入ったことにより、大幅な遅延もなくオンスケジュールで行われ、ほぼ文句のつけようのない快適なフェス体験だった。

 「夏の魔物」主催者の成田大到はインタビューで『初期FMWのようなおもちゃ箱を引っくり返したようなものがやりたい』と発言していた。プヲタでもあった俺にはその思いがすごくよくわかるし、実際かなりのところ思惑通りになっていたように感じた。正直空回りして滑っているシーンもあったが、予定調和のフェスでは味わえない「よくわからないがなにが起こるかわからない」楽しみが確かにそこには存在したし、観客たちもそれを楽しんでいるように見えた。

 RIJFには行ってないが坂本真綾も盛り上がっていたと聞く。恐らく来年以降はアイドルと同様にアニソン・ボカロ関係アーティストがラインナップに含まれるロックフェスも増えていくのではないだろうか。もちろん尖兵として「夏の魔物」の今後にも期待しているし、たぶん来年も遠征すると思う。

 ジャンルに特化した音楽だけを楽しむフェスもいい。だが、やはり筆者は「おもしろければなんでもあり」な、すべてのジャンル(音楽に限らず)が並列に存在する真に自由なフェスに行きたい。

■田口こくまろ
1969年三重県生まれ。音楽、アニメ、映画、AVなどサブカルチャー全般を雑多に扱うフリーのライター。田口和裕名義でITライターとしても著書多数。