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独創的すぎて真似できない――ビョークがポップ・ミュージックに与えた衝撃

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リアルサウンド

 今回は先日のフジ・ロック・フェスティバル、続くキャパ800人の小会場でのワンマン・ライブで話題をさらったビョークを取り上げます。

 ビョークは1965年アイスランドのレイキャビク生まれ。ヒッピーの両親のもとに生まれ、幼いころから音楽的な環境に育った彼女は音楽的には大変な早熟で、11歳のころにアイスランドの童謡を歌ったポップス・アルバム『Björk Guðmundsdóttir』(1977)をリリースしています。ですが世はパンク・ムーヴメントの真っ盛り。ビョークは既存のポップスやロックの文脈に組み込まれることに反抗し、タッピ・ティカラスというパンク・バンドを組みます。

Tappi Tikarrass Live 1982

 その後友人のアイナーとKUKLというポスト・パンク/アバンギャルド・バンドを結成し、英ハードコアのクラスの主宰するレーベルCRASSから2枚のアルバムを発表します。クラスといえばヒッピー・コミューンから出発し、反戦・反核・フェミニズム・環境保護・動物の権利など徹底した反権力・反商業主義の姿勢とアナーキズムの思想で、世界中のアンダーグラウンドなカルチャーに大きな影響力をもった80年代英ハードコアの精神的支柱でした。ビョークがそういうサークルから出てきた人であることは覚えておいたほうがいいと思います。それが最新作『バイオスフィリア』での反グローバリズム的な思想に繋がってきます。

K.U.K.L. (KUKL) / Anna (1984)

K.U.K.L. 『Eye』(ONE LITTLE INDIAN)収録

 やがてKUKLは解散し、ビョークとアイナーはシュガーキューブスを結成。クラスの弟分でもあったフラックス・オブ・ピンク・インディアンズのメンバーが設立したレーベル<ワン・リトル・インディアン>からデビューします。

The Sugarcubes / Birthday (1987)

The Sugarcubes『Life’s Too Good』(Elektra / Ada)収録

 これが全英インディ・チャート2位となる大ヒットとなって、この不可思議な魅力を持ったヴォーカリスト、ビョークの名は世界中に知れ渡ることになりました。

 シュガーキューブスは3枚のアルバムを残して解散しますが、ビョークはまだバンド在籍中にマンチェスターのハウス〜テクノ・ユニットの808ステイトのアルバム『エクス・エル』(1991)にゲスト・ヴォーカリストとして参加しています。ここで彼女は自分の声と最新のダンス・ミュージックの相性の良さを確認したのでしょう。808ステイトのグレアム・マッセイは、後にビョークのプロデューサーに抜擢されています。

808 STATE feat.Bjork / OooPS (1991)

808 State「OooPS」(ZTT Records Ltd)

そして満を持してアルバム『Debut』で(実質的な)ソロ・デビューを飾り、たちまち時代を象徴するスターとなります。PVを見ると、最新のダンス・フロアの意匠に身をまとった当時のビョークは、キュートなポップ・アイコンであり、アイドルでもあったことをうかがわせます。

Bjork / Human Behaviour (1993)

『Debut』(Elektra / Wea)収録

Björk / Hyperballad (1995)

『Post』(Elektra / Wea)収録

 そしてそうした彼女の表現志向が「ポップ」や「エンターテインメント」から「アート」にはっきりと向き始めたのが3作目の『ホモジェニック』あたりから。音楽的にもより実験的となり、ビデオクリップも、自分を飾り立て可愛く見せるのではなく、自分自身でさえも、自らのアート・コンセプトを完遂するための素材として使い切る、という意志がはっきりとうかがえるようになります。代表的なのが、この2曲でしょうか。

Björk / Joga (1997)

『Homogenic』(One Little Indian Im)収録

Björk / all is full of love(1997)

『Homogenic』(One Little Indian Im)収録

 ここから、ビョークはおよそポップ・ミュージック史上前人未到とも言える高みを目指すことになります。どのクリップもすさまじいですね。

Björk / Pagan Poetry (2001)

「Pagan Poetry (Album Version)」(niversal Music LLC)

Bjork with Antony Hegarty / The dull flame of desire (2007)

「The Dull Flame Of Desire」(Universal Music LLC)収録

Björk – Crystalline (2011)

『Biophilia』(ユニバーサルインターナショナル)収録

 さて、そんなビョークに影響を受けている日本人アーティストですが、歌唱も存在そのものもあまりに独創的なうえ、音楽性もアルバムによってがらりとイメージが変わるうえきわめて高度なので、フォロワーにとってはなかなか敷居が高いと想像できます。なかでも真っ先に挙げられるのがUAでしょうか。常々ビョークとの共通点が指摘されてきましたが、アルバム『KABA』で、実際に「Hyperballad」をカヴァーして、自ら影響下にあることを認めました。

UA / Hyperballad (live)2010年6月26日日比谷野外大音楽堂

『KABA』(ビクターエンタテインメント)収録

ただし彼女のオリジナル曲がそこまでビョークに似ているわけではなく、あくまでも、ロックやポップの定型から外れた独自の表現を目指す、その姿勢に共通点があると見るべきでしょう。なかでもアルバム『Breathe』(2005)は、アコースティックとエレクトリックを融合したサウンドで、ビョークとの共通点が感じられます。

『Breathe』情報、視聴ページ

 そしてより直接的にサウンド面でビョークと接近したのがACOです。ビョークと同郷のエレクトロニカ・バンド、ムームと共演したこの曲は『ヴェスパタイン』あたりのビョークを思わせます。

ACO feat. múm / 町

『irony』(キューンレコード)収録

 そしてYUKI。彼女は、たとえばこういう風にサウンド面でインスパイアされた曲もあるのですが、

YUKI / 66db Live (2002)

『PRISMIC』(エピックレコードジャパン)収録

Bjork / Cocoon (2001)

『Vespertine』(One Little Indian)収録

どちらかといえば、ビョークの奇抜で斬新なヴィジュアル、モードなファッション性、そして特に初期作品に見られる、ある種の少女性のようなものに魅力を見出しているようにも思えます。

Björk / Isobel

『Post』(Elektra / Wea)収録

 マイア・ヒラサワは声や歌唱法などがビョークによく似ています。

Maia Hirasawa / It Doesn´t Stop

『maia hirasawa』(ビクターエンタテインメント)収録

 アニメ『攻殻機動隊』の挿入歌であるこの曲もビョークの「Hypaeballad」にインスパイアされてますね。

Ghost In The Shell – Where Does This Ocean Go

 フカキョンこと深田恭子のアイドル歌手時代のこの曲のPVも、ビョークにインスパイアされてるんじゃないでしょうか。

深田恭子 / イージーライダー (1999)

『イージーライダー』(ポニーキャニオン)収録

Bjork / Venus as a Boy (1993)

『Debut』(Elektra / Wea)収録

 そして最後に。こんな人もビョークをお好きなようです。

高橋大輔 / GPF 2007 Exhibition

 先日のフジロックで、4枚あった巨大LEDスクリーンに一度も自分の姿を写さなかったのが象徴的なように、最近のビョークはエンターテインメントというよりはアートであり、ロックやポップ・ミュージックのように共有したり共感したりするよりも、「鑑賞」するものになっているように思えます。そのことの是非はともかくとして、かつてのようなポップ・ミュージックとしての敷居の低さがなくなって孤高の芸術になり、若い人が気軽に真似したり影響を受けたりする存在ではなくなってしまったのが、やや残念ではあります。

 ではまた次回。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter