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藤原ヒロシが語る、キュレーション的な“歌”の作り方「歌う内容は自分のことじゃなくていい」

音楽

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リアルサウンド

20131005-fujiwara-01.jpg最新作では全曲ボーカルを担当した藤原ヒロシ

 80年代より日本初のリミックスDJとして活躍する一方、ファッションの分野でも大きな足跡を残してきたストリート・カルチャーの牽引者、藤原ヒロシ。彼が10月16日、ソロ名義では久々となるフルアルバム『manners』をリリースする。

 このアルバムでは、全曲のボーカルを藤原ヒロシ自身が担当、カバー曲以外は作詞作曲も手がけている。リミックスやフィーチャリング作品をメインに手がけてきた藤原ヒロシとしては異色のアルバムに映るが、過去のプロデュース曲も収録されており、これまでの音楽活動の集大成的な側面を持ったアルバムにもなっている。

 藤原ヒロシの音楽観に迫るロングインタビュー、前編ではアルバム『manners』の話題を軸に、藤原ヒロシが今、自身の声で歌う理由から、その作詞・作曲の方法論までじっくりと話を聞いた。

――今回の作品では全曲、ご自身でボーカルを担当していますが、こういった“歌もの”には昔から親しんできたのでしょうか。

藤原ヒロシ(以下、HF):そうですね。小学生の頃から、姉の影響でフォークとか聴いて育ったので。ただ、歌っていうのは、自分のことだったり、メッセージを歌うのが当たり前だと思い込んでいたので、これまでは自分で歌を作って自分で歌うというのは全然考えていませんでした。でも、YO-KING(真心ブラザーズ)とAOEQをやってから、歌う内容は別に自分のことじゃなくて、他人になりきって歌ったり、他人の言葉を引用して作っても良いんだということがわかったんです。言葉遊びのような、そういうのも意外と面白いんだと。ただ、オリジナルの曲を作って歌うっていうことには自信がなかったし、実際にどうやっていいかわからなかったので、YO-KINGがやるのを真似たり、教えてもらったりして、少しずつやってきました。

――たとえばフォークソングだと、私小説的な自己表現を行うものも多いのですが、そうではないものにも可能性はあると。

fuziwara-tuika-01.jpg少年時代は姉の影響でフォークに親しんでいたという

HF:そこはあえて曖昧にしています。自分のことを歌っているように聞こえるかもしれないけど、実は他人の恋愛観を歌っていたりとか。そういう遊び方をしていますね。

――先ほどフォークを聴いて育ったとうかがいましたが、好きなグループは。

HF:古井戸が好きでしたね。あと、フォークではありませんが、RCサクセションが好きでした。70年代とか、それくらいの頃ですかね。RCサクセションは当時から過激なメッセージを発信していて、そういうところが良かったですね。姉が古井戸を好きだったんですよ。RCのシングルなんかもあったりして。全部の曲を覚えています。

――確かに、古井戸やRCには自己表現にとどまらない、寓話的な部分がありますよね。今回のアルバムでは、ストーリーを自分で組み立てたんですか?

HF:曲によってですね。読んだ本を参考にして歌にしたり、恋愛の歌を作ろうって決めて、周りにいる人から言葉をピックアップしたりとか。例えば「sophia」っていう曲の「走り出す電車に飛び乗る君と ホームに立ち尽くす僕と」っていうフレーズは、読んだ本の中にあって、これ面白いなって思って。色んな人に「これと似たようなフレーズない?」って尋ねて、周りのスタッフや、姉の言葉なんかも使いました。

 たとえば「ヒールを鳴らす」とか、男からは出てこないですよね。で、ヒールを鳴らすって言葉を聞いて、そういう表現があるんだったら、まぁ男はスニーカーの紐を結ぶとかなのかなと。そういう風に遊びながら、パズルを組み立てるように作りました。

――最近のJ-POPだと、いわゆるハッピーエンドに終わる歌詞が多いと思うんですが、このアルバムだとすれ違いというか、謎かけをして終わるような曲が印象的です。

HF:それ、古井戸っぽいですね(笑)。人になりきって歌うことによって、謎めいた感じだったりとか、暗号遊びというか、そういうものは出そうと思っていました。実は……一曲目はある14歳の殺人犯の歌なんですよ。彼の犯行声明文に“透明な存在”っていうフレーズがあって、それがすごく気になっていて、いつか書こうと思っていたんですよね。曲名も当初は「14歳」にしていました。

――なるほど。歌声もどこか少年性を感じさせますが、歌詞には藤原さんの少年性とか、ピュアでセンチメンタルな部分っていうのが重なっている部分もあるのかと。

HF:そうですね、あんまり前面に出すのも恥ずかしいから、人の言葉を借りているフリをして、ちょっと自分の言葉を入れたりとかはしているかもしれませんね。ただ、今回歌ってみてわかったのは、自分には明るいものは作れないってこと。頑張って明るく作ったものも何曲かあるんですが、それがもう、我ながら無理しているな、と(笑)。

――確かにアルバム全体にどこかヒンヤリとした空気がありますね。デヴィッド・ボウイの最新作のようなメランコリックなムードというか。さて、今作の中では明るいタイプの曲「1978」では、「帝国主義」「修正主義」といったフレーズが出てきます。

HF:これはアルバニアの本を読んで作ったんです。アルバニアって1978年くらいから無神論国家になったんですよ。国が神を信じちゃいけませんって。アルバニアはもともとは共産主義国で、ロシアや毛沢東なんかをお手本にして国を作っていたんですけど、1978年頃から「あいつらは言うことがコロコロ変わって修正主義だ」って言い始めて。そんな言葉もあるんだなって思って歌にしました。今の日本にも当てはまるし、78年のパンクの感じにも当てはまるんじゃないかと思います。

――サウンド面では、アコースティック楽器と打ち込みのリズムを柔らかく融合させています。

HF:もともとはプロデューサーとしてやってきて、バックトラックを作って、人に歌ってもらうってことをやってきたんですけど、今回は逆で、僕が曲を全部作ってアレンジは全部任せています。渡辺シュンスケくんとか大沢伸一くんとかにお願いしているんですけど、すごく面白かったですね。僕が作ると、コードを作ってメロを作って、という順番でやっていくから、なかなかコードから離れられないんですよね。でも、他の人にお願いすることによって、ポップなところからより離れることができたな、と。そこは良かったですね。

――なるほど、かなりシンガーソングライター的なスタンスで作られた作品なのですね。藤原ヒロシさんといえばDJ的なセンス、今の言い方でいえばキュレーション的な視点で作品を組んできた、という印象もありましたが――。

HF:これもある意味、キュレーションですよ。プロデューサーを選んで、その人たちが持ってきた音源の中から、じゃあこれとこれを使おうという選定がありますから。歌詞についても、人の言葉をピックアップしたり、この本が面白かったから、この本について書こうとか、そういう感じです。

 どれくらいの人が本当に表現者というか、自分の中から出てくるものを表しているのかはわからないですけど、僕はやっぱり自分の中から出してくるっていうより、自分の日常にあるものをピックアップしてきて、それをまとめて出しているっていう気がします。この映画が面白かったって、ネットのサイトで紹介するんじゃなくて、面白かったところを、うまく言葉に置きかえて歌にするっていう風に変わっただけで。もしかしたら、昔のアナログ的方法にたどり着いただけなのかもしれないですね。

後編:藤原ヒロシが考察する、音楽とファッションの関係史「パンクに匹敵する出来事は起こっていない」

(写真=竹内洋平/取材=神谷弘一)