「重要なのはフィジカルで楽しめるかどうか」石野卓球が語る、『WIRE』の不変のコンセプト
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国内最大の屋外テクノフェスティバル『WIRE13』がいよいよ今週末、9月14日に開催される。同イベントは今年で15周年を迎え、スペシャルゲストとして大物音楽プロデューサーであるジョルジオ・モロダーが参加するなど、見どころは多い。そこで、同イベントを立ち上げたオーガナイザーであり、自身もアクトを務める石野卓球氏に、今年のWIREの魅力と、この15年のテクノシーンの変化について語ってもらった。
――『WIRE13』は今週末の開催ですが、この時期になると選曲などはある程度決まってるものなんですか。
石野卓球(以下、卓球):事前に選曲とかはしないかな。最低限、これをかけようとか、1曲目くらいは決めていくけど、70分そこそこのDJなら現場対応でやっていく感じ。毎年、同じイベントで、同じ時期にやっていたとしても、その場の雰囲気は毎回違う。事前に選曲をしていくと、現場の空気を見失ってしまうし、デメリットの方がでかい。場の温まり方とか、お客さんの状況とか、それこそ気温や天候によっても雰囲気って変わってくる。それを読むのは感覚的なものであって、経験でしかわからないものなんだよね。
――1曲目だけ決めて、あとは雰囲気を読んでやっていくと。
卓球:うん、繋ぐタイミングとかも現場対応。トリッキーなブレイクがある曲なんかは、構成を覚えていることもあるけど、さすがに全部の曲の構成を把握しているってわけじゃないから。まぁ、そんなに特別なことはしていないよ。
――今年はWIREが15周年ですが、出演者を選ぶ基準は?
卓球:今年はアニバーサリーっていうところを意識して、これまでのWIREにゆかりのある人に声をかけたんだけど、そうしたら平均年齢が高くなって、同窓会みたいになっちゃいそうで(笑)。だからあんまりそういう風にならないように、新しいアクトの人にも声をかけました。あと、やっぱりテクノのイベントなんで、そこからはブレないようにしている。
――卓球さんは“テクノ”をどう定義していますか。
卓球:少なくとも、萌え系とかそういうんじゃない(笑)。今、テクノっていろんな捉え方があるから、誤解を生むというか、逆に混乱したりするでしょ?でも、WIREでいうテクノっていうのは、あくまでもグローバルな意味合いでのテクノ。フィジカルな楽しみ方ができるもの、というイメージかな。
――オウテカのような、ヘッドミュージック的なテクノは?
卓球:オウテカは大好きだけど、WIREでやってもらう感じではないかな。だって、単純に踊れないでしょ(笑)。だから、これはテクノで、これはテクノじゃないとかはあんまり関係なくて、言葉でカテゴライズするというよりも、フィジカルで楽しめるかどうかを重視しているという感じですね。
――15年、WIREを続ける中で、ご自身のテクノ観というのは変わりましたか?
卓球:そこはほとんど変わらない。一貫したトーンで15年やってきているし、もしそこが変わっていたのなら、もっと流行とかに左右されていたんじゃないかと思う。たとえばデジロックとか、2ステップとか、エレクトロニカとか、いろいろ流行ったけど、それを積極的に採り入れようということはなかった。ただ、過去にビッグビートのアーティストが出てきたこともあるように、そこにも明確な線引きがあるわけではない。自分が好きな音っていうのももちろんあるんだけど、全員ダンス・アクトであることが重要で、ジャンルは後から付いてくるというか。
――ロサンゼルスからはジョルジオ・モロダー氏が来日します。
卓球:最初は呼ぶ予定はなかったんだけど、(今年5月の)ビルボードでの公演を見て、もしWIREに来てもらえたら、踊るのが好きなお客さんは喜ぶと思って。それで、ダメ元で声をかけてみたら、来てくれることになったんだよね。彼は海外では、テクノというより、ディスコとかエレクトロディスコというジャンルで呼ばれているみたいだけど。
――ステージ外のことについても聞きたいのですが、WIREではプレイ中以外の時間は何をしていますか?
卓球:基本的にはいろんなフロアーを観て回っている感じ。楽しいイベントだと思いますよ。テクノが好きな人にとっては、好みじゃない音楽の時間帯がないというか。ある程度、方向性が絞られたテクノだから、「今、このロックを聴く気分じゃないな」っていうことにはならないと思う。そこがほかのフェスと一番違うところかな。
――音響や照明に関しても、かなりこだわっていますね。
卓球:そう、そこがダメだと、せっかくいいアクトをしてもらっても、よくない音に聴こえてしまうことがあるから。毎年、機材がグレードアップするとか、そういうことではないんだけど、横浜アリーナの音響特性もちゃんと把握した、テクニックのあるエンジニアにやってもらっています。音も「デカけりゃいい」ってものじゃないからね。
――オーガナイザーとして、どういう音を目指していますか?
卓球:やっぱり心地いい音かな。言い換えると、長くいても苦痛にならない音。ロックとかだったら平気だけど、ダンス・ミュージックだとフロアーにいる時間が長いから、あまりデカい音だと疲れるんだよね。そして、そういう風に苦痛になって一回ロビーとかに行くと、もう戻りたくなくなっちゃったりするから。
――音響以外で快適に過ごせる工夫は?
卓球:一昨年まではアリーナの端と端にブースがあって、片方がライブで片方がDJという配置になっていたんだけど、去年からブースの向かい側をシート席にして、休みながら観れるようにしてあります。それに時間帯も夕方の6時からやっているし、それこそ終電で帰ったとしても充分に楽しめると思う。今年は渋谷からシャトルバスも出ているし、大人のお客さんにもゆっくり楽しんでもらえたらいいなと。
後編:「このメンツではもう観られないかも…」 石野卓球が『WIRE13』のアクトを語る
(インタビュー=小野島大/写真=竹内洋平/構成・文=編集部)
■イベント情報
『WIRE13 -15th ANNIVERSARY SPECIAL-』supported by Music Unlimited
公演日:2013年9月14日(土)
会場:横浜アリーナ
時間:開場 / 開演 18:00 (オールナイト)
チケット:一般前売り (6/29~)11,550円 (税込・オールスタンディング)