人間椅子・鈴木研一が影響を受けた10曲「2010年代も真ん中なのに、70年代HRに惹かれちゃう」
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音楽性を深化させながらハードロック一筋に突き進み、今年、デビュー25周年を迎えた人間椅子。ヘビーなギターリフを刻み続けるリーダーの和嶋慎治、白塗りのペイントでうねるベースラインを生み出す鈴木研一、パワフルなドラミングでバンドを支えるナカジマノブ。問答無用のサウンドで圧倒する彼らが、ニューアルバム『無頼豊饒』を完成させた。彼らの音楽のバックボーンには、70年代ハードロックが大きな比重を占めている。今回リアルサウンドでは人間椅子の音楽の根幹を探るべく、バンドを代表して鈴木研一に、これまでに最も影響を受けた10曲を挙げてもらった。そして、新作『無頼豊饒』の話題、長く活動する人間椅子の原動力についてを全2回にわたってたっぷりと語ってもらった。
「これに勝るものはないし、いくら作ってもこれをしのぐことができない」
――鈴木さんがハードロックに興味を持ったきっかけを聞かせてください。
鈴木:ハードロックの入り口はキッスです。中学生のときに、地元の青森で小林克也さんのラジオ番組で流れた「ラヴィン・ユー・ベイビー」がすごく気に入っちゃってキッスにハマったんです。アルバム『地獄からの脱出』が全曲良くて、そこからお小遣いはキッスのアルバムに全部使うようになりましたね。高校に入って小遣いじゃ足りなくて、新聞配達してレコード代にしてました。
――ちなみに、楽器はいつから始めたんですか。
鈴木:中学のときにフォークを買って、キッスの「デトロイト・ロック・シティ」を弾いたんだけどイマイチで(笑)。それで高校入学祝いで、ポール・スタンレー・モデルのミラージュを買ってもらって、エレキギターを練習したけどどうも違って、高2くらいでオレはベースになろうと思ったんです。ジーン・シモンズに憧れたけど、なぜか(アイアン・メイデン)のスティーブ・ハリス・モデルのベースを買いました(笑)。
――和島さんとは青森の同じ高校だったんですよね。
鈴木:一緒の学年でクラスは違ったんです。でも中学から和嶋くんは知ってて、ロック好きな友だちがいて偶然出会って。そんなに親しくない頃に、いきなりウチにキッスのレコード借りに来たんですよね(笑)。でも、オレはキッスを布教したかったからすぐ貸して(笑)。まさか突然キッスを借りに来た人と、一生バンドするとは思ってなかったですね(笑)。
――(笑)。鈴木さんは、キッスからどのように他のハードロックにハマったんですか?
鈴木:高校に入って、FM番組のハードロック特集で、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、クイーンとか聴いて、キッスだけがカッコいいハードロックじゃないって気づいたんですよ(笑)。さらに父親の友だちが、ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』、ピンク・フロイドの『狂気』とかレコード10枚くらい貸してくれたんです。それで、ブラック・サバスのベストで、サバスにハマりました。大学で東京に来たらレアなレコードが手に入るのうれしかったですね。伊藤政則さんの本で勉強したり、ほぼ毎日西新宿のレコード屋を回ってましたよ。当時はCDの再発もなかったですからね。
――では、鈴木さんの選ぶ、70年代ハードロック必聴の10曲の話題にいきましょう。まずは、バッジーの「GUTS」から話を聞かせてください。
鈴木:全てのハードロックの曲の中でこれが一番好きなんです。これに勝るものはないし、いくら作ってもこれをしのぐことができない。バッジーは、大学の頃に偶然中古レコード屋でジャケ買いしたんですけど、サードの『友情(Never Turn Your Back On a Friend)』がすごくカッコよくて、僕らが「針の山」って歌詞を変えてカバーしてる、「ブレッドファン」にノックアウトされたんです。バッジーは噛めば噛むほど味が出るバンドで、「GUTS」はファーストの1曲目で、バンドの全てを表す曲ですね。とにかくリフの素晴らしさにつきます。特にサビがあるわけでもなく延々リフが続いて、メロディが少しずつ変わっていくだけなんだけど。ハードロックはリフがカッコいいと、それだけで成立しちゃうんですよ。
――では、ブラック・サバス「CHILDREN OF THE GRAVE」。
鈴木:サバスで最初にやられたのは「パラノイド」でした。すごくシンプルな曲なんですけど、シンプルで人の心に残るのがハードロックの究極の目的だと思うんです。で、「CHILDREN OF THE GRAVE」の重たいリフのリズムは発明ですよ。これのそっくりさんはいっぱいあるけど、最初にこれを作れたサバスがうらやましい。トニー・アイオミがこれを作ったとき、どれだけうれしかったか想像しちゃいますね。あと、なにげにサバスのキモは、ドラムのビル・ワード。リズム感が良いわけじゃなく、むちゃくちゃに力一杯やる感じ、やたらシンバル叩く感じ。あれをおとなしくやられても面白くない。ビル・ワードのすごさも伝わってほしいなぁ。
――次は、レッド・ツェッペリン「Immigrant Song」。
鈴木:オレとしてはこのインタビューで、ハードロックを知らない人にも聴いてほしいって思いがあるんです。だから聴いたら絶対好きになるぞって10曲を挙げたんです。ツェッペリンは他の曲も当然好きだけど、知らない人に最初にこれ聴いてノックアウトされてほしいなって。「移民の歌」みたいな、こんなすごいドラムは他にないですよ。あと、音楽ってハーモニーも大事だけど、ユニゾンの素晴らしさはハードロックにしかない良さなんです。「移民の歌」はすごいユニゾンで、音の固まりになってる。それをひたすら繰り返すところ良さがある。
「これを聴いてぶったまげるかどうかで、ハードロックの素質があるかどうか分かれる」
――では、ディープ・パープルの「SPEED KING」。
鈴木:(ディープ・)パープルは、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」「ハイウェイ・スター」も良いけど、スタジオ盤だと今ひとつおとなしくて。でも「SPEED KING」はスタジオでも音がすごいので、この曲にしたんです。ほんと、リッチー・ブラックモアは天才ですよ。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」で、キーがGで弦2本のコードルートでリフを作るっていうのを最初にやったのはリッチー。その功績は大きいですよ。
――次は、ユーライア・ヒープの「EARY LIVIN’」。
鈴木:ユーライア・ヒープは、パープルに似てるけど、一番違うのはオルガンがすべてのバンドってところ。ケン・ヘンズレーのオルガンがとにかくすごい。オルガンのハードロックって意味で、若い人に聴いてほしいですね。
――そして、ブルー・オイスター・カルト「TRANSMANIACON MC」。
鈴木:俺、ブルー・オイスター・カルト大好きなんですよ(笑)。高校生のときに弘前のレコード屋で見つけたファースト『狂気への誘い(Blue Öyster Cult)』のジャケットがカッコよかったですね。ハードロックは大体ブリティッシュだけど、アメリカのブリティッシュを取り入れたバンドは、いかにもアメリカらしい匂いがあるんですよ。あとブルー・オイスター・カルトは、「死神((Don’t Fear) The Reaper)」と「ゴジラ(Godzilla)」を聴いてほしいですね。
――では、ドイツのバンド、スコーピオンズの「CATCH YOUR TRAIN」。
鈴木:スコーピオンズの良いところは、ウルリッヒ・ロートっていうジミヘン好きの速弾きギタリストがいるところ。最初聴いたときに、どんだけ速いんだって思いましたね。リッチーもジミー・ペイジも速いけど、意外と手癖が強い。この人は美しいメロディを速弾きするのがすごい。この曲は、キャッチーなメロとシンプルな構成とすさまじいソロが1曲にバシッと入ってる。これを聴いてぶったまげるかどうかで、その人のハードロックの素質があるかどうか分かれると思います。
――そして、メタルゴッド、ジューダス・プリーストの「VICTIM OF CHANGES」。
鈴木:ジューダスはA級バンドだけど、でもファーストから3枚目くらいまでは、今ひとつ突き抜けないB級な感じがあって、その頃の方が好きなんです。思いっきりサバスに影響された曲だけど、とにかくロブ・ハルフォードの歌がすごい。低音からハイトーンで3オクターブくらい使うんです。ジューダスは、リフも良いし、80年代のもカッコいいけど、歌から入りたい人にはこれだと思って挙げました。
「とにかく日本でもハードロック好きが増えてほしい」
――キッスは「STRANGE WAYS」と意外な選曲ですね。
鈴木:キッスは俺の魂ですよ。俺は、サバス半分、キッス半分でできてるみたいなものだから(笑)。普通だったら、「デトロイト・ロック・シティ」「ラブガン」「ロックンロール・オールナイト」から入るのも良いと思う。でも、セカンド『地獄のさけび(Hotter Than Hell)』の最後の曲を初めて聴いたとき、衝撃を受けたんです。ギターのエース・フレーリーの曲だけど、エースの曲はリフがすごくカッコよくて、ブリティッシュロック好きでも相当聴ける。この曲は、サバスみたいなリフに、どうやって弾いてるか分からないソロがカッコいいんです。キッスは、産業ロックとか言われたり、メイクとか火吹きとか、ギミックに話題が行きがちだけど、それだけじゃないよって思いがあって、この曲を挙げました。
――最後は、キング・クリムゾンの「THE GREAT DECEIVER」です。
鈴木:プログレだけどハードロックしてる曲ですね。プログレって、芸術的なりフとか展開のカッコよさがあるけど、この曲は極悪に聴こえるんですよ。破壊神みたいな、こんなに悪意に満ちたリフはないなって。
――ロバート・フリップは頭の良い人だから、知恵を使った悪みたいな曲ですね。
鈴木:それは良い表現ですね。ロバートは心のどこかで極悪なんですよ(笑)。クリムゾンは、「21世紀の精神異常者」や「太陽と戦慄」から入るのが普通ですけど、これはとにかく音がすごい。
――逆に若いロックファンには入りやすいかもしれないです。バトルズとかマーズ・ヴォルタとか、激しく変拍子の多いバンドに近い要素が入ってるので。
鈴木:その元祖ですからね。あと、ハードロックファンにもプログレを聴いてほしいなって思いでこれを入れました。
――10曲挙げてもらいましたが、70年代ハードロックって独特な匂いがありますよね。
鈴木:ありますね。この10曲は、若い人に聴いてほしいなっていうのと、俺の好きなバンドをもっと広めたいって思いの入った選曲になりましたね。もう2010年代も真ん中なのに、俺は70年代ハードロックに惹かれちゃうんですよ。最近はもっとロック漬けになろうと思って、何するときでもiTunesのハードロックチャンネルをずっと流してるんです。自分らの曲を練習してる間も、違う曲流してますから(笑)。とにかく日本でもハードロック好きが増えてほしい。聴く人も演る人も。こんなにすごい音楽があるんだから。その布教活動を俺はしてるところがあって、実際に、3〜4ヶ月に1回、高円寺Show Boatで『ハードロック喫茶ナザレス』ってイベントをやってるんです。
――そうなんですか。どんなイベントなんですか?
鈴木:夜の11時から約5時間、俺がDJでハードロックをかけ続けてるっていう。ステージのど真ん中に俺が座って音楽かけて、お客さんと向かい合って聴くってイベントなんです。マンガ読んでる人もいるし、寝てる人もいるけどそれで良いっていう(笑)。マニアックな選曲で、ハードロック好きな人なら楽しめると思います。次は、10月18日にやります。でも最近お客さんが増えて、チケット売り切れて新しい人が来れないのがジレンマで。これじゃあ布教活動にならないし、もっとデカいハコでやろうかなと思ったりしてます。
――ぜひやってください(笑)。鈴木さんは、とにかく今もハードロックどっぷりなんですね。人間椅子の音楽性の濃さの理由が分かったような気がします。
鈴木:そういうのを踏まえた3人が作ってるから、当然70年代の匂いプンプンの音楽になるんです(笑)。今回のアルバム『無頼豊饒』もその延長ですね。
――ということで、次回はニューアルバム『無頼豊饒』の話を聞かせてください。(後編【「ハードロックはリフが命だけど、リズムひとつで別の曲になる」】に続く)
(取材・文=土屋恵介)
■リリース情報
『無頼豊饒』
発売:6月25日
価格:初回限定盤(CD+DVD) 4800円(税込)
通常盤(CD) 3086円(税込)
※初回限定盤、通常盤ともに共通のアートワーク
<収録内容>
01.表徴の帝国
02.なまはげ
03.地獄の料理人
04.迷信
05.生まれ出づる魂
06.悉有仏性(しつうぶっしょう)
07.宇宙船弥勒号(うちゅうせんみろくごう)
08.リジイア
09.ミス・アンドロイド
10.グスコーブドリ
11.がらんどうの地球
12.結婚狂想曲
13.隷従の叫び
<DVD収録内容> ※初回限定盤のみ
『バンド生活二十五年~猟奇の果~』 @TSUTAYA O-EAST (2014年1月18日より)
1.新調きゅらきゅきゅ節
2.爆弾行進曲
3.時間からの影
4,怪人二十面相
5.九相図のスキャット
6.ねぷたのもんどりこ
7.品川心中
8.踊る一寸法師
9.相剋の家
10.蜘蛛の糸
11.針の山
12.猟奇が街にやって来る
■ライブ情報
『人間椅子ワンマンツアー「二十五周年記念ツアー ~無頼豊饒~」』
8月20日(水)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
8月22日(金)青森 Quarter
8月24日(日)札幌 Bessie Hall
8月30日(土)熊本 B.9 V1
8月31日(日)博多 DRUM Be-1
9月3日(水)広島 HIROSHIMA BACK BEAT
9月4日(木)香川 高松 モンスター
9月12日(金)大阪 梅田 Shangri-La
9月14日(日)名古屋 Electric Lady Land
9月20日(土)恵比寿 LIQUIDROOM
■「なまはげ」MV(6/25発売AL「無頼豊饒」より)
http://youtu.be/CLoUY1kA4ZY
■「無頼豊饒」 ダイジェスト
http://youtu.be/sGvsk1W_2Jc