PE’Zが語る、葛藤と挑戦の15年史「もつれたからこそ、色んな方向が見えてきた」
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今年で結成15周年を迎え、精力的な活動が目立つPE’Z。東京のライブハウス13か所を駆け抜けた今春の『マラソンライブ2014 ~東京JACK!!~』を皮切りに、7月には新宿歌舞伎町でワンマンライブ、8月には世田谷・国立音楽院で小学生の子どもたちにジャズを教えるクリニックを開催。さらに10月には、ストリートライブ出身の彼らの原点回帰作にして、新たな音楽的挑戦も盛り込んだニューアルバム『血騒-chisou-』のリリースも控えている。今回のインタビューでは、“波瀾万丈”の15年を振り返りつつ、今の彼らが目指している音楽について、ドラムでありリーダーを務める航と、ピアノ・キーボードのヒイズミマサユ機にじっくりと話を訊いた。なお、本記事にて配信限定シングル「Viva! A So Bole!」のMVフルバージョンが初公開となる。
「2010年の前後くらいから、“やりつくした感”みたいなものが出ていた」(航)
――先日行われた新宿BLAZEでのワンマンライブで、メンバーのみなさんが「ストリートの原点に帰る」と発言されていました。(参考:PE’Zがワンマンで見せた“侍ジャズ”の最新形 10年ぶり歌舞伎町ライブをレポート)近年でライブに向けてのスタンスはどのように変化してきましたか。
航:バンドの初期と比べて、最近は5人でライブを作り上げているという感覚、バンドとしての一体感が強くなったきたように思えます。僕は2年前からリーダーを務めてるんですが、普段から「大丈夫か?」と心配されるような人なので、リーダーシップは全然ないんですけど…。
ヒイズミ:いやいや、あります、あります(笑)。
――以前の鬼気迫る演奏というイメージだけでなく、楽しい感じも出てきましたね。
ヒイズミ:昔は引きこもりで一心不乱に出す音というか……。5人で「俺らの音を聴け!」というスタンスでやっていたので、周りからは尖って見えたと思います。でも、歳を重ねて“ライブをやる意味”や“人に伝えることの大事さ”みたいなのがわかってきたというか。色んな境遇の人が一斉に集まってライブを見て、ともに盛り上がるということ自体が奇跡に近い出来事だと考えるようになって。5人全員がお客さんに「その空間が楽しかった」と思ってほしい、そう願う気持ちが強くなったんです。
――2年前にはOhyamaさん(Ohyama“B.M.W”Wataru)もブログで「迷った時期があった」と書いていたり、ハードな男集団の中で色々と葛藤があったと察します。コンセプトが明確なPE’Zにおいて、どの部分に迷いが生じたのでしょうか?
航:2010年の前後くらいから、“やりつくした感”みたいなものが出ていたんだと思います。『向日葵-Himawari-』『OH!YEAH!PARTY!!』『JumpUP!』という30曲を超えるアルバムを“合法ダウンロード”でリリースし、さらに新しいこと、色々なことに挑戦していくなかで迷い、立ち止まったという感じです。それまでは、Ohyamaがリーダーとして一人で頑張ってきたので、負担も大きかったと思います。でも、ここ3年くらいは他のメンバーも一緒になってバンドを支えているので、バンドとして一つ階段を昇れたような気がします。
――メンバー全員がプレイヤー目線だけではない、角度を変えた見方、違う意識でPE’Zと向き合えたということでしょうか。
ヒイズミ:そうですね。PE’Zという塊には、デリケートな部分やアツい部分が色々ありまして(笑)。もつれたからこそ色んな方向が見えてきて、どこに行こうかとみんなで真剣に考えるようになったんです。
航: 全員が1曲1曲の見せ方について、各自で考えるようになって。そこから良い形の“丸”になったと思います。それぞれがリーダーみたいに演奏に関わっていくというか。特に、ここ最近はJAW(Kadota”JAW”Kousuke/サックス担当)がすごいんですよ。今までもずっと頑張ってたんですけど、よりバンドや音楽を広い視野で見れるようになった。現在のPE’Zは彼に引っ張られているといっても過言ではないかもしれません。
「小さい子には未来がありますし、そこは重要視したい」(ヒイズミ)
――8月4日からは、世田谷・国立音楽院で小学生1年~6年生の子どもたちにジャズを教えるイベント『〜ジャズクリニック~PE’ZとJAZZで学ぼう, 遊ぼう, 楽しもう!』を展開されました。これを始めた経緯は?
航:小さい子どもたちが音楽に触れて、学ぶにあたって、本当に音楽の楽しさが伝わっているのか疑問に思う部分があったんです。ある子が「音楽は好きだけど、楽器は無くてなかなか好きになれない」と言っているのを聞いて、「こういう子が音楽を好きになるきっかけを作れたらいいな」と。
ヒイズミ:当日はPE’Zの編成(サックス・ベース・ドラム・ピアノ・トランペット)の中で「この楽器を教わりたい」と思ったところに行ってもらって、担当のメンバーが教えるという感じです。
航:最終的にはみんなでセッションをして、楽器を演奏する楽しさを知ってもらえたらと思っています。
――最初に登場した時の尖った印象から、子どもたちに音楽を教える立場になられたのは感慨深いですね。音楽活動を続けるなかで、自然と色んな世代に届けたいという思いが高まってきたのでしょうか。
ヒイズミ:決して尖った部分を丸くしたいというわけではないのですが(笑)。アツい感じというか、音楽の楽しさを知ってる(つもり)ですので、それを全世代に伝えたいんです。その中でも、小さい子には未来がありますし、そこは重要視したいと歳を重ねるたびに思うようになりまして。
――同企画のテーマソングであり、配信シングルとしてもリリースする「Viva! A So Bole!」は、子どもたちも楽しめるような、音楽の原初的な躍動感や楽しさが出ています。この曲はどういう意図で作られたのでしょうか?
航:この曲に関してはメロディをわかりやすく、「これで子どもたちが楽しんでくれたらいいな」という気持ちで、完璧に演奏できなくてもみんなでセッションしたいって思って貰える曲にしました。
ヒイズミ:コロコロ展開が変わった方が遊び心があって面白いかと思い、全員でこねてこねて…手ごねハンバーグのように作りました(笑)。
――9月21日には人見記念講堂でアルバム『血騒-chisou-』の全曲を初披露。このライブは10月15日リリースの同作に向けて景気付けとなりそうですね。
航:やっぱり、曲を初めて演奏するというのはドキドキしますね。ここから何回も演奏して曲を育てていくんですが、1回目はまっさらな状態なので、いつになっても緊張します。でも、毎回来て頂いてるコアなファンはもちろん、たまに来る方、デビュー当時は観てたけど最近は…という方、そして今回のジャズクリニックで新たに出会った次世代の背負う子どもたち…全ての方に観てもらいたいライブです。時代はデジタルになってきてますが、余計な演出はせずに、あくまでもアナログ感に拘った、生の凄さを届けるつもりです。
「音を出して『何だ?』って空気の熱が変わる感じが原点」(ヒイズミ)
――アルバムは、9月24日に配信リリースする表題曲「Chi! – Sou!」をはじめとして、速いリズムを備えたアッパーな曲が多い印象です。どういったコンセプトで制作しましたか?
ヒイズミ:僕は速くてアツい音楽が基本的に好きなので、そこは全体的に出していきました。他のメンバーからも「今回は気合い入ってるな」と思うデモが上がってきましたし、バンド全体がストリート時代を思い出して、そこに向かって作りました。
航:ストリート時代の曲で、当時は勢いがあると思ってた「collective mode」を今になって聴くと、結構ゆっくりだったりするんです。なので、「『collective mode』を今のPE’Zがやったらこうなるぞ!」という勢いで作ったアルバムですね。
ヒイズミ:今までアツい音楽をやってきたし、これからもやりたい。「PE’Zはやっぱりそこでしょう!」という感じで、DropboxとLINEを駆使してデータを送り合って作りました(笑)。スタジオのリハーサル音源もDropboxで共有して、「ここはこうした方がいい」というのをLINEで出し合ってからレコーディングに入るんです。テクノロジーを駆使して「逆に」生音をガンガン入れたニューアルバムになっています(笑)。
――そこまでアツくなったのは、時代や世の中に対する思いなどもあるのでしょうか。
ヒイズミ:時代のことは半分考えて半分考えてないし、意識も半分はしていてもう半分はしていない。そこから熱いものが生まれればいいなという思いですね。バランスというか、考えるところと無心になるところが上手く出てくれれば。なんにせよ結果的にうまい具合になっていればよいのではないかと。航さんは無心の達人ですから、そこらへんは良くわかってるんじゃないですか(笑)。
航:(笑)。頭が二段構造になってると思うんですよ。一つのことを話しながら別のことを考えるという。そんなんじゃダメなんでしょうけど(笑)。いわゆる「何も考えてない」というわけではなく、「楽しければいい」って感じです。そういう感じがメンバーにも共有されているわけです。
――メンバー内で「これがPE’Zだよね」という共有している感覚とは。
航:僕が思うのは「楽器で喋る」ということだと思います。それぞれの楽器でどれだけ喋って合唱できるか、「5人以上になるとこうなるんだよ」といかに提示するかが原点です。
ヒイズミ:僕はストリートをやってたときに、音を出して「何だ?」って空気の熱が変わる感じが原点ですね。「なんかすごいぞ、なんだこの音は?」ってビックリさせる感覚は忘れたくないです。
「世の中に届いていることを実感するのはライブ」(航)
――これだけ多様な音楽が聴かれている現在、聞き手を驚かせるような音楽を作り続けるのは大変なことでは?
ヒイズミ: J-POPが好きでもヒップホップが好きでも、「オギャー」って生まれた瞬間から心臓が鼓動してるのは同じです。だからその心臓を掴むような、人間として熱い血が滾ってしまう音楽として伝えたいです。そうすれば、例えJ-POPが好きだったとしても心を動かせるんじゃないかと。
航:基本的にバンド編成がジャズだから、どんな曲をやってもジャズっぽくなるんですけど、そこを超えて「ロックだね」って思わせたいですね。
――PE’Zの音楽はトラディッショナルなジャズを継承している部分もあれば、他のジャンルの要素を入れて変化させている部分もあります。
ヒイズミ:基本的に各々「ジャズが好き」という部分が根底にあるうえで、生活の中で鳴っている音や空気感を取り入れて出してみる、実験してみる、自分なりの音でやってみるという感じですね。そこで周囲から良い反応があればOK。ジャンルとしては色んなものに意識を向けているつもりです。
――ある種ロールモデルがないバンドというか、手本にする目標がいないように思えます。
ヒイズミ:でも初期の頃はレッチリに影響を強く受けていたりするんです。良いものは取り入れたいし、それを上手く自分たちの解釈で表現したいと思い、繰り返しやってきました。今回のアルバムを作るにあたっても、色んな音楽からの影響はあったと思います。外国のフェスでEDMの盛り上がりを目撃して衝撃を受けた体験もパッケージングされて入ってますし。基本的にジャズしか聴かないサックスのJAWが、ファレル・ウィリアムスのようなオシャレな音楽を聴きこんでいたことも、アルバムに大きく影響を及ぼしているのではないでしょうか。
航:僕はメタリカの『St. Anger』から熱い感じやドラミングも含めて、影響を受けていますね。
――その上で節目の年に出すアルバム『血騒-chisou-』について最後にお伺いさせて下さい。
ヒイズミ:メンバーを含め、関わった人間全員の熱がこもっておりますので、一人の人が長く聴けるし、何年後かにこのアルバムに出会ったひとも夢中にさせれる一枚になったと思います。
航:無心の僕としては(笑)、世の中に届いていることを実感するのはライブなんですよ。なので、良いものを作ったという実感はその後のライブで感じたいですね。
(取材=神谷弘一)
■リリース情報
『血騒-chisou-』
発売:2014年10月15日(水)
価格:CDのみ ¥3,000(tax out)
CD+アナログ盤(ダウンロードコード付) ¥5,000(tax out)
※それぞれにボーナストラックを1曲ずつ収録(アナログ盤とCDではそれぞれ異なる楽曲を収録)
■ライブ情報
『「定禅寺ストリートジャズ」Saturday Night Jam!』
日時:9月13日(土) START 17:30
場所:宮城・勾当台公園
※フリーライブ
『血騒 –PE’Z THE LIVE-』
日時:9月21日(日)OPEN 13:00/START 14:00
場所:東京・昭和女子大学 人見記念講堂
前売¥5,000/当日¥5,500
※全席指定・tax in
※3歳以下入場不可・4歳以上はチケットが必要
info:サンライズプロモーション東京 TEL:0570-00-3337
『MAMEDAGIA FES(マメダジアフェス)-隠岐の島2014-』
日時:9月27日(土)、28日(日)
場所:島根・隠岐の島アイランドパーク
『エレキ大浴場23~KYOTO MOJO 15th Anniversary~』
日時:9月30日(火)OPEN18:30/START19:00
場所:京都・MOJO
チケット料金:前売¥3,500/当日¥4,000(整理番号付・ドリンク別)
info:京都MOJO 011-592-4125