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タナダユキ監督が語る、オリジナル作品を作る困難さと、過去の日本映画への一途な想い

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リアルサウンド

 リアルで活きた台詞と自然な間、大げさな感情表現やこれ見よがしの熱演とは無縁の抑制された演技、説明過剰なところはどこにもないのに登場キャラクターの心の動きが手に取るようわかる丁寧な演出。そんな近年の多くの日本映画が失ってしまった美点を思う存分に堪能したいなら、タナダユキ監督、大島優子主演の『ロマンス』をオススメしたい。人と人の「別れ」、そして、それにともなう「後悔」という苦いテーマを描いた作品でありながら、97分間、とにかく軽妙な笑いとともにあっという間に過ぎていき、見終わった後にはちょっと幸せな気持ちにしてくれる忘れがたい作品なのだ。

 リアルサウンド映画部では、先日アップした大島優子のインタビューに続いて、『百万円と苦虫女』『ふがいない僕は空を見た』などの秀作でもお馴染みのタナダユキ監督にもインタビューを敢行。どうして日本の大手映画会社が大作に抜擢するのは一部の男性監督に偏っているのか? いや、実はタナダ監督のように優れた女性監督にもたくさん声はかけてはいるけどなかなか実現しないだけなのか? あるいは、タナダ監督作品はもっといろんな国の観客に観られてもいいはずなのに、どうしてあまり海外の映画祭に出品されないのか? といった、ここ数年個人的にずっと抱えていた素朴な疑問も、ご本人にストレートに投げかけてみました。(宇野維正)

「海外での評価を狙って作るようなことは考えたことがない」

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——このところコンスタントに作品を発表していらっしゃったので、言われるまで気づかなかったんですけど、今回の『ロマンス』は、タナダ監督にとって『百万円と苦虫女』以来7年ぶりのオリジナル作品となるんですね。

タナダユキ(以下、タナダ):そうなんです。

——今の日本映画界では、やっぱりなかなかオリジナル作品は成り立ちにくい?

タナダ:成り立ちにくいですね。映画もビジネスなので、原作の販売部数などの安心材料がないと、資金が集まりづらいんだろうな、ということは理解できるんですけど…。

——それはつまり、「この監督の作品だったら映画館に行こう」だとか、「この役者が出てるなら映画館に行こう」だとか、そういう存在がほとんどいなくなってしまったことの裏返しでもありますよね。

タナダ:それは否定できないかもしれませんね。特に監督の名前で観に行く方は、マニアックな映画ファンという感じで、周りから珍しく思われるかと…。

——自分はタナダさんの監督作だったら駆けつけるわけですが、これだけ良作を連発していてもその状況は変わらない?

タナダ:なかなか難しいです。至らなさを痛感します。

——タナダさんくらいになると、オリジナルとは別にも、企画自体はいっぱい舞い込んできそうですけど。

タナダ:ボチボチですね(笑)。周りからは、わりとここまで順調にきているように見られがちですが、途中で企画自体が白紙になった経験も何度もあります。だから、企画が上がることと、それが実現することはまったく別問題ですね。もっと夢があるようなことを言いたいんですが(笑)、夢や希望だけで成り立っている世界じゃないんです。それに、予算がない作品はもちろん大変ですが、予算がある作品には、また別の大変さがあります。結局、その大変さを自分がどれだけ受け入れられるかってことだと思うんです。まぁ、そんな大きな作品の話がこれまできたようなこともないんですけどね(笑)。

——そんな中、今回の『ロマンス』が実現した経緯を簡単に説明していただけますか?

タナダ:企画段階で「大島(優子)さん主演で一本撮ってみませんか?」というお話をいただきました。プロデューサーが、私が撮ったらおもしろいんじゃないかと思ってくれたのがきっかけですね。それと、今回、製作がいわゆる製作委員会方式の作品ではなく、東映ビデオ一社だったことがラッキーでした。大きな予算の作品を一社で作るのは難しいんですが、『ロマンス』のようにこじんまりとした規模の作品だったら、社内で企画が通りさえすればオリジナルの作品もまだ作ることができるという、そういうスタンスをとっていただけたんです。

——これは自分の印象論に過ぎないかもしれませんが、タナダさんよりもちょっと上の世代の日本の映画監督には、海外の映画祭に積極的に出品して、そこで評価されることを一つの突破口にしてきた監督も多かったと思うんですね。今回の『ロマンス』なんて、どこの国にもっていってもかなり幅広い層の批評家や観客に受ける作品だと思うんですけど、タナダさん自身は、あまり作品を海外に持っていくことには興味がない?

タナダ:海外の映画祭って、自分が行きたいって言って行けるものではないんです。個人的には行きたい気持ちはありますよ。単に「行けていない」だけです(笑)。

——なるほど。それはどっちかというと、日本映画界の中にいる人たちの動き方や、お金の動き方の話なのかもしれませんね。

タナダ:そうかもしれませんね(笑)。ただ、海外での評価を狙って作るようなことを考えたことはありませんし、これからもないと思います。映画は娯楽だと思っているので、まずは日本のお客さんに観てもらうことが一番大事ですね。

「大島さんは、子供の頃に身近な場所にいた“お姉さん”って感じ」

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——そういう意味でも、今回の『ロマンス』は97分という上映時間も素晴らしいですよね。もちろん、タナダさんの過去作でいうと、たとえば『ふがいない僕は空を見た』が142分あったことにはそこに必然性があったわけですけど、今のメジャーの日本映画のほとんどが意味もなく横並びで120分前後だったりする中で、ちゃんと内容に則して短い作品は短くあるべきだという姿勢が感じられて、それだけでも「おっ!」って思ってしまう(笑)。

タナダ:だって、昔の日本映画って70分台とか当たり前だったじゃないですか。

——プログラムピクチャーの時代は、特にそうですよね。

タナダ:短くても、ちゃんと中身がギュッと詰まっていておもしろかったら、それでいいわけですから。映画って、必ずしも話がまとまっていなくて、球を投げっぱなしでも、それはそれで印象に残ったりするものだと思うんです。

——本当にそう思います。

タナダ:私も最近の映画は長いなってよく思います。今回の『ロマンス』は、90分ちょっとが相応しいテーマだと思ったし、自分の中でも、『ふがいない僕は空を見た』や『四十九日のレシピ』が必然性はあるにせよ2時間を超えてしまったから、今回はもうちょっと肩の力を抜いて映画を作ってみたいという気持ちがありました。

——多くの映画監督は、プロデューサーが強権をふるわない限り、せっかく撮った素材をなるべく長く残したいものって聞きますけど、タナダさんはそれに当てはまらない?

タナダ:まったく当てはまらないですね。今回の『ロマンス』は90分台でって最初から固く決めていたし、『ふがいない僕は空を見た』も『四十九日のレシピ』も、1分でも短くしたいと思って削っていって、その結果があの時間という感じでした。

——今回の『ロマンス』では、大島優子さんの女優としてのポテンシャルを見事に開花させていましたが、タナダさんが「この俳優とやりたい」と思うポイントというのはどこにあるんですか?

タナダ:大島さんに関しては、実はアイドル時代から興味を持って見ていたんですがーー。

——あ、アイドルとかもお好きなんですね? ちょっと意外です(笑)。

タナダ:毎回コンサートに行ったりとか、そこまでではないですけど、音楽番組とかもたまに見たりしています(笑)。で、大島さんに関しては、彼女の明るくて可愛くて元気でみたいな姿の裏側にあるドラマのようなものを、勝手に感じていたんですね。それで、気になる存在になって…。大倉(孝二)さんのことも、それこそ15年くらい前から舞台で何度か拝見していて、「すごく色気のある人だな」って勝手に感じていました。そういう、その人が発しているものの裏側に、自分が何かドラマのようなものを感じるかどうか。自分が仕事をご一緒したいと思うかどうかというのは、そこが大きいように思います。

——大島さんに感じた「ドラマ」というのを、もうちょっと詳しく教えてもらえますか?

タナダ:大島さんは、なんとなく、自分が子供の頃に身近な場所にいた「お姉さん」って感じがするんですよね。いろんなものを引き受けてくれていて、すべてわかっていて、自分の目線に合わせてくれている感じというか。

——あぁ、なんとなくわかります。あと、これは大島さんとも取材の時に話したんですけど、とにかく今回の『ロマンス』は本当にクスクス笑える作品で。こんなに自然に笑える作品って、日本映画ではとても珍しいってことで。

タナダ:意識して笑わせようとするとスベるので、自分がおもしろいと思うものだけでやってみました。「こうしてやろう、ああしてやろう」、っていう気持ちは全然ありませんでした。

——確かに、「笑い」の要素だけじゃなくて、タナダさんの作品には、アザとさみたいなものに対するものすごく強い抵抗感がありますよね。

タナダ:それはあるかもしれませんね。自分自身がアザといものに、興ざめしてしまうので。でも、役者の方に助けられているというのが一番ですね。今回の『ロマンス』でも、大島さんや大倉さんが、とても自然に演じてくれたので。同じ台詞でも、役者さんによって全然違いますから。

th_tanada-04.jpg撮影中のタナダユキ監督

——これはよく訊かれる質問かもしれませんが、タナダさんが最も影響を受けた映画監督というと誰になるんでしょうか?

タナダ:単純にファンなのは、成瀬巳喜男監督、増村保造監督、相米慎二監督の3人です。

——あぁ、やっぱり日本の映画監督になるんですね。

タナダ:日本映画が好きですね。

——じゃあ、ご自身もそうした先達たちの末裔であるという強い自覚のもとに映画を撮っていると。

タナダ:末裔……、うーん、そこまでは思えませんね。ただ、末席を汚しているなぁと(笑)。

——そんなご謙遜を(笑)。むしろ、その伝統の良い部分を守り抜いているのがタナダさんの作品だと思います。

タナダ:映画の中にある、日本人特有の間とか庶民の文化、日本語の表現というものに興味があるんですよね。だから、これまでも過去の日本映画を中心に観てきています。

——たとえば今回の『ロマンス』でいうと、僕が思い出したのはジャック・リヴェットが70年代に撮った『セリーヌとジュリーは舟でゆく』のような、フランス映画の軽妙な喜劇の系譜だったりもするのですが。

タナダ:へぇー(笑)。

——(笑)。

タナダ:そんな素敵なことを言われても、キョトンとしてしまいます(笑)。

——それは失礼しました。

タナダ:だから、本当にいつも「なんかすみません」って感じで映画を撮らせてもらっているんです(笑)。

(取材・文=宇野維正/写真=下屋敷和文)

■公開情報
『ロマンス』
8月29日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
出演:大島優子 大倉孝二 野嵜好美 窪田正孝 西牟田恵
脚本・監督:タナダユキ
製作:東映ビデオ
配給:東京テアトル
2015年/日本/97分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル
(C)2015 東映ビデオ
公式サイト