でんぱ組.inc、私立恵比寿中学、BABYMETAL… アイドルはなぜ「日本武道館」を目指す?
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でんぱ組.incや私立恵比寿中学、BABYMETALなどのアイドルグループが、立て続けに日本武道館での単独公演を行うことを発表して話題となっている。そもそもなぜ最近のアイドルグループは武道館公演を目指すのか。
日本武道館は本来、音楽イベントをするための施設ではなく、音響もそれほど良いとされているわけではない。にも関わらず、武道館公演を目標に掲げるアイドルグループは多く、ベイビーレイズなどは2014年までに武道館公演ができなければ解散をする、という公約さえ打ち出している。
いったいそこにはどんな意味合いがあるのか。アイドルカルチャーに造詣の深いライター・物語評論家のさやわか氏が解説する。
「日本武道館がミュージシャンにとってある種の聖地になっているのは、1966年のビートルズ日本公演が武道館で行われたことを皮切りに、多くの有名ミュージシャンが武道館で公演を行ってきたからでしょう。もっとも、ビートルズが武道館で公演を行ったのは、当時はまだ大勢で音楽を聴くような施設が少なかったことが大きい。当初は芸能色の強い公演も多くありましたが、80年代にBOOWYが日本武道館で公演したあたりから、ロックの殿堂といったイメージが定着していきます。氷室京介が放った『ライブハウス武道館へようこそ』という名言は、ライブハウスでやるような硬派な音楽を、武道館というメジャーな場所に持ち込むことに成功した、ということを象徴しているのです。それ以降、武道館でライブをやるということは、音楽シーンで評価されることと、芸能的な意味での成功という、二重の意味合いを持つことになります」
一方アイドル界では、2000年頃までは芸能的な成功のシンボルとして武道館公演を目指す傾向が強かったが、2000年代に入ると意味合いが変化した、とさやわか氏は言う。
「アイドルはもともと昔ながらの芸能界に近いポジションにいたので、自然な形で武道館公演をやっていました。山口百恵だっておニャン子クラブだって武道館のステージに立っている。しかし、2008年にPerfumeが行った武道館公演などになると、芸能界に近いグループとして武道館公演をやるというより、明らかにBOOWYあたりから培われた、音楽シーンでの武道館のブランドを意識して公演をやっています。Perfumeのマネージャー氏は、80年代の邦楽ロックカルチャーに影響を受けている方だったので、当時Perfumeはサマソニや武道館での公演をロック的な文脈、つまりBOOWYのような、成り上がり的サクセスストーリーを目指していたのです。そして、昨今のアイドルが武道館を目指す理由は、これと同じパターンがとても多くなってきています。たとえば東京女子流が武道館を目指したのも同じですね。彼女たちは早い段階から武道館を目指して実現させましたが、それは玄人好みの良い邦楽をやっているということを、音楽シーンに知らしめる意味合いが強かったはずです」
さらに武道館には、アイドルを含めた勢いのある中堅クラスのミュージシャンにとって、狙いやすい理由があるという。
「武道館のキャパシティは約14000人といわれていますが、もともとライブをやるための施設ではありませんから、その席数はレイアウト次第でかなり調整できます。やろうと思えば8000~9000人規模にまで縮小することも可能なのです。もちろん、それはそれですごい動員数なのですが、武道館のブランド力を考えると、また多くのアリーナ会場と比較すると、意外なほど少ない人数です。つまり、昨今のアイドルが武道館を目指すのは、ホール会場でライブができる程度の人気をつけたグループが、一般的なアリーナ会場よりも比較的席を埋めやすく、にもかかわらず音楽シーンにおける箔を付けられるハコとして、武道館は非常に魅力的だからではないでしょうか」
PerfumeやBABYMETALなどに代表されるように、音楽性で勝負するアイドルユニットが増えている昨今。日本武道館公演増加の背景には、そうした音楽シーンの変化もありそうだ。
(文=編集部)