エビ中、新体制パフォーマンスはどう受け止められた? メンバー“転校”から見えたグループの強み
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昨年12月27日に発表された私立恵比寿中学(以下、エビ中)のメンバー瑞季、杏野なつ、鈴木裕乃の卒業(エビ中では“転校”と呼ばれるが、ここでは便宜上この言葉を使う)は、年末の浮かれムードを一瞬にして吹き飛ばし、ファンを奈落の底に突き落とすほどの衝撃を与えた。そして、そのショックから立ち直る間もなく、年明け1月4日には小林歌穂と中山莉子の加入(転入)が発表。そのあまりのジェットコースター展開に、我々ファンは完全に翻弄された。しかし、新加入メンバー2人はあっという間に“カホリコ”の愛称で親しまれるようになり、2人がMCを務めるUstream番組では初々しくもすっとぼけたキャラクターを遺憾なく発揮。驚くほどのスピードでその存在感をファンに示した。
とは言え、やはり一度に3人ものメンバーが卒業するショックはあまりにも大きい。“センター”というものが存在せず、各メンバーが重要なポジションを担うエビ中にとって、今回の卒業はエースが3人同時にいなくなるようなもの。これをきっかけにファンを辞める人がいても全くおかしくない状態だったし、実際にそうするという発言をSNS上などでよく見かけた。
4月15日、卒業公演「私立恵比寿中学合同出発式~今、君がここにいる~」が行われた。本編は新メンバーを除く9名がステージに立ち、カホリコはアンコールからコスプレ&着ぐるみでユニークに出演。「最後は9名でのパフォーマンスが観たい」というファンの声に応えつつ、新メンバーの見せどころもしっかり用意した見事な差配だ。エンディングでは予想外の展開に少々客席がざわついた。アイドルの卒業公演によくある流れとは異なり、卒業メンバーである3人が先にステージを下りたのだ。そして、現メンバーが最後までステージに残ることで、「既に8人は未来を見つめている」という姿勢を強く打ち出した。それは心強くもあり、そうでもしないとメンバーもファンもスタッフも今以上の喪失感に引きずられていたんじゃないか、と感じた。繰り返しになるが、それぐらい大きな出来事だったのだ。
その約1週間後に開催されたファンクラブ会員限定イベント「エビ中サブ主総会」では、メンバー、レコード会社、マネージメント、ファンが一堂に会し、エビ中の“これまで”と“これから”を再確認。イベントは株主総会のような雰囲気(行ったことないけど)だったが、マネージメント側としては“総決起集会”的な意味合いも込めていたのかもしれない。
そして、4月27日、『私立恵比寿中学スプリングソニー・ミュージックレーベルズルーキーツアー2014~生まれ変わりちょうちょうボーンとエトセトラ~』の開幕をもって新生エビ中の活動が本格的にスタートした。自分は5月7日のZepp DiverCity Tokyo公演第2部を観に行ったのだが、公演前まで卒業公演で感じた不安と喪失感は引きずったまま。現場でたまたま会ったエビ中仲間の女子も戸惑いを隠せない様子だった。しかし、そんな不安を霧散させたのは意外にも(と言ったら失礼だが)、カホリコだった。歌穂は素直で伸びやかなボーカル。まだ不安定さはあるものの、ゆくゆくは歌の中心的存在に食い込めるのでは?と思わせるほどのポテンシャルを見せ、一方の莉子は、ボーカルスキルこそそれほど高くはないものの、舌っ足らずで子供っぽいキュートな声でグループに新たな魅力を吹き込んでいた。こちらの心配をよそに、2人は加入発表からわずか4ヶ月で歌、ダンス、フォーメーションを体に叩き込み、ほぼ完璧なパフォーマンスを見せたんだから、胸を打たれない訳がない。特に、メジャーデビュー曲「仮契約のシンデレラ」のオープニング、かつて裕乃となつが担当していたセリフパートを笑顔でこなしている2人の姿にたまらなくグッときた。
もうひとつ素晴らしかったのは新曲「アンコールの恋」。エビ中には珍しいド直球なアイドル歌謡で、2回目のサビがやってくる頃には既にその魅力に取り憑かれていた。これほどの曲をシングルのカップリングに持ってくるというエビ中制作陣の相変わらずなひねくれっぷりに拍手を送りたい。楽曲よりもライブに重きが置かれつつあるように見える現在のアイドルシーンだが、時代を制したアイドルはいつだって素晴らしい楽曲を歌っていた。コアな楽曲派だけでなく、あくまでも一般リスナーに向けて、良質でちょっと変わったアイドルソングを安定的に供給し続け、そして、強烈で魅力的なキャラを8人も擁するエビ中の存在は奇跡に他ならない。
あまり考えたくはないが、グループから卒業するメンバーはこれからもいるかもしれない。いや、きっといるだろう。しかし、私立恵比寿中学という存在が固い絆で結ばれていることを今回の一連の流れで証明した今、我々はもう何も恐れることはないのだ。
エビ中は本当に素晴らしい歌とパフォーマンスを届けてくれている。それなのに、世間の評価はまだまだ追いついていない。ライブに関して「今ぐらいの規模感でいい」というファンもいるが、もっと多くの人に見つかってもいいはず。それだけの魅力が彼女たちにはある。別に8人が実力派集団だと言いたいわけではない。むしろ、「おいおい、大丈夫かよ」と思わせる場面だってしばしばある。だけど、ルックスや、歌やダンスの上手さだけでは測れない、不思議なサムシングを持つメンバーに心惹かれずにいられないのだ。その特異な存在感ゆえ、間口は決して広くはないかもしれないけど、8人の今後にぜひ注目してみて欲しい。
■阿刀 “DA” 大志
75年生まれ。某パンクレーベルにて宣伝制作を10年以上務めた後、12年からフリーランスに。現在は執筆業を中心に、プロモーター、音楽専門学校講師など、音楽に関わるあらゆる分野で雑食的に活動中。