乃木坂46は次世代を“育てながら勝つ”グループに 神宮公演に感じた、東京ドームへの確かな架け橋
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乃木坂46が7月1日と2日、東京・明治神宮野球場にて行なった『真夏の全国ツアー2017』の東京公演は、これまでのどのライブよりグループ全体の充実と次への“架け橋”が繋がる場所を明確に見据えることのできた公演だった。
この2日間のライブは、3期生、2期生、1期生、全員という順番で展開された。これまで1期と2期しか存在しなかった乃木坂46だが、3期生の加入と成長により、今回のような試みも可能となったことは、グループの幅広さを見せつける意味では非常に大きい。そして、期別でライブをすることにより、さらに乃木坂46の持つストーリーが可視化された印象を受けた。本稿では生田絵梨花も参加し、46人が勢揃いした7月2日の公演を元に、その物語を解き明かしていきたい。
「1期生、2期生の皆さんと私たちの力の差は大きく、手の届かない存在です。でもそんな大きな存在が身近にいてくれることが、私たちの誇りです!」(梅澤美波)
公演のトップバッターを飾ったのは3期生の12人。加入からまだ1年も経っていない彼女たちだが、『お見立て会』、『3人のプリンシパル』、『三期生単独ライブ』と短い期間で濃密な経験値を積んできた。そして先日は1期生・2期生も経験していない日比谷野外音楽堂での単独公演も成功させるなど、神宮の大舞台へ向けての準備は着々と進めていたというわけだ。そんな凄まじい成長速度を見せるルーキーたちは、大舞台の冒頭に12人のアカペラでハーモニーを響かせる。このアカペラパフォーマンスも、単独公演で生楽器を入れて磨き上げた「うた」を経てのもの。そんな蓄積を見せながら、彼女たちは初めてのオリジナル曲であり、キャッチーなシンセリフが特徴のアンセム「三番目の風」で、神宮に前日夜の雨が嘘のような涼風を起こした。
乃木坂46の3期生を取り上げる際、年齢が若いがゆえの「フレッシュさ」や、清楚で大人しいパブリックイメージから少し離れた印象から「これまでの乃木坂らしくない」という表現が用いられることが少なくない。「ハウス!」や「ロマンスのスタート」、2つ目のオリジナル曲「思い出ファースト」などのセットリストを披露する彼女たち自身も、その印象をより強く打ち出している部分はあるだろう。
しかし、山下は同公演を直前に控えたインタビューで「もしこの先、4期生や5期生が入ってきたら、私たちのフレッシュさってなくなるわけじゃないですか。その時に、『3期生には何があるの?』って言われたくない。だから、フレッシュさ以外の武器を持ちたい」「『他のグループみたい』と思われるのではなく、『これが乃木坂46なんだな』ってちゃんと感じていただけるようなパフォーマンスをしたい」と熱く語っていた(参考:乃木坂46 久保史緒里と山下美月が考える3期生の現在地 「フレッシュさ以外の武器を持ちたい」)。「会いたかったかもしれない」や「ぐるぐるカーテン」といった先輩たちの楽曲を3期生なりに解釈しパフォーマンスする様子からは、しっかりと乃木坂46が元々持っているイメージを継承するのだ、という意志の強さを感じることができた。実際に大園桃子と与田祐希が18thシングル『逃げ水』のWセンターに抜擢されるなど、次世代へのバトンは着実に受け渡されつつある。
また、単独公演でMC役を務めた梅澤美波と伊藤理々杏は、舞台が大きくなっても変わらないトークの巧さで会場を盛り上げるなど、12人の絆の強さを感じさせる場面が多く見られたのも印象的だった。まさに<肩寄せて 支え合って 一塊になればいい>(「三番目の風」)という歌詞通りのパフォーマンスだったといえるだろう。
最後は各メンバーが自分たちの思いをビジョンに映し出されたメッセージとともに読み上げる。彼女たちの中には、乃木坂46のライブを見て人生が変わった者も多い。過去の神宮公演を客席側で見ていた向井葉月も、『乃木坂46 アンダーライブ全国ツアー2016~東北シリーズ~』に衝撃を受けた久保史緒里もその一人。そんな『アンダーライブ』を語るうえで欠かせないのが、乃木坂46の2期生という存在だ。
「みなさんにとって、2期生はどう見えていますか?」(寺田蘭世)
乃木坂46の2期生は、グループの歴史にもっとも振り回されていたメンバーといってもいい。3期生のように一塊になる間もなく堀未央奈が選抜のセンターに抜擢されるなど、2期生全体として活動する期間は少なく、個々のメンバーがバラバラの歴史を積み上げてきた。しかし最近は堀・新内眞衣・北野日奈子・寺田蘭世が選抜入りを果たし、アンダーのセンターを渡辺みり愛が、フロントを鈴木絢音と山崎怜奈が務めるなど、快進撃が続いている。堀は先日のインタビューで、この勢いを喜ぶとともに「私は頼りない人間なんですけど、私なりにみんなを支えたい」と語ってくれた(参考:乃木坂46 堀未央奈、“2期生の躍進”を語る「頼りない人間だけど、私なりにみんなを支えたい」)。だが、このライブで堀が見せたのは、支えるどころか背中で2期生を引っ張るほどのオーラ。1曲目「バレッタ」を披露する前の静かな動きですら、鳥肌が立つほどの気迫を感じさせた。
そこから北野が選抜入りし、新内がOL兼任アイドルという道を歩み始めたタイミングの表題曲「気づいたら片想い」をパフォーマンス。寺田が上記の言葉を客席へ投げかけ、続けて北野と新内が13thシングル『今、話したい誰かがいる』の選抜に2期生メンバーが入らなかった苦い思い出を振り返り、「悔しく、つらい日々を過ごしたときの曲」(新内)と話した後、2期生全員を含むアンダーメンバーとしてカップリングに収録された「嫉妬の権利」を披露。その鬼気迫るパフォーマンスは、この日のハイライトといえるエモーショナルさを存分に含んでいた。
過去のインタビューで北野も語ってくれていたが、この期間で2期生全体の絆が深まったからこそ「今までのことよりも、ここからの成長のほうが大事だよねって話もした」し、現状の大逆転が生まれているのは間違いない(参考:乃木坂46北野日奈子と寺田蘭世が明かす、“アイドルの楽しさ”と“3期生募集への焦り”)。MCで彼女たちは涙ながらに自分たちの話をしたが、寺田が「私たちが次の乃木坂の歴史を作っていく」と語ったように、逆境を乗り越えたからこその強さを身に着けた。2期生はもう、グループの歴史を引き継ぐだけでなく、さらに上へと引っ張ることのできる存在だ。客席を走り回って披露した「そんなバカな」と「人はなぜ走るのか?」の“爆レス祭り”(伊藤かりん命名)や、研究生時代の楽曲である「ボーダー」、初めての2期生オリジナル曲「かき氷の片想い」、そして最後に披露した「きっかけ」を見て、そんなことを思わずにはいられなかった。18thシングルに収録されることが決定した2期生による新曲「ライブ神」も、その勢いを裏付けるものになるだろう。
「運命というのは、努力した人に偶然という橋を架けてくれる」(1期生パフォーマンス前ナレーション)
1期生のパートの前には、これまでの快進撃をまとめたVTRがビジョンに映し出されるとともに、西野七瀬が好きだという映画『猟奇的な彼女』の「運命というのは、努力した人に偶然という橋を架けてくれる」という最後のセリフを引用し、「彼女たちの前に橋は架かった」というナレーションが流れ、メンバーが一人ひとり呼び込まれる。最後に名前を呼ばれた生駒里奈がセンターポジションに位置取ってスタートしたのは「制服のマネキン」。かつてはその少年性で楽曲の世界観を体現していた生駒は、大人びた彼女なりのパフォーマンスで、別の解釈を与えているかのようだった。
西野七瀬はMCで「1期生が好きです。みんなの顔を見ていると初期の頃を思い出すし、初めから頑張ってきたと思うとじわっとくる」と語る。2期生や3期生に比べ、1期生は「〇〇期だから」という連帯感よりも、自分たちが最初から一緒にいることで構築された、曖昧だけど強固な絆のようなものを彼女の言葉から感じることができた。
また、1期生の強みはグループの積み上げてきた歴史の長さであり、ユニット曲の多さだ。ファンから熱狂的な支持を得ている「他の星から」や「あらかじめ語られるロマンス」と、1期アンダーメンバーによる「欲望のリインカーネーション」などが次々に繰り広げることができるのは彼女たちならでは。「転がった鐘を鳴らせ!」「ロマンティックいか焼き」など、ライブ定番曲も6年の歴史を積み上げ、今や日本屈指のタレント集団になった彼女たちによる圧倒的なスター性をもってパフォーマンスされた。そんなワチャワチャ感も出しつつ、最後はしっかり「命は美しい」「何度目の青空か?」で締めるのも彼女たちらしい。
「このメンバーでやっとあそこに行けるんだ」(生駒里奈)
そんな各期の歴史は、初めての全体曲「設定温度」で改めてストーリーとして提示された。1番のAメロを1期、2番のAメロを2期、落ちサビを3期がそれぞれ歌い、ラストのサビでは46人によるハーモニーが紡がれる。いわゆる王道のアイドルソングとは構成も少し異なるが、しっかりとした抜け感と力強さはあり、厚みのあるストリングスを駆使したドロップが印象的な楽曲に、グループの新たな一面を見ることもできた。
生駒は楽曲披露後、同曲の<人を愛せば やさしくなって 限界以上に 我慢してしまうだろう>という歌詞について「乃木坂46に入ってから感じたこと。(中略)この人のためにだったら身を懸けて、自分を犠牲にしても守りたいと思えるのが乃木坂46。家族でも親友でもないけど、こんな大切な人を45人も作ってくれた乃木坂46が大好き」と述べ、多くのメンバーが目を潤ませる。彼女たちは、積み上げてきた歴史のなかで、今が一番共同体としての強さを持ち合わせているのかもしれないと感じる一幕だった。
その後は、「君が扇いでくれた」「風船は生きている」と渡辺みり愛をセンターに据えたアンダー曲が続き、2曲の間にはアンダーメンバーによるオリジナルアルバムのリリースがサプライズ発表された。これまで選抜は日向、アンダーは日影のような存在だったが、グループの知名度が上がり、陽の当たる場所が大きくなったいま、日陰で努力していたものもしっかり照らされるようになったことの表れだ。
後半では「ガールズルール」「裸足でSummer」「夏のFree&Easy」「太陽ノック」とグループがこれまで積み上げてきた夏曲を立て続けに披露。「ガールズルール」前の白石麻衣による「神宮ー! お前ら騒げー!」という恒例のシャウトは健在だ。最後には、西野の「私は『今年の夏は人生で最高の夏にしたいな』って思いました!」というMCを経て、最新の夏曲「スカイダイビング」もパフォーマンスされ、36曲に渡る本編が終了した。
そしてアンコールでは冠番組『乃木坂工事中』でMCを務め、『テレ東音楽祭2017』での共演も記憶に新しい、日村勇紀(バナナマン)が加わった「インフルエンサー」や、「シャキイズム」「オフショアガール」といったフレッシュな楽曲でさらにボルテージをあげた所で、これまでのライブを振り返る映像のあとに東京ドーム2Days公演の開催が発表に。生駒は「東京ドームって、すっごい広いんだよ。そこにみんなでやっと立てるんだ。当たり前かもしれないけどさ、このメンバーでやっとあそこに行けるんだと思ったら、なんか来るものがあるよね」、桜井玲香は「神宮もさいたまスーパーアリーナも西武ドームも広いなと思ってたけど、色んなメンバーが口々に東京ドームに立ちたいと言えるようになって。自信も付いてきたと思うから、そんな怖がっていられないよね!」と喜びを口にする。2人を含めた各メンバーも、その表情は恐怖ではなく「待ちわびたものがついに来た」という顔をしていた。いまや乃木坂46は、名実ともに神宮2Days、バックステージ席含め約8万人のチケットが即完というポテンシャルのあるグループだ。
どんなジャンルであれ、集団が次世代のメンバーを育てながら勝つことは非常に難しい。しかし、乃木坂46はまさにいま、J-POPシーンの覇権を手にしながら次世代のメンバーをしっかりと育て上げるグループへと成長した。そして46人はいま、東京ドームへ架けた橋を渡ろうとしている。そのステージへ立つまで、残りのツアーは彼女たちにどんな経験をもたらすのか。今回の18thシングル選抜や、アンダーアルバム、『アンダーライブ〜九州シリーズ〜』などがさらなるブーストになることも期待したい。
(取材・文=中村拓海/写真提供=(C)乃木坂46LLC)
■7月2日セットリスト
<3期生ライブ>
01. 三番目の風
02. ハウス!
03. 会いたかったかもしれない
04. ロマンスのスタート
05. ぐるぐるカーテン
06. おいでシャンプー
07. 走れ!Bicycle
08. 思い出ファースト
<2期生ライブ>
09. バレッタ
10. 気づいたら片想い
11. 嫉妬の権利
12. そんなバカな・・・
13. 人はなぜ走るのか?
14. 別れ際、もっと好きになる
15. ボーダー
16. かき氷の片想い
17. きっかけ
<1期生ライブ>
18. 制服のマネキン
19. ダンケシェーン
20. 転がった鐘を鳴らせ!
21. 他の星から
22. 意外BREAK
23. あらかじめ語られるロマンス
24. 欲望のリインカーネーション
25. 指望遠鏡
26. ロマンティックいか焼き
27. 命は美しい
28. 何度目の青空か?
<1期生&2期生&3期生ライブ>
29. 設定温度
30. 君が扇いでくれた
31. 風船は生きている
32. ガールズルール
33. 裸足でSummer
34. 夏のFree&Easy
35. 太陽ノック
36. スカイダイビング
<アンコール>
37. インフルエンサー
38. シャキイズム
39. オフショアガール
40. 乃木坂の詩
<ダブルアンコール>
41. ロマンスのスタート
42. ハウス!